第5話 先輩は異世界でスライムを飼いたいそうです!END

体中に張り付いていた鳥リスが

プルルのおかげでいなくなり、

ようやく一息つける状況になった。


その時、先輩が両手いっぱいに

モモナップルを抱えて、

私の元に駆け寄ってきた。


「後輩ちゃん無事だったんだ!

 あっ背中にプルルもいるね!

 二人はいつから仲良しになったの?」


安心したように言いながら、

大量のモモナップルを両手で抱えたまま、

私に近づいてくる。


「先輩…私がリスに襲われてる時に

 果物を拾ってたんすか?

 命の危機だったんすよ…?」


「ごめん、後輩ちゃん

 でも、これでお腹いっぱいになれるよ!

 はい!どうぞ」


少し反省した様子で、

モモナップルを差し出してきた。

私は食べ物では買収されないっすよ?


「拾う暇があるなら

 助けに来てほしかったっす!」


不満を残しつつも、モモナップルを受け取り、

皮を剥いていく、甘い匂いに魅了されたかのように、

一口、二口とかじり続ける。


「食べて、エネルギーを補給するっす

 プルルにもあげるっす!

 ニャンタさんも食べるっすか?」


「プッ(ありがと)」

「お前ら、それ食べたのか?

 それ致死性の毒があるように見えるんだが?」


ニャンタは驚愕の表情を浮かべた。

私と先輩は一瞬動きを止めてニャンタを見たけど、

すぐに笑顔を浮かべて再び食べ始めることにした。


「いつものジョークっすか?

 これ本当に美味しいっすよ!」


「えぇ?毒があるって言ってるんだぞ、毒!

 ちょっとそれ寄こせ」


ニャンタさんは私から

甘くて美味しいモモナップルを手から奪い取り、

じっくりとその香りを嗅ぐ。


「毒っすか?

 確かにモモナップルは甘すぎるっす

 これは確かに毒っすね」


そして、一口かじりると、

ニャンタの目が大きく開いた。


「おっこれは、旨いな

 炊飯器の体臭は毒も中和できるのか

 異世界に来て芸が増えたじゃないか?」


「ニャンタもモモナップル

 気に入ったみたいだね!」


先輩はニャンタさんが美味しそうに食べる様子を

見て嬉しそうに微笑んでいた。


そんな事より、

聞き捨てならないセリフが

今あったっすよ?


「えっ体臭って何の事っすか?

 先輩!私から変な匂いするっすか?」


私はけっこう自分の体臭を気にしている、

匂いの悩みというのは女性のほうが多いのだ。

きっとそうっすよね?私だけじゃないっすよね?


「えっ?後輩ちゃんから

 変な臭いがするかって事?

 ちょっと待ってて?」


先輩が私のローブの近くまで顔を寄せて

クンクンと匂いを嗅ぎ始めた。


(先輩!近いっす!)

(恥ずかしいから止めろっす!)

(さっきの距離から匂いを確認しろっす!)


私は心の中で猛抗議しておいた。


「後輩ちゃんは無臭だよ?

 汗の匂いとかもないし

 そこまで気にすることないんじゃない?」


「ニャンタさん動物の嗅覚では

 私は匂うって事っすか?」

「そーじゃなくてだな!」


ニャンタは真面目な表情になり、

私に向かって説明しはじめた。


「初めてお前が家に遊びに来た時から

 気が付いてたんだが。


 お前は俺達と話せるだけじゃなく

 体から周囲を清めるオーラも出してたんだよ!


 平和な日本ではせいぜい、

 空気清浄機くらいの能力だと思ってたが

 猛毒すら浄化できるとは驚きだな」


「私にそんな能力あるわけないじゃないっすか?」


私は困惑しながら言ったものの、

なぜ生まれつき動物と話せるのかも分からなかった。

もしかして、私の両親の遺伝なのかも?


「先輩、ちょっと聞いてもいいっすか?

 私の近くにいた人の体調が良くなったとか、

 そういったエピソードとかあるっすか?」


めちゃくちゃ訳がわからないし、

自意識過剰な質問であったが、

先輩は何の疑問もなく答えてくれた。


自分ではなく第三者の視点の意見がほしかったのだ。

こういう時に、先輩の天然には助かるっす。


「そういえば、気のせいかもだけど

 私達の学校だけ、

 花粉症やインフルエンザが流行らなかったよね」


「おいおい、流行り病を倒すとは、まるで

 物語に出てくる聖女みたいな能力じゃないか?

