国王
追加パウダーはワンプッシュで2時間ほど点灯できるように調整した。
つまり門灯等は6回プッシュすれば朝まで光る事になる。
サンプルを一つ作ってやり、それはすぐにギルドに持ち込まれ製品に反映された。
基本的にライボは壁掛け式だから、屋敷用のものは簡単にクビの向きや角度を調整できるようにしてやった。
ギルドも最優先で素材を回してくれたので、4日で宰相の屋敷は全てライボに切り替わった。
元々、メイドさんには毎夕にランプの油補給と点火という作業があった。
当然だが油が燃えればススが出て出るため、ガラスのカバーを拭いたりする作業があるし、ちょっとしたミスでボヤとか火事に繋がる事があるそうだ。
だから、二人組で時間のかかる作業だったみたいだ。
「作業が楽になって助かっているんですけど……、明るくなったせいで、天井や壁のホコリとかが目立つようになってしまって……」
「あははっ、そんな弊害があるとは思いませんでしたよ。」
「あっ、それは城でも不満が出てますね。掃除は結局女の仕事なので。」
「だから、長い竹竿の先に雑巾をつけて掃除してるんですけど……」
「屋敷はまだいいですよ。城の広間なんて天井の高さが7mくらいあるんですよ。」
「7mですか……継ぎ足せる竿とかないんですか?」
「えっ?」
「ほら、太い竿の先に細い竿を継ぎ足せば……待てよ、太さの違うパイプを重ねてやれば……」
メイド長のアンジェラさんと城の職員であるエリザベスさんとの会話の中からヒントをもらって、俺はコウスラで伸縮式のハタキを作った。
「何ですかこの金属!」
「こんな軽い鉄は初めて見ましたよ。」
「屋敷用と城用に5本ずつ作りましたから、足りなかったら言ってください。」
照明の次は厨房だ。
これまでの保冷庫というのは、コルクを張り付けた木の箱に氷を入れて冷やす。
この屋敷には、専用の魔法師の爺さんがいるのだが、最近体調を崩しているので後任の魔法師を捜しているらしい。
最近色々と試して分かったのだが、スラゴムは結構保温効果が高い。
それに、冷たい空気は下に溜まるのだ。
だから、氷は上にある方が効果的になる。
俺はコウスラで大きな箱を作り、内側にスラゴムを張り付け、氷皿を上部に設置して、師匠のところで写させてもらった氷の魔法陣を刻んだ。
「朝と晩に、この魔法陣に触って魔力を流し込んでください。」
「魔力を流すって……」
「ああ、普通の人は魔法なんて使った事ないですよね。……えっと、この魔法陣に触りながら、この皿にある水が凍るところをイメージしてください。」
「えっと……こうですか……えっ!」
「あははっ、凍ったでしょ。みんなに魔力があるのかは分からないけど、アンジェラさんにはあるって事です。」
「でも、私は魔法なんて知らないですよ……」
「ここにある模様が魔法陣っていうヤツで、魔法をしらなくても魔力を流してやれば魔法を発動してくれるんです。」
「そんなの聞いたことがないですよ!」
「武器とかに使われる特殊な知識みたいですね。だから魔法陣は人に見られないように、こうやって隠さなくちゃいけないいけないって。」
俺は魔法陣にコウスラを被せて隠した。
「もっと広めてくれれば、世の中が便利になると思うんですけど……」
「難しいですよね。これが広まっちゃったら、氷の魔法師や氷屋は職を失いますから。」
「ああ、ライボの普及でランプの職人やロウソク職人が仕事を失っているって聞きますもんね。」
「そう言う事です。代わりの職を捜さずに、彼らの仕事を奪う事はできないんです。」
「ガルラ様って、そんなにお若いのによくそこまでお考えになれますね。」
「……俺の両親は、職を失って貧乏になって病で死にましたからね。そういう辛さを知ってるんですよ。」
「……失礼しました。ご事情も知らず……」
「いやいや、そんな深刻な事じゃないですよ。田舎の町じゃよくある事ですから。」
次は、王族の馬車だ。
