第22話 スケルトン軍団の襲来!先輩とコテージ防衛戦 END

骨将軍の思考は、単純な楽観とは程遠いものだった。

「このまま押し切れば勝てる」

そんな甘い考えではない。


彼は、目の前の少女に対して、

未だに拭えぬ"未知の恐怖"を感じていたのだ。


金髪の少女のよそ見、

会話しながらも攻撃を捌く余裕、

そして——不気味なほどの落ち着き。


その全てが、彼を不安にさせていた。


「まずはあの金髪を始末し

 その次にあの茶髪だ

 どんな手を使っても、速攻で葬り去ってやる……!!」


だが、その焦りが、

骨将軍の戦い方を狂わせていく。


攻めの意識は、

無意識のうちに"卑劣な戦術"へと歪められていた。


「なんか剣を構えてたっす」

「あれ、カッコいいポーズだね!」


「おい炊飯器

 あれは突きの構えだ

 油断するなよ」


骨将軍は相手を見据えながら、

剣を構え、突撃の体勢を整える。

鋭い突きを放つ準備は万全。


「次の一撃で葬り去ってやるよ」


そう呟くと同時に、

地面を勢いよく踏み込み、

瞬く間に地面に穴を穿つほどの衝撃を生み出す。


その勢いのまま、高速で接近。

しかし、それは"囮"だった。

本当の狙いは、剣による一撃だけではない。


突撃し、間合いに入る直前、

彼は足元の地面を強く蹴り上げた。


巻き上げられた土は、

一直線に後輩ちゃんの目を狙い、

視界を遮るように飛んでいく。


典型的な"目つぶし攻撃"である。


後輩ちゃんは反応する間もなく、

土が目に直撃。


「ぎゃぁぁ!

 土が目に入ったっすぅ!!

 目が、目がぁぁぁ!」


叫び声をあげた彼女は、

視界を奪われ、

無防備な状態に陥った。


その瞬間を見逃さなかった骨将軍は、

勝利を確信し、

大ぶりの一撃を繰り出そうとした。


「隙ありぃぃ!!」


これで終わりだと、

彼は完全に油断していた。


しかし、その瞬間、

目を疑う光景に直面した。


目つぶしが効いているはずの状況で、

プルルのアルミスの腕が一本に集約され、

驚くほど巨大化していたのだ、


「プラァァァ!!」

「何っ…!?これは…!」


そして、その巨大な腕が

まるで怒りを爆発させたかのように

彼の黄金の鎧に向かって容赦なく叩き込まれた。


予想外の一撃に、

骨将軍の思考が一瞬凍りついた


先ほど放った目潰しは、

確実に相手の視界を奪い、

そのまま仕留めるための一手だった。


だが、信じがたいことに、

カウンターを食らってしまったのだ。


後輩ちゃんが目を押さえ、

立ち尽くしているその間も、

プルルは確実に骨将軍の隙を見抜いていた。


「なんだとぉ…!

 目が見えないはずなのに、なぜだ…!?」


視界を奪ったとしても、

プルルには全く影響がなかった。


さらに体勢崩れた隙を見逃さず、

アルミスの腕を両腕に戻し

次々と猛攻のラッシュを加える。


「プラァプラァプラァプラァプラァ!!」


プルルの猛攻が骨将軍の体を激しく揺るがし、

その度に伝説級装備である、

黄金の鎧が軋みを上げる。


やがて、衝撃の波に耐えきれず、

鎧の表面には無数の亀裂が走り始めた。


一撃一撃がまるで雷鳴のごとく轟き、

重厚な衝撃音を響かせながら、

骨将軍の体に炸裂していく。


「なぜだ…!

 なぜこうなった…!?」


プルルはその焦りを全く意に介さず、

さらに攻撃の手を緩めることはなかった。


怒涛のラッシュの中で、

無数のパンチを浴びせ続け、

ついに最後の一撃が放たれた。


「プラァァ!!」


その一撃によって、

骨将軍の身体は空高く打ち上げられた。


彼の鎧が砕け散る音が、

まるで敗北を告げる鐘のように響く。


無力に空中を舞い、

その落下先には、

ニャンタの壺が待ち構えていた。


煮えたぎるように泡立つ虹色マグマが、

グツグツと音を立てていた。


「まさか…こんな…!」


骨将軍の体は、見事に足から壺の中へと突入し、

そのまま液体に飲み込まれていった。


「ぐぎゃぁぁ!!

 体が……体が溶けていくぅ!!」


体が徐々に崩れ、

溶けていく感覚に耐えきれず、

骨将軍は絶望の叫びを上げる。


主から授かったはずの魔法の装備、

それすらも、ドロドロに溶け出していく。

その光景は、言葉にできないほどの衝撃だった。


「なぜだ……!? 炎耐性のあるはずの装備が……

 なぜこんなにも簡単に溶けるのだ……!?