 よかったな!」


そういえば私、風邪ひいたことがないっす。

ニャンタさん?私が聖女だって?

そんな事言われても嬉しくないやい!


「これも偶然かもだけど、

 給食のカレーで食中毒が起きた時も

 私たちのクラスだけ無事だったよね!」


「お前のおかげでカレーの毒も

 ただのスパイスになったんだろ?

 デトックスカレーは旨かったか?」


私はさらに考え込んだ。

思い出してみれば、私の周辺だけ

食中毒や病気になったというのを聞いたことがない。


「あと、学校で運動してたときに、

 汗がキラキラ輝いて見えてたんだよね!

 なんか男子が変な眼(まなこ)で後輩ちゃん事を見てたよ」


うおぉぉい!なんか関係ない話が出たっすよ!?

私の分泌物をそんな目で見てくんなっす!

そんな情報知りたくなかったっす。


「ニャンタさん、

 ガチで私に浄化能力があるんっすか?」


「ああ、だから

 異世界の住人にモモナップル見せんなよ

 毒を食べてると思われっぞ」


まじでモモナップル毒あるんっすか?

正直なところ半信半疑っす。

こんなに甘くて美味しいのに!


「しょうがないな!

 ほら異世界でお決まりのマジックバックやるから、

 モモナップル詰めとけ!」


そう言って、ニャンタさんは二つのバックを

どこからともなく取り出し、

先輩と私に渡してくれた。


「異次元ならモノが腐らないから安心しろ」

「えっ、これがマジックバックっすか?

 本当に何でも詰め込めるんすか?」


私は驚きつつも、バックを受け取った。

興味津々でバックを開けて中を見ると、

ポータルチェストでお馴染みの異次元が広がっていた。


「ニャンタ、ありがとう!

 これならモモナップルをいっぱい保管できるね!」


ちなみに先輩はニャンタさんが、

便利なアイテムを提供してくれる事に関して

まったく疑問に思っていない。なんでっすかね?


私もモモナップルをいくつか手に取り、

バックの中に詰め込めこんだ。


「これでいつでも美味しい

 モモナップルが食べられるっす!」

「あっそうだ!」


先輩がふと思い出したように、

突然立ち上がった。


「どうしたんっすか、先輩?」


「ちょっと待ってて!

 マジックバックにポータルチェストの破片を

 詰めてくるよ!」


先輩はモモナップルの木がある方向に勢いよく駆け出した。

いつも落ち着きがないっすけど、

その底なしの体力には本当に驚かされるっす。


しかし、しばらく経っても先輩は戻ってこなかった。

もう10分以上は経っているはずだ。

だんだんと心配になってきた。


「先輩、遅いっすね

 もしかして何かあったんじゃ!?」


「どこで道草食ってんだろうな

 まあ、そろそろ戻るだろ」


しばらくすると、

先輩は再び姿を現した。


「後輩ちゃん!

 これ、焼いて食べよう!」


その手には複数の真っ赤な鳥リスが握られていた。

あれ?破片回収しにいったんじゃ?


「鳥リスが後輩ちゃんを追っていった時に、

 木にぶつかって数匹お亡くなりになったみたい

 せっかくだし食べてみたい!」


「えっ、先輩、本気っすか?

 それ魔物っすよ?」


「おい!焼く前に血抜きしないとダメだぞ」


ニャンタさんはリス食べたことあるっすか?

なんで食べることにノリノリなんっすかね?


魔物を食べるのは少し不安っすけど、

モモナップルだけだと栄養が偏ってしまう、

内心では、お肉も食べたいと体が訴えていた。


「ほれ!猫界77ツ魔道具


 錆びないナイフ    【エターナル・シャープ】 

 水が永遠に湧き出る水筒【無限水筒ちゃん】

 絶対に火がつく杖、  【花咲かファイヤーロッド】


 炊飯器!貸してやるから

 お前が持っとけ」


猫界77ツ魔道具とやらを、説明書つきで渡してくれたんすっけど、

便利なアイテムがあるなら全部貸してほしいっす!

なんで小出しにするんっすかね?


「わかったっす。

 私が血抜きしてから焼いてみるっす!」


「えっ血抜きって何?

