第31話 闇の大魔導士リッチィーの野望:死の支配者が目指すもの part2

周囲には巨大な瓶がずらりと並び、

ドラゴンやデーモン、キマイラといった

モンスターたちが液体に浸かって保存されている。


だが、胴体や四肢が欠けているものも多く、

普通の人が見かけたら一生トラウマになりそうな

見るからに異様な光景だった。


だが、そんな異常さも全く気にせず、

先輩は博物館の展示物を楽しむような態度で、

どんどん奥へ進んでいく。


「どうだい?モンスターの鮮度を保つために

 液体で瓶詰めにしているんだよ。」


「すごい!これでいつでも

 新鮮なドラゴンの肉が

 食べられるってこと!?」


いや、違うだろ!

なんで食べる話になってんだ!

驚く方向が完全に間違ってるぞ!


「ごほん、いやそうじゃない。

 これは腕や足を切り取って、

 パーツを合成させたんだ。見てくれ、この腕を。」


私は自慢の合成魔法で作った、

ドラゴンとデーモンの腕を彼女に見せる。

スケルトンの体に合成した腕をつないだ、奇妙な姿だ。


さすがに驚くだろう?

きっと「モンスターを合成するなんてひどい!」とか、

「気持ち悪い!」って言うんだろうな。


だが、先輩の返答は

まさかの斜め上だった。


「その腕、めっちゃカッコいい!

 どうやって合成したの!?

 私も装備したい!」


「え?いや、これは私専用というか…

 それに、気持ち悪いとか

 思わないのか?」


彼女の想定外の反応に、

どう返していいかわからず、

私はただ呆然としてしまった。


「普通じゃない?

 私もモンスターを狩って、

 鱗や骨で武具を作ったりするよ!」


「じゃあ、この瓶に液体漬けで

 保存してるのも変じゃないのか?

 普通はもっと引くと思うんだが…」


私はもっと「こんなことするなんてひどい!」

とか言われるかと思っていたが、

まさかの方向違いの返答が返ってきた。


「むしろ、狩った後でお肉を焼いて食べるか、

 腐らないように保存するかの違いだから、

 特に驚かないかな!」


え?もしかして、

今の時代ではこれが普通なのか?

現代の人間、怖いわ。


私は数百年も人間の世界を見ていないから、

時代遅れになってしまったのか?

もっと世間の流れに敏感であるべきだったのか…?


「それよりさ、リッチー!

 モンスターを捕まえて配合させて、

 新しいモンスターを作っちゃおうよ!絶対楽しいって!」


先輩はさらに瓶を指さしながら

リッチィーに向かって提案を続ける


「見て、あの宝石付きのスライム!

 あれとドラゴンを掛け合わせたら、

 ドラゴンスライムができると思うんだよね!


 それで、モンスターを育てて軍隊作ったり、

 鱗をちょっともらってその腕を強化すれば、

 めっちゃ効率よく強くなれると思うんだ!」


「いやいやいや!、さすがにそこまではやらないよ!

 モンスターに対して悪いっていうか、

 背徳的すぎてとても私にはできない…!」


まさかの提案に驚きが隠せない。

そんなこと、本気で言ってるのか?

今の人間の道徳観って、こんなものなのか?


「それに、子供を作るって…その、

 好きな相手同士でするもんだろ?

 無理やり配合なんて、私にはできない!」


そう、このリッチィー、

魔術に全てを捧げた結果、恋愛経験はゼロ。

ロマンチックなことにはまったく疎いのだ。


少女漫画でも読ませたら、

確実にドハマりするタイプである。


そんな私の反応を見て、

先輩はさらに直球の質問を投げてきた。


「ねぇ、リッチーってさ、

 1000年も生きてるんでしょ?

 好きな人とか彼氏とか、いなかったの?


