第6話 危険度SSS!? 猛毒の多頭蛇ヴァルガルム!先輩と暁の幻影団 part1
今現在、謎の黒装束の3人に囲まれている。
プルルはローブに透明化して張り付き、
ニャンタは地面で寝そべって欠伸をしている。
先輩と私は突然の出来事に固まってしまった。
そういえば、あの人たち
「お前たち魔族か?」と言っていた。
そもそも魔族って、
怖い見た目のはずじゃないっすか?
巨大な翼のデーモンとか、赤い目の吸血鬼とか!
よくある小説やゲームでは、
魔族は純粋な悪意と残虐性を持っていて、
快楽のために人々を襲う存在。
魔族のリーダーは魔王よばれ、
人間を滅ぼしたり、奴隷にしたりして、
世界を征服するイメージだ、
だが私たちは、
森でバーベキューしてただけだ。
なんで魔族だと思われてるのか見当もつかなかった。
そんな状況で、
いきなり先輩が、
驚愕の表情で叫んだ。
「後輩ちゃん!大変だぁぁ!
人間だぁぁ
人間がいるよぉ!」
先輩は異世界で初めて人間に会えたことで、
喜びのあまり叫んだ。
まるで宇宙人に遭遇したかのように興奮していた。
でも、黒装束の3人から見れば、
まるで私たちが魔族で、
人間を見て驚いているように聞こえたに違いない。
「!???」
3人とも先輩の声に驚いて、
一歩後ろに下がった。
予想外の反応に驚いてるみたいだ。
「うぉぉぉい!
タイミングが悪すぎっす
本当に魔族だと勘違いされちゃうじゃないっすか!」
彼らの目が疑いから
完全に「魔物を見る目」に変わっていた。
というか、日本語通じてるんすね。
今の先輩の発言のせいで、
完全に怪しまれた。
いや、もう「怪しまれた」どころではない。
私たちは確実に人外認定されているだろう。
「いや違うっすよね先輩?
こんな森の中で、私たち以外にも
人間がいたの間違いっすよね?」
こういう時こそ冷静に対応するのが大事。
私は焦りを押し隠しながら、
先輩の言葉を必死にフォローした。
できるだけ自然に、
「私たち、普通の人間ですよ?」という
空気を演出してみせた。
だが、そんな努力をものの数秒で
全て無に帰す存在がいた。
「それより後輩ちゃん
今、魔族って聞こえたよね」
先輩は無駄に大げさに驚いた顔をしながら、
私に詰め寄ってきたのだ。
(先輩、その無駄に驚いた顔やめろっす
本気で誤解されるっす
なんでそんな挙動不審なんすか!)
私は必死に「落ち着いてくださいっす」と
アイコンタクトを送る。
だが、先輩はまるで気づかず、
むしろ疑いの視線を向けられていることに焦り、
さらに悪手を打った。
「なんで私達が魔族だと思ったの!?
私たち魔族じゃないよ!!違うよ!!」
先輩は男たちに向かって猛烈に否定し始めた。
これじゃまるで私たちが魔族で、
正体を言い当てられて、
焦ってるみたいに見えるっすよ?
男たちは無言でじっとこちらを見ている。
そして、明らかに疑念が増しているのがわかった。
私は先輩の肩をポンポンと叩く。
「先輩、ちょっと落ちついてっす」
小声でそう言うと、
先輩はハッと我に返る。
深呼吸をして、
落ち着きを取り戻したかに見えた。
だが、次の瞬間、
先輩は目の前の男たちに向かって、
とんでもない一言を放った。
「あ、あの、人間さんたち、
安心してください。
私たちも普通の人間です!」
「それじゃ余計に怪しいっす…」
私は手のひらで顔を覆った。
先輩は、『魔族』という単語を聞いた瞬間の興奮と、
初めての異世界の住人との会話の緊張が合わさり、
完全に異世界ハイ状態になった。
その結果、脳内の思考回路が完全にショートし、
意味不明な自己紹介を炸裂させてしまったのだった。
案の定、
目の前の男たちはますます疑いを深め、
ついには手が剣の柄にかかる。
「仮に人間だったとして
どうやってこの森の奥まで来れたんだ?」
「ニャンタに連れてきてもらいました!」
先輩が明るい声で答える。
そして、焚き火の横で寝っ転がっていた
ニャンタを抱え上げ、
そのまま、目の前の3人に誇らしげに紹介する。
ニャンタは、
先輩に抱え上げられたまま、
目を細めてチラリと私を見た。
まるで面倒くさそうに呟く。
「おい!炊飯器
困ってるなら、
こいつら八つ裂きにしてやるぞ?」
「それは止めてっす!」
私は、全力で首を振る。
この状況が長引けば、
彼らの命が危ない。
私はリーダーっぽい男のほうに向き直った。
「いや、あの…私たちはただの冒険者っす!
少し休憩していただけっすよ!」
その瞬間、気づいた。
(……あれ? なんか
ちょっと警戒が解けてないっすか?)
