第29話 先輩は大古墳に眠る秘宝が欲しいそうです! END

私の頭上に不思議な光が集まり始め、

その光は徐々に熱を帯びていった。


熱の強さが増すにつれて、

周囲の空気が微かに震え始める。


掲げられた腕の手のひらから、

巨大なファイアーボールが出現し、

強烈な光と熱が放たれた。


「プップ(極大ファイアーボール!)」


これは、私が異世界に初めて来たときに

体験した火球の魔法だ。


ファイアーボールの炎が周囲を明るく照らし出し、

周囲の影が一瞬で吹き飛び、

全てが眩しい光に包まれる。


「周辺が明るくなったっす」


しかし、その安堵も束の間。

声が響き渡る。


「さっきのカンテラの光よりも

 大したことはないぞ

 シャドウインパルス!」


その瞬間、闇が周囲に広がり始めた。

闇はファイアーボールの光を飲み込み、

炎の輝きが届く範囲をどんどん狭めていく。


まるで無限の深淵が私たちを

飲み込もうとしているかのような

圧迫感が迫ってくる。


「やばいっす…

 もう炎で照らしてるところ以外、

 何も見えないっす。」


シャドウインパルスとファイアーボールが相殺し、

光が届く範囲は私の周囲半径2メートルに狭まった。

これはプルルの攻撃が届くぎりぎりの距離だ。


その先は完全な闇で包まれ、

視界が全く効かない。


「この距離まで近づけば十分だ」

 あとは炎に当たらなければいいだけだ」


これまでグールは暗黒の鎧に身を包んでいたため、

爆発や火の攻撃を受けても、

そのダメージを大幅に軽減することができていた。


しかし、今は両腕と両足の防具が残っているだけだ。

この状態では、アンデッドであるグールは

プルルの炎に耐えることはできないだろう。


「なんの問題はない、

 ノープログレムだ。

 お前に俺は倒せない!」


その言葉が響いた直後、

グールは周りの暗闇を高速で駆け巡り始めた。


「プルル!

 どうするんっすか!

 このままじゃ、やられるっす!」


そして、グールはガントレットを振りかざし、

再び攻撃を仕掛けようと私たちに急接近してきた。

今にも襲いかかろうとするその瞬間。


そう、プルルは相手が完全に油断して

こっちに突っ込んでくる、

この瞬間を待っていた。


「プッププー!(エンチェント・ファイア!)」

「プルルの腕が燃え始めたっす」


プルルが叫ぶと同時に、その腕が燃え始めた。

彼は巨大なファイアーボールを空中に固定したまま、

アルカミスリルの腕に炎を宿らせたのだ。


炎の輝きが一層強くなり、

その光が周囲をさらに照らし出す。


この炎により、グールは予定していた場所よりも

手前で姿を現してしまった。

結果として、体勢を崩し、バランスを失ってしまった。


「なんだとぉ!」


グールに一瞬の隙ができた。

プルルが与えてくれたこの好機を逃すわけにはいかない。

敵との間合いはわずか2メートル足らずだ。


だが、そのチャンスを活かすには、

あと一歩前に出る必要があった。


「プップ!プップ!

 (攻撃が届かない、もう少し前に出て!)」


まるで馬に鞭を打つように、

「前に出ろ」という意味で

プルルは後輩ちゃんの頭を何度も軽く叩いた。


「プルル、

 私を元気づけてくれてるんすね」


私はこれまで、戦うことが怖くて動けなかった。

プルルはそんな私に代わって、

動けない状態でも戦い続けてくれていたのだ。


私はいつも戦いで足を引っ張ってしまっていた。

今回も、バッグの中を探している間に

カンテラを壊されてしまったように。


それでも、プルルはいつも私を守ってくれた。

戦いに加わらず、ただ観戦している、

ニャンタとは違い、プルルはいつも私の側で戦ってくれた。


そのことを思い出すと

私の中に闘志が湧いてくるのが感じた。


「プルル、ありがとうっす…

 これからは私も闘うっす」


私は勇気を振り絞って、一歩前に踏み出す。

初めて戦闘中に、自分の意志で、

相手に向かって進んでいる。


恐怖を押し殺して、一歩、

さらにもう一歩、前進し、

グールの間合いに踏み込んだ。


「こいつ、俺に近づいてきたのは初めてだな…」

「ププップ!(もう逃がさない!)」


プルルの腕に宿る、

エンチャントされた炎が、

一気にグールを照らし出す。


暗闇に紛れて逃げるための影は、

炎の光によって完全に消された。


「くそっ、これじゃあ

 炎に照らされて、

 影に隠れられねぇ…」


お互いの攻撃が届く距離で、

にらみ合いが始まる。

しかし、グールは不敵な笑みを浮かべていた。


「お前、正気か?

 俺の奇襲を防いだだけで、

 状況は何も変わってないんだぞ」


確かに、カンテラの光が照らしていた時と、

まったく同じ状況である。

勝負の行方はまだわからない。


「さっきのやり取りでお前の力量はわかった。

 防御するのが精一杯なんだろ?

 なら、俺が負ける要素はねぇ!」


「プルル、あとは頼んだっす!」

「プル!(任せて!)」


1メートル以内の超近距離での戦い。

まるで西部劇のガンマンが早撃ち勝負をするように、

グールが挑発の声をかける。


「いくぜ!」


1秒…2秒…3秒…。


次の瞬間、グールが猛烈な勢いで踏み込み、

私に向かって拳を繰り出してきた。


「おらぁぁ!」

「プラァ!」


グールの拳が私に迫ったが、

その拳が直撃することはなかった。


プルルが素早く反応し、

グールの顔面に炎をまとった拳を叩きつけたのだ。


「な、なんだと!?」


エンチャントされた炎の拳は、

グールの顔面に容赦なく打ち込まれ、

強烈な炎が彼の頭部を包み込んだ。


「攻撃が早い!?

