第19話 スケルトン軍団の襲来!先輩とコテージ防衛戦 part7

手を突き出したポーズのまま、ゆっくりと目を開けると、

鋭く放たれたはずの矢が目の前で静止していた。

まるで時が止まってしまったかのように。


しかし、夜の風がそっと髪を撫でていくのを感じた瞬間、

時間が止まっているわけではないことに気づいた。


しかし、全員の動きが止まっているように見える光景に、

再び、頭の中が真っ白になった。

やっぱり、時間が停止している!?


私の心は混乱し、時間の感覚すら曖昧になっていく。


え?私はこれから矢に刺される運命なんすかね?

でも、おかしいっすよ、危険を感じてからもう10秒は

経過してるはずなのに、何も起こってない…


「……な、なんだあれは

 矢が……止まってるだと?」


「俺たちの矢が……

 空中で止まりやがった」


「あっ骨がしゃべったっす」


遠くにいたボーン・ジェネラルは震える声で呟いた。

彼の目は信じられない光景に釘付けとなり、

ただ驚愕に満ちた表情で静止した矢を見つめている。


これじゃあまるで、私が手をかざしただけで、

矢を全部空中で止めてるみたいに見えるっすよね?あれ?

なんだか、この光景、どこかで見たことがあるような気がするんですけど…。


誰もが息を呑み、目の前の光景に呆然としていた。

周囲には沈黙が広がり、

ただ風が木々を揺らす音だけが響いている。


「後輩ちゃんすごい、

 手をかざしただけで大量の矢を止めるとか、

 これじゃあまるで、まるで」


その興奮した声のまま

先輩が驚愕の表情でこう叫んだ。


「救世主だぁぁ!」

「いや違うっすよ」


先輩の叫び声と共に、

空中に浮かんでいたすべての矢が一斉に地面に落ちた。

金属の響きが辺りに響き渡り、そして消えていく。


「後輩ちゃんかっけぇぇ

 ちょっと待っててすぐ戻ってるから」


先輩は興奮を隠せず、目を輝かせながら、

駆け足で負傷した二人を

コテージまで全力で駆け戻っていった。


そして、寝ているエリスさんの

弓と魔法矢が入った矢筒を奪って戻ってきた。


「私も弓使って攻撃しちゃおうかな!」


クインタプルスナイプは、

術者が魔力を込め精製した矢を

五連射で放つ強力なスキルだ。


その威力は術者の魔力に依存し、

時間が経過するとともに矢は次第に消えてしまう。


だが、その一瞬の殲滅力は

戦況を大きく左右する力を持っているはずだった。

それを無力化されたことで、デッドアイのプライドは大きく傷つけられた。


なぜ矢が空中で静止したのか?

その理由は、後輩ちゃんの背後で、

プルルが密かに活躍していたからだ。


体を透明にして大きく伸ばし、

飛んでくる矢をすべて無効化していたのだ。


「プーププ(頑張って絡めとったよ)」

「プルルありがとうっす」


スケルトン側から見れば、

後輩ちゃんがただ手をかざしただけで、

すべての矢を止めたかのように見えたのだ。


ネクロキャスターは、スケルトン召喚術の完成が

目前であるにもかかわらず、矢が空中で止まるのに驚き、

術を失敗してその場で立ち尽くしていた。


「遠距離攻撃を無効化するスキルなぞ

 見たことも聞いたことないわい」


ボーン・ジェネラルも、

驚きのあまり動けずにいた。

今の出来事に気を取られ、頭が混乱していたのだ。


「おい貴様、今、いったい何をしたあ!」


声を震わせながら叫んだ。

そのわずか数十秒の出来事で、隙が生まれた


「隙だらけだぞ…!」


カインとリアは、この絶好の好機を見逃さなかった。

二人はネクロキャスターの背後に忍び寄り、

息を合わせた一撃で、ネクロキャスターを一瞬で絶命させた。


二人はネクロキャスターを倒すことに

全神経を集中させていたため、

後輩ちゃんが矢を止めた瞬間を目撃することはなかった。


そのため、なぜ敵が突然笑い声を止め、

口を開けたまま硬直していたのか、

その理由を理解できなかったが、もうそんなことはどうでもよかった。


「残る敵は、ここにいる3体だけだ。」


唯一、アンデットを召喚できる

ネクロキャスターがやられた、

そのことに動揺を隠せない。


「ちっ、

 鬱陶しいことしてんじゃねぇぞ」


ボーンジェネラルはユニークスキル

【スケルトンリザレクション】を発動させた。


(俺が倒れない限り、こいつら精鋭は何度でも蘇るんだよ!)


このスキルによって、上位種であるスケルトンたちは、

たとえ一度倒されても、

骨が残っていれば約5分で復活することができるのだ。


倒されたのはイラついたが、

俺が骨を守り、時間を稼げばどうにでもなる。

冷静になり、すぐさまデッドアイに指示をだす。


「デッドアイ、こいつらを殺せぇ」


デッドアイの2体は、その命令に応じて即座に動き、

ドラゴナイト製の特殊矢を放った。

だが、カインは素早く対応する。


「ナイトヴェール、

 ミラージュエスケープ、騙されろ!」


彼は透明化と分身の魔術を連続で発動させ、

姿を消しながら7体に分裂して、

デッドアイを倒すべく移動を開始した。


そのため、デッドアイ達は、

どれが本物のカインなのかを

見極めることができず、混乱に陥った。


手当たり次第に矢を放ち、

次々と分身を狙い撃ち始めた。

カインにとってはその攻撃をかわすのは容易なことだった。


透明化した状態で相手の動きをしっかりと観察すれば、

いくら発射速度が速くとも、矢が放たれる方向を予測できる、

彼に当たることはない。


撃つ方向を透明な状態で目視できれば、

いくら発射スピードが速くでも躱すのは容易であった。

デッドアイは焦りを募らせ、ますます攻撃が乱れていく。


そもそも、カインが使う姿を透明にして自由に動き回るスキル自体、

チート能力といっても過言ではなかった。

彼は闇魔術に超特化したアサシンとして職業判定されている。


そう彼のステータスは・・・。


名前 カイン・ナイトレイ

職業 ナイトシェイドアサシン


ステータス

レベル: 80/99

HP:  12000

MP:  7200

攻撃力: 1800

防御力: 2500

魔力: 8000


状態異常耐性

毒: 無効 睡眠: 70% 麻痺: 70% 即死: 無効 呪い: 無効

属性耐性

火: 20% 水: 30% 風: 40% 土: 30% 氷: 20% 光: 10% 闇: 60%


固有スキル

ナイトステップ

シャドウブレード

ミラージュエスケープ

ヴェールオブナイト


カインは、数百人しかいないSランク冒険者の一人であり、

自ら立ち上げたギルド「暁の幻影団」は、わずか5名ながらも

Aランクのギルドパーティとして認定される実力を持っていた。


デッドアイがカインの相手になるはずもなかった。

カインにとって致命的だったのは、

戦術ミスを犯したことだけだった。


もし最初から敵を鑑定し、

作戦を練り直していれば、

ニャンタの予想通り7割の確率で勝利を収められたはずだ。


カインさえいれば、まだ勝機はある――

リアはそう信じていた。


「カインさん達を援護しなきゃ!

 いまこそ、エリスさんから

 借りてきた弓を使うときだ」


先輩はカインとリアたちの、

命運がかかっているこの瞬間、

何とかして力になりたいと感じているのだろう。


「というより、先輩…

 エリスさん、意識ないっすよね。これ、

 借りたんじゃなくて奪ってきたんじゃないっすか?」


「あとで返すから、問題ない!」


エリスさんは気を失っており、

彼女の弓を「借りる」なんてことはできるはずがないのだ。

そして先輩は弓を構えはじめた。


「ところで後輩ちゃん、

 弓ってどうやって使えばいいのかな?」


「私もよく分かんないすけど、

 糸みたいなとこに矢をセットして

 引っ張ると撃てる気がするっす」


弓を手に持ちながら、明らかに戸惑っていた。

普段から武器に詳しくない先輩にとって、

弓は完全に未知の領域だったのだ。


「弓って知識がなくても使えるんっすかね?」


「さっき後輩ちゃんが

 空中で止めた矢が消えちゃったから

 エリスさんが持ってた矢を使ってみる」


矢筒から一本の矢を取り出し、

意気揚々と装填を試みた。


しかし、矢に触れた瞬間、込められた魔術の力が急速に消えていく、

矢はただの普通の矢に変わり果て、

途端にその輝きを失ってしまったのだ。


そして、先輩は矢を装填しようと弓と格闘していた。

先輩が触れたものはすべてのバフが消え去るらしい…

エリスさんが矢を見たら、さぞかし残念がるっすね


「こうかな?これで撃てそうな気がする

 よし、あの黄金の鎧を貫いてやる!」


「先輩、見てるだけで危なっかしいっす

 弓使ったことないなら、

 やめたほうがいいっすよ」


「矢を止めたのには驚いたが、

 茶髪と金髪の二人は戦闘の素人だな

 デッドアイ、先に透明の奴から片付けろ」


先輩は意気込んで弓を構えたが、

そのフォームは見るからに不安定で、

弓をまともに扱えるとは到底思えなかった。


予想通り、矢は真っ直ぐには飛ばず、

狙ったはずの黄金の鎧から大きく外れて、

奇妙な弧を描きながら飛んでいった。


ところが、その矢は運悪く、

ナイトヴェールで透明化していた

カインの方へ向かってしまった。


カインはデッドアイの攻撃をかわしながら

反撃の機会を伺っていたが、

まさか味方のいる方向から矢が飛んでくるとは夢にも思わなかった。


「うぉぉぉっ!?