ふと目を向けると、
黒装束の3人組は、
いつの間にか武器を下ろしていた。
彼らの緊張が少しほぐれ、
空気が和らいだ気がする。
(まさか、ニャンタさんを見せたおかげっすか?)
彼らの視線は、
いま先輩に抱えられているニャンタに集中していた。
「あなた達、
なぜ、この森で
安全に休憩できるの?」
「普通は安全に休憩できると思わないわよ?
最初に見かけた時は、
魔物が人間に化けてると思ったわ」
黒ずくめの3人組のうち、二人は女性で、
まるでここが恐ろしい場所であるかのように、
辺りを警戒している。
彼女たちの言葉に、
私は小さく首をかしげた。
(……そんなにヤバい森だったんすか?)
この3人の反応を見る限り、
普通の人間なら生きていられない場所で。
焼き肉をしていると聞こえる。
「この森では危険な生物が多い。
お前たちが本当にただの冒険者なら
このような無謀な行為はしないはずだがな?」
何とか誤解を解こうと、
慌てて弁解したけど、
逆に相手の疑いが深まったように感じた。
「お前たちには
怪しい点がいくつかある」
彼は厳しい声で言い、
私たちが散らかした地面を見回す。
「なぜ、食べてはいけない猛毒果物、
サタニックの実を食べて無事なんだ?
一口かじったら死ぬはずだが?」
さらに、杖を持った二人が一歩前に出て、
心配そうな声で話しかけてきた。
「あなた達、子供のころに
甘い匂いに誘われて魂を奪われる
悪魔の実の話とか聞かされてなかったの?」
「悪魔の実は絶対に、
食べちゃダメって教えられるでしょ!
本当に食べたの?大丈夫なの!?」
彼女たちは大剣を構えた男と一緒に、
こちらを見つめていたが、
その目には心配の色が浮かんでいた。
(あれ?もしかしてこの人達、
私たちの事を心配してくれてるんすか?)
「えっ、モモナップルは美味しかったよ?
食べたことないの?
可哀そうに」
先輩が煽るように言った。
やめろっす!剣や杖を向けられてんすよ?
なんでそんな挑発的なんすか?
「それに、この毛皮は
スカーレッドスクワロルだろ?
そいつらも食べたのか?」
「全身の血を抜いてから焼いたんだよ!
鳥リスは果汁を垂らして食べると
もっと美味しくなるんだよ?オススメだよ?」
黒装束の3人組は驚愕の表情を浮かべた。
彼らにとっては、毒に毒を塗って、
食べているようなものだったのだ。
モモナップルは甘い香りがするが、
触れると毒で命を落とす「死の果実」だ。
虫や動物が近寄らないほどの危険な果物である。
果実を食べられる生物がいるとすれば、
スカーレッド・スクワロルという
翼をもつ赤い猛毒リスである。
彼らの唾液には毒を解毒する力があり、
無事に食べることができるのだ。
果実は毒の粘膜に覆われ、
解毒されるまでは、
真っ黒い実である。
たとえ解毒され、鮮やかな色へと変化したとしても、
モモナップルそのものが猛毒であることに変わりはない。
決して人が口にすべき果実ではないのだ。
「金髪の子の冒険者という言葉以外は
嘘もついてないし、敵意もない。
魔物や魔族が化けてるわけじゃなさそうだな」
男は鋭い目つきでこちらを見ながらも、
ゆっくりと大剣を背中の鞘に戻した。
彼は騎士団時代の経験から、
腹の探り合いや嘘を見抜くのが得意だったが、
先輩の言動で完全に混乱していた。
「私達は冒険者だよ!!
嘘ついてないよ!!」
「そうっす、嘘じゃないっす
自称冒険者ってやつっす
都合のいい勘違いしないでほしいっす」
ふと焚火を見ると、
炎が肉を容赦なく焼いていた。
きつね色だった肉は、
今や真っ黒こげだ。
(これじゃもう食べれないっすね)
長引いた尋問のせいで、
お肉は「燃え尽きたぜ」といわんばかりに
焦げた匂いを漂わせていた。
「もう君たちから敵意がないのは分かった
人外でもなんでもいいから
最後に一つだけ質問がある」
先輩はその言葉を無視して
何もない空間を見つめ始めた。
その視線は鋭く、何かを捉えたように集中している。
しかし、先輩はその言葉を無視し、
何もない空間をじっと見つめていた。
「先輩?話してる途中で、
そっぽ向くとか失礼っすよ」
私も先輩の視線の先を追ったが、
そこには何も見えない。
ただの空間が広がっているだけだった。
「大変だぁ!
後輩ちゃん、見て見て、
あそこに何か透明なやつがいるよ!」
叫びながら、
何もない空間を指さした。
先輩はふざけることはあるけど、
嘘はつけない性格だから、
本当に何かが見えているのかもしれない。
黒装束の3人組は、
慌てる様子もなく佇んでいた。
「まじでそこに、
何かいるんっすか?」
私は半信半疑ながらも尋ねた。
「うん!今、
後輩ちゃんの目の前にいるよ?」
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