 人生の先輩として

 大人の体験談ってやつを、

 いっぱい聞きたいな~!」


え!?1000年恋愛経験なしを掘り返すつもりか

リッチィーはあからさまに動揺しつつ、うつむいた。


「え?いや、その、

 一度も出会いがなかったというか…

 私にふさわしい相手がいなかったんだよ」


なんか哀れむような目で見られた気がする…

確かに恋愛も彼氏も経験したことはないけど、

私は魔術があるからいいんだ、問題ない!


「アンデッドになる前も、

 ずーっと魔術に没頭してたから、

 恋愛にかける時間なんて全然なかったんだよ!」


「そうなんだ…1000年生きても

 出会いがない人もいるんだね。」


ぐさっとくる。なんとも言えない哀れみの視線。

このままだと本当に闇に堕ちてしまいそうだ。

話題を変えねば…!


「そういえば、ドラゴンの肉が食べたいのかい?

 よかったら、瓶から出してあげようか?」

「え!?ほんとに!?食べてみたい!」


ナイス、ドラゴン肉!

これで恋愛トークからは逃げられる…!


こうして、リッチィーは

肝心な情報を引き出すこともなく、

先輩との会話は食べ物の話題へと流れていった。


だが、リッチィーの心には

1000年分の哀愁が残ったままだった…。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


私は先輩を追いかけ、

リッチーの怪しげな研究室へと足を踏み入れた。

巨大な瓶にはモンスターが液体漬けにされている。


「なんすかこれ!?

 モンスターが液体づけにされてるっす

 気味が悪いっすよぉ」


「まぁ、気にすんな。

 クルミたちは、

 この先にいるみたいだぞ」


しばらく歩いていくと、広間が現れた。

そこには焚き火を囲んで

豪快に焼き肉をしている先輩とリッチーの姿があった。


「そこのお肉が良く焼けてるよ!

 そろそろ食べれるだろう

 ほら、食べてみなさい!」


「いただきまーす!」


先輩は骨付きドラゴン肉を片手で掴んで

豪快にかぶりついていた。


「うーん…ドラゴンの肉って美味しくないんだね…

 口の中に苦い味が広がって…

 でももったいないから飲み込むよ…」


「肉食動物は大抵美味しくないんだよ

 無理して食べなくてもいいんだけど?」


「ほら、無事だっただろ?」


私はグールに襲われてたのに、

先輩はリッチーと焼肉パーティーしてるとか、

どういう状況っすか!?


「先輩なにやってんすかぁ!!!

 なんでリッチーと仲良くしてんすか!?

 マジで理解不能っす!」


「あっ後輩ちゃん

 遅かったね

 いまドラゴンの肉食べてるんだよ!」


先輩は肉を食べるのをやめ、

私を殺せと命じたはずのリッチーと仲良く一緒に、

こっちをニコニコと見つめていた。


――いや、何してんすか先輩!?


「おや?

 私が作ったグールは

 どうしたんだい?」


「そいつなら

 私たちが倒したっす!」


背後を振り返ると、

プルルが透明化して震えているのが見えた

もしかして、リッチーを怖がってるのかな


「それにしても、君はグールを倒したんだね。

 彼、結構強かったと思うんだけど…

 なかなかやるじゃないか。」


「先輩早くそいつから離れろっす

 私はグールに襲われたんすよ!

 そいつが悪の親玉っす!」


私は必死に叫ぶが、先輩は全く動じず、

むしろリッチーを擁護しだした。


「え!?リッチーは一緒に

 恋バナして盛り上がった仲だよ?

 悪い人じゃないよ!」


「えっ、恋バナって…?

 スケルトン相手に何話してるんすか!?

 いいからコッチにくるんっす!」


先輩はドラゴン肉を手にしたまま、

悠々と歩いてくる。

その肉、美味しくないけど食べるんすね。


すると突然、

リッチーが立ち上がり、

手をかざした。


「先輩にげろっす!」

「ストーンウォール!」


先輩の周りにクリスタルの檻が出現し、

その中に閉じ込められた。


「これ以上近づいてきたら

 この子がどうなるかわかるよね?」


先輩はクリスタルでできた

檻に閉じ込められた。


「リッチー!

