第3話 魔道具師
「なにぃ!お前、マヒの魔法持ちかよ!」
「はい、最近覚えました。」
「な、なあ。ものは相談だが、そいつを魔石に書き込んでくれねえか。」
「えっ?」
「マヒの魔道具を注文されてるんだが、ブラックボアの目はなかなか手に入らねえし、三つ試したんだが全部スリープだった。やってくれるんなら、マジックバッグの手数料は要らねえ。」
「魔石に書き込むやり方を教えてくれれば、俺の方はいいですよ。」
「悪いな。じゃあ、ここに座ってくれ。」
工房主の案内にしたがって、俺はいろんな器具の乗った机についた。
そして、俺の前に置かれた器具に、大きめの魔石がセットされた。
「よし。じゃあ、指に魔力を込めて魔石に触ってくれ。」
「こ、こうか?」
「そしたら、魔力で魔石を包みながら、マヒの魔法を発動寸前まで高める。」
「寸前って……どんな状況だよ!」
「最後に、指先から魔法を発動させる感じで魔力を流す!」
「指から魔法を発射すればいいんだな、えいっと。」
確かに、指から魔石に魔法が発動した感じはあった。
「おお、できたか。じゃあ、試験をしてみるか。」
「言っておくが、俺には耐性があるから効かねえぞ。」
「そ、そうか。やむをえん……」
こいつ、絶対に俺で試そうとしてたよな……
工房主はそのまま奥の部屋に入っていき、10分ほどして戻ってきた時には、右目の周りが黒くなっていた。
「成功だっ……っつ。」
「痛そうだけど、大丈夫なのか?」
「魔道具を極めるためには、痛みが必要なのだ!」
涙目になってるけどな。
「お前のおかげだ、感謝する。」
「なんなら、もう2,3個作ってやろうか?」
「そ、そうか!」
俺も感覚を覚えておきたかったので、5個の魔石にマヒを書き込んだ。
「すまんな。」
「それで、ブラックボアの目玉なんかを使う時はどうすんだ?」
「簡単だ。魔石と魔素材を並べてやって、魔石の粉を練った液で魔力の通り道を作ってやって、スイッチを付ける。ほれ、これが、見本だ。」
「なるほどな。ここを押すと回路が接続されるって訳か。」
「こんな風に、魔素材の手前に水晶を入れてやれば、魔力の底上げも可能だ。」
「なるほど。意外と造りは簡単なんだな。」
「まあな。魔道具師に求められるのは、どっちかというと、使いやすさとデザインだな。」
「なあ、魔石に魔力が込められてるんなら、魔石の粉で魔力ポーションも作れるんじゃねえのか?」
「ところがだ、魔石の粉をなめても、魔力は回復しねえんだよ。」
「じゃあ、どうやってんだ?」
「噂レベルなんだが、強いアルカリの液体で魔石を溶かしてから、中和してるらしいんだが、製造元の商会以外で成功したって話しは聞かねえな。」
「強アルカリって、スライムじゃねえのか?」
「まあ、そう考えて試したやつもいるらしいけどな。」
「魔石を溶かす液体か、俺も気にしておこう。」
「じゃあ、マジックバッグだな。」
「ああ、頼む。」
「じゃあ、この革袋でやってみよう。」
「素材とかは?」
「別に何でもいいんだが、長く使うんだから、やっぱり丈夫な素材でできた袋だな。」
「となると、皮が最適って事か。」
「魔力を吸収しやすいユニコーンの皮がいいって奴もいるが、希少すぎて試す気にもならねえよ。」
「そりゃそうだ。」
「それに、結局は、作った奴にしか使えねえしな。」
「それって、入れる時に、魔力で覆って入れるって聞いてるけど、それが関係してんのか?」
「ああ。違う奴の魔力で覆うと、弾かれちまうんだ。」
「もしも、作る時に魔石の魔力が使えたらどうなるんだ?」
「それは考えた事もないが、そもそも、魔石の魔力を操作できるかどうかだな。」
「ああそうか。魔石の魔力なんて、コントロールできねえか……」
「そう言う事だ。じゃ始めるぞ。」
