第28話 先輩は大古墳に眠る秘宝が欲しいそうです! part6

そして、リッチィーと名乗る骸骨は、

不気味な笑い声を残しながら

闇のゲートの中に消え去った。


「ん?さっき蹴り飛ばした奴らが

 消えてやがる…」


グールは周りを確認したが、

倒したはずの魔術師の女たちの姿が

見当たらないことに気づいた。


確かに自分の蹴りは完璧に決まったはずだ。

まさかの生き延びていたというのか?


「ニャンタさん、

 あの筋肉ムキムキのグールに

 勝てる気がしないっす」


「おい、炊飯器!よく聞けよ。

 戦いで勝つための必勝法を

 お前に伝授してやる!」


そのの言葉に、私は思わず身を乗り出した。

普段は冗談ばかりのニャンタが

真剣な表情を見せるなんて驚きだった。


これはもしかして、

とても役に立つ話なのかもしれない、

と期待が高まる。


「その必勝法ってなんですか?

 ぜひ教えてくださいっす!」


私が興奮気味に問いかけると、

ニャンタはニヤリと笑い、

声を低くして言った。


「それはな、

 相手の嫌がることを

 やり続ければ勝てるんだよ」


ニャンタの答えに一瞬の沈黙が訪れた。

私は目をぱちくりさせながら、

その言葉の意味を考え込む。


なんて卑怯な方法なんだ!と一瞬思ったが、

すぐに考えを切り替えた。


命がかかっている今、

綺麗ごとを言っている場合ではない。

実際、嫌がらせは精神的にダメージを与えるはずだ。


「ニャンタさん!

 それであのグールが

 嫌がることってなんすか?」


「答えを教えたら

 お前のためにならないだろ

 自分で考えるんだ」


もっと具体的なアドバイスが欲しかったが

教えてくれる気はないらしい

命が欲しければ手段は選ぶなということだろう。


「さてと、

 正式に主からの命が下された。

 お前を排除するか」


グールは黒いもやを纏い、その姿を消した。

しかし、次に現れた場所は、

先ほど転がっていた斧の近くだった。


彼はその斧を手に取り、

不気味な笑みを浮かべながら、

ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。


グールは武器を持たずとも十分強いはずだ。

それなのに、なぜわざわざ斧を手に入れたのか?

そして、なぜ私だけ目の前に現れないのだろう?


「プッププ(安心して、僕が家を守ってあげる)」


プルルが力強く鳴いて、

私を励ますように飛び跳ねた。

その姿に、少しだけ心が和らぐ。


プルルは私の味方だ。

そう思うと、不思議と勇気が湧いてきた。


「そういえば、

 ニャンタさんから

 アイテムたくさん貰ってたっす」


バッグを開け、いくつかアイテムを取り出した。

調理用のナイフやカンテラ、

そして、どこかで見覚えのある爆弾まで。


これらのアイテムが、

今の状況を打開する助けになるかもしれない。


おそらく、あのグールが着けている、

暗黒の鎧やガントレットなども、

骨将軍と同様に、炎と光に対する耐性が高いのだろう。


爆弾で鎧を破壊したら、

プルルのファイアーボールで、

有利に戦えるかもしれない。


「うーん、

 あいつを倒せそうなアイテムは…

 爆弾くらいっすね」


そう呟いた瞬間、

グールが声を荒げた。


「おいてめぇ、

 アイテムに頼ってんじゃねぇよ!」


その怒号に、体が震えるほどの衝撃が走る。

グールはそのまま猛然と突進してきた。


「五月蠅いっす!

 どんだけ大声で叫んでるんすか!」


グールの異常なまでの怒りに違和感を覚えた。

もしかして、アイテムを使うことに対して

嫌悪感があるのかもしれない。


私は慌てて、調理用ナイフ

【猫界77ツ道具エターナルシャープ】

を手に取った。


気休め程度かもしれないけど、

少なくとも武器にはなる。


「いったん距離をとるっす!」


プルルに向かって叫び、

すぐにその場から後退を始めた。


数メートル動いたはずだったが、

振り返ると、

目の前に再びグールが立ちはだかっていた。


「ぎゃぁぁぁ!

