第7話 危険度SSS!? 猛毒の多頭蛇ヴァルガルム!先輩と暁の幻影団 part2
先輩の真剣な表情をしている、
視界には何も見えないが、
何かが存在していると感じざるを得なかった。
「先輩、そいつは
どんな姿してるんすか?」
私は震える声で問いかけた。
「透明だから分かんないけど
人間に見える気がする」
「先輩!
人間じゃなかったら
どうするんっすかぁ!」
黒装束の3人組は、
私たちのやり取りを興味深そうに見ていた。
こいつら先輩の言うこと信じてないっすね?
私は急いで、
近くに転がっていた長い枝を手に取り、
見えない敵に向かって振り回してみた。
「ここにいるんっすか?
当たんないっすよ!」
「あっ避けた!もっと右だよ!」
枝は空を切るばかりだった。
茂みが踏まれた形跡もなく、
動いた気配もない。
「先輩には
一体何が見えてるんっすか!?
私には何も見えないっすよ」
「でもそこに何かいるんだよ?」
パニックになりかけている私に、
ニャンタが背後から、
冷静な声で話しかけてきた。
「見えない敵をあぶり出す方法がある。
ほらこれだ、この粉末を撒き散らせば
透明な奴も姿を現すぞ」
「なんすか?この白い粉、
けっこう固まってるっすね
はっ!これは、もしかして」
私はすぐにその白い粉末を受け取った。
白くて細かい粉が手の平にさらさらと流れ込む。
手触りは柔らかく、粉雪のように軽い。
「そう、片栗粉だ」
「なんでニャンタさん、
片栗粉持ってんすか?」
疑問を隠せずに尋ねた。
「片栗粉持ってる理由?
透明なやつに粉吹きかけるためだ!
これが一番てっとり早いんだよ!」
「片栗粉で透明を暴くのは、
分かったっすけど
なんか食材の無駄遣いな気がするっす」
それにしても、ニャンタさん、
いつもどこから、
道具を出してくるんすか?
気がついたら何か手に持ってて、
魔道具といい片栗粉といい、
さっと渡してくれるんですけど?
「食べ物の無駄遣いっていうがな!
お前らが幽霊に塩撒くのと同じだ
ほれ、袋ごとやるからさっさと撒いてみろ!」
「後輩ちゃん、
透明な人が移動したよ
今はこっちにいる!」
「あいつの視線の先を狙え」
私はニャンタから片栗粉の袋を受け取り、
先輩の視線を確認して、
振り返りざまに片栗粉を盛大に空中にぶちまけた。
「どりゃぁぁ!
片栗粉スプラッシュュ!」
片栗粉スプラッシュとは、
後輩ちゃんが透明な存在を暴くために、
片栗粉の袋を全力で空中に撒き散らすという、
異世界で閃いたユニークスキルである。
袋ごと高く投げて、粉を広範囲に撒くことで、
透明な相手に粉が付着し、
その姿が現れる仕組みだ。
厄介な透明な敵には、
日常的なアイテムである片栗粉が一番。
安いし、使いやすいし、コスパ最高なのだ。
「見えたぁぁ!
ガチでいたっすぅ!」
先輩?信じてたっすけど、
本当にそこに何かいるとは…。
輪郭が徐々に現れ、ついに姿を現す。
透明な存在が真っ白な粉を浴びると、
目がない化け物のようにみえた。
私は恐怖で声を上げた
「先輩、人間じゃなくて
化け物だったっすぅ!」
「おい?カイン?お前の姿見えてるぞ?」
「団長?スキル解除したの?」
「団長の体、真っ白になってるわよ?」
一人が驚きの声を上げた。
別の一人が不思議そうに尋ねる。
「ん?お前ら俺の姿見えてるのか?」
粉まみれの男、
カインが困惑した声を上げた。
どうやら黒装束の3人組のリーダーらしい。
彼の黒を基調とした軽装備のコート、
無造作なダークグレーの髪が、
冒険者としての自由な性格を象徴している。
だが、気温は暖かいのに、
黒いスカーフを首に巻き、
黒い手袋とブーツを履いていた。
「どんだけ黒好きなんすかね?」
「誰がどう見ても
中二病スタイルだよね
でも似合ってるよ!」
実はカインはスキルを同時させていた。
姿を消す「ヴェールナイト」、
音や痕跡を消す「ナイトステップ」である。
だが奇妙なことに、
片栗粉でスキルが破られる前から、
茶髪の子には見えていたようだった。
カインが片栗粉まみれになっているのを見て、
黒装束の仲間たちは笑い出した。
彼は無表情のまま、黙って片栗粉を払い落とす。
「違う違う、ごめんよ
脅かすつもりはなかったんだ」
カインという男は穏やかな口調で話し始めた。
彼のコミカルな動作と冷静な態度に、
私は少しずつ警戒を解いていった。
「俺たちは冒険者で
Aランクユニオン暁の幻影団だ」
俺はリーダーの
カイン・ナイトレイ!