「おう。」
「袋の中に手を入れて、袋の内側全体を魔力で満たす。」
「おうよ。」
「そしたら、魔力の圧をあげて行って、内側から押し広げる感じで少しずつ少しずつ圧を高めていく。」
「お……おう。」
「あるところまで行くと、一気に魔力が吸い込まれるようになって、魔力切れを起こす。」
「うっ、……うわっ!……何だこの、魔力を喰われる感じ……」
「おい、まさか、魔力を遮断できたのかよ!」
「ああ、危なかったぞ。」
「信じらねえ奴だな。まあ、出来たんなら、袋に手を突っ込んでみろ。」
「おう……っ、すげえな、俺の手はどこに入ってるんだよ!」
「途中で中断したのに、肩まで入っちまうのかよ。じゃあ、この竹竿を突っ込んでみな。」
「魔力で包んで入れるんだったな……、おおっ……どこまで入るんだよ……」
「バカな!」
「おっ、ここが限界見てえだな。」
「5mの竹竿を呑み込んで肩までが限界かよ……」
「竹竿が5mだとすると、5.5m。馬車1台分くらいか。」
「いや、上下左右に広がってるから、大型馬車2台分はあるな。」
「それなら、ベッドと布団も持ち歩けそうだな。」
「それどころか、小さい小屋も持ち歩けるぞ。」
「そりゃあ助かるぜ。もう野宿の心配はねえって事だな。なあ、この中に入って寝たりできねえのか?」
「やめておけ。この中は時間が止まってるんだ。心臓も止まっちまうぞ。」
「うげっ!……って事は、獲物の血抜きも必要ねえし、焼いた肉も冷たくならねえって事かよ!」
「ああ。だからみんなマジックバッグを欲しがるんだ。」
俺は、工房主に礼を言って工房を退去した。
そのまま、宿屋に入って、7日分の宿泊を頼んだ。
そうして、もう一度町に出て、道具屋で丈夫な革のリュックを買った。
次は、武器屋で皮の冒険者服やブーツを3組と剣やナイフを購入し、マジックバッグにしまった。
ついでに、ポーションや傷薬、手拭いなんかも買いそろえていった。
最後に、食器や大きい鍋、調味料や小物も揃えた。
夕方になり、宿屋に帰った俺は、久しぶりに暖かい料理を食べた。
特に、オーク肉を煮込んだシチューが絶品だった。
柔らかいパンも旨いし、十分に満足して眠りにつく事ができた。
翌朝、十分に魔力が回復しているのを確認して、俺は宿屋の娘に声をかけた。
「今から部屋で魔道具を作るんだけど、もしも夕食まで降りてこなかったら、悪いんだけど部屋の様子を見に来てくれないか。」
俺はそう頼んで、ポーションと銀貨1枚を娘に渡した。
栗色の髪をした、俺と同じくらいの歳に見える宿屋の娘は、喜んで頼みを聞いてくれた。
銀貨1枚というのは、例えば若いギルド職員の、1か月分の給料だ。
部屋に戻った俺は、ベッドに寝転がり、昨日買った皮のリュックに魔法を流していく。
魔力切れを起こすまで魔力を流し込んだら、果たしてどれくらいのマジックバッグが付けれるのか……
そうして、俺の意識はブラックアウトした。
『ヨクサ!』
「うっ……」
『ふう、起きたか。』
「キング……、お前の方が先に起きたか。」
『ああ。外はもう、薄暗くなってるぞ。』
「じゃあ、8時間くらい経ったのか。」
その時、部屋のドアがノックされ、宿屋の娘が入ってきた。
「良かった。目が覚めたんですね。」
「えっ?」
「丸2日、寝た切りだったので、心配したんですよ。」
「えっ?」
「お医者さんも呼んだんですけど、異常はみられないから、そのうちに起きるだろうって言われて。」
どうやら、50時間以上ぶっ倒れたらしい……
俺は、迷惑をかけた宿の主人に礼を言って、金貨を1枚渡した。
【あとがき】
ヤバイ、この話しも終わりが見えなくなってきた……
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