腹ペコギャル達とプールへ

 あっという間に時は流れ、約束の日を迎えた。


 雫と二人で今回遊びに行くプールがある最寄り駅の入り口に向かえば、ギャル友達三人の姿があった。

 最初に気づいた笹本が俺らに向かって手を振ってきた。


「おーい、二人ともー! こっちこっちー!」


「うわ、アタシらが最後か。ごめーん、待ったー?」


「ううん、沙羽も梨乃亜もさっき来たばっかだから」


 笹本が笑って言うと、


「夏希は三十分前にはもう着いてたっぽいけどね〜」


 鈴木がしれっと付け加えた。

 途端、笹本は顔を赤くして彼女の両肩を掴んでぶんぶんと揺らした。


「梨乃亜ー! それ言わないでって言ったじゃんかー!」


「そうだっけ? でも、一人だけかいてる汗の量で早く来てんのバレバレだし」


 言われてみれば、他の二人と比べれば笹本だけ汗の量が違う。

 さっきまでガンガンに冷房がきいていた電車内にいたのであれば、こうはならないはずだ。


 などと考えていれば、雫がにやにやと目を細める。


「え、なになに〜? 夏希、そんなにプール楽しみにしてたわけ〜?」


「ま、まあね。みんなと遊ぶ折角の機会だし……!」


「よく言うよ。どうせ彼氏候補を見つけたいだけでしょ」


 三浦がため息混じりに指摘すると、あからさまに顔を逸らした。

 完全に図星の反応だった。


 ——ああ、マジなんだな。


 思った直後、笹本が開き直ったように言う。


「だって、あたしも雫みたいにアオハルしたいんだもん!」


「だからってやろうとしてることがプールで男漁りなのはどうかと思うよ。それに蘇芳みたいな男がそこら辺に転がってるとも思えないし」


 隣では鈴木が同調するように頷いている。

 けれど、笹本はどうしても諦めきれないようで、


「ど、どうなるかなんて行ってみなきゃ分かんないっしょ……!」


 半ば強がりのように言って、バス乗り場へと歩きだす。

 笹本を一瞥してから雫達は苦笑気味に目を合わせると、すぐにその後を追った。


 それから程なくしてバスに乗り込んで、目的のプールに行くまでの間、三浦がふと思い立ったように俺に質問してきた。


「——それにしても、蘇芳。よく女子四人に囲まれて平常心でいられるね」


「……これでもそれなりに緊張はしてるぞ」


 顔には出てないだけで、クラスメイトと複数人で出かけるなんて初めてだし。

 それもギャル四人とか平常心を保てという方が無理な話だ。


「……全然そうは見えないんだけど」


「櫛名に誘われてから時間があったから、その間で気持ちに整理をつけただけだ」


「整理だけでどうにかなるもんなんだ……」


「一応な」


 後で雫から今日の面子を聞かされた時は頭を抱えたくなった。

 まさか男が俺一人だとは微塵も思ってなかったしな。


「ん〜、あとはやっぱりあれじゃない? すおーくん、いつも美女に囲まれてるのに慣れてるから、そこらへんの耐性がついてるのかもね」


「おい、言い方」


「ほほう……美女、とな?」


 食いついてきたのは鈴木だった。

 ぐいと雫に顔を寄せて訊ねる。


「その話、詳しく聞かせてもらおうか」


「すおーくんの家族、お母さんもお姉さんも妹ちゃんもみーんなガチ綺麗で可愛いんだよね〜。見たら皆んなマジでびっくりするから」


 言って、雫はスマホを鈴木らに見せる。

 画面には母さん達と四人揃って撮った自撮りが映っていた。


 以前、雫が家に来た時に四人で撮影していたものだ。

 あれから暫くの間、うざいくらいに見せびらかしてからよく覚えている。


 画像を視認した瞬間、三人の目がかっと見開いた。


「……これ、マ?」


「わお。これは、想像以上だ……!」


「蘇芳……あんた、凄いご家族持ってんのね。三人ともマジで美人じゃん」


「……まあ、否定はしない」


 俺としてはあんまり実感が湧かないというか、少し癪なのだが、どうやら姉貴も世間一般的には美人の部類に入るらしい。

 普段いびられている弟目線からすると、素直に喜びづらいのが本音ではある。


「というか、お母さん若くない? ぱっと見、長女と次女にしか見えないんですけど」


「アタシも最初それ思った! てか、リンちゃんと初めて会った時、つい叫んじゃったよね。若っ!! って!」


 声を立てて笑う雫。

 すると、三浦がふと我に返ったようにきょとんと雫を見つめる。


「……ねえ、雫。ちょっといい?」


「ん、どうかした?」


「なんで雫、蘇芳の家族と一緒に自撮りしてんの? しかも、めっちゃ仲良さげだし……ああ、なるほど」


 途中で何か察したようで、三浦は温かい眼差しを雫に向ける。

 そこで雫も何か察したようで、一気に顔を赤くした。


 ——あー、そういうことか。


 少し遅れてその理由に見当がついた。

 ただ、理由が理由なだけになんだか気まずくなる。


「そっかそっか。なんだ、雫も頑張ってんじゃん」


「……うっさいし。すおーくんとはそんなんじゃないから」


「あ、出た。めっちゃかわいい雫、久々に見たわ〜。眼福眼福〜」


「夏希もなんなの、もう……!」


「ほうほう。照れた顔も愛い奴よのう」


「梨乃亜までなんなの! てか、いい加減にしないと三人ともアタシとすおーくんのご飯代出してもらうからね! マジ本気で食べるから!」


 雫が頬を膨らませると、三人とも顔を引き攣らせて一斉に口を噤んだ。

 大方、真面目に懐具合の心配をしたからだろう。


「もう……バカ」


 それに対して、雫は頬を紅潮させたまま小さく呟いた。


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