第5話 先輩は異世界でスライムを飼いたいそうです!END

鳥リスたちの襲撃。


それは、禁断の美味しい果物『モモナップル』

を取ろうとしたせいで起こった惨劇だった。


だが予想外なことに、

プルルが鳥リスたちを退治してくれたおかげで、

私はなんとか無事でいられている。


……とはいえ、全力で走りすぎた。


疲労困憊。


スタミナは完全に底を突き、

立つこともできない私は、

近くの岩の上にどかっと座り込む。


「少し休むっす」


喉がカラカラだ。

このまましばらく休まないと動けそうにない。


私は、ようやく一息つけたので、

今の現状をニャンタに報告することにした。


「ニャンタさん!!

 先輩がポータルチェストを破壊しちゃったんすけど

 予備ってあるんすか!?」


普通なら「何やってんだ!?」とか

「マジか!?」とか、

驚くリアクションが返ってくるはずだった。


しかし、ニャンタはまったく動じることなく、

むしろ余裕たっぷりにこう言った。


「予備はねぇ

 作るか修理するかだな

 あとで見てやるよ」


まるで「そんなことは想定の範囲内だ」

とでも言いたげな落ち着きっぷりだ。


私は思わず妙な安心感を覚え、

自然と笑みがこぼれた。


「頼んだっす!!

 ありがとうっす!!」


しばらくすると、

先輩が両手いっぱいにモモナップルを抱えて、

私の元に駆け寄ってきた。


「後輩ちゃん無事だったんだ!!」


聞き慣れた元気いっぱいの声が響いた。


私が顔を上げると、

そこには両手いっぱいにモモナップルを抱えた先輩が、

嬉しそうに駆け寄ってきていた。


「あっプルルが背中にいる!?

 二人はいつから仲良しになったの?」


「先輩…私がリスに襲われてる時に

 果物を拾ってたんすか?

 命の危機だったんすよ…?」


「ごめん、後輩ちゃん

 でも、これでお腹いっぱいになれるよ!

 はい!どうぞ」


少し反省した様子で、

モモナップルを差し出してきた。


(……私は食べ物では買収されないっすよ?)


心の中でそう思いながらも

私は、モモナップルを受け取った。


「ありがたくいただくっす!!」


走りすぎて喉が渇いていたからだ。


「先輩!モモナップル

 拾う暇があるなら

 助けに来てほしかったっす!」


どんどん皮を剥き、

甘い匂いに誘われるまま、

一口、二口とかじる。


「エネルギー補給っするっす!」


口いっぱいに果実を頬張りながら、

もう一つ手に取り、

プルルに皮を手で剥いて差し出した。


「プルルにもあげるっすよ! 」

「プッ!(ありがと)」


プルルは、

小さな体をふるふると揺らしながら、

丸い体を楕円形に変形させた。


まるで、人間の手のように見えるそれが、

器用にモモナップルを受け取る。


(なんか可愛いっすね)


さらに、プルルは体の一部を変形させ、

まるで口のような形を作ると——


ちゅるんっ……!


モモナップルをそのまま吸い込むように食べた。


(もしかして、

 私たちの真似をしてるんすっかね?)


小さなスライムが、

一生懸命に人間の仕草を再現しながら果実を食べる姿。

それは、なんとも親近感の湧く仕草だった。


「ニャンタさんも食べるっすか?」


私は、手に持っていたモモナップルをそのまま差し出した。


ニャンタは前足で器用に果実を受け取ると、

じっくりと外見を観察し、

果皮の感触を確かめるように撫でる。


そして、まるで爆弾の起爆装置でも

見つけたかのような真剣な表情で、

私に向かってとんでもないことを言い放った。


「なぁ炊飯器?

 この果実は致死性の猛毒だって言ったら

 信じるか?」


ぴたっ。


私と先輩は、

モモナップルを口に運ぶ手を止め、

ニャンタの顔をじっと見つめた。


一瞬の沈黙が場を支配した。


「毒っすか?」


私は軽く首をかしげながら、

果実を見つめる。


「確かにモモナップルは甘すぎるっす!!

