お邪魔虫

「な、何でよ!ここは、国民を思う王女に感銘を受けて協力するところでしょ!」


「何でって、俺にメリットねえだろ。」


「富と名声は約束するわよ。」


「名声なんて要らねえし、金も十分持ってる。」


「ねえ、王女がこうして頼んでいるんだから、普通の男性だったら無条件で承諾すると思わない?」


「ポンコツだと知っていながら協力する奴は、どうかしてると思うぞ。」


「わ、私がポンコツだっていうの!」


「じゃあ、お前が描いたっていう魔法陣を見せてみろ。」


「ちょ、ちょっと待って……これよ。」


 王女は机の棚から、1枚の紙を取り出した。


「紙に描いたのかよ……」


「えっ、どうすれば良かったのですか?」


「金属板か板に彫るのが妥当だな。」


「あのね、ワタシはこれでも王女なの。お・う・じ・ょ、知ってるわよね。」


「そうれがどうした。」


「あなたみたいな職人じゃないの!」


「いや、俺は職人じゃなく、ただの冒険者だぞ。」


「……知らないわよ、そんなの。」


「それで、これか……、炎系の魔法陣。上級だとすると火柱か。」


「えっ、何でそんな事が分かるのよ。」


「師匠に教えられたからな。読めない部分もあるが……ある程度は理解できる。作用点は△が4つだから140m先か。」


「それって、魔法陣として成立してるって事?」


「作動時間の設定?これは3.6秒なのか36秒なのか……。魔力源は……何だ、この記述は……。発動のトリガーは、ここから魔力を流す事で発動か……。」


「どういう事?」


「俺が読み取れる範囲だと、約140m先に半径10mの火柱を出現させる魔法陣って事だ。」


「それって……」


「140mだと、方角によっては貴族街だな。良かったな、貴族の屋敷は敷地が広いから延焼は避けられそうだ。」


「良くないわよ!」


「今後はお前を放火未遂姫と呼んでやろう。」


「……何で……発動しなかったの?」


「これだけじゃ魔力源が分からん。俺が知ってるのは、人が魔力を流して発動する魔法陣ばかりだからな……待てよ……」


「何よ!」


「魔溶液とかいうのを作ったと言ってたな。」


「それがどうしたのよ!」


「その材料は何だった?」


「多分だけど、魔石とコクリ草の搾り汁と塩よ。」


「……魔石か……、師匠もその可能性はあるって言ってたな……」


「何がよ?」


「魔石が魔力を貯めこんだ石なんじゃないかって事だ。……この国には、魔法陣の研究をしてる奴はいないのか?」


「200年前にヨーリス王国が誕生した時に、魔法陣の知識は失われ、禁書庫に3冊の本が残されているだけよ。魔法陣に関する誓約っていうのも、法律で残っているだけよ。」


「そうか、だから今使われている文字じゃないんだな……」


「見たいでしょ、その本。」


「見られるのか?」


「王族の私なら可能よ。」


「お前が見られても意味がねえだろ。」


「私と一緒なら禁書庫に入れるって言ってるのよ。」


「……分かった、連れていけ。」


「何であんたが偉そうに命令してんのよ!」


「面倒くせえ女だな……」


「もう一度いうわ。ガルラよ、私と共に魔法陣を使った道具を開発するのです。」


「イヤだ。お前みたいな危険分子とは組まねエ。」


「な、何でよ!」


「ヒントは貰ったから、後は自分で解明できると思う。本を見たいってのは、時間を短縮できそうだって理由からだ。」


「だったら、素直に私の申し出を受けなさいよ!」


「……お前の望むものは作ってやる。だが、お前に手は出させない。危険すぎるからな。」


「何よ!魔法陣の危険性は理解したわよ。もう、勝手な事はしない。誓うわよ。」


「……しょうがねえな。分かったよ。ああ、禁書庫に行く前に、紙とインクを用意してくれ。」


 俺は王女の持っていた鍵で禁書庫に入る事ができた。