 そのまま焼いたらダメなの?」


私は先輩に血抜きの重要性を

分かりやすく一言で伝えた。


「お肉がとっても美味しくなるんっすよ!」

「どうやってやるの?」


「血抜き時間かかるだろうから、

 俺はポータルチェスト修理できるか見とくぞ」


ニャンタさんは勝手に先輩のバックを漁っていた。

血抜きに先輩が興味を示したので、

具体的に説明しながら手を動かした。


「まず、喉元を切り開いて、

 血液を体外に流すっす


 それから、逆さに吊るして、

 重力で血を流し出すんすよ。


 血を出し終えたら、

 腹部に切れ込みを入れて

 食べれない内蔵を取り出すっす

  

 最後に水でリスの体を洗って、

 残った血や汚れをきれいにするっす。

 これでお肉を噛んだ時の臭みがなくなるっす」


「ふむふむ!

 まずは頸動脈をぶった切ると!」


私が笑顔で説明を続けると、

感心して頷きまくっていた。


「串刺しにできそうな枝を見つけたっすから

 あとはお肉をこれに刺して焼くだけっす」


薪を集め、火を起こしやすいよう、

細かい枝や落ち葉を使って火床を作る。

焚き火の準備が整ったところで、プルルに声をかける。


「プルル、お願いがあるっす。

 焚き火にファイアーボールで

 火を点けてくれないっすか?」

「プッ(了解)」


私のローブの上でプルルが体を揺らしていると、

頭上から小さな炎が現れ、一直線に火床へと向かっていく

その炎が焚き火に直撃しると、一瞬で火が付いた。


「ありがとうっす、プルル!

 これで鳥リスを焼けるっすね。」


だが、少し経つと炎が消えてしまった。

おかしいな?落ち葉が燃えてないっすよ?


「プー(残念)」

「しょうがないっす!、

 ニャンタさんの魔道具で火をつけるっす!」


魔道具【花咲きファイヤーロッド】を手に取る。

先端には真っ赤な花が咲いており、

花の中心部は空洞になっている。


ニャンタさんは杖って言ってたっすけど、

先端に赤い花が咲いてるんっすよ?

でも手で持つ部分だけは杖っぽい形状っすね。


説明書には、杖の空洞部分に軽く息を吹きかけろ。

注意書きに、過剰に息を吹きかけると、

炎が制御不能になるぞ、と記載されていた。


えっなにそれ怖いっす!


私は好奇心に負けて、

恐る恐る花の空洞に向かって

息を吹きかけてみることにした。


「試しに、ちょっとだけ吹いてみるっす…」


花の中心に口を近づけ、ゆっくりと息を吹きかけた。

その瞬間、花の空洞から小さな炎が勢いよく噴き出し、

目の前の焚き火に直撃した。


「後輩ちゃん凄い!

 まるでドラゴンが火を吐いてるみたいだったよ!」


焚き火は勢いよく燃え上がった。

なんか燃えすぎな気がするっすけど、

気のせいっすよね?


私はちょっとだけ得意げな気持ちになりながらも、

再び説明書を見直して、

もう少し慎重に使うことを心に誓った。


「それじゃあ、

 鳥リスの肉を焼こうっす」


先輩は涎をたらしながら、

まだかな?まだかな?といった様子で

定期的に串を転がして肉の焦げ目を確認していた。


「魔物の肉は念入りに火を通したほうがいいよね?」

「先輩、モモナップルの果汁をかけてみるっすか?

 きっと美味しくなるっすよ!」


焼き上がった鳥リスの肉に、

モモナップルの果汁をかけることを提案してみた。


「果汁の酸味が肉の脂を中和して、

 さっぱりとした後味になるはずっす」

「良いアイデアだよ、後輩ちゃん!」


ハーブやスパイス、塩といった調味料がない、

そのまま食べるのも一興っすけど、

ジューシーな味気のほうが良いに決まってるっす!


「肉がきつね色に変ったよ!

 早く食べよう」


モモナップルの果汁を絞り始めた。

果汁をかけた鳥リスの肉は、

さらに香ばしい香りが立ち上がり、食欲をそそった


「いい匂いがしてんじゃねぇか

 ポータルチェストは修理は無理だった!

 新しく作り直すしかないな」


ニャンタさんもやってきた。


「焚き火のそばで食事なんて

 冒険してる感があるよね!


