第20話 スケルトン軍団の襲来!先輩とコテージ防衛戦 part8

地面に這いつくばるネクロキャスターは、

今にも動き出しそうな不気味な気配を漂わせていた。


かつての冷酷な眼差しがわずかに輝きを取り戻し、

その暗黒の力を再び行使しようとしている。

ボーンジェネラルは反撃の始まりだと意気込んでいた。


しかし、その意気込みは、

すぐに無情な一喝によって遮られた。


「おい!炊飯器にクルミ、何やってんだ?

 魔物を倒したら、二度と復活しないように

 焼いて溶かすのが基本だろうが」


ニャンタが叫ぶや否や、その鋭い目は

ボーンジェネラルの隣で蘇生しかけていた

ネクロキャスターに向けられていた。


そして、ニャンタは素早くその頭蓋骨を掴み、

無造作に投げ飛ばした。

その頭蓋骨は宙を舞い、後輩ちゃんの足元へと転がった。


「ぎゃぁ、骸骨の頭が飛んできたっすぅ!」

「何やってんだ、てめえ!」


ボーンジェネラルは焦りを感じた。

これではネクロキャスターが復活できない。


彼は怒りに駆られて剣を抜き、

ニャンタに向かって攻撃を繰り出そうとした。


しかし、その瞬間、ニャンタの姿は突然消え、

次に目に入ったのは数十メートル先で

金髪の少女の隣に立っている姿だった。


「なんだあの猫は?

 一体どうやって、その距離を一瞬で移動したんだ!?」


ボーンジェネラルは、混乱の渦に巻き込まれていた。

スケルトンである自分たちは瞬きをしないのだから、

猫が一瞬で移動する瞬間を視認できないなど本来あり得ないのだ。


その時、先輩がリアさんを肩に担ぎ、

デッドアイの腕を二本脇に抱えたまま、

こっちに向かって戻ってきた。


「コテージまでリアさん運ぶね

 あとピカピカの腕も回収してきたよ

 プルルにあげる」


「プップー(ありがと!)」


プルルは、先輩が持ち帰ったアルカミスリルの腕に触れ、

吸収しようと試みたが、体内に溶け込む速度は思いのほか遅く、

スムーズにはいかない様子だった。


「プルルがスケルトンの腕を食べてるっす

 ニャンタさん大丈夫っすかね」


「スライムの考えることは分からんが、

 自分の意志で食べたいと思うもん

 喰ってんだからあいつも幸せだろ」


そう言うと、ニャンタはどこからともなく、

人間3人分ほど入る大きなツボを取り出した。

ツボの中からは煙が立ち上っている。


「ニャンタさん、なんすかこのツボ?」


「溶岩を入れたツボだ、

 これがあれば、魔物や処理が面倒なアイテムを溶かせるだろ

 まあ便利なゴミ箱と思っとけ」


マグマで魔物を処理するなんて、

まるでゲームっすよ。

あれっすか?水を掛けたら黒曜石にでもなるんっすか?


すると、リアさんをコテージまで運んでいた先輩が戻ってきた。

興味津々でツボの中を覗き込むと、

その中で煮えたぎるマグマに目を輝かせた。


「すっごい!

 ツボの中に本物のマグマがあるよ」


「おいクルミ!その辺に転がってる

 スケルトンの残骸を片付けるぞ。

 このツボにどんどん放り込んで溶かしてしまえ!」


「オッケー!」


ニャンタの激しいジェスチャーを理解したのか、

先輩は何の躊躇もなく、周囲に散らばる

スケルトンのパーツを次々とツボに投げ込み始めた。


溶岩の中でパチパチと音を立てながら、

スケルトンの骨が次々と溶けていく。


その様子を目の当たりにしたボーンジェネラルは、

激しい怒りを抑えきれなかった。


「お前ら、いい加減にしろ!

 そんなふざけた方法で処分してんじゃねぇ!」


スケルトンたちが二度と復活できないことを悟った彼は、

ついに行動を開始した。

彼はゆっくりとこちらに向かって歩みを進めてきたのだ。


「あれ?後輩ちゃん

 ボーンジェネラルが

 こっちに向かってきてるよ」


「ニャンタさん、今更っすけど、なんでスケルトンなのに

 あんな派手な黄金の鎧を着てるんすか?

