第7話 ザガの町

 ザガの町に入り、俺はそのまま冒険者ギルドを訪れた。

 

「すみません、西のダンジョン最下層でこれ……」


 俺は、死体から回収した6枚の冒険者証をカウンターに出した。

 受付嬢は両手をあわせて祈った後でそれを受け取った。


「ありがとうございます。遺族に伝えたいので、回収された時の様子を教えていただけますか。」


 俺はマユから回収した時の事を話した。


「ダンジョン関連の依頼って、何があるか教えてもらえますか。」


「えっと、まずは最下層のポイズンスパイダー討伐で、買取部位はお尻の糸いぼと牙になります。」


「ああ、それなら100匹くらい狩ってきましたから、出していいですか?」


「えっ!……マジックバッグですね。じゃあ、裏の倉庫へ起こしいただけますか。」


 俺がリュックから出そうとした仕草で察したのだろう。

 受付嬢に案内されて裏の倉庫で出したが、50匹で倉庫の大半が埋まってしまった。

 なにしろ、1匹が80cmくらいあるのだ。

 倉庫には専任のスタッフがいるのだが、俺はその中で一番リーダーっぽい人の髪を一本拝借した。

 解体用のスキルがあれば便利だと思ったのだ。

 吸収したところ、増えたスキルは”目利き”と”鑑定”だった。

 目利きは常時発動っぽく、意識しても特に変わるものではなかった。

 鑑定は、意識を集中したものの本質が頭に浮かんでくる。

 自分の知識が増えた感じだ。


 ちなみに、アームガードに意識を集中すると、”チタン”という金属で、軽くて硬いうえに、錆びにくいという特性だと分かった。

 これなら、フライパンにいいかもしれない。

 もっと回収しにいかなくては……


 またストックを抱えることになってしまったが、受付カウンターで手続きをすすめる。


「えっと、Bランクのポイズンスパイダー討伐が50回分ですから……おめでとうございます、”A”ランク昇格ですね。」


 Aランクだと!と周囲がざわつく。

 俺のようなガキがAランクと言われたので驚いているのだろう。

 報奨と買取をあわせて金貨50枚と高額だった。


「これ、皆さんで使ってください。」


 俺の差し出した2枚の金貨と言葉で受付嬢は察してくれた。

 紙にスラスラと文字を書いて、入口横にある酒場の看板にその紙を張り付けた。


「ヨクサさんAランク昇格でご祝儀をいただきました!ただいまより、飲み放題を開始します!」


 夕方の時間だったので冒険者も多い。

 ホールにいた全員がウオー!と歓声をあげ、俺は全員から祝福のペチペチを受けた。

 Aランク昇格というのは年に1人か2人くらいしか出ないらしい。

 立ち合い者全員で頭をペチペチ叩くのは、ギルドの慣習だと聞いている。

 

