アクマ
エマールの王都に到着した俺たちは、その足で商業ギルドに向かった。
同行した商業ギルド職員のクリスの知人がいるというのだ。
馬車を停めてクリスを先頭にギルドの中に入っていき、クリスが相手の名前を告げて呼び出してもらっている。
やってきたのは、どうみても冒険者風の大男だった。
筋肉ゴリゴリで金髪を短くカットした男を、クリスはマンシーと紹介してくれた。
「ライボはこっちでも話題になっているよ。ギルドには1個しか設置されていないが城には何個か導入されているみたいだね。」
「今回来たのは、ライボ製造のノウハウを教えるのと、もう一つ給水器って道具を広めるためにやってきたんだ。」
「売り込みなのか?」
「いや、こっちの王妃から要請されて、エマールで製造するための条件を整備する。」
「何だって!国はそんな事を考えていたのか……」
「問題は、こっちで素材を用意できるかなんだが、この国でリザードマンと火炎ムカデ・キラースパイダーは採れるかい?」
商業ギルドで情報を集めたうえで、城に向かう。
門兵に来訪の理由を伝えると、城の中に案内された。
会議室のような場所で待たされた挙句、やってきたのは産業局の課長という男だった。
「悪いね、遠くまで来てもらって。」
「王妃への面会を頼んだんだが……」
「おや、ヨーリス王国の使い風情が王妃様に面会などできると思っているんですか?」
「国王の書簡も預かっているのだが。」
「ああ、私から渡しておきましょう。」
「申し訳ございません。こちら、ガルラ・オーフェン殿は宰相殿のご子息にして国家錬金術師に任命された正式な特使でございます。」
「おや、私も産業局長の息子。同じ立場で問題ありませんね。」
「はあ、やっぱりこういう国だったか。無駄足だったな、帰りましょう。」
「いやいや、帰れると思っているんですか?」
「どういう事だ?」
「当然、ライボと給水器の製造体制を整え、我が国の発展に協力していただかないと。」
「シャルロット王妃も知っての事か?」
「さあ?私は局長から指示されただけですから。衛兵!」
ドアを開けて、兵士が5人入ってきた。
「ボス、切ってもいいですか?」
「いや、毒にしましょう。」
「承知。」
「いつっ……な、何をした!」
「キラースパイダーの毒だ。3日は高熱が続く。兵士に撃ち込んだのは、即効性の麻痺毒だがな。」
「こ、こんなことをして、ただで済むと思ってるのか!」
「仕掛けてきたのはお前の方だろ。」
「くっ、誰か!誰かいないか!」
「人を呼ぶのもいいが、ここから先は容赦しないぞ。」
「なにぃ!」
俺は駆けてきた兵士を改良型スライムショットで打ち抜いた。
弾は氷の欠片だ。
「な、何だそれは……」
「お前が知る必要はない。父親の元に案内しろ。」
俺は、同行したギルドの職員2名にスラゴムで作ったローブを着させた。
フードをかぶれば、弓や剣げき程度は防いでくれるだろう。
「きょ、局長クラスは会議中だ……」
「ちょうどいい、そこに案内しろ。」
カクさんが男を立たせて先導してくれる。
「ああ、一度外に出て、この二人は馬車で待機していてもらおう。スケさんがいるから大丈夫だろう。」
二人をスケさんに預けて俺達3人は会議室とやらに向かった。
すれ違う兵士は足を打ち抜いて無力化していく。
フルアーマーの兵士は申し訳ないが氷槍なら問題なく貫通する。
こうして俺たちは局長会議が開かれている会議室に乱入した。
「な、何だお前たちは!」
「王妃さんから呼ばれてヨーリス王国から来たんだが、この課長さんがとち狂った対応をしてくれたんで、王妃さんから直接説明して欲しいんだが。」
「わ、私は何も知らぬ!」
「これが国王からの返事だ。シャイは俺の嫁になった。この国には渡さねえよ。」
「ば、バカな。シャイが嫁いだなど聞いておらぬぞ。」
「まあ、最近の事だから、知らねえだろうよ。」
「ふざけるな!王子との婚姻を断るなど、国が滅んでも良いというのか!」
パパパッ!
俺は逃げ出そうとした男の足を撃った。
男の叫びが部屋に響き渡る。
「この部屋で全員殺したら、国はどうなるか試してみようか。」
「な、何が望みだ!」
「ライボと給水器を望んだのはお前らだろう。俺たちは要望に応えるために来ただけだよ。」
「だったら、それを置いて帰れ。」
「いやいや、そこの産業局の課長とやらが帰さないと言ったからこうなったんですよ。それに、最低でも約束の金貨5千枚をいただかないと帰れませんね。」
「いいだろう。我が国との戦争を望むのなら、相手をしてやろうじゃないか。」
「おや強気。」
俺はそいつの額を打ち抜いた。
「国防大臣!」
「他に、戦争を望む方はおられませんか?」
「くっ……」
「じゃあ、財務局長、金貨5千枚を正面の広場の真ん中に持って行ってください。」
「なにぃ!」
「こっちは、ギルドの職員を一人連れて行って、ライボと給水器の作り方を教えて返しますよ。」
「バカな!そんなものに払う金などない。」
「あれぇ?国王からの書簡に書いてありますけど、これはウソなんですね。」
「わ、ワシは知らんぞ!」
「あっ、このサインは偽造なんですね。誰ですか、犯人は?」
「さ、産業局長が独断でやった事よ!」
「ば、バカな!会議の席上で全員賛同した事を……」
「へぇ、その時の内容を教えてもらえますか?」
「うっ……」
俺は、産業局長とやらの足を打ち抜いた。
「どうですか?」
「ライボの開発者を呼び寄せて……監禁して従わせる……」
「あらら、バレちゃいましたね、陛下。」
「くっ……」
「さあ、どう始末をつけてくれるんですか?」
「こ、国王はこの狼藉を認めているのですか!」
「ああ、外が騒がしくなってきましたね。面倒だからドアは塞いでおきましょう。」
俺はドアの内側を石材で補強した。
「な、何だと!」
「これでも、アルケミストなんですよ。で、さっきも言いましたが、国王は俺の義理の父親ですからね。理不尽な扱いを受けたら自分の判断で行動する。その了解は得ていますよ。」
「こ、こんな真似をして、帰れると思っているのかね!」
「おっ、外でも始まりましたね。カクさん、ちょっと支援してあげてください。」
「どの程度ですか?」
「ファイアランスでいいですよ。皆殺しで。」
「了解。」
「な、何をする気だ。」
「兵士が集まってくるのを待ってたんですよ。殲滅です。」
カクさんは窓を開けて、ドン!ドン!と炎の槍を撃ちだしていく。
密集していれば、1発で30人くらい無力化できるだろう。
俺は一人ずつ窓際に連れていき、首だけ外に出して固定していった。
「な、何を……」
「こうしておけば、こっちは攻撃できないでしょ。まあ、矢とか飛んで来たら運が悪かったって事で。」
「や、ヤメロ!お前はアクマか!」
「あれっ?お前……違うな……」
「ナ、ナニヲ!」
「何だ……この感じ……外側は人間……中身は……」
「クエェー!」
男の背中が裂け、現れたのは禁書庫で見た悪魔の姿だった。
人間よりも一回り小さく、褐色の体に角・翼・牙……
「オボエテイロ!」
飛び立つ姿にハッと我に返り、スライムショットで氷矢の連射をあびせるとそれは声をあげて霧散してしまった。
残ったのは意識を失った局長たちと、同様に倒れていく兵士たちだった。
【あとがき】
第1部終了です。
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