 普通は暗い色の鎧とかが定番っすよね?」


「そりゃ露骨なまでの光と炎対策だろ

 あるいは、あいつが単に派手好きで、

 あのゴージャスなデザインを気に入ってるじゃねぇか?」


ボーンジェネラルが纏う黄金の鎧は、修復が完了し、

かつての輝きを取り戻していた。

その鎧の名は【イクリプス・アウリクス(光を遮る黄金)】。


見た目は、まばゆい黄金の輝きを放っている。

その輝きはまるで太陽や神聖な光を引き寄せ、

吸収しているかのようだった。


鎧全体に施された精密な装飾は、かつて暗黒の王が命じて

作らせたとされる伝説を裏付けており、

その軽量さにもかかわらず、絶対的な防御力を誇る。


物理的な攻撃だけでなく、

光や炎を伴う魔法攻撃にも完全な耐性を持っていた。


そして、手に持つ暗黒の剣、

【ナイトフォール・レイザー(宵闇の斬光)】は、

神聖な光の力を封じ込める暗黒の剣である。


刃は闇の力で満たされており、非常に鋭く、

さらに光の力を無効化する特別な力を備えている。

まるで太陽の光さえ吸収できそうな、黒く妖しい輝きを放っていた。


また、ボーンジェネラルの足元を守る靴

【ダスクウォーカー・グリーブ(黄昏を歩く者)】は、

夜の闇を纏うような黒い装甲であった。


その表面には太古の邪神が刻んだとされる

呪われた紋章が施されていた。


このグリーブは、装備者に闇の力を注ぎ込み、

その結果、彼の戦闘技術がさらに研ぎ澄まされる。

特に暗闇の中では、ステータス全体が飛躍的に向上させていた。


スケルトンジェネラルは、

まさに伝説の装備をその身に纏っていた。

ただ歩くだけでも周囲を圧倒する迫力を放っている。


「後輩ちゃんのほうに向かってるよ」

「炊飯器!気合で避けろ」

「なんで私のほうに来るんっすかぁ」


ちなみにプルルは頑張って

アルカミスリルダイトを消化しようとしていた

後輩ちゃんがいま襲われれば無防備な状態なのだ。


彼はまず、弱そうに見える金髪から狙うことに決めた。

先ほど、彼女が片手で高速の矢を止めたのには一瞬驚いたものの、

それだけのことであり、おそらく戦闘能力はないと考えたのだ。


ボーンジェネラルは、

目にも止まらぬ速度で後輩ちゃんに接近し、

その手に握る剣を高く振りかざした。


そのまま彼女を斬りつけようと、

剣を勢いよく振り下ろそうとした瞬間――


「後輩ちゃん、危ない!」

「何やってんすか先輩!」


そこには大の字になって

自分を守ろうとしている先輩の姿があった。


彼女はボーンジェネラルの一撃を真正面で受け止め、

そのまま倒れ込むことなく立ち続けていた。


「背中の傷は冒険者の恥だ!」

「何言ってんだコイツ?

 まあいい、まず一人始末した」


「先輩、それ、意味も使い方も

 完全に間違ってるっすよ!」


そんな中、私はふと、

先輩と家でテレビゲームをしていた時のことを思い出していた。


「後輩ちゃん、背中に傷を負うっていのは、

 冒険者にとっては、言わば「逃げました」っていう

 自己申告みたいなものだと思うんだ。


 だから、背中に傷がある冒険者は

 『実はちょっとヘタレです』って

 看板背負ってるようなものなんだよ。


 だから私はモンスターにエンカウントしても

 背中を見せて逃げることはしないのさ」


先輩は、ゲーム中でさえ、

まるで冒険者の誇りを守る使命があるかのように。

絶対に背中に傷をつけさせないように徹底していた。


その強い執着には、ただならぬものを感じた。

先輩には、他の人にはちょっと理解しづらいマイルールがあって、

それを一度決めたら絶対に曲げないところがあるんっすよね。


「先輩、今は戦ってる場合じゃないっす!