 この溶岩、一体何なんだぁぁ!!」


骨将軍はスケルトン、

つまり、痛みを感じない。


だが、自分の生命が少しずつ消えていく感覚は、

はっきりと分かっていた。


肉体はすでに溶け落ち、

残るは上半身の骨のみ。

生命の灯火は、確実に消えかけていた。


「プルル、すごい!

 レベル99のボーンジェネラルを

 倒しちゃった!」


「……目が見えるようになったら……

 戦いが終わってたっす……」


私は水筒の水で顔を洗いながら、

ぼそっと呟いた。


「最初から様子見なんかせずに、

 全力で襲ってきてたら勝ててたかもな?

 あいつの慎重な性格があだになったってわけだ」


あの骨将軍は

明らかにタンク型の戦闘スタイルを持っていた。


タンクとは、戦闘で敵の攻撃を引き受け、

味方を守る役割を担う存在だ。


彼はその高い耐久力と防御力を駆使し、

長時間にわたり敵の攻撃を耐え抜くことで、

味方に反撃のチャンスを与えるタイプの戦士だった。


タンクであるボーンジェネラルは、

ただ防御に徹するだけでなく、

剣の腕前も一流だった。


そんな相手を打ち破るのは、

決して容易ではなかったはずだが、

プルルは見事にそれを成し遂げたのだ。


「主よ…申し訳ありません…

 任務を遂行できませんでした…。

 あなたが、この呪われた世界を救……手…」


その最後の言葉とともに、

骨将軍の体は完全に溶け去り、

跡形もなく消えた。


「なんか、溶ける前に

 何か言ってた気がするっすけど

 とにかく、プルルの勝利っすよ!」


こうして、夜のスケルトン軍団の襲撃は幕を閉じた。

誰もが予想していなかったプルルの成長によって、

戦いは終わりを迎えたのだった。


「とりあえず、スケルトンの残骸を

 全部このツボのマグマで溶かすぞ」


ニャンタと先輩は、

周囲に散らばっていた骨を次々とかき集め、

虹色マグマにガンガン放り込んでいく。


「ニャンタさん全部溶かすんすか?

 地面にちょっとくらい転がしといても

 いいと思うんすっけど?」


「いや、できるだけ溶かしておきたいんだ

 面白いことになるぜ

 結果は、明日のお楽しみってやつだな」


骨将軍の黄金の鎧や剣などの装備品も、

ツボの中でドロドロと溶けていく。

それを見ながら、私はふと疑問に思った。


(ニャンタは一体、何を企んでるんだろうか……?)


私も後片付けを手伝おうかと思ったら、

いきなりプルルが背中から滑り落ち、

平べったくなって動かなくなった。


「プルル……!?」


明らかに異常な状態。

私は不安に駆られ、思わず叫んだ。


「ニャンタさん!!

 プルルが……プルルがぁぁ!!

 変な状態になってるっすよぉ!!」


「どうした、見せてみろ……」


ニャンタはプルルを掴み上げ、

その様子を確認すると、目を見開いた。


「……こっ、これは……。」


瞬の沈黙。

そして、ニャンタは静かに言い放った。


「ただ疲れて寝てるだけだ。」


「……へ?」


「コテージに運んで

 絨毯の上にでも転がしておけば元気になるだろ」


「寝てるだけっすか!?」


「スライムって寝ると

 こんなに平べったくなるんだね」


考えてみれば、プルルはアルミスに変換し、

腕を生成して、あれだけのラッシュを繰り出していた。

疲れるのも、当然だった。


プルルはただ、限界まで力を使い切り、

深い眠りに落ちていただけだったのだ。


「炊飯器とプルルは先に帰って

 シャワーでも浴びて休んどけ。

 明日は森の中を移動するから、覚悟しとけよ。」


「スケルトンはだいたい溶かしたから

 私はこれからカインやレオさんを探して

 テントの薬草ベッドに寝かせにいくね」


先輩とニャンタに後片付けを任せ、

私はプルルを両腕に抱えながら、

コテージへと戻ることにした。


「じゃあ、お言葉に甘えて、先に帰るっす。」


こうして、

異世界での初めての一日が、

ようやく終わろうとしていた。


最初は、先輩が勝手に連れてきたプルルに、

ファイアーボールで襲われて驚いた。


だけど今では、

頼れるナイトとして、

私を守ってくれる心強い仲間になっていた。


異世界から戻るには、

ポータルチェストを作る必要があるらしいけど、

どうなることやら。


明日もまた、

何が待ち受けているのかは分からないが、

きっと危険な冒険が続くに違いない。


本音を言えば。

このままコテージに閉じこもって、

静かに日々を過ごしたい。


そんな気持ちが、

心の片隅に芽生えている私だった。

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