 どうしてだ?

 さっきまでとはまるで違う!」


殴られたグールは、その驚異的な耐久力で

反撃しようと殴りかかるも、

プルルの見事なカウンターで攻撃を倍返しされた。


「ププップップ!

(アダプテッド < Adapted >!

 お前の攻撃は、もう見切った!)」


プルルはグールがまだ何か、

奥の手を隠しているのではないかと警戒しながら、

慎重に動きを見極めていた。


これは、骨将軍との戦いで得た教訓から学んだものだ。

骨将軍の用心深さを見て、

プルルはしばらく防御に徹することを選んだのだ。


「なんでブースト使ってるのに、

 俺のほうが劣勢なんだよ!」


グールは焦りを隠せない。

プルルが繰り出す攻撃の速さに、

完全に翻弄されていた。


プルルは、一段と大きな鳴き声をあげ、

闘志をみなぎらせる。


「ただ拳で殴るだけじゃ

 効果が薄いんだったら、

 どうすればいいかわかってるさ…」


プルルは、攻撃の手を緩めることなく、

さらに鳴き声をあげる


「もっと、もっと強く」


プルルの拳にまとわりつく炎が一瞬で倍増した。

最後に彼は決め顔で低くつぶやいた。


「炎を大きくしてやるさ!」


プルルのアルカミスリルの腕がさらに炎を帯びる。

普通の打撃では効果が薄いと悟ったプルルは、

炎の威力を最大限に引き上げることにした。


「プラァ!プラァ!プラァ!プラァ!プラァ!」


プルルの高速連打が

グールに襲いかかる。


「ぐぎゃぁぁ!」


グールは反撃しようとするが、

そのたびにプルルの炎の拳が一撃ずつ体に打ち込まれ、

炎がグールの体を燃え上がらせていく。


「プラァ!」


最後の一撃でプルルの拳が

グールの体を吹き飛ばした。


「俺に勝てたとしても、

 主様は俺の倍は強いぜ

 せいぜい覚悟しとくことだな」


グールは空中で、

爆発するように発火して四散した。


「よくわからないっすけど、

 グールが爆発したっす!」


グールは確かに強敵だった。

おそらく、Sランクの冒険者が集まっても

勝てないほどの実力者だっただろう。


接近戦においても一流で、

炎か光を操る魔術師がいなければ、

シャドウグールを倒すのはほぼ不可能だったに違いない。


シャドウグールは影の中では無敵の力を発揮するが、

それ以外の場所ではその力は大幅に制限される。

光によって闇を照らされれば高速移動は不可能なのだから。


だが、グールが得意とする単純な打撃攻撃は

スライムであるプルルにとって、

ほとんど脅威ではなかった。


まだ、骨将軍のように高速の斬撃の方が厄介だったのだ。

斬撃はプルルの体を切り裂き、

スライムの形状を崩してしまうからだ。


つまり、シャドウグールの敗因は一つ。

グールの高速移動と打撃攻撃に特化した戦闘スタイルが、

プルルとの相性が最悪だったのである。


「かっ、勝てたっす!

 レベル145のグールに勝ったっす!

 プルル、すごいっす!」


私が叫ぶと同時に、グールの破片が地面に落下した。

その瞬間、どこからか拍手の音が響き渡り、

広場にたいまつの炎が灯り、一気に明るくなった。


「ブラボー、ブラボー!

 炊飯器とプルル、

 なかなか見応えがあったぜ!」


声の方を見ると、広場の観戦席で、

ニャンタがまるで家でくつろぐようにリラックスしながら、

逆さまの姿勢で私たちを観戦していた。


「ニャンタさん、ひどいっすよ!

 助けてくれてもいいじゃないっすか!」


「お前らだけで

 勝てたからよかったじゃねぇか」

「プップ!(強かった!)」


ニャンタは観戦席から、

滑り落ちるように降りてきて、

私たちの方へ近づいてくる。


「ニャンタさん、

 ランタン壊しちゃったっす…

 ごめんなさいっす。」


「気にすんな!

 魔法石はちゃんと回収してるから、

 また作り直してやるよ。」


私はほっとしながら、

壊れたランタンの残骸を見下ろす。


よく見ると、

装飾として彫られていた、

ニャンタさんの顔が完全に潰れていた。


「ああ、あのランタン、

 魔法石が本体だったんですね…。

 それにしても、この顔はひどいっす。」


ニャンタは笑いながら、

新しいランタンを取り出し、

私に渡してくれた。


「ほらよ!スペアをやるよ!

 俺の顔は彫られてないがな!

 さて、次はクルミの後を追うぞ。」


「先輩、アンデッドの親玉に

 ついて行っちゃったけど、

 大丈夫なんですかね?」


私は心配そうに尋ねたが、

ニャンタは余裕の表情を浮かべていた。


「あいつなら大丈夫だろ!

 まずは邪魔なクリスタルを片づけるか」


ニャンタは前足を空中でひらりと振る。

すると、目の前のクリスタルが、

音もなく真っ二つに切断された。


「えっ、今何をしたんですか?」


驚いて聞く私を無視して、

さっさと暗闇の通路へと進み始めた。


「よし、出発だ!お前らもついてこい!」


私は新しいランタンに明かりを灯し、

急いでニャンタの後を追った。


先輩の無事を祈りつつ、

暗い通路の先へと進んでいく。


この先、何が待ち受けているのか不安で仕方ないが、

今はただ前に進むしかない。

先輩が無事でいることを願いながら。

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