第30話
「……あの、誰っすかそのお姉さん?
知らない人混ざってるっす」
私の問いに、カインが振り返った。
「ああ。紹介が遅れたな。
仲間の一人――リアだ。
オリハルコンの箱も、彼女が確保してくれた」
にこり、と微笑んだリアが言う。
「リアって言います。よろしくね」
私の脳内で一つの可能性が点滅する。
「もしかして、
スケルトン、呼び寄せたのって……」
私が言いかけたところで、
リアが申し訳なさそうに手を挙げた。
「ごめんなさい。……たぶん、私のせいだと思うの」
――即答っすか!!
叫びそうになるのを、ぐっとこらえる。
ここで騒いだら、骨たちが「すまん退くわ」とは絶対ならない。
うん、冷静。私は冷静。暴れても、骨は帰らない……
必死にメンタルを整えていたそのとき。
「俺たちがなんとかする。
だから心配いらない」
「当たり前っす! 全力で対処してほしいっす」
ガツンと勢いよく返した。
ちょうどそのとき。
ざく、ざく、ざく。
スケルトンたちの陣形がざわめき、
中央が、ゆっくりと割れていく。
――ガシャリ。
鈍く重い金属音を響かせ、
“それ”は、静かに歩み出る。
月明かりの中に姿を現したのは――
黄金の鎧をまとった、異形のスケルトン。
周囲の亡者たちを従えるように、
堂々と群れの中心に君臨するそれは――
まるで、死してなお軍を率いる“骨の将軍”。
レオが、息を呑む。
その喉奥から、しぼり出すように、声が落ちた。
「……ありゃ、ただのスケルトンじゃねぇな」
その鎧は、ただの飾りではない。
肩には荘厳な意匠、
胸には紋章のような装飾。
風格も、殺気も段違い――
あれが、この群れの主だ。
「リア、構成と数、頼む!」
カインの指示を受け、
リアが目を細めて観察を始めた。
「……骨の基本型が二十。そのうち十体は弓兵」
「近接十。さらにボーン・メイジが三」
「スティール・ウォーカー、六体」
「最後に、黄金の鎧が一体。合計三十体」
数え上げる声は冷静でも――
その内容は、まるで悪夢の軍勢だった。
「ねぇ後輩ちゃん。
スケルトンたった30体しかいないよ。
なんとかなるんじゃない?」
「いやいやいや!
先輩、30体“も”いるっすから!
しかも……全部“骨”だけど、地味にバリエーション豊富っす!」
弓に近接に魔法使い、
そして金属製のエリート骨。
どう考えても、見た目以上にやばい構成である。
根拠なき楽観主義、ここに極まれり。
「スティール・ウォーカーなら、
私の炎で焼き切れるわ」
そう言ったライラの声が、わずかに緊張を帯びる。
自信ではあるけど――油断じゃない。
その表情が、なによりの証拠だった。
私は、ふと思い出す。
「ライラさん、あの黄金のやつ、
鑑定できないっすか?」
「できるけど……スクロール、
あと3枚しかないの。
無駄遣いできないわ」
ライラが、ちらとこちらを見る。
「でも……使うわ。生き残るために」
その決断を聞き、
カインがうなずいた。
「頼む、ライラ。あいつの正体を暴くんだ」
スクロールを取り出すと
黄金のスケルトンが、微かに首を傾けた。
まるで、“見られる”ことを察知したかのように。
ライラの杖が、空をなぞる。
「――アナライズ」
スクロールが白く輝き、風が巻いた。
そして――
静かに、黄金の鎧の“正体”が、浮かび上がる。
エンチャンテッド・ボーンジェネラル
レベル: 110/999
HP: 25,000
攻撃力: 4,000
防御力: 2,500
魔力: 2,800
状態異常耐性:毒・睡眠・麻痺・石化・カース・即死
属性耐性:水・風・土・雷・氷・闇
タレントアビリティ(才能)
骸骨の軍団指揮:(スケルタル・レギオン・コマンド): S
呪われし剣術:(カースド・ソードマンスキル): S
不死者の連携:(アンデッドリンク): A
死霊再生:(ネクロリザレクション): B
ライラは紙片に浮かぶ魔法文字を、
しばし無言で見つめていた。
やがて唇を開くと、
その声は静かに、
しかし場の空気を張りつめさせるように響いた。
「……鑑定結果よ。
黄金の鎧を纏った個体、骨将軍――レベル110」
低く呟かれた数字に、
場がざわめいた。
だがライラは続ける。
「数値だけなら、
私たちで倒せる範囲よ。レベルだけ見れば、ね」
淡々とした言葉だったが、
そこには一抹の警戒が滲んでいた。
その隙間を縫うように、カインが鋭く声を挟む。
「問題は……“装備”だ」
その一言で、空気が一段と引き締まった。
彼の目が、黄金のスケルトンの装備をひとつひとつなぞる。
「黄金の鎧。光を帯びた剣。
どれもただの装飾品じゃない。
魔力を帯びた――“マジックアイテム”だ」
「確かに……数値だけで判断するのは危険ね」
ライラは頷き、指先でスクロールを巻き戻す。
その仕草すら、どこか慎重だった。
「逃げ道はない」
カインの声が、短く場を切り裂いた。
「ならば――立ち向かうしかない」
短い沈黙。それは恐れではなく、
“覚悟”という名の静けさだった。
“暁の幻影団”
メンバー全員が、
その決断に何も異を唱えないということは、
この戦いは――乗り越えられる壁なのだろう。
カインは一歩前に出ると、
遠くにそびえる骨の軍勢を見据え、声を上げた。
「迎え撃つ!全員、戦闘準備だ!」
その言葉を合図に、
仲間たちが一斉に動き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます