第6話 危険度SSS!? 猛毒の多頭蛇ヴァルガルム!先輩と暁の幻影団 part1

3人の黒装束の連中に取り囲まれている。

プルルは私のローブに透明化して張り付いて、

ニャンタさんは地面に寝そべって欠伸をしている。


先輩と私は、突然のことで身動きが取れずに硬直していた。

そういえばあの人たち、

お前たち魔族か?とか言ってたっす!


そもそも魔族って、見た目が怖いっすよね?

巨大な翼を持つデーモン、

赤く光る目を持つ吸血鬼とかっす!


よくある小説とかでは、

魔族は純粋な悪意と残虐性を持ってて。

快楽のために破壊と苦痛をもたらし、人々を襲う存在。


魔族のリーダーは魔王と呼ばれ、

人間を滅ぼしたり、奴隷にしたりして

世界征服したりするイメージっす!


私たちは、森でバーベキューしてただけっすよ?

なんで私たちを魔族だと思ってるんっすかね?


まあ森は危険?だとしても!

女の子二人、猫が一匹、スライム一体、

疑わしい点は、あるといえばあるっすけど!


まあ、黒ずくめの3人組が、すぐに攻撃してこないってことは、

私達が、人間かどうか半信半疑ということっす!

私はどう受け答えするか頭をフル回転して考えていた。


どうしたものか、いい答えが浮かばない。

様々な考えが頭を駆け巡ったが、実際には、

相手の質問から、まだ3秒しか経過していなかった。


私はこの現象の事を、

【タイムコンプレッション】と呼んでいる。

中二病じゃないっすけど、響きがかっこいいっすよね?


人間は危機的状況に陥ったとき、思考が高速で巡り、

実際には数秒しか経過していない現象である。

極度の緊張やストレス下でのみ脳は高速処理できるのだ。


そんな状況で、

いきなり先輩が、

驚愕の表情で叫んだ。


「後輩ちゃん!大変だぁぁ!

 人間だぁぁ

 人間がいるよぉ!」


先輩は異世界に来てから、

初めて人間と出会ったことで、喜びのあまり叫んだのだ。

まるで初めて宇宙人に遭遇したかのように興奮していた。


だが、黒装束の3人組からすれば

まるで私達が魔族か何かで、

人間を見て驚いているかのように聞こえただろう。


「!???」


3人とも先輩の声を聞いたとたん、

驚いたように一歩後ろに下がった。

まるで予想外の回答が返ってきたような反応だ。


「うぉぉぉい!

 タイミングが悪すぎっす

 魔族だと勘違いされちゃうじゃないっすか!」


彼らは疑いの目から魔物を見る目に変化していた。

というか日本語が通じるんっすね


だけど今の先輩の発言のせいで、

完全に怪しまれたっす!

もう私達は、人外として見られてるっすよぉ!


「いや違うっすよね先輩?こんな森の中で、

 私たち以外にも

 人間がいたの間違いっすよね?」


人間ではないと、勘違いされてはヤバいっす!

先輩、私がカバーしてあげたっすよ?


「それより後輩ちゃん!

 今、魔族って聞こえたよね!

 なんで私達が魔族だと思ったの!?違うよ!」


先輩、その無駄に驚いた顔、止めろっす!

ガチで誤解されるっす!

そしてなんで挙動不審なんすか!


「先輩、ちょっと落ちついてっす」


私は小声で伝えた。

すると先輩は我に返ったように、

男のほうを向き、口を大きく開いた。


「あ、あの、人間さんたち、

 安心してください。

 私たちも普通の人間です!」


先輩は異世界の人々と同じような人間です!

と言いたかったのだが、その言動はまるで

自分たちが人外であるかのように聞こえてしまっていた。


「先輩、それじゃ余計に怪しいっす…」


私は手のひらで顔を覆った。

そう、先輩はメチャクチャ緊張していたのである。


先輩の頭の中は異世界の冒険への憧れでいっぱいだ。

魔族というキーワードを聞いて、

驚愕の表情を浮かべた後、テンション高めに答えていた。


先輩?これじゃまるで、私達が魔族で、

正体を言い当てられて焦ってる風に見えるっすよ?


先輩の言動によって、

予想通りに三人組の疑念を深めた結果となった。


「仮に人間だったとして

 どうやって、この森の奥まで来れたんだ?

 俺の疑問はただそれだけだ」


「ニャンタに連れてきてもらいました!」


先輩が明るい声で答えた。

そして、寝っ転がっていた

ニャンタさんを捕まえて、3人に紹介していた。


「おい!炊飯器

 困ってるようなら、

 こいつら八つ裂きにしてやるぞ?」

「それは止めてっす!」


この状況が長引けば、彼らの命が危ない。

私は深くため息をつき、

リーダーっぽい男のほうに向き直った。


「いや、あの…私たちはただの冒険者っす!

 少し休憩していただけっすよ!」

「あなた達、なんでこんな森で安全に休憩できるの?」


「普通は安全に休憩できると思わないわよ?

 最初に見かけた時は、

 魔物が人間に化けてると思ったわ」


この森で焼き肉をしているのが

異常な光景であるかのように、二人の女性が話した。

この人達、この森を恐れているように感じるっす。


「この森では危険な生物が多い。

 お前たちが本当にただの冒険者なら

 このような無謀な行為はしないはずだがな?」


何とか誤解を解こうとした。

慌てて弁解したつもりだったが、

なぜか相手の疑いは深まったように感じた。


「お前たちには怪しい点がいくつかある」


彼は厳しい声で言い、地面を見回す。


「なぜ食べてはいけない果物ランキング一位、

 猛毒のサタニックの実を食べて無事なんだ?

 一口噛んだだけで、死んであの世に行くはずだ!」


さらに、杖を持った二人が一歩前に出て、

心配そうな声で話しかけてきた。


「あなた達、子供のころに

 甘い匂いに誘われて魂を奪われる

 悪魔の実の話とか聞かされてなかったの?」


「悪魔の実は食べたらダメって教えられるでしょ!

 本当に食べたの?大丈夫なの!?」


黒ずくめの3人組のうち二人は女性だった。

彼女達は大剣を構えた男と共にこちらを見つめていたが、

その目には心配の色が浮かんでいた。


あれ?もしかしてこの人達、

私たちの事を心配してくれてる?


「えっ、モモナップルは美味しかったよ?

 食べたことないの?

 可哀そうに」


先輩が煽るように言った。

やめろっす!剣や杖を向けられてんすよ?

なんでそんな挑発的なんすか?


「それに、この毛皮はスカーレッドスクワロルだろ?

 そいつらも食べたのか?」


「全身の血を抜いてから焼いたんだよ!

 鳥リスは果汁を垂らして食べると

 もっと美味しくなるんだよ?オススメだよ?」


黒装束の3人組は驚愕の表情を浮かべた。

彼らにとっては、

毒に毒を塗って食べているようなものだったのだ。


モモナップルとは。

虫や生物もよりつかない死の果物である。


見た目は美しく、誘われるような香りを放つ、

甘い香りが充満し、美味しそうだと感じるが、

その魅力に騙されて手を出せば毒で死んでしまう。


唯一、モモナップルを食べても平気な生物がいるとすれば

同じく猛毒を宿すスカーレッド・スクワロルであった。

奴らの爪や牙にも致死性の毒が含まれているのだ。


彼らは森の生物の中では弱い部類に入るが、

群れることで生き延びる確率を上げている。

集団に襲われて死んでしまう冒険者も後を絶たないのだ。


そして、モモナップルはその毒性ゆえに、

他の生物には食べられず、競争率は極めて低い、

見た目も、真っ黒で不気味だからである。


鳥リスは、果物を感知し、定期的に見回る習性を持っている。

熟したとみれば、唾液を使ってモモナップルの毒を解毒し、

安全に食べることができるのだ。


それゆえ、モモナップルの木は、その実を食べるために、

猛毒を持つ魔物をも呼び寄せることが知られている。

木に近づくことすら恐れられ、避けられるのが常識である。


悪魔の実は毒の粘膜に包み込まれており、

解毒の唾液や液体をかけなければ、

鮮やかで美味しそうな色が現れない特徴がある。


後輩ちゃんが木の根っこでゴロゴロしてても、

モモナップルに気づかなかったのは、

表面の毒の粘膜の浄化に少し時間がかかったためであった。


「金髪の子の冒険者という言葉以外は

 嘘もついてないし、敵意もない。

 魔物や魔族が化けてるわけじゃなさそうだな」


男は鋭い目つきでこちらを見ながらも、

ゆっくりと大剣の柄から手を離した。


彼は王国の騎士団時代の経験から、

腹の読み合いや、嘘を見抜く能力に長けていたのだが、

先輩の言動のせいで、もう訳が分からなくなっていた。


それを見て、残り二人も杖を下ろしてくれた。

緊張が少し緩み、周囲の空気が和らいだ。


「私達は冒険者になる為に、ここに来たんだよ

 嘘ついてないよ?」


「そうっす、嘘じゃないっす!

 自称冒険者ってやつっす!

 都合のいい勘違いしないでほしいっす」


ふと、焚火に目をやると、炎が容赦なく肉を焼いていた。

きつね色から真っ黒こげになってしまっている。

この3人による尋問が長かったせいである。


(これじゃもう食べれないっすね)


「もう君たちから敵意がないのは分かった

 人外でもなんでもいいから、

 最後に一つだけ質問がある」


先輩はその言葉を無視して

何もない空間を見つめ始めた。

その視線は鋭く、何かを捉えたように集中している。


「先輩?話してる途中で、

 そっぽ向くとか失礼っすよ」


私も先輩の視線の先を追ったが、

そこには何も見えない。

ただの空間が広がっているだけだった。


「大変だぁ!

 後輩ちゃん、見て見て、

 プ〇デターみたいに透明なのがいるよぉ!」


叫びながら、何もない空間を指さした。

先輩はふざけたり冗談を言う時もあるけど、

嘘をつけない性格なのだ。


つまり、本当に何かが見えているのかもしれない。

黒装束の3人組は慌てる様子もなく佇んでいた。


「まじでそこに、何かいるんっすか?」


私は半信半疑ながらも尋ねた。


「うん!

 今、後輩ちゃんの目の前にいるよ?」

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