第21話 スケルトン軍団の襲来!先輩とコテージ防衛戦 part9
骨将軍は、自分の剣がアルミスの腕に弾かれた瞬間、
その異常な威力に驚き、困惑した。
(……この娘、
どうやってアルミス鉱石を自在に操っている……?)
わが主ですら使いこなせなかった魔法の鉱石。
魔力制御すら難しく、
理想の武器になり得なかったはずの素材。
それを、この少女はまるで手足のように動かしている。
だが、先ほどの一撃を通じて、
骨将軍はある"違和感"を覚えた。
(……もし、我が主が求めた
"最強の一撃"だったならば、
この剣は粉々に砕け散っていたはず……)
だが、思ったほどの衝撃はない。
確かに強力ではあるが、
自分を倒せる決定打にはなりえない威力だ。
骨将軍は目の前の金髪の少女を鋭く見据え、
一つの結論にたどり着いた。
未熟。
「なるほど……お前
その力をまだ完全には使いこなせていないな?」
その言葉は、確信に満ちていた。
彼は一瞬考え込む。
目の前の少女は、
紛れもなく魔術の天才。
未熟とはいえ、このまま成長すれば、
いずれとてつもない魔術師になるだろう。
だが、今はまだ未完成。
(今のうちに倒して
我が主に差し出せば
忠義を讃えられるはずだ)
骨将軍の眼光が鋭さを増す。
「……その腕を維持するのに
相当な魔力を消費しているだろう?」
にやりと笑いながら、彼は静かに剣を構えた。
冷ややかな笑みを浮かべながら、
骨将軍は私に向かって、
鋭い声で告げる。
「どれほど持ちこたえられるか、
試させてもらうぞ……」
ゾクリ。
その言葉とともに、
空気が一瞬で張り詰めた。
まるで世界の温度が数度下がったかのように、
場の雰囲気が一変する。
(いや、私じゃなくて
プルルが腕を操ってるんすけど!?)
言い返したいのに、
喉が強張って声が出ない。
肌を刺すような、
得体の知れない圧力が辺り一帯を包み込み、
全身にじわりと冷や汗が滲む。
目の前のこの存在が、
何か恐ろしい攻撃を仕掛けてくる。
そんな悪寒が、背筋を這い上がる。
「……なんか、嫌な予感がするっす」
背後で透明化したプルルが、
私にぴったりと張り付きながらじっと骨将軍を見つめていた。
相手との距離は、わずか数メートル。
攻撃が来れば、即座に対応しなければならない。
骨将軍は、ゆっくりと剣を握り直す。
動きが一瞬止まったその刹那、
彼はスキルを発動。
「行くぞ…
ネクロ・シンドローム!」
その言葉とともに、
剣が音速を超える勢いで閃く。
一瞬にして、無数の斬撃が空間を裂いた。
このスキルは、使い手の実力に応じて、
超高速の連撃を繰り出す必殺技。
彼は、わずか1秒の間に3連撃を叩き込む。
容赦なく振るわれる斬撃の嵐が、
後輩ちゃんを追い詰めていく。
「プラァラァラァラァラァ!!」
「ぎゃぁぁぁ!!」
空気を切り裂く鋭い音が連続で響き渡る。
まるで止まることのない死神の鎌、
それが、後輩ちゃんへと容赦なく襲いかかる。
だが、プルルも負けていなかった。
両腕を交互に繰り出し、
猛スピードで襲い来る斬撃を迎え撃つ。
バキィン!!
ギィィン!!
銀色の拳と闇の剣がぶつかり合い、
火花が乱れ飛ぶ。
空気が震え、
肌にまで衝撃が伝わってくる。
私はただ呆然と立ち尽くし、
足がすくんで動けない。
恐怖と混乱が一気に押し寄せ、思わず叫ぶ。
「やばいっす!!
目の前で火花だけが散りまくってるっすぅ!!
マジでこれやばいっす!!」
プルルの拳と骨将軍の剣が交錯し、
火花が雨のように降り注ぐ。
それはまるで、
夜空に煌めく流星群のようだ。
「プッププー
(この程度の攻撃ならへっちゃらだ)」
プルルは透明になったまま、
しっかりと私のローブに張り付き、
アルミスの腕を動かしている。
一方の骨将軍は、
完全に勘違いしていた。
どうやら、この不可思議な腕を操っているのが
私だと思い込んでいるらしい。
彼は冷ややかな笑みを浮かべながら、
じりじりと距離を詰め、
私に向かって話しかけてきた。
「ほう? 驚いて叫びながらも
俺の攻撃に対応するとはな……」
(いやいやいや!! ちょっと待つっす!!
