エルムルケン脱出 小説2巻

第23話 先輩は大古墳に眠る秘宝が欲しいそうです! part1

窓から差し込む朝の光が、

私のまぶたを通り抜けて目を照らしていた。


あまりにも明るいので、

自然と目が覚めてしまった。


「日差しが眩しいっすね…」


昨日はシャワーを浴びてから、

ベッドに横になった記憶があるが、

そこからの記憶が曖昧だ。


プルルを見ると、

彼は絨毯の上で平たくなり、

深い眠りについているようだった。


あれだけの激戦の後だから、

休息が必要なのだろう。

私はそっとしておくことにした。


体を伸ばして起き上がると、

先輩とニャンタさんの姿が見当たらない。

どこに行ったのだろう?


昨日スケルトンに襲撃されたのに、

先輩たちは今朝も早起きしているらしい。


あの二人の無尽蔵なエネルギーには、

本当に感心させられるっす。


寝室のドアを開けると、

ライラ、エリス、リアの三人が

窓辺のソファで寝転んでいた。


彼女たちの姿を見ていると、

私ももう少し寝たくなる。


「私も少しだけ二度寝しようかな…」


正直、あと2時間は寝れそうな気がした。

しかし、キッチンから先輩達の声が聞こえてきて、

眠気は一気に吹き飛んだ。


「おい!炊飯器

 いいところにやってきたな」


「後輩ちゃん見てみて、

 今ツボをグ~ルグル、

 かき混ぜてるんだよ」


キッチンに目を向けると、

先輩が巨大なツボを何やら特殊な棒で

かき混ぜている姿が目に飛び込んできた。


あのツボは、昨日スケルトンの大群を,

ドロドロに溶かした容器だ。


でも、よく見てみるとこれ、

どう見ても壺じゃないっすよね


まるで、魔女が怪しい薬を、

グツグツ煮てるような

巨大な釜っぽい気がするっす 


「ニャンタさん

 この壺ってまさか!」


「お、やっと気が付いたか?

 これは猫界七十七道具の一つ

 ニャルカナ錬金釜だぜ」


錬金釜、伝説にのみ存在すると言われる、

あらゆる素材を放り込み、ただ混ぜるだけで

未知のアイテムを作り出すという錬金術の至宝。


まさか、こんな代物にお目にかかれるとは…。


「スケルトンを大量に混ぜ混ぜしたら

 どんなアイテムができるんだろうね」


「いや先輩、もうこれ下手すると

 人体錬成っすよ?

 体の一部分を取られる禁忌じゃないっすか?」


錬金釜って、

普通は素材を吟味して、

放り込むものっすよね?


生き物というか魔物を溶かして混ぜるのって

さすがに倫理的にアウトじゃないですか?

これは禁じられてる行為のように思えるっす。


「炊飯器!考えてもみろスケルトンだぜ

 奴らは生きてないのに動いてるアンデッドだ

 人道的にもなんも問題ないだろ」


「死者には人権はないんっすか?

 二本足で歩いて、話ができる生物を

 実験に使うのはなんか抵抗があるっす」


「後輩ちゃん!

 ツボのマグマが光り始めたよ!」


話している間に、錬金釜が謎の光を放ち始めた。

スケルトンを入れているのに、

意外にも明るく輝いているっすね。


この光景は少し不気味っす…。

何かが生まれてこようとしている感じがするっすけど、

これ、本当に大丈夫なんすか?


「ヒュドラの角や鱗も混ぜてるからな

 あとはクルミが想像した

 アイテムに変化するだけだな」


「え、ヒュドラが襲ってきたときに、

 どさくさに紛れて回収してたんすか?

 どうりであの場に見当たらなかったわけっすね…」


地面に転がっているはずの、

ヒュドラの素材がなかった理由が、

ようやく分かったっす。


でも、こんな素材を使って、

どんなアイテムが出来上がるんすか?

正直、呪われてそうで怖いっす…。


「先輩は、何が出てきてほしいんすか?」


「やっぱり、冒険に必要なアイテムといったら

 あれしかないよね!