 これは確かに毒っすね!!」


「うん、食べすぎたら甘さで倒れそうだね」


先輩も頷きながら、

モモナップルをかじる。


ニャンタは呆れたように私たちを見ながら、

つられるように口を大きく開けてモモナップルをかじった。


「おっ、これは旨いな」

「ニャンタもモモナップル

 気に入ったみたいだね!」


先輩が満面の笑みで言うと、

ニャンタは果実をもう一口かじりながら、

ふと思いついたように言った。


「炊飯器の体臭は毒も中和できるのか。

 異世界に来て芸が増えたじゃないか?」


「……えっ!?

 体臭って何の事っすか!?」


私は思わず、

口に含んでいたモモナップルを飲み込む前に問い詰める。


「先輩! 私から変な匂いするっすか!?」


私は、結構、自分の体臭を気にしている。

だって、人の匂いって自分じゃ分からないし、


もしかして今まで誰にも指摘されずに、

悪臭を振りまいていた可能性も……!?


匂いの悩みって、

私だけじゃないっすよね!?


そんな私の動揺をよそに、

先輩は何やら考え込むように、

ぽんっと手を打った。


「後輩ちゃんから変な臭いがするか確認してみる

 ちょっと待ってて!!」


クンクン……

クンクンクン……!!


「!?」


先輩は、

私のローブのすぐ近くまで顔を寄せて、

思いっきり匂いを嗅ぎ始めた。


(先輩!! 近いっす!!)

(恥ずかしいから止めろっす!!)

(さっきの距離から匂いを確認しろっす!!)


私は心の中で猛抗議しておいた。


「後輩ちゃんは無臭だよ?

 汗の匂いとかもないし

 そこまで気にすることないんじゃない?」


「ニャンタさん動物の嗅覚では

 私は匂うって事っすか?」

「そーじゃなくてだな!」


ニャンタは真面目な表情になり、

私の方へゆっくりと顔を向ける。


「お前は俺たち猫族と会話できるだけじゃなく

 体から清めのオーラも出してるんだよ!!」


「え!?」


突然の宣言に、

私はポカンとしてしまった。


「ほら、向こう側の木の果実を見てみろ」


ニャンタの言葉に促され、

私は視線を向ける。


目に映ったのは、

果実とは到底呼べない、

黒く濁った不気味な塊だ。


「なんすか!?

 あの黒くて気味の悪い塊は!?

 変な液体ついてるっすよ!?」


「あれが今俺たちが美味しいって

 食ってるモモナップルの真の姿だ。

 よく目に刻んどけ。」


(……え?)


私は、一瞬、自分の耳を疑った。


「あれがモモナップル

 なわけないじゃないっすか!?」


「そんなに信じないなら

 実演して見せてやるよ!!」


そう言いながら、

ニャンタはゆっくりと立ち上がった。


地面に落ちていた長めの枝を拾い上げ、

それを軽く振る。

そして、ゆっくりとその黒い実の方へと進んでいく。


シュッ!


ニャンタの前脚が、一閃する。


空中を切る軌跡が走り、

黒くて毒々しい塊が、

ポトリと地面へと落ちてくる。


狙ってやったのかは分からないが、

落ちた実は、

枝の先端に突き刺さる形で止まっていた。


ニャンタはそのまま、

私の近くまで歩み寄る。


「これを炊飯器に近づけると

 美味しい果物になるんだよ!!」


私は、ニャンタの持つ、

枝の先に突き刺さった黒い塊を見て、

全身に嫌な汗が流れるのを感じた。


「気味が悪いっす!!

