腹ペコギャルと水着のお披露目
それじゃあ、プールで合流ね。
更衣室の前で雫達と別れた後、以前購入した水着に着替えてラッシュガードを羽織った俺は、予め約束していた待ち合わせ場所に向かう。
「……俺が先か」
まあ、当然だろう。
男子より女子の方が着替えに手間がかかるだろうし、平日とはいえ周りは人で溢れている。
となれば、ここは気長に待つべきだろう。
ストラップ型の防水ケースに入れたスマホを弄りながら、更衣室から歩いてくる水着姿の老若男女をぼーっと眺めていれば、
「おーい、すおーくん! お待たせー!」
遠目でも一発で分かる白金色の髪が大手を振りながらこっちに近づいてきた。
瞬間——心臓がとくりと跳ね、思わず息を呑んだ。
水着姿となった雫たちが防水バッグを片手にやって来ていた。
「……おう」
ちょっとだけ視線を逸らしながら答える。
初めて水着姿の雫を目にするが、やはりというか並外れた美貌だった。
黒地のフリルビキニが、彼女の染み一つない白い肌をより際立たせている。
加えて、華奢な体型ながらも出るところは出た柔らかなラインを強調していた。
——まさか、ここまでとは。
雫の胸が大きいことは何となく分かっていた。
けれど、これほど着痩せするのは想定外だ。
正直、目のやりどころに困るというのが本音だった。
雫は早足で俺の目の前に寄ってくると、えへへ、とはにかんでくる。
「すおーくん……どう、似合ってる?」
「……あ、ああ。似合ってる」
本心からの返答ではあったのだが、俺がきょどっていたのもあって、雫が胡乱げに目を細める。
「本当に〜?」
「本当だ。……悪いな、上手く反応できなくて」
首に手を当てながら言えば、雫はじっと見つめてから小さく息をつく。
「……ま、いっか。すおーくんの塩対応はいつものことだし」
それから、にっと笑顔を浮かべて、
「ありがと! すおーくんも水着、すごく似合ってるよ!」
「……おう、サンキュー」
短く答えた時だ。
「——ねえちょっと、二人だけの世界に浸らないでくれない?」
嘆息を漏らしながら、三浦が俺らにジト目を向けていた。
傍らでは笹本がにこにこと笑い、鈴木は心なしか興味津々そうな表情を浮かべていた。
「……いや、入ってないだろ」
「ふーん……まあ、別にいいけど。それで……どう?」
「どうって、何が?」
「水着。ウチらにも感想頂戴よ」
——ああ、なるほど。
失礼にならない程度に三人を一瞥する。
三浦はブラウンで千鳥柄のワンピースタイプの水着。
笹本は鮮やかな花柄があしらわれた白い大胆なビキニ。
鈴木はダボっとしたTシャツとオレンジのエスニック柄のショートパンツタイプの水着だった。
三人とも色もデザインも異なるが、全員十分似合っている。
それに三人も雫に負けず劣らずの美人ではあるので、客観的に見ても四人が並んでいる姿はとても絵になっていた。
「いいんじゃないか。よく似合ってる」
なので、素直に思ったことを伝えれば、
「……なんか今とてつもない敗北感を感じた」
「分かるわー。蘇芳が塩反応なのは雫から聞いてたけど、ここまで塩だとねー」
「うん、ドキドキのドの字も感じないね」
三人から少なくとも褒め言葉ではないことを口々に言われる。
「……なんか、すまん」
「あー、ごめんごめん。別に蘇芳を責めてるわけじゃないんだよ。むしろ、逆に安心したというか……ねえ、梨乃亜?」
「そうだね。蘇芳が通常運転であればあるほど、梨乃亜らはほっこりできる。というわけだから蘇芳、ナイス塩対応」
言って、ぐっと親指を立てる鈴木。
……うん、全然褒められてる気がしねえ。
でもまあ、貶してるわけでもなさそうなので、これでよしとしよう。
本当に何がナイスなのかはちっとも分からないけど。
「まあ、いいや。立ち話もなんだし、そろそろ行こうぜ」
言って、俺は雫に手を差し出す。
「……と、そうだ。櫛名、それ持つぞ」
「え、いいの? サンキュー!」
笑顔で手渡された防水バッグを受け取りつつ、こっそりと周囲に視線をやる。
やはりというべきか、遠巻きに女性陣——特に抜群のプロポーションを誇る雫と笹本を中心に——を凝視する男が多い。
何なら女性連れの男もまでも惚けたように見つめている始末だった。
男である俺ですら気づけているんだ。
気にしている素振りこそ見せていないが、雫達はもっと邪な視線に勘付いているだろう。
とはいえ、俺も同じ男だ。
彼らがそうしてしまう気持ちも分からないでもないが、だとしても最低限の露払いはさせてもらう。
ただの友人関係であったとしても、近くに男が控えていることを知らしめれば、いくらかは牽制になるはずだ。
——それでもナンパしてくるやつはナンパしてきそうだけど。
できればそうならないことを願いつつ、プールサイドに移動することにした。
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