 なんでいるんっすか!」


私の悲鳴に応じるように、

プルルが鋭い声で鳴いた。


「ププップ(間に合わない、防御する)」


グールは素早く動き、

ガントレットをつけた大きな手で

私の腰を掴んで持ち上げた。


そして、空中に浮かせたまま固定し、

力強く締め付ける。


「砕け散れ!」


「やばいっす!

 セクハラっす!

 放せっす!」


だが、プルルが私の腰に広がって

防御をしてくれているおかげで、

なんとか耐えられている。


グールは苛立った表情で

手に感じる異様な感触に驚いていた。


「なんだこの感触は、

 お前一体何をしたぁ!」


「ぎゃぁぁ!

 私の体に触るなっすぅ!」


自由になっている両腕で、

ナイフを握りしめ、決死の覚悟で、

その鋭い刃をグールの鋼のような筋肉に突き刺した。


すると、驚くべきことに、

ナイフは簡単に貫通し、

グールの体に深々と食い込んだ。


「なにぃ!

 こんな簡単に…」


まさか、ただのナイフで自分の筋肉が

切り裂かれるとは思っていなかったグールは、

その衝撃に思わず手を離してしまった。


「ニャンタさん!

 このナイフ調理用っすよね!?

 なんか簡単に貫通したんすけど!?」


「プラァ!」


その一瞬の隙を逃さず、

プルルが巨大なアルカミスリルの腕を振りかざし、

全力でグールの頭に叩き込んだ。


渾身の一撃が、

グールの顔面に直撃し、

鈍い音が響く。


「くそ!なんだこの腕は…」


グールは顔を抑えながら後退したが、

その表情にはさほど、

ダメージを受けた様子がなかった。


「ププップ(あんまり効いてない!?)」


あれだけの打撃を加えたにもかかわらず、

グールは平然と立ち続けている。

どうやら物理攻撃が効きにくいようだ。


「ぎゃぁ!

 プルルの打撃で倒せないんじゃあ、

 勝ち目がないっす!」


グールはプルルの腕を見ながら、

何かを思い出すかのように呟いた。


「あの腕…主様が昔使っていた腕か。

 ということは、

 お前が骨将軍を倒したのか。」


グールの目が鋭く光り、

私に対する警戒心が一層強まったように感じた。


「逃げても瞬間移動して追いつかれる…

 きっと黒い靄で移動する条件があるはず」


私は必死に考えを巡らせた。

グールは主から情報を集めるように指示されていただけで、

最初から襲うつもりはなかったと言っていた。


それに、この広間だけが異様に明るいのも気になる。

普通の戦いであれば、

わざわざ照明を増やす必要はないはずっす。


もしかして…

私がカンテラで周囲を照らしていたから、

あえて炎を灯して影を作り出した可能性があるっす!


グールが瞬間移動した際の状況を思い返す。

そういえば、移動した先には常に影があった。


もしかして、グールのスキルは

影を介して高速で移動できるんじゃ!?


だから、さっき私がいた場所には、

すぐに瞬間移動できなかったんすね…


最初に彼女達、魔術師を狙ったのも

おそらく、アンデットの弱点である

炎と光属性の攻撃を恐れていたからに違いない。


「謎が解けたっす!

 お前は影の中を高速で

 移動してたんすね!」


私は叫びながら、

バッグの中に手を突っ込み、

カンテラを取り出した。


カンテラを高く掲げ、

松明の炎が作り出す影を消すように、

全方向360度に光を放った。


「さあ、高速移動してみるなら

 してみろっす!」


カンテラの光が周囲を明るく照らし、

影をほとんどなくした。

グールは苛立ち、顔をしかめた。


「ちっ…なんだその忌々しい光は。

 俺を照らしてんじゃねぇ!」


グールは怒りに満ちた叫び声を上げながら、

こちらに向かって突撃してきた。


しかし、影がなくなったことで

彼の瞬間移動は封じられている。

今がチャンスだ。


プルルのアルカミスリルの腕と

ニャンタさんのアイテムを組み合わせれば、

グールに対抗できるかもしれない。


私たちが協力し合えば、

勝機を見つけられるはずだ。


私はバッグから爆弾を取り出した。

動きの遅いグールが瞬間移動できない今なら、

爆弾を直撃させるのは簡単だ。


「プルル!ファイアーボール、

 お願いっす!