 すぐに飛行船に向かって、ここから脱出しないと、

 空飛ぶ〇が崩れてゲームオーバーになっちゃうっすよ!


そんな懐かしいやり取りが頭の中に蘇ってきた。

切り裂かれた先輩の上着は、

まるで闇に飲み込まれるかのように徐々に消え去っていった。


「ぎゃぁぁ、恥ずかしいよぉ!

 ニャンタぁぁ

 新しい服だしてぇぇ」


先輩は、消え去りつつある服を手で押さえながら、

全速力でニャンタのもとへ駆け寄った。

新しい服を受け取るや否や、慌ててそれを羽織り始める。


「今のは一体なんだったんだ」

「私にもさっぱりわかんないっす…」


その場にいた私達は、

奇妙な沈黙に包まれたまま互いに視線を交わしていたが、

いきなり、ボーンジェネラルがその沈黙を破って再び攻撃態勢に入った。


「まあいい、今度こそお前を斬り伏せてやる!」


「ぎゃぁぁ!

 まだ死にたくないっすぅ

 誰か助けてぇぇ」


あの剣で斬られると、きっと服が黒い霧のようなものに包まれ、

跡形もなく消え去ってしまうに違いない。

先輩がさっきそうなったのを見れば、その恐ろしさがよくわかる。


ニャンタさんは、このローブが

ほとんどのダメージを防ぐと言っていたが、

あの剣の直撃を受けて無事な保証はどこにもなかった。


ボーンジェネラルの剣が、

まさに私の数十センチ手前にまで迫ったその瞬間、

突如「プラァ!」という鳴き声が響き渡った。


同時に、金属同士がぶつかり合う鋭い音がし、

剣は何かに押し戻された。


「おい、貴様一体何をした

 それはなんなんだ答えろぉぉ」


青紫色に輝く二本の腕が現れ、

その手と腕の部分だけがまばゆい白銀に変わり、

瞬く間にガントレットのような形状へと変化した。


次の瞬間、そのガントレットが力強く振るわれ、

ボーンジェネラルの剣を弾き飛ばしたのだ。


「えっ何が起こったんすか?」


腕は空中に浮かび、私を守るように立ちはだかっている。

その材質はアルカミスリルでできているようで、

まるで夜空に煌めくプラチナの星のように神秘的に輝いていた。


「プルルが守ってくれたんすか?」

「プル!(やっと吸収できたよ!)」


プルルが力強く鳴いて答えてくれた。


プルルは、スケルトンがどうやって動いているのか、

ひたすら考えていた。

その秘密は魔力回路にあると気が付いたのだ。


そして、その魔力回路の仕組みを模倣し、

自らの体を変化させて、両腕を新たに作り出したのだ。


「我が主よ、私は夢を見てるのですか?

 あなたが、諦めた魔法を、

 私は今、目の当たりにしております」


ボーンジェネラルは主との過去の会話を思い出していた。


「どうしましたか、主?」

「君の部隊には、優秀なデッドアイの兄弟がいるそうだね。

 私が昔使っていた両腕を彼らに譲ろうと思うのだ。」


「それは、主が500年かけて精製した、

 純度100%のアルカミスリルの腕ではないですか?

 あれほどの貴重なものは、もう二度と手に入らないと聞いておりますが。」


「そうだ、それを私の腕にしようと、長い年月を費やした。

 だが、結局、求めていた結果は得られなかったんだ。」

「では、別の使い道があるのではないでしょうか?」


「残念ながら、この鉱石は柔軟性に欠ける。

 一度形を決めると、二度と変えることができないんだ。」


「もしデッドアイが倒され、人間に奪われた場合、

 その腕はどうなりますか?