 こう、ブンブン振り回せるあれだよ」


先輩が考えているものが一体何なのか、

全然想像がつかないっす。


錬金釜から出てくるものなんて、

普通はもっと慎重に考えるべきじゃないっすか?

何が出てきても驚かないようにしておくっす。


その時、錬金釜が不気味な輝きを放ち始めた。

朝日よりも眩しい光があたりに広がり、

キラキラと不思議な音が響いてくる。


どうやら、アイテムが完成したみたいっすね。

先輩は興味津々で壺の中を覗き込み、

できあがったアイテムを取り出そうとしている。


しゃべる骸骨やヒュドラの素材から、

一体何が生まれたんすか?


「後輩ちゃん!これだよ、

 これ!これが欲しかったんだ!」


「ピッケル…じゃないっすかぁ!」


先輩が得意げに取り出したのは、

何とも言えない色が混ざり合った、

大きめのピッケルだった。


何ですかこれ?これから洞窟に潜って、

ダイヤモンドでも掘りに行くつもりなんすか?

まあ、あって困るものではないっすけど…。


「まあ、クルミは手加減が苦手だからな。

 拳で殴るよりも、ピッケルを振り回したほうが、

 人間が相手でも死なずに気絶するだけで済むだろ」


先輩が本気で殴ったら、

一体どれだけの威力になるんだろうか…。


ニャンタによると、

先輩は服が破れない程度の攻撃ができる能力を

持っているらしいっす。


軽く放ったパンチでも、

接近戦に自信のあるレオが

ワンパンで倒されたくらいだし、気になるっすね。


「これがあれば、

 武器としても、

 発掘道具としても困らないよ!」


「先輩、そのピッケル、

 殴るためにも考えてたんすね…」


「マジックアイテムの効果を引き継いでるはずだ

 あの黄金の鎧と同じく、壊れても再生するだろう

 これならクルミが雑に扱っても大丈夫だな」


錬金釜の光で目を覚ましたのか、

プルルが寝室から飛び出してきた。


そして私を見つけると、

勢いよくローブに飛びついてきた。


「プルルおはようっす、

 昨日は助けてくれてありがとうっす」

「プププ(家が勝手に動くから困る)」


「プルルは後輩ちゃんのこと大好きだね」


そういえば昨日、

ニャンタが森の中を歩き回るって言ってたっす。


今日の予定を確認しておかないと、

ご飯の調達やら、

色々と考えることが多いっす。


「今日はあれっすよね

 森を抜けて、人間がいる町に向かうんすよね」


「ん?まあ大体そんな感じだな。

 でもその前に、コテージを片付けるために、

 暁の幻影団の奴らを叩き起こすぞ。


ニャンタはそう言うと、

ソファで寝ている彼女たちに向けて走り出した。

そして、エリスさんの腹や胸の上に軽快に飛び乗った。


「早く起きろ

 コテージが

 片づけれねえだろが」


ニャンタは、彼女の顔に向かって

軽快に猫パンチを繰り出しまくっていた。

彼女たちは突然のパンチに驚いて悲鳴を上げていた。


「ぎゃぁぁ

 なになに?

 なんで私殴られたの」


エリスさんが目を覚まし、驚いた様子で叫んだ。

ニャンタさんは、次々に体を飛び移りながら、

残りのメンバーにもパンチを浴びせていく。


「あの子の猫が襲ってきたわ」

「うわぁ、ちょっとやめてぇ!」


「ニャンタさん何やってんすか

 女の人の体に触るのはNGっす

 やさしく起こしてあげてほしいっす」


三人は悲鳴を上げながら目を覚ましたが、

ニャンタが起こしたと分かると、

意外にも嬉しそうな表情を浮かべた。


「名前はニャンタちゃんっていうのよね

 起こしてくれてありがとね

 ちょっと触ってもいいからしら?」


「猫に起こしてもらえるなんて初めてだわ、

 ニャンタちゃん毛並みが綺麗ね

 私も触りたい!」


しかし、ニャンタは触れようとする手を、

あっさりと払いのけた。


「気安く触んな」


その仕草に、

二人は少し残念そうな顔をしていた。


「どうだ炊飯器、

 こいつら見てみろ

 俺に叩き起こされて喜んでんじゃねえか」


「ニャンタさん、年齢的にオジサンっすよね?

