第36話 闇の大魔導士リッチィーの野望:死の支配者が目指すもの END
砂煙が晴れると、
そこには先輩が棒立ちしたまま、
ただぼんやりと立っていた。
「後輩ちゃん!大変だ!
リッチィーが、
大爆発しちゃったよぉ!」
魔術を各部位に連動させ、
威力を何倍にも増幅させる強化魔術の奥義は、
相手を一撃で葬り去るだけの力を持っていた。
しかし、リッチィーの拳が触れた瞬間、
先輩の「バフ解除能力」が発動。
その結果、リッチィーは魔力の制御を失い、
連動させていた魔力回路は暴走を始め、
体が耐えきれずに、大爆発を引き起こしたのだ。
「もう、何が起こったのか
全然わからなかったすけど、
とにかく無事でよかったっす!」
私は急いで先輩の元へ駆け寄った。
すでにリッチィーの体は、
爆発で跡形もなく消え去っていた。
あの大爆発で体のすべてが、
吹き飛んでしまったのだろう。
最後はなんともあっけない終わりだった。
「あのね!攻撃が当たる瞬間に頭を下げて、
拳をおでこで受けたんだよ!
そしたら爆発したんだ!」
「いやいや!おでこで攻撃を受けたら
相手が爆発するなんて、
聞いたことないっすよ!?」
確かに、素手の格闘技では、
拳を額でガードすることはあるけど、
あんな凄まじい攻撃を、
おでこで受けて、
無事でいられるわけがない。
先輩に何か異常がないか、
念入りに観察してみると、
あることに気づいた。
「あっ! おでこがちょっと
赤くなってるっす!」
「え!? 跡が残ったら嫌だから、
後輩ちゃん、
薬草のエキスちょうだい!」
私は正直、薬草を塗るのは大げさな気もしたが、
マジックバッグから薬草のエキスを取り出して、
先輩に塗ってあげた。
「薬草の効果どうだった?
「塗ったら
すぐに赤みが引いたっすよ!」
そんな会話をしていると、
先輩が急に私の背後を凝視しはじめた。
目が大きく開き、驚いた様子だった。
「ねぇ、後輩ちゃん…
なんか…後ろのほうに、
黒い炎がゆらゆらしてるよ!?」
背後から、かすかに音が聞こえる。
まるで何かが、
燃えているかのような…。
「えっ?私の後ろに
何があるんっすか!?」
気になって仕方なく、
恐る恐る振り返ると、
思わず叫んでしまった。
「うわっ!なんすかこれぇ!
真っ黒だし、
不気味っすね…」
なんとそこには、
リッチィーの魂とも思える黒い炎が、
空中で静かに揺らめいていたのだ。
「あっそうだ!
いいこと思いついた!
ニャンタの空き瓶を使う時だ!」
先輩は空き瓶をバッグから取り出すと、
勢いよく振り回し、
黒い炎を瓶の中に閉じ込めた。
「リッチィーのソウル、
ゲットだよ!
記念にバッグの中にしまっておこう」
ビンを片手で突き上げて
「ゲットしたぜ!」とアピールし、
そのままバッグにしまおうとしたその瞬間―
(おい、ここから出せ!)
何か声が聞こえたような気がした。
しかし、先輩はまったく気にせず、
瓶をバッグに収納してしまった。
もしかして……
まだ生きてるんじゃ!?
「先輩!今、ビンから何か
聞こえた気がするっすけど!」
「え!? 怖いこと言わないでよ!
私には何も聞こえなかったよ!」
そのとき、ニャンタがにやりと笑って、
私たちに声をかけてきた。
「よくやったな、クルミ!
見事にダンジョンのボスを倒したじゃないか
これで合法的に宝を奪えるぞ!」
よく見ると、ニャンタの手には、
リッチィーが持っていたはずの
「神が落とした魔導書」が握られていた。
え!? いつの間にそれ回収したんすか?
爆発で消えたかと思ったのに……
流石ニャンタさん抜け目がないっすね。
「よし、それじゃあ後輩ちゃん!
金目のものを探しに行こう!」
「ちょっと待ってっす!
その言い方、
完全に盗賊っすよ!?」
相手がアンデッドだからいいものの、
人の住居に勝手に侵入して、
主を倒して略奪するなんて……。
人間相手にこんなことをしたら、
裁判で有罪確定だ。
結局、冒険者って、
道徳よりも報酬を優先しなきゃ、
生きていけない存在なんすね。
「あれ? 壊れたツルハシが
元に戻りかけてるよ!」
先輩が指さす方向を見てみると、
ツルハシの破片がカタカタと音を立てて、
地面を這い回りながらひとりでに集まってくる。
「え、なにこれ!怖っ!?」
武器が自動修復するなんて、
もっとこう、光に包まれて
神秘的に復元するのかと思っていた。
だが現実は、バラバラの破片が不気味に動き出し、
勝手にくっついていく様子は、
まるで怪奇現象そのものだった。
「先輩、これ絶対夜に見たら
トラウマになるやつっすよ」
「でも、どんどん治ってるよ!」
しかし、先輩はそんなこと気にもせずに、
復元途中のツルハシを拾い上げると、
そのままバッグにポイッとしまった。
「これでまた使えるから
ラッキーだね!」
先輩はケロッとした顔で笑っていた。
ツッコミを入れる気力もなくなってきた私は、
もう深く考えるのをやめた。
「先輩!とにかく金目のものより、
元の世界に戻るための
ポータルの素材を探すっすよ!」
「そうだった!
