一人で食べるよりも

本格的にざまぁする前に(※作者の)息抜き回を入れさせてください

————————————


 ある程度ではあるものの、普段通りの雫に戻ってきたところで俺は、三浦から預かっていたビニール袋を手渡した。


「そういやこれ、三浦達から。これ食って元気出せってさ」


「え、なになに?」


 袋の中に入っているのは、チョコやスナック菓子といったお菓子類と栄養ゼリーにカロリーバーといった栄養補助食品だ。

 後者はもし雫が夕飯を用意する気力が無かった場合に備えて用意したものだった。


「おお、マジサンキュー! 夕ご飯何もなかったから助かった〜! 後で沙羽たちにお礼言っとかなきゃ!」


 言って、にこにこと笑う雫を見てはたと思い出す。


「……ああ、そういや雫も俺の家と似た感じなんだったか」


「似た感じって?」


「親が家を空けがちだってこと。前、一緒に弁当食った時にそんなこと言ってなかったか?」


「あー、そういえば言ったかも。てか……うん、言ったね」


 雫は自分の記憶を確かめるように何度か頷いてから、改めて家庭状況を教えてくれた。


 どうやら雫の母親は仕事の関係で世界中飛び回っていたので、長い間父親と二人暮らしが続いてたらしいが、高校入学のタイミングで父親も地方へ長期出張となってしまったらしい。

 おかげで現在は実質一人暮らしみたいな状態となっていて、通りで部屋の広さと比べていまいち生活感に欠けていたわけだ。


「……なるほどな。じゃあ、家での飯って普段どうしてたんだ?」


「んーとね、基本コンビニかスーパーの惣菜で済ませてるよ。お弁当はともかくとして、朝と夜は自炊する気力ないし。……まあ、そのお弁当も手抜きなんだけど」


 苦笑する雫に重ねて訊いてみる。


「……なら、いくらかは食材があるってことでいいんだよな?」


「まあ、ちょっとはあるけど……って、え? すおーくん、もしかして——」


 雫が目を見開く。

 まあ話の流れで大体察するよな。


「ああ、もし雫さえ良かっただけど、夕飯作らせ——」


「ぜひ!! よろしく!! お願いします!!」


 俺が言い終えるより先に雫は、深々と頭を下げて叫んだ。


「——っ! はあ……だからいきなり大声出すなっての」


「アハハ、ごめんごめん。すおーくんのご飯が食べられると思ったら、つい嬉しくなっちゃって……」


 通話では何度かこのやり取りしてたけど、直接でも普通に心臓に悪いな。

 というか、この件あと何回繰り返せば気が済むんだよ。


 天丼だとしてもいい加減くどいだろ、と内心嘆息が漏れる。


 ——でも、ようやくいつも通りの雫になってくれたか。


 込み上げる安堵で思わず笑みが溢れる。


「てか、悪いね。客人にご飯作らせようとして」


「俺がやりたいんだ。雫は気にしないでくれ。……と、そうだ。もう一つ提案というか、頼みがあるんだけど」


「ん、何?」


「その……使った材料費は払うからさ、俺も——ご相伴にあずかっていいか」


 意を決して言えば、雫は呆気に取られたように固まった。


「えっと、それって……」


「ほら、一人で食べるのも悪くはないと思うけど、たまには何人かで食卓を囲むのも悪くないと思ってな。勿論、雫さえ嫌じゃなかったらではあるんだけど——」


 いつもより早口になる俺に対して、雫は小さく頭を振った。


「……ううん、嫌じゃないよ。嫌なわけがないよ。こちらこそ、ぜひよろしくお願いします」


 今度は柔らかな声音で言うと、雫は目を細め、唇を弛ませてみせた。

 釣られるように俺も顔を綻ばせる。


「……ありがとな。じゃあ、キッチン使わせてもらうぞ」


 その前に姉貴に帰りが遅れる旨と理由を伝えて一頻り揶揄われまくった後、キッチンの設備を一通り確認し、冷蔵庫にあるものから献立を考える。

 とはいっても、米以外だと卵と玉ねぎとベーコンくらいしか好きに使えそうになかったから、作れるものは結構限られてくるけど。


 あ、でも調味料はたくさんあるな。

 しかも卓上系のやつは大量に。だったら——、


「リゾットでいいか?」


「うわっ、めっちゃオシャなやつじゃん! うん、お願いします!」


「量はどうする? 今の食欲に合わせる」


「量、か。……どうしよう」


 数秒じっくりと考え込んでから、雫は気恥ずかしそうに答える。


「じゃあ……や、山盛りで」


「了解。すぐに取り掛かる」


 雫に向かってにっと笑みを浮かべてから、俺は早速調理に入った。




 ——それから一時間ほどして。


「どうぞ」


 大皿にてんこ盛りになった白いリゾットと余った材料で作ったオニオンスープをテーブルに並べれば、雫は「おーっ!」と目を輝かせた。


「特製山盛りチーズリゾット、カルボナーラ風だ。リゾットとは別に細切れにしたベーコンをカリッカリになるまで炒めて、仕上げの際に半分は混ぜ込んで、もう半分は卵黄と一緒にトッピングにしてみた」


「すご、めっちゃ映えてる……! しかもパセリがちゃんと彩りになってる! スゴイよ、すおーくん! ガチ神ってんじゃん! てか、イタリアンもできるとかヤバすぎ!」


「ちょいちょい簡易化はしてるけどな。ま、冷めないうちに食べてくれ」


 促せば、雫はいつも通り丁寧に挨拶してから、山盛りのリゾットにスプーンを伸ばす。


「ん〜、うま〜! すおーくん、これ胡椒がきいててすっごく美味しいよ! ベーコンもうまっ! カリッカリに焼けるとこんな美味しくなるんだ!」


「口に合って何よりだ」


 幸せ満載の笑顔でリゾットをぱくぱく頬張る雫を見て、胸の奥が温かくなる。

 やっぱり雫が作った料理を食うところを見るのは楽しいと再認識させられる。


 ——それと一緒に覚悟を決める。


 遅れて俺も雫と同じくらい山盛りにしたリゾットを食べ進めながら、


「なあ、雫」


 雫に提案してみる。


「ん、なーに?」


「良かったら、今度から俺の家で夕飯食わねえか?」


「——へっ!?」


 完全に固まった。

 けれど、構わず俺は続ける。


「一人で適当に済ますくらいなら、そっちの方がいいと思って。それに雫が一緒だと姉貴も苺花も喜ぶだろうし。勿論、無理にとは言わないし、今すぐ答えを出せとも言わない。だから……ちょっと考えてみてくれないか?」


 努めて淡白に伝えれば、雫は暫く黙り込んでから、


「……うん、考えとく」


 と一言、短く答えた。


————————————

またもコメントレビュー一件いただきました。

本当にありがとうございます!

更新の励みになってます!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る