腹ペコギャルと姉妹っぽい光景

すみません、今回も少し短めです

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 雫が家にやって来たのは、正午になる少し前のことだった。

 米が炊けるのを待ちつつ、炒めた玉ねぎに細かくカットしたトマトとスパイスを投入し、良い感じに香りが立ってきたところでインターホンが鳴った。


「悪い。今、手が離せないから姉貴か苺花どっちか代わりに出てくれ」


 すぐに苺花が反応する。


「じゃあ、いちかが出るよ!」


 言うや否や、苺花は玄関へとぱたぱたと飛んでいく。


 最初は物陰から様子を見るだけだった状態というのに、今では真っ先に出迎えに行くようになるくらい雫に懐くとは苺花も成長したな。

 感慨に浸っていれば、程なくして部屋の外から雫の弾んだ声が聞こえ、すぐ後にリビングに姿を現した。


「おじゃましまーす!」


「雫ちゃん、いらっしゃい! 今日は来てくれてありがとねー」


「いえいえ、こちらこそ呼んでくれてありがとうございます! 前からずーっとこの日が来るのをマジ楽しみにしてたんで!」 


 ソファでくつろいでいた姉貴に笑って答えれば、こちらに振り向いて感嘆の声を上げる。


「……って、おー! ガチのカレー屋さんの匂いだ! しかも調理実習の時よりも本場って感じがする! やばっ!」


「岳にい、雫お姉ちゃんが来るからって朝から頑張って作ってくれてたんだよ!」


 苺花が誇らしげに言うと、雫は俺を見て「へえ」と目を細める。


「ふーん、朝から……ね。なるほどなるほど、そうだったんだ〜」


 ——苺花、それは伏せて欲しかった。

 朝からずっと準備してたのは本当なだけに。


「……まあ、約束してたからな」


 気恥ずかしさで思わず顔を逸らしながら答えれば、


「もう、素直じゃないんだから。……でも、うん。ありがとね、すおーくん!」


 見透かしたように雫は満面の笑みを浮かべてみせた。

 余計にむず痒さを覚えつつ、


「とりあえず、完成するまでもう少し時間がかかるから適当にくつろいでいてくれ」


 促すと、雫は弾んだ声で「はーい」と応えてから、背負っていたリュックをソファの近くの空いているスペースに置く。

 けれど、その足でキッチンまでやって来た。


「……え、何?」


「えへへ、料理してるすおーくんを近くで見てたくて。あとなんか手伝うことあるかなーって。なんでも言ってよ」


「特にない。というか、客人にそんなことさせられるか。あと気が散るから向こうで苺花の相手でもしててくれ」


「えー、つれないなー」


「えー、じゃない。ほら、行った行った」


 手で追い払えば、雫は唇を尖らせながらもリビングに歩いていく。

 だが、すぐに苺花を引き連れてこっちに戻って来た。


「……おい」


「いいじゃんいいじゃん。これなら苺花ちゃんとも話せるし、すおーくんが料理してるところも見れるしで一石二鳥っしょ!」


 雫はにっと白い歯を見せてから、抱えるように後ろから腕を回した苺花に向かって「ねー」と呼び掛ければ、苺花は「うん」と元気に頷いてみせた。

 けどまあ、苺花も全然嫌そうにしてないどころか、雫と触れ合えて嬉しそうだし別にいいか。


 ——俺が料理するところを見て何が面白いんだか。


 思いつつも、小さく息を吐いてから、


「……好きにしな」


 調理を再開すれば、雫と苺花は傍らで立ったまま話し出した。

 その様子を横目に調理に意識を戻し、一晩ヨーグルトに漬け込んでおいた鶏肉を投入、コンロの火を強める。

 鶏肉に火が入りスパイスの香りがより際立つと、雫の目がぱあっと輝いた。


「うわぁ、めっちゃ良い匂い! 鶏肉が入るだけこんなに変わるんだ……! あ、やばっ、元からお腹空いてたけど更にお腹空いてきちゃった……!」


「いちかもお腹ぺこぺこ〜。出来上がるの楽しみだね」


「腹減ってんなら、トッピングだけでも先につまむか? 米はまだだけど、そっちはもう全部出来てるから」


 天板に並べてあるバットに視線をやりながら訊いてみるも、


「ううん、全部出来上がってから食べる。やっぱカレーと一緒に食べたいし」


「雫お姉ちゃんが食べないなら、いちかも我慢する」


 雫も苺花もすぐに揃って頭を振って答えた。


 あまりにも動きがシンクロしていて、なんか姉貴よりも仲良し姉妹って感じだ。

 見た目は全然似てないけどな。


「……分かった。じゃあ、なるべく早く完成させるとするよ」


 そして、姉貴は何故か満足げに頷きながら二人を眺めていた。


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コメントレビュー一件いただきました。

本当にありがとうございます!

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