 ああぁぁぁぁ!」


カインは突然の痛みに叫び声を上げた。

矢はまさに彼のお尻の穴を直撃したのだ。


想像を絶する痛みが彼を襲い、

カインは声にならない悲鳴を上げながら膝をつき、

その場に倒れ込んだ。


幸運にも、ナイトヴェールの効果で矢も透明化して消えたため、

敵に彼の位置がばれることはなかったが、

意識は朦朧とし、戦闘続行が不可能な状態に追い込まれてしまった。


リアは、カインがあれほど苦痛に満ちた悲鳴を上げるのを初めて聞いた。

その声を耳にした瞬間、彼がデッドアイによって

深刻なダメージを受けたに違いないと直感した。


悲鳴を聞きつつも、決して振り返らず、

ゆっくりとデッドアイに向かって透明なまま忍び寄っていた。


だが、あのカインが倒されたという現実に、

彼女の内心は大きく揺れていた。

それでも、動揺を必死に抑えながら、自分に言い聞かせる。


「カインが命を懸けて守ろうとしたこの子たち…

 今度は私が守らなければ…!」


リアの胸には新たな決意が燃え上がり、冷静さを取り戻していた。

カインが残してくれた時間を無駄にしないためにも、

彼女は全力で戦うことを誓った。


「攻撃を仕掛けると、

 ナイトヴェールの効果が切れる…

 この一撃で確実にデッドアイを仕留めるしかないわ」


残る味方は、リアただ一人となった。


「カインさんの悲鳴だぁぁ

 あいつらよくもやったな、

 絶対に許さない、あいつらを倒す!」


「デッドアイが手当たり次第に

 撃ちまくってるっす

 あれじゃあ透明のリアさんも危ないっすよ」


実際のところ、先輩が放った矢がカインにぶっ刺さったため、

仲間同士で攻撃してしまった形(フレンドリーファイア)になったのだが、

3人とも自分たちに都合の良いように誤解していたのだった。


「これでもくらえぇ!」


先輩はカインの叫びに触発され、

矢筒に残っている矢を片っ端から取り出し、

次々と矢を放ち始めた。


相変わらず、命中率は壊滅的であったが

奇跡的にに一発の矢がボーンジェネラルの鎧に命中し、

鎧の一部を削り飛ばした。


「な、なんだと…この鎧が破壊されるなどありえん…!

 デッドアイですら不可能だぞ…!」


ボーンジェネラルは驚愕し、

信じられない思いで自分の鎧を見つめた。

すでに彼には笑う余裕はなくなっていた。


「後輩ちゃん!

 鎧に命中したよぉ」


「当たったというか、

 かすれただけっすけど

 鎧が砕けたっすよぉ」


魔法矢がただの矢に戻ってしまったとしても、

先輩の並外れた力で放たれた矢は、

常識を超える威力を持っていたのだ。


「もうエリスさんの

 矢が無くなっちゃった」

「私、落ちてる矢を拾ってくるっす」


ボーンジェネラルは苛立ちを隠せずに命令を下した。


「あいつら、予想以上に厄介だな

 デッドアイ、あの茶髪と

 透明になってるやつらを別々に狙え」


「まずい!」


その声を聞いたリアは、透明な状態を保ちながらも、

位置が敵にばれることを覚悟の上で、

先輩を狙うデッドアイに向かって全速力で駆け出した。


デッドアイの一体は、スキル【フォーカスサイト】を再び発動

先輩に向かって、圧倒的な破壊力を持つ

ドラゴナイト製の矢尻の矢を放つ。


「先輩狙われてるっす、デッドアイが

 そっちに矢を飛ばしてきたっすよぉ!」


「ダメ、間に合わない」


その矢は雷のような速度で飛び出し、

後輩ちゃんの目には見えないほどの速度で

先輩に向かって一直線に飛んでいった。


「あの矢を使えばいいや」


次の瞬間、先輩は驚異的な反射神経で飛んできた矢を掴み取り、

そのままの勢いでデッドアイに向かって撃ち返した。

だが、力の強さに弓は耐えられず、見事にぶっ壊れてしまった。


「うおぉぉぉ!すごいっすぅ!

