腹ペコギャルとカナヅチ

すみません、今回は短めです

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 浜辺を模したプールサイドで荷物を置くスペースを確保したところで三浦が俺らを見回して訊いてくる。


「さてと、それじゃあ何して遊ぶ? とりあえず全員の希望を聞きたいから、雫から順に言ってみて」


「フードコート! さっきチュロスのいい匂いがしてお腹すいちゃった」


「出会い探しの旅! カッコいい彼氏を見つけて一夏の恋がしたい!」


「温泉。梨乃亜、のんびり温まって寛ぎたい」


「荷物番でいい」


 まさか誰一人としてプールに関係しないことを言うとは思わなかったのだろう。

 俺らの奔放な答えを聞いた直後、三浦が頭を抱えた。


 ——うん、なんかすまん。


「……あんたら何のためにわざわざプールに来たの? アンタ達ならそう言うんじゃないかとは薄々思ってたけど」


 ため息を吐いて、三浦は俺に顔を向ける。


「というか、蘇芳に関しては遊びでも何でもないじゃん。いやまあ、助かりはするけどさ。でも、そうしてもらうために蘇芳を誘ったわけじゃないから」


 傍らでは雫もこくこくと何度も首を縦に振っている。

 それを横目に三浦は「ほら、雫も同じ意見」と続けた。


「そう言われてもな……誰かしらは荷物を見とかなきゃだろ」


「だったら、最初はウチと夏希で見とくから、蘇芳は雫とちょっと泳いできなよ」


「え、あたしも荷物番!? 梨乃亜じゃダメなの!?」


「だって、夏希は目離したら変な男に引っかかりそうだし」


「えーっ、そんなー!」


「どんまい、夏希。んじゃ、梨乃亜は温泉堪能してくるから」


 がっくしと肩を落とす笹本だが、ぶっちゃけ俺もそんな予感がしているので、三浦の判断には賛成だ。

 なんというか笹本からは、雫とは別方面での危なっかしさを感じる。


「そういう訳だから、ウチらのことは気にせず二人水入らず遊んできなよ」


「水入らずって何だよ。けどまあ……なら、お言葉に甘えて」


 ここまでされて断るのも逆に悪いしな。

 それに折角プールに来たんだ。

 水の中に入るくらいはトライしてみてもいいだろう。


 頷けば、三浦は少し申し訳なさそうに雫を見る。


「勝手に話を進めちゃったけど、雫もそれでいいよね?」


「ん〜……オッケー! チュロスは後にしようっと。それじゃあ、すおーくん、泳ぎに行こっか!」


「……おう」


「二人とも、いってら〜」


 そして、鈴木に見送られて泳ぎに向かうことにした。




 雫とやって来たのは、広々としたスタンダードなプールだ。

 アトラクション型のプールも幾つか併設されているが、まずは水に慣れようということでここを選んだ。


 目の前まで移動したところで、雫が「そういえば」と俺を見る。


「すおーくんってどれくらい泳げないの?」


「……五メートル、いかない」


 若干カタコトっぽくなりながら返せば、雫が唖然と目を丸くした。


「すおーくん……えっと、それ、マ?」


「……お恥ずかしながら。マジで身体が浮かないんだよ。それなりに改善しようとは努力はしたんだけどな」


 おかげで小学、中学と水泳の授業は散々だった。

 記録測定で何度溺れかけたことか……。

 今思い出すだけでも忌々しい記憶でしかない。


「……まあ、すおーくん、ラッシュガード着てても分かるくらい筋肉質だもんね」


 まじまじと俺を見つめてから雫は、俺が抱えている浮き輪に視線を移す。

 ここに来る途中に立ち寄ったセンターでレンタルしてきたものだ。


「でも、それがあれば大丈夫っしょ。それにいざとなればアタシが助けてあげるからさ。これでも泳ぎには自信があるから任せてよ!」


「……できれば、そうならないことを願いたいもんだけどな。というか、男子高校生にもなって泳げないから浮き輪って絵柄的にヤバくないか?」


「そう? すおーくんの場合、ギャップがあってかわいいよ」


「そういう可愛さは一切求めてねえよ……」


 なんなら恥以外の何者でもない。

 項垂れながら言えば、雫は困ったように微笑む。


「まあまあ、とにかく入ってみようよ。浮き輪でぷかぷか浮かぶだけでも楽しいと思うよ!」


「……そうだな」


 ここまで来て日和る方がもっとダサいし。

 どのみちダサくなるのならよりマシなダサさをということで、腹を括って水の中に入ることにした。

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