シャイ王女はポンコツなのか?

「ち、父上、蹄の音しか聞こえません。」


「それだけじゃないわ。何で揺れないのよ!」


「王都の道は石畳が敷かれていますからね。これくらいの振動ならば、車輪と軸受けとこに椅子のクッションが吸収してしまいます。」


「そうか、土の道ならもっと揺れるという事だな。おい、御者、町の外へ行ってみてくれ。」


「承知いたしました。」


 貴族街を一回りして終わる予定が、町の外まで出たおかげで1時間近くかかってしまった。


「信じられん。1時間近く乗ったのに、体のこわばりがないぞ。」


「お父様、シャイは不覚にも寝てしまいましたわ……」


「おいお前!俺専用の馬車を作れ。町へ行くためのもっと小型のヤツだ!」


「……」


「何を黙っている!俺のいうことが聞けないというのか!」


「お兄様、確かに小型のものがあれば便利ですが、せいぜい王族に1台あれば十分ですわ。それよりも、彼には自由な発想で活動してもらった方が良いと思いますわ。」


「シャイの言うとおりだな。ガルラの才能は王族が独占して良いものではない。」


「もう1台でよろしければ、6人乗り2頭立ての馬車を作ってありますので、それを使ってもらっていいですよ。内装とかは多少落ちますけど。」


「良いのか?」


「宰相に使ってもらおうと作ったんですが、確かに王都内で移動するには大きすぎますよね。」


「宰相、すまんな。一度これに乗ってしまったら、もう普通の馬車には乗れん……」


「まあ、仕方ないですな。私はガルラの馬車に同乗させてもらいますよ。」


「素材が揃ったら宰相の馬車も作りますよ。流石に、馬車2台で素材を使い切りましたからね。」


 こうして、陛下への献上は終わった。

 王子が余計な事を言ってこなければいいのだが……。



 数日後、意外な事にシャイ王女から呼び出しがあった。


「ゴメンね、忙しいところ呼びたてちゃって。」


「あっ、大丈夫です。」


 シャイ王女は、金髪で短い髪をしている。

 清潔感のある頭のよさそうな女性だ。


「ホントなら、こっちから行きたかったんだけど、流石に禁書を持ち出す訳にはいかないからさ。」


「禁書って何ですか?」


「一般には見せられない、国として隠している資料よ。」


「それが、俺に何か関係あるんですか?」


「ガルラってさ、魔法陣使ってるでしょ。」


「えっ?」


「隠さなくていいわ。アン……アンジェラは元々、私の次女だったのよ。」


「あっ……」


「まさか、保冷庫に魔法陣を使うとは思わなかったわ。」


「そうですね。魔法陣って、基本、戦で使う為に発展してきたって聞いていますからね。」


「そうね。禁書庫にある資料も、戦に関するものばかりだもの。」


「やっぱりそうなんですね。」


「それで、君は誰から魔法陣の事を教わったのかな?」


「……言えません。」


「そうよね。誓約した者が口外するのは違法行為だから、確実に投獄されてしまうから。」


「そ、そんな決まりがあるんですか?」


「あくまでも誓約した者という事だから、君は心配ないだろうけど、君に魔法陣を教えた人がどうか……というところね。」


「例えば、他国で知りえた知識という可能性はないんですか?」


「私にそこまでの知識はないわ。まあ、偶然魔法陣を見てしまった、例えば私のような者が、他に存在する可能性もあるけどね。」


「王女様は魔法陣を作れるのですか?」


「一度試した事があるけど、ダメだったわ。魔溶液が不完全だったのかもしれないけど。」


「魔溶液って何ですか?」


「えっ?魔法陣を書くときに使うでしょ?」


「えっと、俺が教わった魔法陣って、書くんじゃなくて彫るんですけど……」


「……それって、やっぱり我が国とは違う技術なのかな……」


「王女様が書いた魔法陣って、何の魔法だったんですか?」