私、何もやってないんすけど!?)
心の中で必死にツッコむが、
当然伝わるはずもない。
骨将軍は私の狼狽ぶりを嘲笑っていたが、
同時に、自分の攻撃がことごとく防がれている事実に驚愕していた。
(……何だこいつ?
明らかにビビっているのに、
俺の攻撃をすべて防ぎきってやがる……)
不気味な沈黙が流れる。
やがて、骨将軍は鋭く目を細め、静かに言った。
「ほう……これに耐えるか
なら、本気を出すとしよう」
その声音が、先ほどまでとは明らかに違う。
「ブースト」
その瞬間、骨将軍の全身が黄色いオーラに包まれた。
「……っ!!」
ただの気配だけで、空気が一変する。
肌にまとわりつくような圧迫感。
本能が告げる——次元が違う攻撃が来る。
【ブースト】身体能力を劇的に向上させるスキル。
接近戦での戦闘力を最大限に引き出し、
A級冒険者ですら、
一握りしか習得していない技だ。
そして、ブーストには、
さらにその先が存在していた。
ダメ押しとばかりにそれを発動。
「超ブースト」
ゴォッ!!
次の瞬間、
骨将軍の身体がオレンジ色のオーラに包まれる。
地面が軋み、空気が震える。
「プププー!(なにあれ、雰囲気が変わった!)」
「後輩ちゃん!!
骨将軍の全身が一瞬光ったよ!!」
「見てたっす!!
あれは一体なんなんすかぁ!?」
「能力向上のスキルだ
今までとは次元が違う攻撃が来るぞ!」
【超ブースト】それは、ブーストをさらに強化し、
身体能力を極限まで引き上げる強化技だ。
彼がこれを発動させたということは、
この戦いが単なる狩りではなく、
命を懸けた決闘だと認識されたことを意味していた。
それは後輩ちゃんにとっては、
いい迷惑であった。
「スキル【ネクロ・シンドローム】再発動!」
骨将軍が鋭く叫びながら、
闇の剣を一気に振り抜く。
今度は、毎秒10連撃。
まるで暴風のごとく襲い来る斬撃の嵐!
空間が引き裂かれるような連撃。
速度、重さ、すべてが先ほどとは比にならない。
「プラァラァラァラァラァ!!」
プルルは必死に両腕を振りかざし、
次々に襲いかかる攻撃をなんとか凌いでいたが、
その表情には焦りが浮かんでいた。
「プププ(ダメだ攻撃が捌ききれないよぉ)」
プルルが苦しげに呟く中、
骨将軍は、淡々と攻撃を繰り出しながら、
まるで勝利を確信したかのように静かに呟いた。
「adapted(アダプテッド)
お前の攻撃にはもう適応した」
プルルの動きが、確実に鈍っていた。
剣を弾く力が弱まり、攻撃の隙が増えている。
その変化を見逃さなかった骨将軍は、
冷酷な笑みを浮かべながら続けた。
「攻撃の射程は1.5メートルといったところか?」
プルルの動きは、
明らかに限界を迎えつつあった。
ブーストによる強化連撃。
それは、通常の攻撃とは桁違いの破壊力を持つ。
「近接戦闘の経験が乏しいのだろう?
辛うじて捌いているが
もう限界が見え始めてるな?」
その時、私は目の前で繰り広げられる高速の攻防を
まったく目で追えず、
何が起きているのか理解できなかった。
「プププ…(もう、これ以上は…無理だ…)」
プルルの声に、
確かな疲労が滲む。
戦況が優勢なのか、劣勢なのかすらわからない。
ただ、私はその場に棒立ちすることしかできなかった。
だから、私は考えるのをやめた。
すべてをプルルに丸投げすることにした。
それは私から驚きの表情が消えることを意味していた。
一方、骨将軍は相手の防御が徐々に鈍っていると判断し、
楽観的に構えていた。
「これなら、すぐに片がつく」そう思っていた。
だが、次第に胸の奥に疑問が生まれる。
何かがおかしい。
骨将軍は攻撃を繰り出すたびに、
わずかに迷いが生じ、
気づけば速度と威力が落ち始めていた。
それにプルルが真っ先に異変に気づいていた。
「ププ(……あれ? 攻撃が軽くなった?)」
目の前の金髪の少女は、
まるで動じていなかった。
息も乱さず、汗ひとつかいていない。
むしろ、余裕すら感じさせる態度だった。
優勢のはずなのに
この速度で攻撃を繰り出してるのに、
相手が疲れている素振りすら見せないのだ。
(俺はスケルトンだからスタミナは無限、
だが、こいつは人間だ。
普通なら、もう限界を迎えているはず)
疑問が疑問を呼び、
攻撃がさらに鈍る。
(それに、この異常な腕を生成し、
自在に動かすには莫大なエネルギーを要する。
まさか……まさか、こいつの魔力は無限なのか?