 それなのに若い女の子にもてるなんて、

 どうなってるんすか?」


ニャンタはなぜか老若男女にモテまくる。


まるで小さなおっさんが、

着ぐるみを着ているようだが、

猫界に住んでた猫族らしい。


リアさんは起こされた後も、

チラチラとニャンタを見つめていた。

何だかその視線が気になるっす。


リアさんも触りたいのかな?

私にはおっさんの猫にメロメロになる

心境がまったく理解できないっす。


「大人の魅力ってやつじゃねぇかな?

 俺ってイケてるだろ?

 まあ俺だから許されるところはあると思うぜ」


「半年以上もお風呂入ってないのは

 イケてるとは言わないっすよ?」


そんなやり取りをしていると、

先輩がニャンタに話しかけ始めた。


「あのねニャンタ

 よかったら私も・・・

 頬にパンチしてほしいな」


しかし、ニャンタは先輩の言葉を無視し、

扉の方に向かってさっさと歩き出した。


そして外に出るようにと、

みんなにジェスチャーを送った。


私たちは全員でコテージの外に出ることにした。

外に出ると、カインとレオが

何やら話している声が耳に入った。


「俺は確かに見たんだ。あの金髪の子が、

 飛んでくる魔法の矢を片手を突き出しただけで

 全部空中で止めちまったんだよ」


「お前、矢の毒で意識がもうろうとしてたんだろ?

 それは夢だよ。遠距離攻撃を片手だけで

 無効化するなんて、ありえないぞ」


あれ?

もしかしてレオさん透明になった状態で

私たちのこと見てたんすかね?


「あっ、カインさん、レオさん、

 おはようございますっす!」


私が挨拶すると、

レオさんは突然私の方に向かってきて、

膝をついて頭を下げた。


女性メンバーたちは、

そんなレオの様子を不思議そうに見ていた。


「私はあなたが、

 どこかの国の王族だと、考えています

 どうか名前を教えてください」


「ふっふっふ、しょうがないな。

 私の名前は水落・クルミ!

 ちなみにニックネームはミラクルだよ!」


「いや、先輩の名前じゃないっす!」


暁の幻影団のメンバーたちは、

レオの様子に困惑しているようだった。


「あと名前を知られたら

 呪い殺されるかもしれないっすから

 名前は絶対に教えないっす!」


急にどうしたんすか、レオさん。

まるで私を偉い人か何かと勘違いしてるようで、

私も少し戸惑ってしまった。


「私を呼ぶときはそうっすね

 Kと呼んでほしいっす!」


「わかりました

 今後はKと呼ばせていただきます」


「ねぇ、レオ。あんた、

 この森に来てから色々あったわよね。

 ちょっと休んだほうがいいんじゃない?」


エリスさんが顔を引きつらせながら

レオに話しかけていた。


「お前らは見てなかったのか!

 片手で矢を全部止めたんだぞ。

 そんなのありえないだろ。」


「いや、見てないわよ。」


3人とも見ていないと返答したことで、

カインは確信に満ちた表情になった。


「ほらな、レオ。

 お前しかそれを目撃してないんだ。

 毒で幻覚でも見たんじゃないか?」


「矢を止めただけじゃないよ!

 後輩ちゃんは骨将軍も倒したんだよ。

 凄いでしょ!」


その言葉を聞いたメンバーたちは

一瞬戸惑いの表情を浮かべた。


レオが言っていることが本当なのかもしれない、

とみんなが感じ始めた様子だった。

先輩、余計なこと言わないでくださいっす!


