第6話 魔法使いレイラ

 ここで出会った冒険者パーティーは”タンポポの綿毛”という名前のパーティーだった。

 リーダーは剣士のリド。

 毒にやられていた金髪の男はラージで、職業は探索者。

 もう一人の男は、剣士のワッチで、体術にも長けているらしい。

 そして赤毛の女性は、治癒師のガーベラで、今は魔力切れ寸前。

 怪我をしていた少女は、今回新たにメンバーに加わったレイラで、職業は魔法使い。

 

 彼らを受け入れたのには、目的があった。

 人間のスキルを”吸収”できるかどうか……


 とは言っても、殺して”吸収”するとかいう事ではなく、体の一部を拝借すればいいだろう。

 レイラの虫を払い落した一瞬の隙をついて、全員から髪の先を少しだけ切り取って”吸収”してみた。


 こんな僅かな量で、効果が発揮されるかは不明だったが、収穫はあった。


 剣士のリドからは、”居合”という斬撃スキルを吸収し、探索者のラージからは”気配察知”、剣士のワッチから”体落とし”と”急所突き”。

 ガーベラから”治癒”と”浄化”。

 そして、レイラからは、”アイスニードル”と”氷結”を覚えさせてもらった。


 これだけの成果があったのだ、シチューとパンくらい、いくらでも喰ってくれ。



 20分程して、レイラが部屋から出てきた。

 俺はすぐに近寄って手を差し伸べ、テーブルに誘導してやる。

 解いた栗色の髪から、石鹸の香りがした。


「大丈夫?」


「ありがとうございました。」


 椅子に座らせて、腹と腿に傷薬を塗りこみ、こっそりと”治癒”を試したところ、あっという間に傷が塞がってしまった。


「えっ……」


「あははっ、傷薬と治癒スキルで、傷が消えちゃいましたね……」


「あなたは一体……」


「あっ、お腹空いてるでしょ。……シチューが……」


「す、すまん。あまりに旨くて……」


「「「ごめんなさい!」」」


 10人分くらい残っていたハズの鍋が、空になっていた。


「はあ……、じゃあ、肉でも焼きますから、パンを食べていてください。」


「「「肉ぅ!」」」


「はいはい、皆さんの分も焼きますよ。」


 俺はリュックから鉄板を取り出して、魔導調理器を強火にし、獣脂を乗せた。


「な、何だそれは?」


「俺の作った魔導調理器です。サラマンダーのウロコを使った魔道具なんですよ。」


「「「サラマンダーだとぉ!」」」


 オーク肉を厚切りにして、鉄板の上で焼いていく。

 最初は強火で両面を焼いて、脂を閉じ込め、次に弱火にして塩を振り、蓋を被せて蒸し焼きにしていく。

 ツリトの宿のオヤジさんから聞いた焼き方だ。

 焼けた肉を皿にとり、最後にソリデという香辛料を添えてやる。


「どうぞ。白いのは、ソルデという植物の根をすり下ろしたもので、少し辛みがあってツーンとしますが、美味しいですよ。」


 人数分のナイフとフォークを出してやったら、一斉にかじりついていく。


「「「うめえ!」」」 「「おいしい!」」


 おとなしそうだったレイラさんまで、夢中で食べている。

 追加のパンを出したが、それもあっという間に消えていった。


 俺は、鍋や食器を水魔法の噴射で綺麗にして、リュックにしまっていく。


「何から何まですまん……」


「困った時はお互い様ですよ。」


「見たことない魔道具をいっぱい持ってるし、おそらくとんでもない容量のマジックバッグ持ち。しかも、ソロだなんて、あんた何者?」


「あはは、ただのBランク冒険者ですよ。魔道具師でもありますけどね。」


「そ、その歳でBランクだと!」


「それだけじゃないわ。さっき使った治癒魔法だって、私より全然レベル上じゃない。」


「レイラのムカデを払い落した時の動きなんて、見えなかったぞ。」


「まあ、ソロですから、それなりには……」


「なあ、良かったら、うちのパーティーに入らねえか?」


「せっかくですけど、ソロが気楽なのでお断りします。」


