第5話 Bランク
ツリトの町に戻った俺は、道具屋の工房を訪ね鉄板の加工を頼んだ。
そして、魔道具工房のドランさんを訪ねる。
「こんちわ、ドランさん。」
「うん?おお、ヨクサか。どうした?」
「ちょっと、変わったもんが手に入ったんで持ってきた。」
「なんじゃ、そのウロコは。」
「聞いて驚くなよ、サラマンダーのウロコだ。」
「なにぃ!」
「昨日、火山まで行って、採ってきた。」
「ま、まさか……」
「鉄の槍は弾かれちまうし、とんでもない熱量だし、まあ、手こずるのは当然だろうな。」
「ど、どうやったんじゃ。」
「でっかい落とし穴を掘って、落としてから水攻めだよ。」
「おお、お前の属性魔法だな。」
「そんで、このウロコで、魔道具を作ろうと思ってさ。」
「なにぃ!サラマンダーのウロコで魔道具じゃとぉ!武器か!」
「いや、生活用の魔道具だよ。」
「バカを言うな!そんなもったいない使い方をしたら、バチがあたるぞ!」
「いやいや、毎日使うカマドの方が、よっぽど役に立つだろう。」
「サ、サラマンダーのウロコを使って、カマドじゃとぉ!」
「ウルサイ!何騒いでんのよ!」
奥から年配の女性が出てきた。
奥さんのイトさんだと紹介された。
「へえ、カマドの魔道具なんて、いい発想じゃないの。」
「でしょ。家で使ってもいいし、旅先で使ってもいいと思って。」
「それで、作れるの?」
俺は、さっき道具屋で買った鉄板をポーチから取り出した。
「ここに、ウロコを設置して、魔石をこっち配置して……」
「ちょっと待て!どんだけの火力か予想もできん。庭で試すぞ。」
庭で魔石を接続したところ、5mくらいの火柱があがった。
「こ、これは……」
「これじゃあ、お鍋が焦げちゃうわね。」
イトさんは肝のすわった女性だった。
「やっぱり、出力の調整が必要じゃな。」
「で、できるのか?」
「魔力を増幅するには水晶を使うんじゃが、魔力を下げる時は粘土に魔石の粉を練りこんで調整してやるんじゃ。」
濃度を調整しながら、何種類かの粘土を作り出して適度な火力を得る事ができた。
「この3つを切り替え式にして使おう。」
「切り替え式じゃと?」
「ああ。弱火と中火と強火だよ。」
「ヨクサ、あんた天才だよ!」
あとは、鉄板に足を付けたり、ウロコとなべ底がくっつかないように嵩上げしたり工夫して魔導調理機が完成した。
早速2台作ってイトさんに使ってもらう。
「信じられないよ。薪も炭も使わないで料理ができるなんてさ。」
「じゃが、サラマンダーのウロコを使った調理機なんぞ、最低でも金貨5枚といったところか……」
「貴族とかには売れるんじゃないかい?」
「ああ、体裁を整えてやればな……」
「じゃ、ウロコ100枚置いていくので、好きに使ってください。」
「100枚じゃとぉ!」
「一匹から何千枚ものウロコがとれますからね。」
「お前は、そのマジックバッグの中にそれだけの……」
俺は5台の魔導調理器を追加で作って、そのうちの2台を宿のオヤジさんに贈呈した。
翌日、俺はギルドに出向いて、獲物の買取を頼んだ。
「えっと、獲物は?」
「マジックバッグに入ってるんですけど、ここで出してもいいですか?」
「ど、どれくらい……2・3匹ですよね?」
「数えてないけど、オークが100体くらいに……」
「ダ、ダメです!1日で処理できる量にしてください!」
結局この日はブラックボア2匹と、オーク10匹にとどまった。
こんな事を3日続けていたら、冒険者ランクが”B”にあがった。
当然だが、毎日獲物の種類は変更している。
同じものを大量に出すと、品物がだぶついてしまい、値が下がると言われたからだ。
こんな事を10日続けたが、まだリュックには半分以上残っている。
そして、サラマンダーのウロコは出さなかった。