その証拠を見せてあげよう」
ユニオンとは、
冒険者たちが5人以上の集団で組織され、
活動するための共同体や団体である。
冒険者として生きていくには、
個人で依頼を達成する孤独な道を選ぶか、
ユニオンという集団に所属して活動するかを選ぶ必要がある。
ランクが高いユニオンに所属することで、
冒険者たちは信用と仕事を得られ、
活動の幅を広げることができるのだ。
カインは、真っ白な体のまま
プラチナ製のカードを見せてくれた。
「発行場所:自由都市エスペランサ」と書かれていた。
「君たちが魔族か魔物の類だと思って
警戒して声をかけたんだ。
でも、誤解だったようだね」
「冗談で魔族かと質問したら
あまりにも挙動が怪しかったから、
びっくりしたぜ?」
「私は殺されるかと思って
怖かったっす!
謝罪を要求するっすよ!」
それは、ニャンタが怒って
あなた達を八つ裂きにしかねなかったという、
二重の意味での抗議だった。
「リっリアル冒険者だぁぁ
ねぇ、Aランクってどのくらい凄いの?
Sランクとかもあるの?」
先輩は興味津々で、
Aランクユニオン『暁の幻影団』が
どれほどすごいのか気になっている様子だった。
「Aランクはけっこう凄いんだよ、
たくさんの危険な任務をこなし、
ギルドから高い評価を得なきゃならないからね」
カインは少し笑いながら答えた。
「Aランクの認定を受けるのはすごいんだぜ。
今のところ、20のユニオンしか
認められていないからな」
「まあ冒険者といっても
色んなタイプがいるのよね
私たちは要人の護衛がメインかしら」
「大型モンスターの討伐は
私たちには無理よね」
私はふと疑問に思った事を口にした。
「そんな凄い冒険者が
森の中で何をしてたんすか?」
Aランク冒険者が、
遊びで森にいるとは思えなかった。
きっと危険な任務をしているはずだ。
「俺たちは、
大規模調査中に紛失した
オリハルコンの箱を探しているんだ
依頼によると、
遺跡から発見された
アーティファクトが入っているらしい」
だが、カインは困った表情を浮かべ、
焦燥が入り混じった声で答えた。
「でも、昨夜仲間の一人が魔物に襲われて
行方不明になってしまった。残念だけど、
生きている可能性は低い…」
彼の言葉には、
深い悲しみがこもっていた。
「私たちは彼女の安否を確認して、
箱を回収するために戻ってきたの
この辺りで奇妙な箱を見かけなかった?」
「私たちは見てないっすね、
ねっ先輩!」
俺が即座に答えたが、
先輩の額には冷や汗が滲んでいた。
私は不思議に思い、先輩に尋ねた。
「もしかして先輩、
箱のありかを知って…」
「プルル?私は知らないよ!」
先輩は慌てて手を振り、
声を震わせて答えた。
え?プルルがどうかしたんすか?
「それよりも!
襲ってきた魔物って
どんなモンスターなの?」
急に話題を変えようとするように、
大きな声で続けた。
「暗くてよく見えなかったけど、
あれって調査記録にあった
多頭蛇ドラゴンじゃない?」
「襲ってはこなかったけど、
この先に行くなって警告されたみたいで、
調査を中断するしかなかったんだって」
暁の幻影団は、
前回の大規模調査で記録に残っていた
魔物かもしれないと話し合っていた。
「最初の発見者の飼い犬がヴァルって名前で、
森を封鎖するからガルム。
それでヴァルガルムって呼ばれてるらしいよ」
「強力な毒を吐くって話だし、
出会ったら戦わず逃げるしかないな」
なんか神話に出てくる、
ヒュドラみたいに、
猛毒を持ってるんすね。
それに、ガルムは北欧神話の冥界の番犬で、
「守護者」や「試練を与える者」
みたいな意味があったはずっす。
「先輩!魔物の特徴を聞くに、
ヴァルガルムはギリシャ神話にでてくる
ヒュドラのような魔物みたいっすね」
先輩は魔物の説明に耳を傾けていたが、
どこか落ち着かない様子だった。
「知ってる!知ってる!
ヤマタノオロチの
親戚みたいなやつだよね?」
いや、全然違うっすよ?
先輩、なんか様子がおかしいっすね。
何か隠してる…私の直感がそう言っている。
先輩を見つめていたその時、
モモナップルの木の方から突然、
けたたましい鳴き声が響いた。
「ギシャアア!
ガルルルル...
ギィィィィ!」
全員が緊張し、動きが止まる。
鳴き音は次第に大きくなり、
こちらに近づいてくるのが分かった。
「あの鳴き声は、
ヴァルガルムじゃないか?」
「どうしてこっちに来てるのよ!?」
どうやら、今噂してたヤバい魔物が、
こっちに向かって来てるみたいっす。
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