第34話 闇の大魔導士リッチィーの野望:死の支配者が目指すもの part5

リッチィーは、

先ほどの初級呪文のやり取りと鑑定の結果から、

茶髪の子の実力をほぼ見抜いたと感じていた。


ただ一つ気になるのは、

鑑定で彼女のレベルが表示されなかったことだ。

これは、この世界の住人ではない可能性が高い。


1000年前の異世界の勇者たちも、

常識外れのスキルとステータスを持っていた。

あの子も同じと考えるのが自然だろう。


「後輩ちゃん!

 リッチィーの鑑定結果みたんだよね?

 レベルってどのくらいだったの?」


「666レベルっす!

 あと魔力が18万超えてたっすよ!」


先輩は驚愕の表情を浮かべ、

リッチィーに視線を向けた。

レベルの高さに驚いたのだろう。


どうするんすか先輩!

相手が強すぎて絶望的な状況っすよ!

もう逃げるしかないっすよね!?


「リッチィー!

 私たちの世界では666って不吉な数字だよ!

 少しレベル上げたほうがいいと思うな!」


「そっちっすか!?

 ステータスの中身より数字の

 666が気になるんすかぁ!?」


そもそも666という数字の意味って

確か、悪魔の数字、災いを呼ぶとか、

あとは神に背く者とかそんな意味があったっす。


「それに私にはレベルがないのに

 リッチィーだけレベルが

 高いのずるいよ!」


「あのね鑑定で見れるレベルとは

 倒した相手の魂を吸収することで得られる

 エネルギーの貯蔵の限界値なんだよ」


魂が存在するのが、

当たり前のように話しているっすけど、

え?魂って本当に存在するんっすか!?


リッチィーは一瞬考え込んだ後、

静かな口調で言った。


「君たちは違う世界から来たんじゃないかい?

 そもそも、魂を吸収する能力や

 レベルの仕組みがないかもしれないね」


「そんなぁ!

 私も魔物の魂吸収してみたいよぉ!」


「先輩何言ってんすか!?

 魂なんて吸収したら、

 絶対体に悪そうっす!お腹壊すっすよ!」


それより、リッチィーの言葉に耳を疑った。

まるで他にも異世界から来た人が、

いるような口ぶりだったからだ。


「それより、なんで私たちが

 異世界から来たって分かったんすか!?」


「鎌をかけてみただけだよ

 やっぱり違う世界から来たんだね」


リッチィーの言葉に一瞬固まった。

しまった、引っかかった――

心の中で焦りが広がる。


だが私は彼女の性格から、

話が終わるまでは攻撃してこないだろうと察し、

地面に腰を下ろして休むことにした。


「後輩ちゃん!

 魔物倒すと得られる経験値って

 自然と魂を食べてたからだったんだね」


「先輩…。今、

 ゲームの話をする時じゃないっす!」


「人間はね、レベル99が限界値なんだよ、

 まるで人間があらかじめ、

 弱い存在として作られたみたいにね


 一方、モンスターの上限は999だ。

 だから私は、怪物になることで、

 魔王と戦う力を手に入れたのさ」


彼女の言葉を聞いた瞬間、私は頭が混乱した。

レベルだの魂だの、

正直何を言っているのかピンとこなかったのだ。


だが、そんなことよりも気になるのは、

彼女の口からさらりと出た

「魔王と戦う」というとんでもないフレーズだった。


「魔王って何の話っすか?

 私にはもうあなたが魔王みたいに

 見えるっすけどぉ!?」


「あのね後輩ちゃん

 あと数週間くらいで

 人間滅ぼす魔王が来るらしいよ」


先輩は、まるでゲームのガチャで

「強い新キャラが来るよ!」

と言うようなノリで軽く説明してきた。


私はまるで目玉が飛び出しそうな表情で、

ニャンタに向き直った。


「ニャンタさんどういうことっすかぁ!?

 私たちがコッチに来たタイミングで

 魔王がくるらしいんっけど!?」


「こりゃたまげたな!

 悪いタイミングで

 やって来てしまったとは驚きだぜ」


ニャンタは、

わざとらしい驚きの声を上げたが、

どう見ても芝居がかっている。


私はすぐに気づいた。

ああ、最初からこの状況を知っていたんだ。

「嵌められたっす!」と心の中で叫んだ。


その時、リッチィーが、

鋭い視線をこちらに向け、

問いかけてきた。


「私も君たちに質問があるんだけど、

 そのツルハシ、一体どこで手に入れた?

