第4話 サラマンダーとの戦い

 食事をとった俺は、町に出て7mの竹竿を買って、リュックに突っ込んでみたが、底に触れる事はできなかった。

 更に1本継ぎ足したが、まだ底につかない。更に1本、追加で1本……

 7mの竹竿を5本繋いでも、底につかない。


『なあ、指を伸ばして突っ込んでみりゃあいいんじゃねえか?』


「あっ……」


 俺は、手をリュックに突っ込んで、指先を伸ばしていく。

 100m、200m、300m……700mまで伸ばして諦めた。


「いっぱいだな。」


『ああ、いっぱい入るリュックになったんだな。』


「山とか入るかな……」


『そんなもん、魔力で包めねえだろ。』


「ギルドの建物くらいならいけそうだな。」


『そんなもん、持ち歩いてどうすんだよ。』


「どこでもマイホームだぞ。」


『意味分かんねえよ。』


 熟睡したせいか、部屋に帰っても寝られる気がしない。

 仕方なく、冒険者ギルドに行って、依頼を眺めていた。


 一つ、気になる依頼があったので、依頼票を剥がしてカウンターで聞いてみた。


「このサラマンダーの採取依頼って、何で報奨金が高いんですか?」


「あっ、それは、生息地が西に30km行ったところにある火山なうえ、鱗が高温なので持ち帰る事ができないんです。」


「高温って、どれくらい?」


「死骸でも、木の棒を近づけると燃えだすと言われています。」


「そんな物騒なものを、何で欲しがるんですか?」


「鱗が、魔素材なんです。」


「それって、炎系の?」


「はい。」


「それだと……、ああ、鱗5枚で金貨10枚なのか。」


「はい。全身を持ち帰れれば、それだけで金貨1000枚くらいの価値になります。」


「へえ。大きさはどれくらいなの?」


「7mくらいらしいです。もう、ドラゴンですよね。」


「過去に討伐された事はあるんですか?」


「50年ほど前に、一度だけ討伐されたみたいです。その時は、100人の大部隊を組んで、半分の犠牲を出して、3枚の鱗を持ち帰ったと記録されています。」


「その鱗は?」


「王都で展示されているそうです。」


「じゃあ、いつかは冷めるんだ。」



 俺は宿に帰って、ベッドに潜り込んだ。


『おいおい、行くつもりなのか?』


「試してみるのも面白いんじゃね?」


『どうやって仕留めるつうんだよ。』


「水攻めを試して、ダメだったら鉄の槍を100本くらいぶち込んでみる。」


『鉄の槍100本なんて、どこで売ってんだよ!』


「鉄の棒なら買えるだろ。」


『棒だけ買ってどうすんだよ。』


「風魔法で金剛石の粉を回転させて削る。」


『金剛石の粉なんて、どこで手に入れるんだよ。』


「素材の専門店で買えるんだってさ。工房で聞いたの覚えてねえのか?」


『道具作りとか興味なくてな。』



 翌朝、俺は素材専門店を訪ねた。


「すいません、金剛石の粉が欲しいんですけど。」


「何だ、水晶でも削るのか?」


「はい。魔法具を作ろうと思って。」


「悪いが、今は品薄でな。」


「魔道具工房のドラン爺さんに聞いてきたんですけど。」


「ドランさんの紹介じゃしょうがねえな。カップ1杯で銀貨5枚だ。」


「はい、ありがとうございます。」


 ここの店は、いつも品薄を理由に価格を吊り上げているらしい。

 俺はノーマルの革袋に、金剛石の粉を入れてもらった。


 次は鉄の棒だ。


「すいません、鉄の棒が欲しいんですけど。」


「何ミリだ?」


「10ミリ15ミリの間でお願いします。」


「12ミリの1mで銅貨2枚だ。」


「何本ありますか?」


「橋でも作るのか?在庫は30本だ。」


「ちょっと、モンスター用の武器を作りたくて。」


 ついでに、道具屋で腰に装着するバッグ、ウエストポーチを買い、その内側にマジックバッグの革袋を張り付けた。

 戦闘で使うようなものは、こっちに収納しておく。


