腹ペコギャルと大きな腹の虫たち
本日2話目です
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櫛名が風呂から上がった後、俺もシャワーを浴びた。
けれど、ついさっきまで櫛名がここを使っていたせいか、妙に落ち着かなくなってすぐに浴室を出た。
洗濯機は既に回っていて、乾燥込みで運転が終わるまではまだまだ時間がかかりそうだった。
リビングに戻れば、櫛名と姉貴たちがL字型のソファに三人仲良く並んで座って談笑していた。
「ねえねえ、雫ちゃん。学校での岳ってどんな感じ?」
「うーん……いつも一人ですね。話しかけられたら意外とちゃんと答えるんですけど、自分からは全くって感じで。お昼食べる時なんか非常階段で食べてますし」
「うわー、やっぱりか。まあそうだろうなーとは思ってたけど。あいつ、昔から人に興味ない上に協調性ゼロだから。それこそ小学生の時なんか——」
「勝手に人の過去暴露しようとするんじゃねえよ」
完全に打ち解けていることには安堵しつつ、話に割り込めば、姉貴は何食わぬ顔で片手を上げる。
「あれ、早かったじゃん」
「客人がいるのにゆっくり入ってられないだろ」
——本当はただ居た堪れなかっただけなんだけど。
内心で呟きつつ俺は、キッチンに向かい冷蔵庫から麦茶を取り出すついでに冷蔵庫の中身を確認する。
「今、何があったかな……」
外を見れば、雨は上がり空は茜色に染まりつつある。
夕飯の時間にはまだ早い気がするが……まあ、いいか。
今日は昼から何も食ってないせいで超絶空腹だし、そもそも飯作るの俺だし。
「苺花、これから飯作るけど何か食いたいものとかあるかー?」
「んー……あっ、オムライス食べたい!」
「了解、オムライスな」
「ちょっと、私の意見は?」
「飯抜きの人の意見聞いてどうすんだ」
「酷っ! まだ続いてんの!?」
「当たり前だろ」
あと二、三日は作る気ねえからな。
卵があることを確認してから、もう一度三人の方に顔をだす。
「櫛名も食っていくよな?」
「えっ、アタシ!? いやいや、流石に悪いって! お風呂を借りれただけで十分なのに、そこまでされたら申し訳なさすぎるし!」
慌てて両手を振る櫛名。
遠慮する気持ちも分かるが、こちらとしてもそうはいかない。
「客人がいるのに俺らだけ飯食うわけにはいかないだろ」
「大丈夫、大丈夫! アタシが帰ってからゆっくり食べてよ」
「それまで俺が我慢できねえ。結構、ガチめに腹減ってるもんでな」
理由は単純、ただただ俺の我儘だ。
俺の都合で櫛名にも作った飯を食ってもらいたいだけだ。
それに……同じ大食いだからなんとなく分かる。
「だったらさ、アタシにお構いなく食べ——」
言おうとした時だ。
櫛名の腹から盛大な空腹音が鳴った。
それなりに離れたここからでも聞こえくるくらい大きいのがバッチリと。
「〜〜〜っ!!!」
途端、櫛名が声にもならない悲鳴を上げて悶え始めた。
ソファの上で小さく蹲り、スウェットに思い切り顔を埋めている。
「ほら、だから言った——」
示し合わせたかのように、ぐう〜、と唐突に部屋中に聞こえる空腹音。
櫛名のを上回る音の大きさ。今度は俺が腹の虫を鳴らした番だった。
一瞬の沈黙が流れる。
直後、櫛名が勢いよく俺に振り向いた。
ぱちくりと目を何度か瞬かせて、ぷっと吹き出すと、すぐさま声を立てて大笑いし始めた。
「アハハ! すおーくんもお腹鳴ってるのウケる! そんなにお腹空いてたんだ」
なるほど……これは中々に恥ずいな。
櫛名がああなったのも今なら頷ける。
——なんでこうなってんのかは、上手く言葉にはできないんだけど。
「……そりゃ、朝にちょっと食ってそれっきりだからな。おかげで今かなりガチめに腹減ってる」
「限界来てんじゃん! ……って、それを言ったらアタシもなんだけど」
今日はまだ何も食べてないし。
笑いながら付け加えると、苺花が心配そうに櫛名を覗き込んだ。
「え、雫お姉ちゃん、まだご飯食べてないの?」
「う、うん……そうだけど」
「ちゃんと食べなきゃ、体によくないよ……?」
純粋に櫛名の身を案じての発言と眼差しだった。
だからこそ櫛名もこれ以上は断ることができなかったようだ。
「ぐぐ……それじゃあ、よろしくお願いします……!!」
どうやら苺花の純真さは櫛名にも有効するらしい。
「ああ、任せておけ」
腕によりをかけて作るとしよう。
そう意気込み、冷蔵庫から使う食材を取り出した。
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