腹ペコギャルと爆盛りカレー

 とんかつ&ハンバーグ&唐揚げ&ソーセージ&シーフードミックス&スクランブルエッグ&焼き野菜セット&ほうれん草&焼きチーズ乗せDXデラックスチキンスパイスカレー。


 子供が悪ふざけで考えたかのようなバカみたいな量のトッピングが乗った爆盛りカレーが雫と俺の目の前にそれぞれ並んでいる。

 それを目の当たりにした姉貴は、ちょっとだけ引き攣った笑みを浮かべた。


「うわあ、こうして二人のを見ると圧巻だわ……」


 重量はカレーライス単体で三キロ弱、トッピングも合わせたら四キロ程度といったところか。

 とはいえ、これくらいであれば雫なら余裕を持って完食できるだろう。


「凄いですよね! ホント、ガチ美味しそう……!」


 雫はうっとりとした眼差しで改めて皿を眺める。


「すおーくん、わざわざサフランライスにしてくれたんだ」


「調理実習で作ったのと同じものって言ってただろ。だったらライスも同じやつにするべきだと思ってな。つっても、初挑戦だから上手くできたかは微妙だけど」


 大量に炊いたから味もちょっと変わってるかもしれないしな。


「……まあ、何にせよだ。冷めないうちに食ってくれ」


「うん! それじゃあ——いただきます」


 雫がきちんと両手を合わせて言えば、


「いただきます」


 対面に座る苺花も雫に倣って両手を合わせる。

 元から行儀の良い子ではあったが、雫と一緒に食事にするようになってから更に良くなっていた。


 なんというかちょっとした所作に品が滲み出るようになった感じがする。

 多分、意識してやってるとかはないんだろうけど、それでも良い影響を受けてくれているみたいで何よりだ。


「ん〜! やば、マジ美味しすぎてえぐいんだけど! スパイスの良い香りが口の中でぶわーって広がってやばいし! サフランライスもとてもよき! てか、調理実習の時よりも更に美味しくなってない?」


「そうか? なら、単純にスパイスが良いやつに変わったからだろ。あと一度作ったおかげで大体の感覚は掴めてるってのもあるかもな」


「うわー、久しぶりに出たよ、すおーくんの天才発言。ナチュラルに料理できる人はみーんなそう言うんだから……! なんだかんだサフランライスもバッチリ味決まっちゃってるし」


 言って、雫はじっと俺を睨んでくる。

 ……が、もう一口カレーを口に運べば、ころりといつもの笑顔に戻った。


 ——本当、作り手冥利に尽きるような良い反応をしてくれる。


 思っていれば、雫は苺花に顔を向けて訊ねる。


「苺花ちゃん的にはどう? すおーくんのカレー美味しいくない?」


「うん、とってもおいしい! いつもと違うけど、このカレーも好き!」


「どっちの口に合って良かった」


 幸せそうに笑う二人を見て、俺もつい笑みが溢れる。

 辛いのがあまり得意ではない苺花の皿には、味を壊さない程度に蜂蜜とすりおろした林檎を加えて甘さを足してみたが、この様子だとどうやら上手くいったみたいだ。


 まあ、万人向けに調合されていたはずだから、元から食べやすい味にはなっているんだけど。

 黙々と食べ進める姉貴を横目に密かに安堵しつつ俺もカレーを食してみる。


「……っし」


 心の中で小さくガッツポーズを決める。


 サフランライスと合わせて食べることで、よりスパイスの香りを堪能できる。

 ルー単体を味見した時はそこまで実感がなかったが、確かに雫の言う通り調理実習で作ったものよりも美味いかもしれない。


 ——ただ、個人的にはもっと辛さがあってもいいかもな。


 なんて考えつつ、大量に乗っかったトッピングにもスプーンを伸ばしてみる。


 まずはハンバーグから。

 前は鈴木が色々やらかして小籠包並みに肉汁たっぷりのハンバーグになってしまったので——とはいえ、あれはあれで悪くなかった——今回は逆につなぎを少なめにして、肉肉しさを全面に押し出してみた。


「……うん、悪くない」


 誰に言うでもなく呟く。


 単体で食べるとなるともうちょっと柔らかさがあった方がいいが、普通のカレーよりルーがさらさらな分、肉に水分が染み込んで固さが丁度良くなる。

 しばらくルーに浸してから食べると、カレーそのものの味も肉に移ってより美味しく感じられるかもしれないな。


「ねえねえ、すおーくん! 焼きチーズとハンバーグとカレー合わせるとマジヤバいんだけど! 神超えて神だよ、この組み合わせ!」


「それただの神だろ。……でもまあ、どういたしまして。それほどまでにお褒めに預かり光栄です」


 仰々しく答えれば、


「うむ、くるしゅうない」


 雫も仰々しい態度で返してカレーを口に運ぶ。


「うん、やっぱりうま〜!」


 毎度のことではるんだけど、幸せいっぱいな表情で頬張ってくれるし、定期的に「美味しい」と言葉にしてくれるから、隣で見ているだけで温かな気持ちになる。

 じっと見ていれば、ふと姉貴が何か言いたげな視線を向けていることに気づく。


 雫ばっか見てねえでお前も食えよ、と目が訴えていた。


 ——まあ、いつまでもじろじろ見るわけにもいかないか。


 思って視線を外そうとして、それより先に雫と目が合う。

 雫がふと照れくさそうに綻ばせた瞬間——一瞬思考が飛びそうになった。


 何故かは分からないが、それくらいの破壊力が今の微笑みにはあった。


「ん、すおーくん? どしたの?」


「……いや、なんでもない」


 当然、見惚れかけたなんて言えるわけもなく、俺は羞恥を推し隠すように自身の一皿に意識を戻した。


————————————

前回に引き続きコメントレビュー一件いただきました。

本編が完結しているにも関わらず本当にありがとうございます!

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