腹ペコギャルとグループワークのお誘い
本日3話目の更新です。
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雫と三浦をナンパから助けた日の夜、ギャル友達に俺たちの関係がバレたという旨のメッセージが雫から届いた。
どうやら三浦があの短い会話のやり取りから見抜いたとのことだ。
三浦の洞察力すげえな。
雫はそのことについて頻りにごめんと謝っていたが、振り返ってみれば俺にも落ち度はあったので気にするなと言っておいた。
事実、俺がすぐに立ち去ればこうはならなかったはずだしな。
幸い、ギャル友達三人とも俺たちのことは黙ってくれるとのことだったし、本当に黙ってくれていたので、相変わらず一人での学校生活を送っていた。
——今日までは、の文言付きだけど。
それが起こったのは、家庭科の授業。
授業が終わる間際、来週の調理実習に向けた事前説明を終えた直後だ。
「あー、そうだ。最後に調理実習のグループなんだけど、お前たちで適当に決めといて。五人一組になってればそれでいいから。んじゃまた来週、家庭科室で」
などと家庭科教師の丸尾先生が雑に言い残したことがきっかけだった。
家庭科の授業の後は昼休みということもあって、教室中の話題は誰と誰でグループを組むかの話題で持ちきりとなっていた。
(……グループワーク、か)
今回も余り物のところに入れさせてもらう形になりそうだな。
漠然とそんなことを思いつつ、いつもの非常階段に向かおうと弁当片手に席を立った時だった。
「おーい、蘇芳。ちょっといい?」
「……三浦、どうした?」
「来週の調理実習、ウチらのグループに入ってくんない?」
瞬間、教室中の男子の視線が一身に向けられたのを感じた。
嫉妬と羨望が入り混じった眼差しが全身に突き刺さる。
——うん、今すぐに逃げ出したい。
「……なんで俺?」
「ウチら、いつメンでグループ組むつもりなんだけど、それだと一人足んないし、誰も料理得意なやついないんだよね。んで、蘇芳ってラーメン屋でバイトしてるっていうじゃん」
「それで俺に入れ、と」
「そういうこと。それに調理実習といっても、男手があった方が便利なこともあるだろうしさ」
なるほどな、理屈は通ってなくもない。
まあ、俺としては別に断る理由もないのだが——、
周りに悟られぬように雫を一瞥する。
滅茶苦茶慌てふためいていた。
「ちょっ、沙羽!? なんですおーくん誘って——っ!」
「まあまあ、いいじゃんいいいじゃん」
「一人くらい料理できる人を入れとこうよ」
驚きを隠せないでいる雫を宥めるのは、いつもいるギャル友達二人。
肩まで伸びたダークブラウンの髪を緩く外はねにしているのが笹本
あの二人もよく目立つから、すぐに分かる。
——なるほど、三浦の勧誘は雫が与り知らぬことだというのはよく分かった。
「……櫛名があんなだけどいいのか?」
「あー、いいよ。夏希も梨乃亜もオッケーだから、多数決で決定的な」
民主主義の闇かよ。
「まあ、俺でいいのであれば有り難く入れさせてもらうけど……」
「オッケー! んじゃ、来週よろしく〜」
言って、三浦はひらひらと手を振って、三人の元へと戻っていった。
横目で見送ってから、俺も教室を後に——、
「なあ、蘇芳。一つ一生の頼みがあるんだけど」
「あっ、テメエ抜け駆けすんな! 蘇芳、すまん! 一生のお願い!」
「お前こそ出し抜こうとしてんじゃねえよ! ってことで、蘇芳! 後生の頼みがあるんだが——!!」
クラスの男子どもに捕まって、昼飯どころではなくなった。
「昼はホントにごめん! 沙羽のせいで色々大変だったよね?」
申し訳なさいっぱいの表情で雫に両手を合わせて頭を下げられたのは、放課後のことだった。
今日はバイトが休みだったから、いつもの非常階段で夕陽を眺めながら昼に食い損ねた弁当を食べていれば、俺の後を雫が追ってきたようだった。
「まあ、そうだけど。いいよ別に。後で三浦も謝ってもらったし。というか、雫が謝るようなことじゃないだろ」
「そうかもしれないけど……でも、アタシにも原因はあるだろうから。それですおーくん、お昼食べられなくなっちゃったし……」
か細い声で伏し目がちに言う雫。
どうしても負い目を感じてしまっているようだ。
——うーん、どうしたもんか。
確かに昼は、クラスの男子からグループ代わってくれ、とせがまれまくったことで飯どころじゃなくなったが。
……でも、存外悪いことばかりでもなかったというのも確かだ。
タッパーに詰めた弁当を食べ進めつつ、ある程度考えをまとめてから俺は言う。
「……意外と夕陽を眺めながら食う弁当も悪くないもんだな」
「へ……?」
「弁当って、どこでも食えることが醍醐味だと思ってるんだけどよ、思い返してみれば、夕焼けの中で弁当食ったことなかったんだよな。弁当って普通、昼に食うもんだし」
「……そう、だね?」
釈然としない様子で雫が小首を傾げる。
まあ、いきなり言われてもこんな反応になるだろうな。
思いつつ、俺は言葉を続ける。
「こんな経験、昼に飯を食い損なわなきゃ知ることができなかった。それに放課後もここには全然人が来ないことも知れたし、吹奏楽部の練習が良い感じのBGMになるってことも知れた」
耳を澄ませば、隣の校舎から管楽器の音色が聞こえてくる。
更に遠くに耳を澄ませば、グラウンドからバットの快音も聞き取れる。
どちらも大変な目に遭ったからこそ、体感することができたことだ。
「それに……何気に初めてだったんだよ。最後の一人になる前に、誰かにグループに誘われるの」
「……それ、マ?」
「マジ。こんな性格なもんでな。毎回最後の一人になって、どっか人数に空きができたグループに入れられるか……押し付け合いが始まるかのどっちかだったな」
まあ、ぼっちの宿命というやつだ。
冗談めかしく言えば、雫が小さく吹き出した。
「ぼっちって自分で言うなし。てか、すおーくん、その自虐ネタハマってない?」
「ハマるもなにも事実だしな。……でも、今日、ようやくそれから脱却できた」
区切って、俺は雫を見据える。
「ありがとな、雫。俺を誘ってくれて」
「へ、アタシ? なんで……すおーくんを誘ったの沙羽だよ?」
「なんでって……俺が昼に大変な目に遭った原因が雫にもあるのなら、今こうして俺が色んな経験をできたのは、雫のおかげでもあるってことだろ」
「それは……そう、なのかな?」
どこか解せなさそうに首を傾げる雫。
「そうだ。だから……まあ、そんなに気にするな」
笑って、俺は保冷バッグの中から割り箸を取り出す。
いつも予備で忍ばせてるものだ。
「そんなことより、雫もちょっと食うか?」
割り箸を雫に差し出しながら訊ねれば、
「え、いいの!? 食べる! やったー!」
雫はころっと笑顔を浮かべて受け取ると、早速タッパーに詰められたおかずをひょいと口に運ぶ。
そんな彼女を眺めながら、俺はやっぱり悪くなかったと思えた。
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