 ベッドは用意していないが、もう一つ小屋があるので、そこで寝てもらって翌朝には別れた。

 レイラさんの服は、夜のうちに洗って風魔法で水気を飛ばしておいたので、朝には乾いていた。



 そうして、俺はダンジョンに入っていく。

 本当はエコーロケーションと赤外線探知があるので、照明は不要なのだが、人に見られるとヤバい。

 そのため、照明の魔道具を額に固定して探索していく。

 ダンジョンの中は、毒虫系が多い。

 得られたスキルも、マヒ毒や神経毒、致死毒の生成と、それぞれの解毒薬生成といったものばかりだ。

 次に多いのはアンデッド系で、これを吸収するのはイヤだったが、ごく一部を我慢して吸収していった。

 アンデッド系は、呪いと解呪ばかりだ。


 その時、気配察知に何かが引っかかった。

 エコーロケーションや赤外線探知には引っかからない……いや、温度の低い、スライムみたいなのがいる。

 普通のスライムは、外気と同じ温度なので、明らかにそこだけ冷たいのはおかしい。


 俺は慎重に指先を伸ばし、距離を詰めたところで、全力の急所突きを放った。

 だが、突きが刺さりかけた瞬間に、消えてしまった。


 指先には、かろうじて翳めた一部が残っている。

 1mmほどの肉片というべきか……それを吸収した瞬間、強烈な虚無感というか喪失感に襲われた。

 

 存在はするけど、無のような存在……


 正体は分からないが、とんでもないスキルを与えてくれた。

 ”メタル化””ミキシング””セパレート””フォーミング”どれも、鉱物や金属に関するスキルのようだ。

 そして、最後に”高速移動”だ。

 ヤツが消えたように視えたのは、これを使ったのだろう。


 数分で回復した俺は、早速スキルをチェックしていく。


 メタル化は、体の一部を金属に変えるスキルだった。

 指先をメタル化し、細く伸ばす事で、金属の糸のようにできた。

 この糸は、簡単にモンスターを切り裂く事ができた。

 当然だが突きも鋭くなり、ダンジョンの岩壁も簡単に貫く事が可能だ。


 ミキシングは、複数の物質を混ぜ合わせるスキルだ。

 金属同士を均等に混ぜ合わせて、合金を作る事ができる。

 これは、色々試してみたい。


 逆に、セパレートは特定の素材だけを抜き取るスキルだ。

 ダンジョンの壁に手をあてて試すと、埋まっている鉱石や、含まれている金属が分かる。

 面白くなって試すうちに、岩に埋まった赤い宝石や青い宝石。水晶などを沢山発見できた。

 しかも、水晶なら不純物を取り除いた、高純度の水晶も抽出する事ができるのだ。

 さらに、鉄よりも軽くて、硬い金属も発見した。

 俺は仮に軽鉄と名付けた。


 そして最後のフォーミングだ。

 これは、金属でも鉱石でも、思い描いた形に形成するスキルだった。

 このスキルを使って、軽鉄で腕と脛のガードを作った。

 

 こうして、俺は最下層と思われる広いスペースにたどり着いた。

 見渡す限りモンスターは見えない……が、エコーロケーションと赤外線感知で、天井に張り付く無数のクモを捉えている。


 先手必勝だ。

 俺は指先にメタル化をかけて糸にして伸ばし、クモをぶった斬っていった。

 斬ってはマジックバッグに送り、また斬る。


 10分程でクモの掃討は終わり、残っていたのは天井から吊るされた6個のマユだった。


 人間ほどの大きさの白いマユを、俺は慎重に下ろした。

 イヤな予感しかしない。

 中身を傷つけないよう、慎重に切り開いていくと、中身は干からびた人間だった。


 そして、4体目を切り開いた時、10cm程の小さなクモが数百匹飛び出してきて天井に駆け上っていった。


 俺は6人分の冒険者証を首から切り取り、リュックに納めてダンジョンを後にした。



【あとがき】

 メタル……じゃない、シルバースライムです

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