俺の馬車に同乗した宰相から、どうしてもと頼まれてしまった。
馬車を見せてもらったら、色々と気に食わない部分が見つかった。
改造ライボもつけてやりたいし、クッションも改良の余地ありだ。
結局、俺は宰相の敷地に大きめの作業場を作って、その中で馬車を2台作る事にした。
御者席を除いて、3人掛けの3列シート。
それなりの大きさの荷台も必要だし、野営用に俺の馬車と同じ椅子とテーブルも内蔵してやる。
車輪の軸は細いスポーク式にして、当然スラゴムを張り付けて衝撃を吸収できるようにしてやる。
シートにもスラゴムをクッションに使い、座り心地にも配慮してある。
外装はラピスラズリを使った紺をベースに、金箔を使ってアクセントを入れてある。
改良型ライボで全方向を照らす事もできるし、当然座席を倒して寝る事も可能だ。
座席の背もたれは5段階に調整できるようにした。
もう一台は宰相にあげるつもりだ。
こっちは金のアクセントはなく、一回り小さい6人乗りだ。
ボディには白いラインでアクセントをつけてある。
シートの生地にも拘ったおかげで、制作に1週間もかかってしまった。
俺はスケさんに制御してもらい、献上用の馬車を城の正面に乗りつけた。
車輪をロックしてもらって御者席から降りる。
少し待っていると、宰相とエリザベスさんが先導して偉そうな人が女性を伴って出てきた。
偉そうなといっても、イヤらしい感じではない。
眼光が鋭く威圧感はあるが、白いシャツに紺のガウンという質素な服装だ。
「お前がガルラか?」
「はい。田舎者ですので、礼儀とかは知りません。失礼があったらお許しください。」
「宰相から聞いている。気にするな。すまんな、宰相がムリを言ったようで。」
「いえ、お使いの馬車を拝見したら色々と改造したくなってしまい、差し出がましい真似をいたしました。」
「ウフフッ、それにしても大きい馬車なのね。」
「護衛とメイドさんも同乗して隣の町へ行ける前提で作りました。」
「まあいい。4頭立てならばこのサイズでも大丈夫だろう。じゃあ、乗り心地を確認させてもらうかな。」
「はい、どうぞ。」
俺は馬車の床面に装備した補助足場を出した。
ドアはエリザベスさんが開けてくれる。
「あら、この香りは……」
「王妃様はキンモクセイの香りがお好きと伺いましたので、少しだけシートに香り付けしてあります。」
お二人に続いて、王子と王女らしい二人が2列目に乗り込んでいく。
どちらも、20才前くらいだろうか、俺よりも年上に見える。
俺と宰相は3列目に座った。
「座席の横にあるレバーを引くと座席を倒す事ができます。体重をかけて引くと勢いよく倒れてしまうので注意して……」
「うわっ!」
ガタンと音がして王子の椅子が倒れた。
「バカ者!説明を最後まで聞かずに行動するからだ。」
「くっ……」
「あらっ、このクッション……」
「車輪に使っているものと同じ、俺の開発した素材を使っています。車輪よりも柔らかくしてありますが。」
「ふむ、座り心地はいいな。」
「お父様、天井にライボを使ってあるようですわ。」
「はい。外部にも装備してありますので、暗くなっても走行可能ではあります。」
「このボタンはなぁに?」
「改良型のライボで、そこを一回押すと2時間分の追加パウダーがまぶされて光りだします。」
「そんな機能初めて聞いたぞ。」
「数日前にギルドにサンプルを渡したので、これから作られるライボは改良型になります。」
「や、やってみてイイかしら。」
「どうぞ。」
王女がボタンを押すとライボが淡い光を放った。
「狭い室内なので、光量は控えめにしてあります。」
「開発者ならではの調整か……。分かった、走らせてみてくれ。」
スケさんの操作で馬車が走りだす。
4頭の蹄の音がカッカッと聞こえた。
【あとがき】
王族との邂逅
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