 なんでこんなことするの!?

 さっきまで楽しくおしゃべりしてたじゃん!」


「お前から情報を聞き出すためだよ?

 おとなしく肉でも食べてろ

 もう金髪から聞くことにするよ」


「そのまえに

 聞きたいことがあるっす」


私が声を荒げて質問すると

リッチーはゆっくりとこちらを振り返り、

骸骨の目から、赤い光が一層濃くなるのを感じた。


「なんでも聞いてくれ

 私は気分がいいんだ」


「この薄気味悪い瓶詰はなんすか!?

 モンスターがモンスターを保存して

 一体何をしようとしてるんすか!?」


あれ?この金髪はどうやら怖がってるようだ。

もしかしてこの茶髪の子だがけがおかしいのか?

ちょっと脅して反応を見てるかな


「ふふ…これらは腐らないように保存しているんだ。

 そして必要なパーツを切り取って、

 合成して私の体に取り付けているんだよ。


「やばいっす!いかれてるんすか!?

 死んだモンスターの体をいじくりまわすなんて、

 最低っす!完全に狂ってるっす!」


なかなかいい反応をするじゃないか!?

リッチーはその言葉にニヤリと笑みを浮かべ、

嬉しそうに話を続けた。


「見たまえ、このすごい体を!

 デーモンとドラゴンのパーツで作られた

 完璧な腕と胴体さ!」


リッチーは声高らかに叫びながら、

勢いよくローブをバサッと取り除いた。

異形の体が露わになる。


「スケルトンなのに

 胴体や腕が生えてるっすう

 どういうことっすかあ!」


誇らしげにその異形の体を見せつけ、

さらに満足げに続けた。


「これこそ、私の研究の成果だ!

 素晴らしいだろう?」


「これがダークサイドに落ちた

 魔術師の末路なんすね

 先輩こいつやばいっすよ」


これだよ!このリアクションを待ってたんだ!

どうやらこれが正常な人間の反応だよ

茶髪の子がおかしかったんだね。


「どうせ生物同士を無理やり配合させて

 新種のモンスターを生み出してやがるに

 違いないっす!外道っす!最低な考えっすよ!」


「え!?いや、

 まあそうだね・・・。」


なぜかリッチーの歯切れが悪かった。

そして、先輩が涙目になっていた。

え?なんで泣いてんの、先輩?


「君弱そうなのに

 グールを一人で倒したんだね

 もしかして生き残った勇者の末裔かな?」


「なに意味不明なこといってんすか?

 勇者ってなんのことっすか?」


今の時代の人間は、

勇者がいたことすら忘れているのか?


あの頃は王族や貴族が、

異世界者の持つ異能なスキルを欲しがって、

血縁を結んで子を作っていたというのに。


リッチィーは一瞬だけ遠い昔を懐かしむように言い、

そしてすぐに冷たく笑みを浮かべた。


「まあいいさ。

 グールを倒したその実力、

 見せてもらおうか。」


リッチィーは先輩が閉じ込められている

クリスタルの檻から、

数十メートル離れた位置に移動した。


「クァンタム・マギカ

 オーバーロード・アルカナ

 アストラル・トランセンデンス」


その言葉と同時に、

リッチィーの全身から、

膨大な魔力があふれ出した。


黒いオーラが空気を震わせた。

常人なら恐怖で失神してしまうほどの圧力だった。


しかし、後輩ちゃんには魔力がまるで感じ取れず、

ただゲームで見慣れた「暗黒オーラ」を

出しているようにしか思えなかった。


ぼんやりとその波動を見つめながら、

後輩ちゃんは口を開く。


「なんか、ものすごいオーラ出し始めたっす!」


「すごいね君。普通の人間なら、

 これを直視したら逃げ出すか、

 気を失うものだが…


 君はなかなか肝が据わってるみたいだ」


リッチィーは懐から時計を取り出し、

タイマーをセットして空中に固定すると、

不敵な笑みを浮かべてこちらに向き直った。。


「5分、時間をやろう。

 その間、私は攻撃を一切しない。

 好きなだけ攻撃してみなさい」


まるで挑発するように棒立ちしながら、

私たちの攻撃を待ち構えていた。

えっ、そんな無防備でいいんすかね?