 こうして、武器を揃えた俺は、西の火山を目指して歩き出した。

 西の火山まで30km。

 まっすぐ歩ければ、1日で到達できる距離だが、火山への道なんてあるはずがない。

 そのため、あちこちへ寄り道しながら行かざるを得ない。


 ただ、今回はこれまでと違ってマジックバッグがある。

 ブラックボアを含めて、倒した獲物は全部持ち帰る事ができるのだ。

 だから、獲物は倒しまくっていく。

 肉として人気の高いオークだって、初日だけで30匹。

 雑魚はもちろん、青鬼オーガ・一つ目巨人サイクロプス・ウシ型大型獣キングオーロックス・森林オオトカゲ等も狩りまくっていく。

 獲物は魔石だけを抜き取って、そのままマジックバッグに収納する。


 そうやって、5日目にはサラマンダーの生息地といわれる火山の中腹にたどり着いた。


『おいおい、何だよこの暑さは……』


「くっ、あれがサラマンダーかよ……」


 視線の先には、体長7mから10m程の赤いトカゲが10匹以上這いまわっていた。

 中には、嚙みつきあっている個体もいる。


『あんなの、どうやって倒すんだよ……』


「落とし穴を掘って、落ちた奴を水攻めで倒す。」


『そんなんで倒せるのかよ……』


「やってみるしかないだろ。」


 俺は、少し離れた場所に落とし穴を掘っていく。

 岩をマジックバッグに放り込んで、鉄の槍で土を掘り起こしてマジックバッグに入れる。

 1時間かけて、直径5mで深さ8mの巨大な落とし穴を作った。


『どうやってここに落とすんだ?』


「自分で飛び込んでもらうんだよ。」


 リュックのマジックバッグからオークの死骸を取り出し、伸ばした指先で掴んでピョンピョンと飛び跳ねているように動かす。

 5分ほど続けていると、気づいた一匹が猛烈な勢いで走ってきた。

 サラマンダーが飛びかかる寸前に、オークを穴に落とすとサラマンダーはそれを追って穴に飛び込んでくれた。

 そして俺は、穴の上から水魔法のウォータージェットを最大出力で叩きつける。


 50cmほどのウォータージェットの水流は容赦なくサラマンダーを押さえつけ、とんでもない水蒸気を発生させながら徐々に穴を水で覆っていく。


 もうもうと立ち昇る水蒸気は、それでも30分過ぎると徐々に薄れてきて、1時間もすると完全に水しぶきだけになった。

 穴の水全体を魔力で包んでマジックバッグに取り込むと、サラマンダーの姿はない。

 死骸と一緒に収納できたのだろう。


 同じ要領で2匹、3匹と倒していく……と、ふいに後ろでギャオーと鳴き声がした。

 反射的に飛びのくと、頭の後ろでガキッと牙の合わさる音がした。

 空中で、ウエストポーチから鉄の槍を掴みだして投擲するが、サラマンダーの鱗に撥ね返されてしまった。


「くそ、かてえな!」


『どうする!』


「こいつだ!」


 俺は岩に着地しながら、ウエストポーチに入れてあった革袋を取り出し、金剛石の粉を掴んで風魔法を発動。

 薄く、速く、風を回転させて、そこに金剛石の粉を乗せていく。

 鉄の槍を削った時に練習したグラインダーだ。

 それを1mmまで薄くして、水平に飛ばす。

 キラキラと陽の光を反射しながら、虹色の円盤はサラマンダーの鱗を簡単に切り裂き、あっけなく首を貫通した。


 ゴトリと音を立てて落ちる首と、ドンと地響きをたてて倒れる胴体。

 ピクピクと痙攣する胴体に水をかけて冷やしていくと、10分程で水蒸気が出なくなった。

 死んでいる方が、熱を失うのは速いようだ。


 頭を吸収すると、スキル”熱耐性””発火””インフェルノ””赤外線探知”を覚える事ができた。


 4体目のサラマンダーをリュックにしまって、俺はツリトの町へ帰った。



【あとがき】

 サラマンダーの鱗ゲットだぜ!

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