 近づけないでほしいっす!!」


私は全力で拒絶する。


しかし、

クルクルクル……。


ニャンタはお構いなしに、

まるで焚火でマシュマロでも焼くような仕草で、

長い枝をクルクルと回転させ始めた。


黒い液体がポタポタと地面に落ちる。


そして、

じわじわと、

実の色が変わっていった。


黒い塊だった果実が、

徐々にピンクと黄色の中間色へと変化していく。


私は思わず、目を見開く。


「……あれ?」


「気づいたか?」


「黒い塊が……

 モモナップルに変化したっす!?」


ニャンタは枝を軽く振り、

今や完全に解毒されたモモナップルを手に取り、

食べ始めた。


「元の世界ではせいぜい

 空気清浄機レベルかと思ってたが、

 猛毒まで浄化できるとは驚きだな」


「いや、なんで私が空気清浄機扱いなんすか……!?

 私はポータブル家電じゃないっすよ!!」


「後輩ちゃんがいれば

 モモナップル食べ放題だね」


私は思わずツッコミを入れるが、

ニャンタの言葉が頭の中でぐるぐると回っていた。


そもそも、さっきの解毒といい

なぜニャンタと脳内で会話できるのか分からない。


これは、生まれつきの能力なのだろうか。

もしかして、

両親からの遺伝なのかもしれない。


だが、私には、

両親の顔も名前も、何一つ知らなかった。


「ニャンタさん!!

 ガチで私に浄化能力があるんっすか?」


「ああ、だから

 異世界の住人にモモナップル見せんなよ

 毒を食べてると思われっぞ」


私はもう一度、

自分の手元のモモナップルを見つめた。


どうやら、本当にこの果実は、

「毒の果物」だったらしい。


半信半疑だったが、

目の前で起きた変化を見たら、

もう納得せざるを得ない。


「しょうがねぇな! ほら!

 二人にプレゼントだ!!」


ニャンタが、

私たちの目の前に、

二つのバッグを地面にそっと置いた。


「異世界でお決まりのマジックバックだ!

 これにモモナップル詰めとけ!」


「えっ?」


私は思わず、目を瞬かせる。


「バッグの異次元空間なら

 モノが腐らないから安心しろ。」


「えっ、これがあの!!

 マジックバックっすか!?」


興奮気味にバッグを受け取り、

中を覗き込んでみる。


ただの布製のバッグのはずなのに、

その内部は無限に続くような異次元の空間が広がっていた。


「ニャンタ、ありがとう

 これならモモナップルを

 いっぱい保管できるよ!!」


私はとりあえずモモナップルをいくつか手に取り、

マジックバックの中へポンポンと詰め込んでいく。


「ニャンタさん感謝っす!!

 これでいつでも

 美味しいモモナップルが食べられるっす!」


その時だった。


「あっ、そうだ!」


先輩が、何かを思い出したように突然立ち上がった。


「どうしたんっすか、先輩?」


「ちょっと待って!

 ポータルチェストの破片

 マジックバックに詰めてくる!!」


言うや否や、

先輩は猛スピードで駆け出していった。


その勢いは、まるで風のように速く、

さっきのモモナップルの木に向かって、

一直線に走り去っていく。


「……あの元気さには毎回驚かされるっす」


ニャンタと私は、その姿を目で追いながら、

ただただ呆然と見送るしかなかった。


     ◇     ◇


先輩が10分以上経っても、

戻ってこない。

だんだん心配になってきた。


「先輩、遅いっすね

 もしかして、

 何かあったんじゃ!?」


「どこで道草食ってんだろうな

 まあ、そろそろ戻るだろ」


しばらくすると、

先輩は再び姿を現した。


「後輩ちゃん!!

 ただいま!!」


声のほうを振り向くと。

私は自分の目を疑った。


「……先輩、破片を回収しに行ったんじゃ?」


先輩の両手には、

槍のような長くて鋭利な枝が6本。


その枝には、

モモナップルと思われる黒い塊が大量に刺さっていた。


しかも、黒い液体がしたたり落ち、

地面の植物を焦がしている。


「……やばいやばいっす!!