ポータルの素材探さなきゃね!」
「とりあえず、価値がありそうなアイテムを
マジックバッグに詰め込め!
後で俺が吟味してやる!」
私と先輩は、
不気味なリッチィーの研究室を
手分けして探索することにした。
「これは使えるかも!
これもレアっぽい!」
ビン詰めにされたモンスターの部位や
謎の液体を片っ端から、
マジックバッグに詰め込んでいく。
「先輩、そのビン、
怪しい煙出てるんすけど!
バッグに入れるんすか!?」
「きっと大丈夫だよ!?
冒険にいつか役立つよ!」
いや、絶対大丈夫じゃない気がするっす…。
私は先輩とは違う部屋を物色しに、
移動することにした。
ちなみに、プルルは疲れて、
私の背中でぺったりと、
平らになって眠っていた。
あまりの平らさに、
スライムというより
もはやただの溶けたゼリーと化していた。
「プルル、
どんだけ力抜いてるんすか…」
呟きながら部屋を移動すると、
そこで見つけたのは、
リッチィーの私物が置かれた部屋だった。
机の上にはメモや本が散らかっている。
書いていたノートらしきものも見える。
「これは暇なときに
読んどいたほうがいいかも
しれないっすね」
重要かもしれないので
机にあるものを全部バッグに、
詰めることにした。
「見られたくない物も
あるかもしれないけど、
とりあえず全部回収するっす」
そして、私はリッチィーの部屋で
とんでもないお宝を発見した。
それは冒険に欠かせない必須アイテムだった。
「先輩!こっち来てっす!
世界地図を発見したっすよぉ!」
私の叫び声に気づいた先輩が、
こちらへ駆けつけてくる。
そして地図を見た先輩の第一声は――
「後輩ちゃん、
なにかと思えば…
地図なんてお宝じゃないよ!」
「何言ってるんすか先輩!
地図がどれだけ貴重か、
わかってないっすね!」
異世界では、
見知らぬ土地が広がっており、
道に迷う危険が高い。
地図があれば、
現在地や目的地を正確に把握できる。
実際、私たちはこれまで、
自分がどこにいるかも、
どこに向かっているかも分からなかった。
「じゃあ質問するっすけど、
今私たちがどこにいるか、
先輩はわかるっすか?」
「何言ってるの!
森の中に決まってるじゃん!」
先輩の答えに困惑しつつ、
私は半分だけ表示された、
世界地図を広げて説明することにした。
地図は古いけれど、
人が住んでいるエリアがわかれば、
今も同じ場所に都市がある可能性は高い。
「この地図によると、
今私たちがいるのはこの辺りっす。
森の赤い旗がある場所がここっすね。
森の出口から南東と南西に、
それぞれ人間の都市があるっす!
こんな風に地図があれば、
目的地へのルートもわかるから、
効率的に移動できるんすよ!」
「そういえば森を出たらどうするか、
全然考えてなかったよね。
さすが後輩ちゃんだよ!」
先輩は感心した表情で何度も頷いていた。
もし私がいなかったら、
地図なんて無視していたに違いない。
本当にやれやれっす。
古墳の地下を、
あらかた探索し終えて外に出ると、
すでに夕方で日が沈みかけていた。
「もう夜になるね!」
「コテージっす!
今日もコテージを要求するっす!」
「仕方ないな。
コテージを出して休むか
よし、お前らついてこい!」
私たちは再び古墳の一番上まで階段を上り、
ニャンタがコテージを取り出し設置した。
お墓の上に家を置くなんて、
罰当たりな気もするけど、
今日は疲れたから休みたかった。
「そういえば、
ライラさんたち、
どこ行ったんだろう?」
「あっ、忘れてたっす」
「あいつらなら、
邪魔だからコテージの中に
突っ込んどいたぞ」
ふとソファを見ると、
ライラさんとエリスさんが、
気絶したまま寝ていた。
「この人たち、
いつもソファで寝てばかりっすね
でもまあ、無事で何よりっす」
「私も泥まみれで汚れてるし
シャワー浴びて
早めに寝ようかな!」
そう言って、
先輩はシャワールームへと消えていった。
「明日は森の出口を目指すぞ
早めに休んどけよ」
異世界に来てからというもの、
毎日がハードだ。
私の体力と精神はすでに限界を超えていた。
結局、古墳の謎バリアの正体は、
解明できなかったけど、
ニャンタさんがいればなんとかなるはず。
遠くでオオカミの遠吠えが何度も聞こえる中、
私はベッドに潜り込むと、
あっという間に夢の世界へと旅立った。
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