 先輩が飛んできた矢って掴かんで撃ち返したっす

 あんなのアニメでしか見たことないっす」


その矢は、先輩を撃ってきたデッドアイではなく

奇跡的にカインを探して行動していたもう一体のデッドアイに

向かって飛んでいき、狙いを定めたかのようにその肩に直撃した。


鋭い矢はアルカミスリルダイトの強固な装甲を貫き、

勢いそのままに頭部を粉々に砕いた。


デッドアイは、何が起きたのか理解する間もなく、その場で絶命した。

愛用の弓は無残にも地面に落ち、歪んだ形状のまま、

持ち主を失った哀れな武器となり果てた。


「な、なんだとォォッ!

 デッドアイが…やられただと…!?

 あいつら、いったい何者なんだぁ!」


ボーンジェネラルは目の前で繰り広げられた出来事に激昂し、

怒りを抑えきれずに叫び声を上げた。


そもそも、人間が飛んできた矢を

素手で掴むのは可能か?

その答えは不可能である。


通常の矢速度は100~200キロメートル毎時(km/h)に達することもある。

この速度で飛んでくる矢を肉眼で捉えて、

手で掴むのは極めて困難なのである。


さらに、それを視認し、手を伸ばして掴むためには、

人間の反応時間をはるかに超える速度で動かなければならない。

先輩はそれを目の前で軽々とやってのけたのだ


このような動作は、熟練した弓兵でも難しい。

仮に矢を掴むことができたとしても、

即座に撃ち返すなど不可能だ。


つまり人間技ではないのであった。


今まで圧倒的な力を誇ってきた自分の部下が、

次々と倒されていく様子に、

彼の心は憤りと恐怖で揺れていた。


「なんだあの人間は…

 飛んできた矢を手で掴み、

 さらに撃ち返すなど、ありえん…ありえんぞ…!」


先輩は自分の矢がデッドアイに当たったことに大喜びし、

顔を真っ赤にしてその場で飛び跳ねていた。

どうやら、カインが倒された時の怒りはすっかり忘れてしまったようだ。


「矢が当たったよぁぁ

 後輩ちゃん今の見た?」


「狙った方向の120度反対に飛んでいったすけど…

 当たったっす、すげえっすぅ!」


一方、リアは、先輩と後輩ちゃんのやり取りに目もくれず、

矢を放った直後のデッドアイに接近していった。


彼女の思いはただ一つ、

カインの無念を晴らし、

この子たちを守るという強い決意のみ。


「カインの仇だぁ」


リアは感情を抑えた鋭い声で呟きながら、

風魔術【ウィンドカッター】をショートソードに付加した。

彼女の攻撃が、デッドアイの頭部に向かって放たれた。


しかし、デッドアイはリアが近づいているのを音で感知していた。

彼女が全力で走ったために足音が響いてしまったのだ。


デッドアイは即座に反応し、

サブウェポンである毒を塗った小型クロスボウを取り出し、

素早くリアに向けて発射した。


矢はリアに命中したが、

彼女は意に介さずショートソードを振り下ろし、

デッドアイの頭部を一瞬で粉々に粉砕した。


「まだ、倒れるわけには

 あいつを倒さなきゃ…」


そう呟いたものの、毒が急速に体を蝕み、

彼女の視界が次第にぼやけ、

意識が遠のいていくのを感じた。


地面に膝をつき、無念の表情を浮かべながらも、

彼女の体は限界を迎え、ついにその場に崩れ落ちた


「プッププー(あの腕ほしい!)」


「プルル、ローブを引っ張らないでっす

 先輩、リアさん助けるついでに

 腕とってきてほしいっす!プルルが暴れるっす」


「オッケー!

 リアさん回収してくる」


これで敵はあと一体、

ボーンジェネラルのみとなった。


「奴らは予想以上に厄介だ…

 だが、まだ終わりではない…」


ネクロキャスターの骨が集まり、再びその姿を形成し始めている。

スケルトンリザレクションの効果により、

蘇生が間もなく完了しようとしているのだ。


もしこいつが復活すれば、

再びスケルトンを召喚して時間を稼ぐことができるだろう。


さらにデッドアイが蘇れば、もう助けてくれる仲間はいないだろ?

せいぜいそこから、我々が復活するのを見ているがいい。

そして、復活した俺たち全員で総攻撃をかけて、完全に殲滅してやるぜ。


「時間を稼ぐだけで、あっさり終わりだ。

 貴様らなんて、俺の足元にも及ばないんだよ」

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