 王女は魔法陣に関する本を3冊テーブルに積んだ。


「この3冊が魔法陣の書かれた本よ。」


「ああ、……ここは必要だな……」


「な、何やっているの?」


「紙を重ねて、下のインクの配置を上の紙で再現してんだよ。書き写すよりも正確だぜ。」


「な、何でそんな事が出来るのよ!」


「アルケミストのフォーミングって技の応用だ。」


「あ、あなた、そんな技まで使えるの!」


「そうでもなければ、5日で馬車なんて作れる訳ねえだろ。」


「アルケミストの技って……あなた、冒険者なんでしょ!」


「別に、アルケミストの技を使える冒険者がいたっていいだろ。冒険者の剣士や魔法使いだっているんだからよ。」


「アルケミストって、国に数えるほどしかいないのよ。冒険者なんてやらなくてもいいじゃない。」


「冒険者やりながら調合を試しているから、ライボだって開発できたんだよ。」


「わ、分かったわよ。そこは何も言わない……」


 俺は3時間かけて、多くのページをコピーした。


「それで、どうだったの?」


「魔石の魔力を活性化させるために、塩と草の汁を使うみてえだな。お前は何でコクリ草だと思ったんだ?」


「ここに書いてある葉っぱの形がコクリ草の形なのよ。」


「まあ、コクリ草で試してみるか。」


 俺はコクリ草を採取してきて、魔石と塩を加えて調合してみた。

 そして、初級の風魔法を活動させる魔法陣を作って、その中心に作った魔石をセットして起動してみた。


「すごい!風が出てる。」


「ああ、とりあえずコクリ草で間違いないようだな。」


「私の観察眼を褒めてくれていいのよ!」


「調子に乗るんじゃねえ。ここからが本番だ。」


 この加工魔石から余分なものを排除して、本当に必要な物質を探っていく。

 水分や繊維質は魔石の活性化に関係なく、余分な物質を取り除く毎に風の威力が高まっていく。

 だが、コクリ草の成分を全て抜いても風魔法は発動を続けていた。


「どういう事?」


「コクリ草は、魔力を抑えるために使っているって事みたいだな。」


「そんな……」


「しかも、コクリ草じゃなく、普通の葉っぱでも同じ効果が得られるみてえだぞ。」


「わ、私の見つけたコクリ草は無意味……」


「という事は、純度の違う加工魔石を用意すれば、出力の調整が出来るって事だ。」


「どういう事?」


「そうだな。ちょっと思いついた事があるから見せてやるよ。」


 俺は宰相の家に戻り、全体的な配置と寸法を測った。

 

「冷温庫の他に、厨房で何をしようっていうんですか?」


「まあ黙って見てろ。」


「何を作ろうとしてるのかくらい教えてくれてもいいでしょ。」


「だったら、ここに何があったら便利なのか考えてろ。」


「くぅ、ホントに意地悪なんだから……」


「まあまあ、お嬢様、ガルラ様にお任せしておけば間違いはございませんわ。」


「アンをここまで手なずけるなんて、ガルラは本当に女たらしよね。」


「うるせえ。黙って見てろ。ベースは鉄でいいな……女性が使いやすい高さにして……煙突も工夫してやるか。」


「そんなところにテーブルを増やしてどうすんのよ。しかも、微妙に低いんじゃないの!」


「そうですね。包丁を使うにしては低すぎますし……麵打ち台でしょうか?」


「メイド長、あの高さだと確かに小麦粉を捏ねるのは丁度いいかもしれません。」


「何を言ってるのよ。そんなものに魔法陣は必要ないでしょ。」


「あっ、箱を作り出しましたよ……」


「円盤3枚に魔法陣を刻んでいますね。」


「うるせえ!集中できねえだろうが。」



【あとがき】

 当然ですが、何人ものメイドが様子を見ています。

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