さらに、金髪の少女が仲間とこちらに目もくれず、
よそ見しながら楽しげに話し始めたことで、
その不安は一層強まる。
(こいつ死が恐ろしくないのか!?)
「先輩、この骸骨がさっきから
派手なポーズを決めてるっすけど、
何をしてるのか見えるっすか?」
「後輩ちゃんを叩き斬ろうと、
ブンブン剣を振り回してるよ」
私は再び、骨将軍に向き直る。
(あっやっぱり攻撃されてたんすね
全然分からなかったっす)
猛攻を受けている私を見て、
先輩がニャンタに尋ねる。
「ねぇニャンタ、私も加勢したほうがいいかな?
今みんなで襲えばタコ殴りにできるよね?」
「ダメだ、行くな!
プルルの経験にならねぇだろうが」
(プルルが成長してくれるのは嬉しいっすけど……
私の安全性を第一に考えてほしいっす
あと、目の前の火花の量が半端ないんすけど!?)
私は、もうこんなタイマンじみた戦いじゃなくて、
ゲームのようにみんなでボスを集団で叩くべきだと考えていた。
だが、ニャンタは戦闘に加わる気など微塵もなさそうで、
諦めるしかなかった。
まあ、実際にはタイマンではなく、
正確には二対一の戦いなのだが。
プルルは、まるで騎士が馬を駆るように、
私の体に張り付きながら魔力操作を駆使し、
骨将軍と渡り合っていた。
「……まるでこいつの意思とは関係なく
両腕が勝手に動いているようだ。
どういうことだ……?」
骨将軍は、本気を出せば勝てると信じていた。
しかし、戦況はまるで彼の思い通りにならない。
時間が経つにつれ、苛立ちと焦りが募っていく。
次第に、彼の攻撃は勢いを失い、
恐怖がその心を蝕み始めていた。
相手の連撃が続くなか、プルルは冷静に、
そして着実にその攻撃を捌き続けていた。
その頃、先輩はというと、
地面に散らばる骨を拾い、
黙々とツボに放り込む作業を再開していた。
拾っては投げ、
拾っては投げをひたすら繰り返す。
だが、あるスケルトンの腕を見つけた瞬間、
先輩は目を輝かせてツボに向かって走り出し、
興奮した声を上げた。
「ニャンタ見て見て!
スティール・ウォーカーの手を"b"の形にして
マグマに漬けると、かっこよく溶けていくよぉ!!」
「マグマで溶けても帰ってくるぞってか?
クルミ、お前は分かってねぇな……
あれは帰ってこないからカッコいいんだぜ。」
「お前ら、スケルトンで遊んでんじゃねぇ!!」
(まさか、戦闘中に目の前でスケルトンの
処刑ショーを見せつけられるとは……。
命のないものには、人権もないってことか……?
くそ、こんなことに気を取られている場合じゃない)
そんな中、私はニャンタのほうに顔を向け、
真顔で質問を投げかける。
「ニャンタさん……
私、動かないほうがいいんっすかね?」
「動くなら後ろ向きに歩け。
背を向けた瞬間、容赦なく刺されるぞ」
「おい、よそ見してんじゃねぇぞ!!」
骨将軍は怒鳴る。
改めて金髪の少女の様子を見て、
あることに気づき、ぞっとしたからだ。
(こいつ、こっちを見ずに
攻撃をさばいている……だと?
俺の剣を見ずに、自然と捌いている……?
まさか、俺の斬撃を見切りつつあるとでもいうのか……!?)