 毒っす毒!!

 そのまま持ってこないでほしいっす!!」


私は思わず後ずさる。

だが、問題はそれだけではなかった。

先輩は、くるっと体を90度回転させる。


「後輩ちゃん!!

 これ、焼いて食べよう!!」


その瞬間、私は絶句した。


先輩が背中をくるっと回すと、

ぐったりとした鳥リスたちが、

植物のツルでくくられ、ぶら下がっていた。


「鳥リスが数匹、木にぶつかって

 お亡くなりになったみたい!

 せっかくだし食べてみたい!」


「えっ、先輩、

 そのリス魔物っすよ?」


「おい!肉は焼く前に

 血抜きしないとダメだぞ」


「ニャンタさん!!

 魔物を食べたことあるっすか!?

 人間が食べても平気なんすかね!?」


「食べ物は焼けば大抵食えるから安心しろ!!」


魔物を食べるのは少し不安だが、

モモナップルだけだと栄養が偏ってしまう、

内心では、お肉も食べたいと体が訴えていた。


「よし炊飯器!

 俺が作った魔道具貸してやるから

 調理してみろ!」


ニャンタが、

3つの魔道具を取り出し、

私に手渡してくる。


「美味しい水が湧き出る水筒【無限水筒】

 絶対に火がつく杖【俺のファイヤーロッド】

 錆びないナイフ【エターナル・シャープ】

 これらを炊飯器に進呈してやろう!!」


最後のナイフのネーミングだけ、

やたらと中二感が強い気がした。


「了解っす! まず、

 鳥リスの血抜きするっすよ!」


「血抜き時間かかるだろうから、

 俺はポータルチェストが

 修理できるか見とくぞ」


ニャンタは少し離れた場所で、

先輩のバックを座りながら漁り、

破片を地面に並べていた。


私が意気揚々とナイフを構えると

先輩が待ったをかけた。


「えっ血抜きって何?

 そのまま焼いたらダメなの?」


私は先輩に血抜きの重要性を

分かりやすく一言で伝えた。


「お肉がとっても、

 美味しくなるんっすよ!」


「後輩ちゃん!!

 血抜きってどうやるの!? 教えて!!」


先輩が興味津々なので、

私は手を動かしながら、

血抜き講座を始めることにした。


「まず、喉元を切り開いて

 血液を体外に流すっす。」


「ふむふむ

 まずは頸動脈をぶった切ると!」


「いや、先輩!?

 そこだけ元気よく言わないでくださいっす!!」


ツッコミを入れつつも、

私は次の工程へ進む。


「それから、逆さに吊るして

 重力で血を流し出すっすよ」


「ふむふむふむ!!」


先輩の頷きは止まらない。


まるで伝説の料理人の手元を

食い入るように見つめる見習いシェフのように、

その表情には熱意と興味が満ちていた。


なんでこんなに食いつきがいいのだろうか。


「血を出し終えたら

 腹部に切れ込みを入れて

 食べれない内臓を取り出すっす!」


「ほうほう!!」


「最後に水でリスの体を洗えば

 血抜きは完成っすよ!」


「けっこう手間がかかるんだね」


先輩が感心しながら言う中、

私は鳥リスの血抜きを終え、

次の工程へと移る。


焚き火用の薪を集め、

火をつけやすくするために細かい枝や落ち葉で火床を作った。


「串刺しにできそうな枝を見つけたっすから

 あとはお肉をこれに刺して焼くだけっす!」


焚き火の準備が整ったところで、

私はプルルに声をかけた。


「プルル、お願いがあるっす。

 焚き火にファイアーボールで

 火を点けてほしいっす?」


「プッ(了解)」


プルルが私のローブの上でプルプルと揺れると、

小さな炎がポッと浮かび、

一直線に火床へと向かっていった。


ボンッ!!


火床に直撃すると、

焚き火が一瞬燃え上がる。


「ありがとうっす、プルル!