「全員揃ったっすから

 串を取って食べようっす!」


焼き上がった鳥リスの串を手に取り、

先輩が待ちきれずに、

最初に一口かじりはじめた。


「なんか鶏肉みたい、美味しいよ!」


ほんと我慢できない人っすね。

先輩が美味しそうに咀嚼してるのを見て

私も噛り付いてみた。


「果汁がいいアクセントになってるっす

 塩がなくてもサッパリしてて美味しいっすね!」


「肉をこんなに美味しく食べてるのを見たら、

 リス共も移住を考えるだろうな!」


三者三様の答えが返ってきた。


私はプルルの分の串を手に取り、

近くに寄せてあげた。


「プルルもどうぞっす。これ、

 栄養たっぷりで美味しいっすよ?」


「プッ(栄養ありそう?)」


プルルは透明な体を揺らしながら、

串に近づいて食べ始めた。

満足そうに食べているのを見て安心していた。


スライムという種族は、

食べることに対して好き嫌いがない、

問題なのは、栄養があるかどうかであった。


「プルルも美味しそうに食べてるね」


「スライムも意外と可愛いっすね

 最初はちょっと怖かったけど、

 今ではすっかり仲良しっす!」


こうしてプルルの歓迎会のような、

鳥リスの焼肉パーティを皆で楽しんだ。


リスの肉を食べて、

みんながお腹いっぱいになったところで、

私はさらに血抜きした鳥リス肉を焼き始めた。


マジックバックに保管して、

いつでも食べれるようにする為である。


みんなが満足そうにお腹をさすっていると、

ニャンタさんが何かを思い出したかのように、

私に話しかけてきた。


「そうだ、炊飯器!

 異世界といえばステータスだろ?

 試しに叫んでみろよ、ステータスって!」


小説とかでは、主人公が鑑定してもらったり

ステータスと発言して能力を確認しながら、

レベルを上げて成長していくっていうのが定番なのだ。


私はふと思ってしまった。

ここは異世界、もしかしたら自分の能力値が、

画面で見られるかもしれない。


私も少しばかり、

自分にどんな適正や能力があるのかを、

見てみたかったのだ。


息を大きく吸い込んで声を張り上げる。


「ステータス!

 何も起こらないっすよ?」


「もう一回やってみろ、今度はもっと強く!

 自分を表現するようなポーズを決めて、

 心の底から発声するんだ」


ニャンタさんが言うので、ポーズを決めることにした。

足を肩幅に開き、胸を張って拳を握りしめ、

天空に拳を突き上げながら、力強く声を張り上げた。


「ステータス!!」


それでも何も表示されなかった。


「後輩ちゃん?なんでカッコいいポーズを決めながら

 ステータス連呼してるの?

 楽しそうだから私も真似していい?」


私と先輩は一緒にポーズを取りステータスと叫んだ。

プルルも楽しそうな雰囲気に乗せられたのか、

私の肩の上で体を変形させていた。


「ステータス♪ステータス♪」

「ステータスったら、ステータス♪」


鳥リスの肉を焼きながら、焚き火を囲んで、

モモナップルの食べかす、剥いだリスの毛皮だらけの地面の上を、

ヤケクソなポーズを決めながら、必死な顔で発声し続ける。


それはまるで何かの儀式のようだった。

異様な光景であったのは間違いない。

森全体に私たちの声が響き渡っていた。


ニャンタはその様子を見て、

笑いをこらえきれずに声を上げた。


「お祭りみたいに楽しんでるな。

 でも、ゲームじゃあるまいし、

 ステータス画面なんて出るわけないだろ!」


「えっ?ニャンタさんが言うから

 試したんじゃないっすかぁ」


私は顔を赤くしながら全力で抗議した。

その瞬間、


「お前たち!

 こんなところで一体何をしているんだ?」


いつのまにか黒装束の3人組に私たちは囲まれた。

彼らは険しい表情を浮かべ、

私達を鋭い目で見つめている。


声をかけた男は、手を剣の柄にかけているし、

残り2人は怪しい光を放つ杖を構えている、

間違った発言をすれば、一触即発の事態になりかねない状況。


「こんな危険な森で焚火しながら踊ってやがるとは、

 こいつら魔族か?」


一休みしたばかりだというのに、

またすぐに危険な目に遭うなんて、

予想外な展開すぎて、私は固まっていた…。

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