「なんでレオさんは、

 私を王族だと思ってるんすか?」


「その手を見れば一目瞭然ですよ。

 あなたの手は、

 農作業をしたことがないほど綺麗だ。


 どこかの貴族であることは間違いない。

 そして、ご友人が先ほど言っていたように、

 あなたは骨将軍すら倒したと。


 それだけの力を持つ者は、

 幼い頃から魔術の師匠がいたはずです。


 そして、矢を止めたのは

 王族に伝わる秘伝のスキルではないですか?

 それ以外には考えられません」


レオはものすごい早口で話してくれた。

さすがは元騎士だけあって、

丁寧な言葉遣いだった。


もし先輩が余計なことを言わなければ、

ただのレオの幻覚として、

片付けられたかもしれないのに…。


「もし本当に王族で魔術の達人だとしたら、

 この猫ちゃんは、

 その使い魔みたいなものか?」


「おいおい、何をふざけたこと言ってるんだ?

 俺は神みたいなもんだぞ

 全人類から崇められる?存在みたいな?」


「いや、私は王族なんかじゃないっす。

 だから変な勘違いはやめてほしいっす

 それにニャンタさんは使い魔なんかじゃないっす」


ニャンタが魔法使いの使い魔だなんて、

ありえないっす!


使い魔だとしたら、力を与える代わりに、

死ぬまで化け物と戦わせるような

悪魔の契約を結びそうなタイプっすよ。


「俺と契約して、

 世界を救う冒険者になろうぜ?」


なんて、都合のいいことを言って、

その後は全部任せて放置するような、

邪悪な存在っすね。


「でも、なんかこの子達って

 浮世離れしてる感じがするわよね」


「確かに、この森で焚火もやってたし、

 レオの言ってることも、

 信ぴょう性があるように思えてきたわ」


「もう私たちの事はいいっすから

 これからどう行動するか考えようっす」


私がそう言うと、

暁の幻影団のメンバーたちは、

どうしたものかと悩み始めた。


お互いに顔を見合わせ、

森の出口が分からずに

途方に暮れている様子が見て取れた。


「実はな、

 俺たちも森の出口が分からないんだ。

 早くこの箱を持って帰りたいんだが…」


「えっじゃあ、

 私たちどうするんっすか?」


私の質問に、

皆が黙り込んで答えられずにいると、

突然、ニャンタが勝手に森の奥へと歩き始めた。


「よしお前らついてこい

 俺がお前たちを、

 目的の場所に導いてやるよ」


「ニャンタ待ってぇ!」

「ニャンタちゃん森は危険よ」


「そういえばあの子達

 猫に森に連れてきてもらったといってたわね」


「あの猫についていけば

 森から出られるんじゃねぇか?」


「帰る手立てもないしな

 ニャンタ君についていくしかないか」


なんでみんな、ニャンタさんのことを

すっかり受け入れてるんすか?

しかも「頼りにしてるぜ」って目で見てるっすよ?


「あっニャンタさん

 コテージ忘れてるっすよ!」


私は急に思い出して振り返って確認すると、

コテージがいつの間にか消えていた。

えっ、あれ?いつ片付けたんすか?


「おい炊飯器、早くしないと置いてくぞ!」

「ちょっと待ってほしいっす」


こうして、私たちは朝の陽ざしが眩しい

エルムルケンの森へと足を踏み入れた。


今日中に人間が住む都市まで、

たどり着けたらいいんっすけど…。


道中、カインがどうやって

骨将軍を倒したのかと聞いてきたので、

どう答えようか迷った挙句。


「日が昇ったら、

 スケルトンたちが

 全部燃えて消えちゃったんっすよ」


「スケルトンの残骸がないから、

 そうなのかもな…」


なんか、嘘っぽい返事をしてしまったが、

なぜかカインは納得してる様子だった。


私は進みながら、頭の片隅では

ニャンタさんが本当に森の出口を知っているのか、

気になって仕方なかった…。


どうにか無事に、

森を抜けられることを願うばかりっす。

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