 どうやらただの道具ではなさそうだが」


「私たちを襲ってきた骨将軍や、

 頭が7つあるヒュドラの素材とかを、

 ぜーんぶ混ぜて作ったんだ!」


あっさりと真実を暴露してしまう先輩に、

私は思わず冷や汗をかく。

骨将軍って、この人の部下だったんじゃないっすか?


「そのヒュドラというのは、

 緑色の多頭蛇のことか?

 あの子に森で出会ったのか?」


「え?リッチィー、

 あのヒュドラの知り合いだったの?」


あれ?骨将軍よりヒュドラに食いついたっすね

もしかしてヒュドラはリッチィーのペットだったんじゃ…。

モモナップルをあげて森の奥へ消えていったっすけど


「あの子は優しい性格で、

 人間を襲わず、

 静かに暮らしているはずだが?」


「たまたま出会ったんだよ。

 このツルハシには、

 ヒュドラの角とか牙を混ぜて作ったんだ。」


私はリッチィーの表情が、

険しくなるのを見逃さなかった。


「先輩、何言ってるんすか?

 それじゃまるで、私たちがヒュドラを倒して

 素材を剥ぎ取ったみたいに聞こえるっすよ!」


しかし、先輩は、まったく気にしていない様子で、

さらに衝撃的なものを取り出してきた。

そう、ツルピカ・エステポイズンである。


「リッチィー、これ見て!

 ヒュドラの毒液だよ!もっと欲しかったけど、

 あまり取れなかったんだよね」


茶髪の子が自慢げに見せてくれた毒の液体を見て

私は頭が真っ白になっていた。


なぜ解毒できているのかはわからないが、

あの毒は、あの子が自分の体に吹きかけて、

汚れを落とすためのものだった。


毒は強力で、すぐ消えてしまうが、

私がその毒に触れるとひとたまりもないので、

世話には苦労していた。


キューキューと泣きながら、

ご飯を欲しがっていた姿が思い出される。

寝ているときに噛みついてくることもあったっけ。


なるほど、そのツルハシは、

あの子の体で作ったのか。

だから魔術が反射されるわけだ。


リッチィーの目には、

怒りと悲しみが混ざり合っている。

その姿は、まるでわが子を奪われた親のようだ。


「この紫の液体を体に塗ると、

 殺菌されるっていうか

 肌がきれいになるんだよね」


「違うっすよね、先輩!

 ヒュドラと一緒にご飯を食べ…。」


私は必死に先輩をフォローしようとしたが、

リッチィーの怒声がそれをかき消した。


「お前ら、

 あの子を殺したのかぁ!」


その声には凄まじい怒りが込められており、

彼の握りしめた黄金の杖には、

ひびが入るほどの力が加わっていた。


先輩はその怒りにおびえた様子で、

しどろもどろに弁解を始める。


「違うよ!噛みついてきたり、

 尻尾で攻撃してきたから、

 仕方なかったってやつなんだよ!」


「先輩!その言い方だと誤解を…。」


私は慌てて先輩を止めようとしたが、

リッチィーの怒りは頂点に達した。

足を踏み鳴らし、その衝撃で地面に亀裂が走る。


「ゴミムシどもがぁ!

 異世界から来た連中は、

 ほんとにろくな奴がいないな!」


リッチィーの目からは、

怒りの炎があふれ出している。

その様子は、まさにわが子を殺された親そのものだ。


「この世界を汚す外来種の害虫が…。

 お前らの魂を私によこせ!

 せめてこの世界を救うための犠牲となれ!」


その言葉を終えるや否や、

リッチィーは自身に次々と強化魔術を連発した。

彼女の魔力が空間を揺さぶり始める。


「クイックスペル・アクセラレーション

 エレメンタル・コンデンセーション

 インフィニティ・フォース

 タフネス・エクシード

 シルヴァイン・ヴァイタリティ

 スピリットウェイ・フォートレス

 オーバーガード・ヴェール

 ゼノン・バリアブル

 アイアンハイド・スキン

 ミスティック・フォージ

 ディメンジョナル・アウェイクニング

 ブリッツ・オーバードライブ」


リッチィーが呪文を唱えるたびに、

その体は様々な色の光に包まれていった。


青、赤、黄色の光、緑のオーラ、

紫の異次元エネルギーが、

リッチィーの体全体に複雑に交錯する。


その姿は次第に、

妖しげな輝きを帯び、

周囲に恐ろしいほどの威圧感が立ちこめた。


「後輩ちゃん!