 これで鳥リスを焼けるっすね!」


しかし、次の瞬間。


シュウウウウ……


「……あれ?

 火が……消えたっす」


おかしい。


普通ならこのまま燃え続けるはずなのに、

なぜか火床の落ち葉は全く燃えず、

黒い煙だけがゆらゆらと立ち昇っている。


「プー(残念)」


プルルがちょっとしょんぼりした声を出す。


「……しょうがないっす!

 ニャンタさんの魔道具で火をつけるっす!」


私は、魔道具 【俺のファイヤーロッド】 を手に取った。

手で持つ部分は杖っぽい形状だが、

先端が妙に空洞になっている。


よく杖を観察してみると、

なぜか側面にスイッチがついていた。


(スイッチがあると押したくなるのが人間ってもんっすよね?)


いざ使おうと思ったその瞬間。

ニャンタの声が遠くから飛んできた。


「ファイアーロッドは

 側面のスイッチ入れたら火が出るぜ!」

 あまり押しすぎるなよ、制御不能になるぜ」


「……制御不能ってなんすか?」


言いたいことは山ほどあったが、

とりあえず試しに押してみることにした。


私は杖を落ち葉に向けて、

スイッチをカチッと押した。


ボオオオオオオオオオオオオオ!!!!

杖の先端から勢いよく火が噴き出した。


「えっ!? なにこれ怖!!

 ニャンタさん!!

 これ杖じゃなくて火炎放射器っすよ!!」


「後輩ちゃん!!

 まるでドラゴンが火を吐いてるみたいだよ!!」


「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないっす!!」


「だから押しすぎるなって言っただろ!!」


焚き火は勢いよく燃え上がていたので、

もう少し慎重に使おうと心に誓った。


(なんか燃えすぎな気がするっすけど、

 気のせいっすよね!?)


「それじゃあ、

 鳥リスの肉を焼くっすよ!」


先輩は涎をたらしながら、

「まだかな?まだかな?」といった様子で

定期的に串を転がして肉の焦げ目を確認していた。


「魔物の肉は念入りに

 火を通したほうがいいよね?」


「先輩、モモナップルの果汁を

 かけてみるっすか?

 きっと美味しくなるっすよ!」


焼き上がった鳥リスの肉に、

モモナップルの果汁を

かけることを提案してみた。


「果汁の酸味が肉の脂を中和して、

 さっぱりとした後味になるはずっす」

「良いアイデアだよ、後輩ちゃん!」


ハーブやスパイス、塩といった調味料がない、

そのまま食べるのも一興っすけど、

ジューシーな味気のほうが良いに決まってるっす!


「肉がきつね色に変ったよ!

 早く食べよう」


私は仕上げに、

モモナップルの果汁をたっぷりと絞った。


果汁が肉に染み込むと、

じゅわっと音を立てて蒸発し、

甘い香りが広がる。


「いい匂いがしてんじゃねぇか」


その香りにつられたのか、

ニャンタが、焚き火の向こうから姿を現した。


「ポータルチェストの修理は不可能だ

 新しく作り直すしかないな」


「そうっすか」


私の返事は短かったが、

ニャンタの口調がやたらと自信満々だったので、

特に心配する必要はないと感じた。


(作れるなら、大丈夫っすよね)


私は深く考えるのをやめ、

目の前のこんがり焼けた肉を見つめながら、

力強く宣言した。


「とりあえずご飯にしようっす!!」


「焚き火のそばで食事なんて

 冒険してる感があるよね!


