第10話 ジェネレータ

「今日はもう2台できますから、ご希望の方は話し合って順番を決めておいてくださいね。できれば、ご主人様の確認を取っておいてもらえると助かります。」


「なあ、今日だけなのか?」


「明日からは午前・午後で3台ずつやりますよ。」


「費用はどうなるんだ?」


「ああ、それなら都市長が負担してくれるのでご心配なく。」


 その時、紫のヒラヒラが走ってくるのが見えた。


「ケンギーッ」


 イヤな予感しかしない。


「ハアハアッ、ねえ、城の発電機はいつやってくれるの?」


「そんな約束してないです。」


「あら、未来の妻の頼みを断るっていうの?」


「いや、俺はアイラ様と婚約しましたから……」


「アイラが第2夫人でいいわよ。」


「一人で十分です。」


「へえ、ケンギは私に恥をかかせるっていうんだ。こんな人目のある場所で……クスン」


「先日、そういう事で決着したはずです。」


「だって……日が経つにつれ……ケンギのこと……」


 王女の瞳がウルウルしている……


「はあ、発電機の方は検討してみます。」


「私の事は?」


「……気には留めておきます……」


「……しょうがないわね……」


 いきなり王女が使づいてきたと思ったら、両頬を押さえられ唇を押し当てられた。

 オオーッと周りから歓声があがる。


「私は本気なんだからね!」


 王女は走り去った。

 

「マスター!」


「えっ?」


 振り向いた途端、レイに唇を奪われてしまった。


「私は愛人2号ですからね。」


 そう言ってレイは作業に戻った。

 

「なあレイ。」


「はい。」


「飛空艇のジェネレータ(発電機)を城とか屋敷に設置する事は可能か?」


「飛空艇のジェネレータは出力が80kwですので、その範囲内であれば問題ございません。」


「80kwか。ざっと見繕って、LED照明が150で調理器が5口といったところか。」


「それならば、予備を考えても30kwで十分賄えますが、私たちの技術では……ミュウからの情報です。持ち帰ったシステムを起動して、情報を解析……10cmの球形ジェネレータを磁力で空中に固定してマイナス196度以下を維持すればいい。その場合の周辺装置込みのサイズは30cmの立方体で、出力50kwが実現できると。」


「じゃあ、城や屋敷にもジェネレーターが設置できるし、もっと小さい飛空艇も作れそうだね!」


「はい!」


 まあ、電線くらいは自分たちで作らせるか。


「産業局に行ってくる。」


 俺は産業局に赴いた。

 産業局長に頼んで、銅線10本を撚り合わせたうえで、ゴムで覆って絶縁し2本ペアにした100mのものを10本大至急で作るよう依頼した。

 伯爵の家の分はこっちで用意するしかない。


 撚り線にするのは、当然壁に沿って折り曲げたりするからで、単芯だと断線する可能性が高いからだ。


 そのまま、宰相の元へ行った。


「こんにちわ。」


「おお、ケンギ君。私の馬車をやってくれたんだってね。」


「ええ。今日4台と、明日から3日で15台終わらせますよ。それが終わったら、職人を呼んでもらって簡単な改造方法を指導する予定です。」


「本当に報酬はいいのかい?」


「宝物庫にあったアーティファクトをいただきましたから結構ですよ。」


「あの銀色の玉は、それほど価値のあるものなのかい?」


「多分、みなさんには使えないと思いますが、俺にとってはかけがえのない遺物なんですよ。」


「まあ、君がよければ我々は良いのだが……」


「それで、王女様から頼まれたので、発電機を設置しようと思います。」


「ホントかね!」


「それで、照明をどう設置したら良いか相談したいのですが。」


「おお、それならばロンド課長、ちょっと来てくれ。」


「はい、何でございますか?」


「こちらケンギ君。王子を目覚めさせてくれた功労者で、今日から馬車の改造に取り掛かってくれている。」


「陛下の話しは聞いております。ロンドと申します。」


「あっ、ケンギです。魔物研究所でクラフマン伯爵の秘書をしています。」


「で、馬車の改造とは何でしょうか?」


「クククッ、ワシの馬車に乗ってみれば分かる。帰りは送ってやろう。」


「はあ……」


「まあ、数日のうちに巡回馬車も改造されるだろう。皆の驚く顔が見れないのは残念だがな。」


「何をされるんですか?」


「内緒じゃ。それで、何日か後になるのじゃが、ランプに代わる灯りを導入してもらう事になった。」


「はあ……」


「えっと、この部屋なら2箇所、あそことあそこくらいに付ければ、夜でも昼と同じように仕事ができますよ。」


「えっと、ランプでも問題ないかと思いますが……」


「窓のない部屋ってありますか?」


「あっ、そこの書庫はランプを持たないと真っ暗です。」


「じゃ、そこでお見せしましょう。」


「ではランプを……」


「俺が持っていますので大丈夫ですよ。」


 俺は書庫に入ってドアを閉め、携帯用のライトを点灯した。


「こ、これは……」


「これを天井に取り付けて部屋全体を照らします。1個だと隅の方は暗くなってしまうので、間隔を開けて2個つければ夜でも部屋全体を明るくできると思います。」


「た、確かに……」


「それで、設置場所と必要な金属の線を確認しますので、城の見取り図が欲しいんですが、複写をいただけないでしょうか。」


「複写ですね、明日1日いただけますか。」


「はい。お願いします。ああ、良かったら俺の家を見ますか?より具体的なイメージができると思いますよ。」


「ロンド君、そうさせてもらいなさい。ケンギ君の家を見れば、自分たちの目指すものが見えてくるだろう。」


「じゃ、1時間コースでご案内しましょう。」


「せっかくだ。手の空いたモノがいるなら、あと4人まで馬車に乗れるだろ?」


 こうして暗くなった頃、馬車に5人の職員を乗せて家に向かった。

 ゴムタイヤの静音性にも驚かれたが、馬車の屋根から照射されるLEDの光に驚いている。

 50m先まで明るく照らすからだ。

 他の馬車にもつけてやりたかったが、バッテリーを充電できないと意味がない。


「これと同じタイプで、もう少し広範囲に拡散する照明を城の中につけていきます。」


「こ、こんなのをつけたら、眩しくて仕事にならないですよ。」


「室内用はもっと優しい光なので音信してください。」


「あっ、そこです。」


 門が横に開き敷地内に進んでいく。

 夜は水の中に設置した青色のLEDが点灯し、より幻想的なイメージに仕上がっている。

 俺が敷地に入った事で建物内の照明も次々に点灯していく。


「ナニ、これ……」


「夢の中の世界……」


「水の妖精が出てきそう……」


 噴き出した噴水の音に囲まれながら建物に入る。

 

「これが城につけるものと同じ室内照明です。」


「ひ、昼間みたいな明るさですね……」


「ランプと違って色のついてない光なので、読み書きしやすいと思いますよ。」


「一晩中寝ずに働けって言われそう……」


「いや、俺はそんな事は言わないが……、これなら昼間と同じように働いてもらえるな……」


 続いてキッチンを見せる。


「火を使わない厨房です。このダイヤルで火力を調整できるので、火加減は思いのままですね。」


「これ、職場に一つあれば、いつでもお茶が飲めそう……」


「ダメだ!こんなのをメイドに見せたら、暴動が起きるぞ……」


「火の管理が要らないので、例えば夜中に弱火でコトコト煮込むなんていう事もできるんですよね。」



【あとがき】

 城の電化

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