その動揺が隠しきれず、
無意識に力任せの攻撃から、
小技へと切り替えてしまっていた。
戦士同士の戦いには、
ただの能力だけでなく、
こういった駆け引きが重要だ。
フェイントもまた、戦略の一つ。
攻撃すると見せかけて、相手を惑わせ、
隙をついた瞬間に斬撃を繰り出す。
それが骨将軍の計画だった。
だが、フェイントを仕掛けた瞬間、
金髪の少女はまるで俺の意図を見抜いていたかのように、
猛スピードで後ろ歩きで後退を始めた。
「な、何なんだ、こいつ……?」
フェイントをかけてしまったせいで、
逆に距離を取られ、
体勢を立て直される結果となった。
「ちっ、まあいい、
次で確実に葬ってやる」
攻撃するたびに、
少女の冷静な態度と確信に満ちた動きが、
俺の焦りを加速させていく。
なぜ、この少女はフェイントを見抜けたのか?
まるで、最初からすべて分かっていたかのように見切られた。
考えれば考えるほど、答えが見つからない。
だが、その答えは実に単純だった。
後輩ちゃんは、
ただ怖くて逃げようとしていただけだった。
迫り来る斬撃の嵐に圧倒され、
彼女はとにかく逃げ出したかった。
ずっとタイミングを計りながら、
距離を取る隙をうかがっていたのだ。
骨将軍がフェイントをかけた瞬間、
彼が一瞬、硬直したその隙を逃さず、
彼女は即座に後退したのだった。
「火花が、火花が止んだっすぅ!!」
「炊飯器、よく見て引いたな。
タイミングはバッチリだったぜ」
そして、この"偶然"はプルルにとってもまさに命拾いだった。
すでに限界を超えており、
もしあのまま連撃が続いていたら間違いなく、
耐えきれなかっただろう。
そして、フェイントに引っかかって
致命的な一撃を食らっていたかもしれない。
プルルは驚いた。
まさか、相手が攻撃するふりをして、
実際には攻撃しないという小技を使うとは思いもしなかった。
戦闘において、まだまだ自分の経験が浅いことを痛感する。
戦いとは、ただ力をぶつけ合うだけではない。
相手の心理を読み、技術を駆使し、
駆け引きを制する、
そうした奥深いものなのだと。
さっきの攻防を通じて、
プルルは学んだ。
「後輩ちゃん
すごい攻防だったね」
「骨将軍も様子見してるっすね
なんとか一休みできそうっす」
魔物にもそれぞれ独自の個性があり、
戦闘スタイルも異なる。
彼は特に用心深い性格で、
その慎重さは生前の戦場での経験から、
培われたものだった。
暁の幻影団と対峙した際も、
まずはスケルトンを前線に送り込んで、
相手の力量を探った。
敵が強いと判断すれば、
無駄にリスクを冒すことなく撤退する。
勝算が見えたときのみ全力で殲滅にかかるのだ。
後輩ちゃんを狙ったときも、
いきなり全力で襲いかかることはせず、
まずは彼女の反応を観察して次の一手を考えた。
しかし、その慎重さが仇となり、
結果的にプルルに接近戦の技術を
磨く時間を与えてしまったのである。
「ププ(このままじゃダメだ)」
プルルは今の戦闘で、自分の力が
不足していることを痛感していた。
だからこそ、必死に考えていた。
連撃の嵐は確かに凄まじいが、
よく考えれば腕が増えているわけでもなければ、
全ての攻撃が同時に来るわけでもない。
ただ、順番に一撃ずつ、
繰り出されているに過ぎないのだ。
ならば、初撃をパリイして体勢を崩すか、
あるいはもっと強力な一撃を叩き込めば…
そう考えている時、
後輩ちゃんが作り出した硬直状態の中で、
あるひらめきが訪れた。
「ププップププ
(なぜ、これまでの方法に
こだわってたんだろう…?)」
その疑問は新しい戦術への突破口となった。
即席のアイデアではあるが、
やってみる価値はある。
賭けに出るしかないとプルルは決断した。
今、両者は距離を取り合い、
次の一手を見定めている。
骨将軍は次の攻撃をどう繰り出すか、
プルルは新たに閃いた必殺の一撃をどう放つか、
それぞれが、その瞬間を待っていた。
「プププッププ
(一度技を見られたら対策される
次で決めるしかない…!)
プルルは心の中で決意を固め、
目の前の敵に対峙した。
次の一撃で、勝敗が決まるだろう。
両者の間に張り詰めた空気が、
次の瞬間の激突を予感させた。
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