「さっそく

 串を取って食べようっす!」


焼き上がった鳥リスの串を手に取り、

先輩が待ちきれずに、

最初に一口かじりはじめた。


「なんか鶏肉みたい、

 これすっごく美味しいよ!」


ほんと我慢できない人っすね。

先輩が美味しそうに咀嚼してるのを見て

私も噛り付いてみた。


「果汁がいいアクセントになってるっす

 塩がなくてもサッパリしてて、

 美味しいっすね!」


「俺たちが肉をこんなに

 美味しく食べてるのを見たら、

 リス共も移住を考えるだろうな!」


三者三様の答えが返ってきた。

私はプルルの分の串を手に取り、

近くに寄せてあげた。


「プルルもどうぞっす

 栄養たっぷりで

 美味しいっすよ?」


「プッ(栄養ありそう?)」


プルルは透明な体を揺らしながら、

串に近づいて食べ始めた。


スライムという種族は、

食べることに対して好き嫌いがない、

問題なのは、栄養があるかどうかであった。


「プルルも美味しそうに食べてるね」


「スライムも意外と可愛いっすね

 最初はちょっと怖かったけど、

 今ではすっかり仲良しっす!」


こうしてプルルの歓迎会のような、

鳥リスの焼肉パーティを皆で楽しんだ。


リスの肉を食べて、

みんながお腹いっぱいになったところで、

私はさらに血抜きした鳥リス肉を焼き始めた。


マジックバックに保管して、

いつでも食べれるようにする為である。


みんなが満足そうにお腹をさすっていると、

ニャンタさんが何かを思い出したかのように、

私に話しかけてきた。


「そうだ、炊飯器!

 異世界といえばステータスだろ?

 試しに叫んでみろよ、ステータスって!」


小説とかでは、主人公が鑑定してもらったり

ステータスと発言して能力を確認しながら、

レベルを上げて成長していくっていうのが定番なのだ。


私はふと思ってしまった。

ここは異世界、もしかしたら自分の能力値が、

画面で見られるかもしれない。


私も少しばかり、

自分にどんな適正や能力があるのかを、

見てみたかったのだ。


息を大きく吸い込んで、

声を張り上げる。


「ステータス……。」

 何も起こらないっすよ?」


「もう一回やってみろ、今度はもっと強く!

 自分を表現するようなポーズを決めて、

 心の底から発声するんだ」


ニャンタさんが言うので、

ポーズを決めることにした。


胸を張り、足を肩幅に開き、

天空に拳を突き上げながら、

力強く声を張り上げた。


「ステータス!!」


それでも何も表示されなかった。


「後輩ちゃん?なんでポーズを決めながら

 ステータス連呼してるの?

 楽しそうだから私も真似していい?」


私と先輩は一緒にポーズを取りステータスと叫んだ。

プルルも楽しそうな雰囲気に乗せられたのか、

私の肩の上で体を変形させていた。


「ステータス♪ステータス♪」

「ステータスったら、ステータス♪」


鳥リスの肉を焼きながら、

地面にはモモナップルの食べかすや

リスの毛皮が散らばっている。


私たちはヤケクソなポーズを決め、

必死な顔で発声を続けていた。


それはまるで何かの儀式のようだった。

異様な光景であったのは間違いない。

森全体に私たちの声が響き渡っていた。


ニャンタはその様子を見て、

笑いをこらえきれずに声を上げた。


「お祭りみたいに楽しんでるな。

 でも、ゲームじゃあるまいし、

 ステータス画面なんて出るわけないだろ!」


「えっ?ニャンタさんが言うから

 試したんじゃないっすかぁ」


私は顔を赤くしながら全力で抗議した。

そんな会話をしていると、

いきなり、背後から声が響いた。


「お前たち!

 一体何をしているんだ?」


振り返ると、

私たちはいつのまにか、

黒装束の3人組に囲まれていた。


彼らは険しい表情で私たちを睨み、

1人は剣の柄に手をかけ、

残り2人は光る杖を構えていた。


少しでも間違った発言をすれば、

一触即発の事態になりかねない状況だ。


「こんな危険な森で。

 焚火しながら踊ってやがるとは、

 こいつら魔族か?」


一休みしたばかりだというのに、

またすぐに危険な目に遭うなんて、

予想外な展開すぎて、私は固まっていた…。

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