「君の魂を吸収すれば

 私はさらに強くなれそうだ

 期待しているよ?」


「魂を狙うとか、変態野郎っす!

 プルル、あのリッチィーぶっ倒すっすよ!」


私は威勢よく声を張り上げたが、

プルルは不安げに応えた。


「プー(あれ…ヤバイ、勝てる気がしない…)」


プルルの不安げな声が耳に入ったが、

私はそれを無視して、

ひたすらリッチィーとの距離を詰めていった。


「炊飯器!成長したな。

 戦いに積極的になってくれて、

 俺は嬉しいぞ」


「プルルがいれば、

 怖いものなんてないっす!」


後輩ちゃんはグールを倒せたことで、

完全に調子こいてしまったのだ。


私は「ぶっ潰してやる!」とばかりに

堂々とリッチィーに向かって歩いていった。

その時、後ろから、再びニャンタの声が響いた。


「おい、炊飯器。

 リッチーを先に

 鑑定しておいた方が良くないか?」


ニャンタが、やたらと嬉しそうに、

にやにやしながら、

私に鑑定のスクロールを差し出してきた。


普段はめんどくさがって手を貸さないニャンタが、

今回に限って妙に親切だ。これは間違いなく、

何か嫌なことが待ち構えている予感がする。


長年の先輩たちとの生活から、

私はこのパターンを何度も経験していた。


「おい、君!

 何で無言で三毛猫と目を合わせてるんだ?

 攻撃しないのか?」


リッチィーが疑問に思ったのか、

じれた声をかけてきた。


さすがに、無断で鑑定するのはまずいっすね。

グールみたいに怒らせるかもしれない、

ちゃんとリッチィーに許可を取っておかなければ。


「攻撃する前に、

 鑑定してもいいっすか!?

 ステータスを確認しておきたいっす」


「ふむ、まあいいだろう

 許可してあげよう」


なんて寛大なんだ、リッチー!

私はホッとして、

再びニャンタに振り向いた。


「ところで、ニャンタさん!

 鑑定のスクロールの使い方が、

 よくわからないんすけど…」


「プルルに任せればいいんじゃないか

 ほらプルル、これで相手の情報を

 書き込んで炊飯器に見せてやれ」


「プププ…(見ない方がいいと思う…)」


透明なプルルが鑑定のスクロールに触れた瞬間、

リッチーの情報が次々と用紙に浮かび上がった。

私は緊張しながら、それらをじっくりと上から順に確認する。


リッチィー・ドレッドロッド・ルーシェンシュタイン


ステータス

レベル: 666/999

HP: 500,000

MP: 1,600,000

攻撃力: 19,000

防御力: 15,000

魔力: 190,000


状態異常耐性

毒: 無効 睡眠: 無効 麻痺: 無効

即死: 無効 呪い: 無効


属性耐性

火: 70% 水: 60% 風: 60% 雷: 60%

土: 60% 氷: 60% 光: 50% 闇: 無効


スキル カタストロフィック・フレア

    エターナル・フリーズ

    ドゥームズデイ・アナイアレーション

    ヴォイド・ズ・カタクリズム


私は鑑定用紙とリッチィーを交互に何度も見比べた。

どう見ても数字があり得ないほどぶっ飛んでいるし、

スキル名も異常に物騒すぎる。


「ああ…。

 今日が私の命日なのかもしれないっすね」

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