「書いてある文字は読めないんだけど、多分氷系の魔法だったと思うわ。」


「何でそう思ったんですか?」


「だって、氷みたいな絵が書いてあったから……」


「それで、魔溶液ってどこから出てきたんですか?」


「ま、魔法陣の書いてある資料の最初に書いてあったのよ。絵で説明されてたからわかりやすかったわ。」


「じゃあ、魔溶液ってのは?」


「エヘン、私が命名したのよ!カッコいいでしょ。」


「えっと、今の事、全部冗談ですよね。」


「冗談なわけないでしょ!5日かけて魔法陣の書いてある本を読み込んだんだから!」


「……はあ……、困った王女様って事……なのかな?」


「な、何よそれ!」


「……もういいか……」


「何がよ……」


「いいか、あんたは城を吹き飛ばすかもしれない程の事を、イタズラでやったんだよ!」


「えっ?」


「もし、その魔法陣が上級魔法を描いたものだったらどうするんだ?」


「上級……いえ、そんなハズないわ、だって本の最初の方に出てたんだから……」


「字が読めないんだから、そんな気がする程度だったんだろ。魔法陣が秘密にされてきた理由が分かったよ。」


「わ、私は……この国の王女……なのよ。」


「はあ、あんたもバカ王子と同類だって事かよ。」


「お兄様と一緒にしないでちょうだい!私は……私はこの国の事を……」


「魔法陣は戦いの道具だ。この国の事を考えるなら、そこは専門の人間に任せておくべきだな。」


「ライボとか、冷温庫とかスラゴムとか……、私だって、魔法陣を使って国民の役に立つものを作りたかったのよ!君に……ライボを初めて見た時の私の衝撃が……私の……何が分かるっていうのよ……」


「はあ……分かったから、泣くんじゃねえよ。」


「グスッ……君……、王族を……何だと……思ってるのよ。」


「……一番、偉そうなヤツ。国王はそうでもなさそうだけど、バカ王子を見て確信したぞ。」


「グスッ……、そうよ。ああいうのに国を任せられないって、……誰だって思うわよね。」


「あれが、国王になるのなら、エマールに行くのもアリだなって思うぞ。」


「い、行かせませんわ!じきにお父様は政治の仕組みを変えます。」


「仕組みって?」


「国王は、政治の運営を宰相以下に委ねて、国政の場から退きます。」


「それって、国王の座を退任するっていうこと?」


「そこが、私にはまだ分かりません。少なくとも、権力は手放すとおっしゃっています。」


「王子が王位を継いでも、国を自由に動かす事はできないって……うーっ、理解できない。」


「これからの政治は、民が行うんだとおっしゃっていました。具体的な運用は考えているところみたいです。」


「でも、それって宰相が好き勝手したら同じじゃないの?」


「責任者の専任と解任は、国王の役目ですから、そうなったら責任者を解任できるって聞きました。」


「まあいいや、現国王は、国民の事を考えて、国の在り方を変えるんだな。」


「はい。」


「それと魔法陣に、何のつながりがあるんだよ。」


「私は魔法陣を使って、国民の生活が豊かになる道具を作りたい。」


「冷温庫みたいな奴か……具体的には?」


「そうですね。今考えているのは、厨房に水が出てくる道具があったら便利だし、部屋を暖かくしたり涼しくしたりする道具も欲しいです。」


「……、水を出す魔法陣は簡単にできると思うが、涼しくするのは氷を作る応用で……ああ、風を出して部屋中に冷気を広げればいいか。」


「で、出来るんですね!」


「まあ、風を出すんなら魔力を流し続けなきゃならねえし、温めるのは火を使うからよっぽど注意しねえと難しいな。」


「王女として命じます。ガルラよ、私と共に魔法陣を使った道具を開発するのです。」


「断る。」



【あとがき】

 魔法陣応用編です

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