 冒険者証ができるまで、俺は依頼ボードを眺めていた。

 オークの討伐依頼が、ツリトの2倍になっている。

 しかも、緊急扱いになっていた。

 他にも、毒系モンスターの依頼が目立つ。


 冒険者証を受け取りながら、オークも3匹買い取ってもらえた。


 次に俺は薬師の工房を訪れた。


「こんにちわ。」


 工房の中では、3人の女性が薬草のすり潰しや、鍋を火にかけてかき混ぜたりしている。

 もちろん、火元は炭だ。


「いらっしゃい、ご注文ですか?」


「薬草について教えて頂きたいんですが。」


 机で書き物をしていたオバさんが顔をあげた。


「あら、若い男の子なんて珍しいわね。何が聞きたいの?」


「エリクサーって作れるんですか?」


「いきなりとんでもない事を聞いてくる子ね。」


「薬学の先生に聞いたのは、フェニックスの血とユニコーンの角から作られたって……」


「都市伝説よそれ。」


「じゃ、ムリなんですか……」


「最新の研究で、一番万能薬に近いのは、北端の氷山に咲くユキネラノの根と、グリーンドラゴンの血。それとドランゴの花を煮だして作ったエドン薬だと言われているわね。」


「それって、作れるんですか?」


「宮廷薬師のエドン様がひと瓶だけ完成させて、王家に奉納されたと言われているけど、それだけよ。試そうにも、素材が手に入らないわ。」


「そうですか……」


「まあ、薬って症状にあわせて作るものだからね。万能薬なんて必要とされないのよ。」


「そういう事なんですね。」


「そういえば、冒険者なんでしょ。」


「はい。」


「毒虫系の素材持ってない?」


「ダンジョンのものなら殆どあると思いますけど。」


「えっ?」


「えっ。」


 解毒薬を作るのに素材を必要としているのだという。

 ギルドに依頼を出しているのだが、マジックバッグ持ちでなければ、誰もそんなものを持ち帰ってくれないのだという。

 俺は、無償で素材を提供する代わりに、薬にするところを見せてほしいと頼み込んだ。


 薬師のマリスさんには、調薬というスキルがあった。

 もちろん、こっそりといただいてある。


 裏の倉庫に移動して、俺は3匹ずつムカデを8種類出した。

 その手前に、助手の女性たちが色々な種類の薬草を積み上げていく。


「調薬のスキルはね、毒虫や薬草から必要なエキスを抽出して薬にしてくれるの。」


「はい。」


「まず、これらの素材を自分の魔力で包み込む。」


「はい。」


 これは、マジックバッグを使う時と同じだ。


「次に、作りたい薬をイメージする。サンプルがあれば、横に置いておくといいわ。今回はマヒ解除薬よ。」


 助手がマリスさんの右手に、紫色の小瓶を手渡した。


「そして、魔力で覆った素材から、絞りだすイメージで……」


 マリスさんが左手をニギニギすると、そこから液体がチョロチョロと滴り落ちて下に置いたガラス瓶に貯まっていく。

 右手に持った瓶と同じ、紫色の液体だ。

 直径10cm、深さ20cmのガラス瓶は、10分程でいっぱいになった。


「これって、森の中とかなら効果が高いんじゃないですか?」


「うーん、魔力でどこまで覆えるかよね。範囲内にそういう薬草がないと効果も薄くなっちゃうからね。」


 俺は礼を言って工房から出た。

 ちなみに、薬やポーションのサンプルも譲ってもらった。

 

 そのまま宿屋に泊ったのだが、夕食はいまいちだった。


 翌日は教会に出かける。

 治癒系のスキルは、教会が元締めになっているのだ。


 教会では、復活祭とかいうイベントの真っ最中で、偉そうな法衣を着た神官がひな壇に座っている。

 一番偉そうな神官に狙いを定めたのだが、毛がなかった。

 仕方ないので、2番目に偉そうなヤツから、”回復”と”再生”をいただいた。

 もちろん、お布施ははずんできた。


 そして、冒険者ギルドに行って獲物の買取をしてもらう。

 今日はムカデ30匹とクモ30匹だ。

 金貨にして40枚。

 ウエストポーチに入れてあるので、どれくらい貯まっているか数えてはいない。


 昼時になって、ギルドの受付嬢に教わった総菜屋に行ってみる。

 シチューはそこそこ旨かったので、鍋と銀貨3枚渡して、翌日取りに来るからとシチュー作成を頼んだ。


 そのあと、道具屋で直径10cm、深さ25cmの蓋付きガラス瓶を20本買った俺は、町から10kmほど離れた山にある泉に来ていた。

 多くの薬草が採取できるスポットらしいのだが、最近では魔物が増えたせいで、ここまで来る人は少ないと聞いている。

 陽が暮れるのを待って、小屋の魔導照明を点け、リュックから魔物を取り出して積み上げていく。

 目の前のテーブルには、昼間買ったガラス瓶と、ポーションなどのサンプルを並べてある。


 そうやって準備を整えてから、周囲に魔力を広げていく。

 10m……50m……100m……500m、こんなところか。


 右手には見本のポーションを持って、調薬のスキルを発動する。

 左手からはシャーッと緑色の液体が噴き出し、あっという間にガラス瓶を満たしていく。

 サンプルよりも少し薄い緑色のポーションが完成した。

 ポーションを2瓶作り、サンプルをハイポーションに変えて調薬! 

 さっきよりも、噴出の勢いは弱まったが、それでも3分程で瓶を満たしていく。

 ハイポーションは5本作っておく。


 次はエクストラポーション、そして魔力ポーションだ。

 どちらも、ガラス瓶1本満杯にするのに、30分くらいかかっている。

 完成品はどれもサンプルよりも色が薄いのだが、鑑定ではちゃんと表示されている。

 

 20本すべてが満杯になる頃には、空が薄っすらと白くなってきた。



【あとがき】

 薬師ヨクサ……

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