 聞いたこともない強化魔術が

 次々と使われてるよ!」


「ものすごい量のバフを

 かけまくってるっす!」


魔術の達人が自己強化魔術をかけると

どうなるか想像するだけで

私は恐怖で体がすくんだ。


リッチィーのステータスが気になったので

もう一度鑑定してもらうため、

プルルにお願いすることにした。


「プルルもう一度、

 鑑定お願いっす!」

「プー(わかったよぉ)」


プルルはしぶしぶスクロールに触れた瞬間、

リッチィーの最新ステータスが、

鑑定用紙に浮かび上がった。


リッチィー・ドレッドロッド・ルーシェンシュタイン


ステータス

レベル: 666/999

HP: 2500,000

MP: 1,600,000

攻撃力: 309,000

防御力: 205,000

魔力: 190,000


状態異常耐性

毒: 無効 睡眠: 無効 麻痺: 無効

即死: 無効 呪い: 無効


属性耐性

火: 90% 水: 80% 風: 80% 雷: 80%

土: 80% 氷: 80% 光: 70% 闇: 無効


スキル インフィニティ・フォース

    エターナル・フリーズ

    スカーレット・サンダーバースト

    クイックスペル・アクセラレーション


「ぎゃぁぁ!なんすかこれはぁ!

 攻撃力と防御力の数値がほぼ10倍に

 跳ね上がってるっすよぉ!」


相手が踏み込むポーズを決めた

あの構えは突きを繰り出すつもりだ


「お願いっす、

 ニャンタさん!

 先輩を助けてっす!」


「まあ様子を見てみようぜ

 クルミがなんとかするだろ」


ニャンタがなぜか余裕の表情で

横に寝っ転がりながら観戦しはじめた

え?なんでそんなに余裕なんすか?


「まずは茶髪の君からだ

 さようなら」


先輩はただ、立ち尽くしていた。

きっと、恐怖で動けずにいるのだろう。


「先輩ぃ!

 逃げろっすぅ」


「違うよ!誤解だよリッチィー

 攻撃するのは止めてよ!」


そして、リッチィーは、

先輩の目の前に瞬時に移動した。


ドラゴンとデーモンの力を持つ、

合成した手を固く握りしめ、

一撃必殺とも呼べるパンチを繰り出した。


魔術師が自ら魔術を捨て、

肉体強化で接近戦を挑んできたのだ。


「うわぁ!リッチィー、

 ひどいよ!

 攻撃しないでよ!」


先輩は叫ぶが、

ツルハシでリッチィーのフルパワーの一撃を、

あっさりと受け止めていた。


「なんだと!?

 どうしてこの攻撃を防げるんだ?」


次の瞬間、

音速を超えるパンチのラッシュが襲いかかる。


しかし先輩は膝を曲げてかわしたり、

ツルハシで防御したりして、

軽々とステップを踏み攻撃に対応していく。


身長2メートルの巨体から、

繰り出される連続パンチを、

まるで見切っているかのようだった。


普通なら恐怖で身動きが取れないと思うのだが

先輩にはそんな様子は微塵も見られなかった。


「すばしっこい奴だな、

 ちょこまか動くなぁ!」


先輩は、攻撃を防ぐたびに発生する風圧で、

白い上着が徐々に裂けていくのを感じていた。


リッチィーは格闘による攻撃が当たらないので、

先輩の精神を揺さぶることで、

隙を作る作戦に切り替えた。


「お前の鑑定結果では防御力2万だったな。

 一発でも攻撃が当たれば、

 お前の命は終わるぞ?」


「服が、服が破れちゃうよぉ!」


自動修復が働いているものの、

一発でも直撃すれば、

服が消滅してしまうだろう。


先輩が気にしているのは、

自分のダメージではなく、

服が破れることだった。


リッチィーは攻撃しながら、

信じられない気持ちで先輩を見つめた。


鑑定結果では、スキルの記述はなかった。

避けれる理由は未知のスキルを発動させているか

目がいいか素早いかのどれかだろう。


「これならどうだ!」


リッチィーは鋭い回し蹴りを繰り出す。

ここにきて蹴りを解禁したのだ

初見殺しとも呼べる威力の蹴りが先輩に迫る。


だがしかし、

先輩は素早くローリングで回避し、

相手の背後に回り込む。


先輩は息をつくが、

追撃のバックブローがすかさず迫る。

しかし、それもツルハシでガード。

重い衝撃音が響き渡った。


「危なかったぁ!」


「先輩、大丈夫っすか!?

 もう何が起こってるのか

 私には見えないっすよ!」


そして、先輩は、

一息つきたいといわんばかりに

リッチィーから距離を取った。


「うん!なんとか攻撃は避けてるよ!」


あれ?先輩、意外と余裕あるっすね…。

ステータスの差を考えたら、

絶望的なはずなのに?