あまりにも協力すぎる素材だからだ。
ツリトの町に来て3週間。
俺は、次の町に向かう事にした。
この町では大きな収穫があった。
マジックバッグに始まって、魔導調理器も作れたし、発光の魔道具も完成した。
金剛石の粉を使ったダイヤモンドカッターの技も実用レベルになっている。
ドランさんに魔道具の作り方を習えたし、宿にもお世話になった。
一通り挨拶をして、俺は南に向かって歩き出す。
王都よりも手前にはザガという町があり、そこは武芸の盛んなところらしい。
あまり興味はないが、通り道なので仕方ない。
だが、途中には、Bランクのダンジョンがある。
俺にとっては、初めてのダンジョンなので、ウキウキしながら向かった。
ダンジョンへの目印と聞いていた、水車小屋から西に向かって5km。
そこまで道が整備されているのは有難い。
ツリトの町を過ぎてから、獲物の種類も変化していた。
オークの数が減り、イノシシやシカ等の、動物系の獲物が増えてきた。
これは、定期的にモンスターの集団討伐が行われているかららしい。
俺はダンジョンの手前で、特注した小屋をだし、その軒先に発光の魔道具をぶら下げてメシにした。
イノシシ肉を焼いてみたのだが、オークの方が旨味がある。
そして、宿で作ってもらったシチューをよそって、焼きたてパンと一緒に食べる。
『冒険者みてえだな。』
「ああ、5人。2人はケガ人か……」
少しして、エコーロケーションで捉えていた5人がやってきた。
「すまない。傷薬を分けてもらえないだろうか?」
「それと、毒消しも必要そうですね。」
「ああ、できれば……」
俺は2mの長椅子をリュックから出して座らせた。
「マジックバッグか……」
「ええ、あると便利ですよ。」
受け答えしているのは30を超えたくらいの男で、25くらいの男2人と20代の女とどう見ても10代の女だった。
「毒からですね。」
毒消しは、傷口に塗る毒消しと、体内の毒を浄化する解毒ポーションがある。
25くらいの金髪男の破れたズボンから、紫色に腫れあがった足が見えている。
ズボンをめくりあげてもらい、傷口に毒消しを塗りこんで、解毒ポーションを飲ませる。
「す、すまない。油断して六角ムカデにやられた……」
「いいですよ。そっちの女性は、わき腹と左の腿ですね。ちょっと服をめくってください。」
その服の内側が、微かにモゾモゾしている。
俺は、細く指先を伸ばして身構えた。
めくられた服の下には、10cm程のムカデが張り付いていた。
俺は指先でそれを切り裂き、地面に叩きつけて踏みつぶした。
10代と見える女性は声をあげる事も出来ずに凍り付いている。
「傷の手当をする前に、洗い流した方がよさそうですね。」
「……はい。」
「ああ、他の人は、お腹が空いてるみたいですね。」
俺はリュックからテーブルを取り出し、そこに鍋ごとのシチューと、人数分のパン・器・スプーンを出してやった。
「食べていてください。この子の傷を洗ってきますから。」
俺が立ち上がった瞬間、4人は我先にテーブルについた。
「じゃ、部屋の中に行きましょう。」
「……はい。」
俺は色白で栗色の髪をした少女に手を貸し、小屋へと導いた。
小屋の中にも魔導照明がつけてあり、その一画に作った水浴びの区画に少女を誘導する。
「脱いだ服は、このカゴに入れてください。あとで奇麗にしましょう。」
「はい。」
「これ、俺の寝巻ですけど、良かったら使ってください。」
「すみません……」
「このボタンを押すと、上から暖かい水が出てきます。これ石鹸ですから、きれいに洗ってください。」
「えっ!」
「あはは、魔道具なんですよ。」
【あとがき】
やっぱ、終わらない……
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