 純度100%なら非常に価値があるのでは?」


「心配はいらない。人間にこの腕を扱える者などいないだろう。

 せいぜい、芸術品としての価値が残る程度だろうな」


「なるほど、理解しました。」


「最強の体を作るために使おうとしたが、やはり無理があった。

 別の鉱石か、魔物の素材で作り直すことにする」


「では、その腕、ありがたく頂戴いたします。」


「好きに使うといい、壊したとしても気にしないさ。

 私にはもう不要なものだからな。

 ただし、この鉱石の欠点を覚えておくといい」


そして主はアルカミスリルダイトの特徴を教えてくれた。


アルカミスリルダイトの最大の特長は、

軽さと頑丈さに加え、

魔力の伝導率が非常に高いことにある。


魔力を流すだけで、この鉱石の強度を変化させることができ、

切れ味を鋭くしたり、硬度を上げて壊れにくくしたりと、

さまざまな用途に対応できる。


だが、この魔力操作による「壊れにくさ」には、

実は重大なデメリットがあった。


アルカミスリルダイトは魔力の伝導率が高すぎるため、

細かい調整ができず、

全体に影響を及ぼしてしまうのだ。


例えば、手のひらだけを強化しようとしても、

結局は鉱石全体に影響が及び、

腕全体の重さが一気に100kgになることがある。


この世界の基本的な原理として、

重いということは硬いことに直結する。

重さと強度は切り離せない関係にあるのだ。


また、重い物質が硬い理由は、その密度と構造にある。

一般的に、重い物質は質量がぎっしりと詰まっており、

分子や原子が近い距離で強固に結びついているためだ。


この緻密な結びつきが、物質の強度や硬さを支える要因となっている。

密度が高いほど、外部からの力に対して内部構造が頑丈に耐えるため、

物体は変形しにくく、壊れにくくなるのである。


そのため、ダイヤモンドのような一部例外も存在するが、

基本的に重いものは硬いことが多いのだ。


そしてアルカミスリルは

一度加工して形を決めてしまうと、

再度溶かしたり形を変えたりすることができない。


この特性により、

もし魔力で柔軟性を高めるために強度を下げすぎると、

逆に簡単に壊れるリスクがある。


もしこの鉱石を液体のように自由に変化させ、

その形を原子レベルで操作できるなら、

重さや強度を自在にコントロールできる最強の武器となり得たのだ。


それは、接近戦が苦手な魔術師でも、

最強の近接攻撃が可能になることを意味していた。


この力で、いつでもどこでも、

最速かつ最強のパンチを繰り出せると、

主は理想を語っていた。


「わが主は、

 全距離対応型のマジックキャスターを目指すために、

 主はこの腕をお作りになったのですね。」


「その通りだ、デッドアイの魔力回路にこの腕を装着すれば、

 ただの骨よりも強度が増し、魔力も飛躍的に向上する。

 この力で、任務を遂行してくれ。」


「承知いたしました」


デッドアイという魔力特化のアーチャーがこの腕を使うことで、

放たれる矢はヴァルガルム級の火力を持つことができた。

術者の魔力次第でこの鉱石は驚異的な強さを発揮するのだ。


では、プルルがこのアルカミスリル鉱石を取り込み、

体を自由に変化させた場合、

一体どんな力を発揮するのだろうか。


プルルは、パンチを放つ瞬間にアルカミスリルを柔らかくして軽量化し、

素早く動いた後、攻撃が当たる直前に魔力を注ぎ込むことで、

重さと強度を一気に高め、強烈な一撃を繰り出したのだ。


スライムという種族の特性により、

アルカミスリルを液状化して自在に操ることができ、

どんな攻撃にも耐えれるうえ、決して壊れることはない。


そしてプルルは、生まれながらにして、

巨大なファイアーボールを生成するほどの

魔力操作の才能を持っていた。


その力を駆使して、

接近戦で最強の物理攻撃を魔術で再現するという、

彼の主が抱いた魔術師の理想を実現させたのである。


さらにプルルは、自分の体と腕を切り離し、

目に見えない魔力回路で繋いで操っている。


そのため、後輩ちゃんの頭上に、

まるで宙を漂う幽霊の腕のように、

二本の腕が浮かんで見えていた。


「おい、プルル。まさか自分の思い描いた

 力のビジョンをここまで実現するとは

 やるじゃねぇか」


しかし、プルルは体の半分を腕に変えたことで、

体が小さくなり無防備になるデメリットもある。

これは完全に攻撃に特化したスタイルであった。


「占い好きの私が、両腕の名前をつけてあげるね!

 プルルの夜空みたいな青紫の体と、輝く銀色の腕

 その名を【スター・プルルナ】と名付けよう」


「先輩、その名前は流石にやばいっす」

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