「強化魔術で速度も上げてるのに、

 なぜ攻撃を避けられるんだ!?」


「ふっふっふ!リッチィー!

 私には攻撃は当たらないよ。

 なぜなら…。」


さっきのリッチィーの脅しは、

先輩にはまったく効果がなかった。

それどころか、不気味な笑いに不安を覚える。


「私はアクション映画や格闘アニメで

 武術を見て学んだんだ!

 だからどんな攻撃も回避できちゃうもんね!」


「いや、先輩!

 それ武術でどうにかできる

 次元の攻撃じゃないっすよぉ!」


私はツッコミを入れたが、

先輩は満足げに笑っていた。


そもそも、武術や格闘技というのは、

弱者が強者に勝つために、

編み出されたものだ。


リッチィーのように

圧倒的な力を持つ存在にとって、

武術とは不要なものだった。


これまでの攻撃は、

ただ力任せに殴っていただけ。

それだけで十分に敵を打ち砕けるはずだった。


だが、先輩はそれを次々とかわしている。

攻撃力50万を超える一撃など、

普通なら避けられるはずがない。


この状況は、

明らかに常軌を逸していた。


「仕方ない、

 アレを使うしかないか」


「先輩、気をつけてっす!

 なんか仕掛けてくるっすよ!」


「今度はどんな攻撃見せてくれるの!?」


リッチィーは単純な接近戦では、

埒が明かないと判断し、

奥の手を使うことにした。


「いくら君でも

 これは避けれないだろう?」


再び、先輩の目の前に、高速で距離を詰め、

拳を突き出すと同時に、

なんと複数のフレアを先輩の背後に発生させたのだ、


それは、無詠唱で魔術を発動する技だった。

接近戦と同時に魔術を放つという、

チートじみた戦法だ。


魔術はノーモーションで繰り出されるため、

ほぼ回避不能。


それでも先輩のツルハシによる反射を警戒し、

今回は直線的に放つのではなく、

フレアを動きを封じ込める、罠のように配置した。


「ぎゃぁ!後ろに、

 赤い球体が出てきた!」


「どうだい?

 これで逃げれないだろ?」


先輩はツルハシでフレアを叩き飛ばし、

逃げ道を作ろうとした。

しかし、その一瞬の隙をリッチィーは見逃さなかった。


素早くストーンウォールを発動し、

先輩の足元から鋭いクリスタルを生やし、

強引に先輩の体を空中に跳ね上げた。


「今度は地面から、

 クリスタルが生えてきた!」


先輩が驚きの声を上げるが、

リッチィーの動きは止まらない。


彼女のステータスを見た限り、

攻撃力は人間の限界をはるかに超えている。

初見でこれを防げたのは、ただの力技だったのだ。


しかし、無詠唱で放たれるストーンウォールは、

さすがに回避は難しいだろう?


「隙だらけだよ?」


リッチィーは不敵な笑みを浮かべた。

あの厄介なツルハシさえ壊せば、

自分の勝利は確実だ。


武器の破壊に全力を注ぐと決めた。

空中で動けない先輩に向かって、

リッチィーは全力の正拳突きを放ったのだ。


「ツルハシで防がなきゃ

 服がもうもたないよぉ!」


先輩の動きのパターンを読み、

不利な体勢でもツルハシで、

ガードしてくるだろうと予想していた。


その予想通り、

先輩はツルハシを盾にして防御した。


そして、リッチィーの拳の一撃で、

ツルハシは粉々に砕け散り、

そのまま彼女の拳は先輩のお腹に直撃。


「ぎゃぁぁ!」


先輩の体は、

数十メートル先へと吹き飛ばされ、

頭から壁に激しく激突した。


壁が破壊さらた衝撃で、砂煙が舞う、

リッチィーは追撃の手を緩めず、

すぐにサンダーボルトを複数発生させる。


だが、今回は普通の雷ではない。


複数の魔方陣が瞬時に展開され、

手から放たれた赤い雷が巨大な光線となり、

壁に叩きつけられた先輩に襲いかかる。


(スカーレット・サンダーバースト)


リッチィーはわずか数秒で最上級魔術を発動させた。

複数の詠唱を一瞬でこなす、

魔術技術による高速無詠唱であった。


赤い雷の光線が、雷鳴のような音を立てて、

先輩が叩きつけられた壁を、

一直線に撃ち抜き続けている。


壁は瞬く間に炎に包まれ、

跡形もなく、崩れ去っていった。


「先輩ぃぃ!」


私の声はただむなしく響くだけだった。

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