 これでもくらえっす!」


ニャンタからもらった爆弾を、

グールの目の前に向かって、

思い切り投げつけた。


爆弾が宙を舞う瞬間、

プルルが素早くファイアーボールを放った。


ファイアーボールが爆弾に触れると、

凄まじい轟音とともに、

グールの目の前で大爆発が起こった。


「くそがぁ!

 アイテムなんぞに

 頼ってんじゃねぇぞォ!」


爆発の衝撃で、グールの体は大きく揺さぶられた。

もし、カンテラの光がなければ、

グールの動きを封じることはできなかっただろう。


「相手の動きが止まったっす

 プルル、もっと投げるっすよ!

 ファイアー、お願いっす!」


「ププ!(了解!)」


私は相手がレベル145の強敵であることを

忘れていなかった。

このくらいの攻撃では倒しきれないかもしれない。


バッグからさらに多くの爆弾を取り出し、

左右の手に持ちながら、

次々とグールに向かって投げつけた。


「念には念を入れるっす!

 もっと爆弾を投げ続けるっす!」


爆弾の爆発に興奮し、

まるでその魅力に取りつかれたかのように

ひたすら爆弾を投げ続けた。


「ば、爆弾を投げるの、

 た、楽しいっすうぅ!」


爆発の連鎖が次々とグールを襲った。

煙が広間を包み込み、

何も見えなくなるほどの激しさだった。


「爆炎で何も見えないっす…」


しかし、徐々に煙が晴れていく。

そこには、暗黒の鎧が粉々に砕け散った

グールの姿が現れた。


グールは最初の爆発で戦斧を盾にし、

次に鎧を脱ぎ捨てて壁代わりにし、

なんとかすべての爆弾の攻撃を耐え凌いでいたのだ。


「爆弾を投げまくったのに…

 ピンピンしてるっす!

 しぶといやつっすね!」


私はナイフを鞘に収め、バッグにしまい込んだ。

ニャンタさんが作った武器なら、

このローブすら貫通するかもしれないからだ。


「ナイフは必要な時だけ取り出すっす。

 素人が使うと危ないっす。」


そう言いながら、

左手にカンテラを持ち、

グールの動きをじっと見つめた。


「ただの小娘相手に

 これを使うことになるとはな

 ブースト、超ブースト!」


グールは骨将軍が使っていた

肉体強化のスキルを発動させた。

グールの攻撃力と素早さが飛躍的に上昇する。


その状態でグールは猛然と突進してきた。

速くなった動きに対しても、

物理攻撃ならプルルが守ってくれるはず。


間合いに入ると、

グールはガントレットを構え、

突きを繰り出してきた。


「回避が間に合わないっす!」


彼の攻撃スピードは異常なほど速かったが、

骨将軍のときとは違い、

私の目にはグールの拳を捉えていた。


しかし、見えていたとしても

避けるには身体能力が足りない。


それを察したプルルが、

巨大な腕で攻撃の軌道を逸らした。


「ププ!(重い!)」

「危なかったっす!」


もしブーストのことを知らなければ、

プルルは真っ向勝負を挑んでいたに違いない。


その場合、

パワータイプのグールに押し負けて、

私は危険な目に遭っていたかもしれない。


しかし、プルルは力では勝てないと悟り、

攻撃をずらすことに集中した。


骨将軍との戦いがプルルを成長させていた。

この世界のモンスターのようにレベルに依存せず、

経験と応用でプルルは力を高めていたのだ。


「プラァプラァプラァプラァプラァ!」

「ちっ、この腕、厄介だな…」


「やばいっす。見えてても動けないっす。」


プルルとグールの激しい拳の応酬が続くが、

どちらも決定打にはならない。

私は下手に動かないほうが、戦いやすそうだ。


「くそ、忌々しい光が…

 そのアイテムさえなければ、

 楽勝で勝てるのによ!」


グールはカンテラの光を消そうと狙うが、

プルルの腕にことごとく邪魔されて苛立っていた。


カンテラを壊せば、

彼は影に身を隠し、

奇襲を仕掛けることができる。


「カンテラだけは守らないとダメっす。」


私は両手でカンテラをしっかりと握りしめた。

このままではカンテラが壊されたら、

こちらが不利になってしまう。


私は焦りながらも、

なんとかいい手がないか考えた。

その時、ふと思い出した。


そういえば、

グールは暗黒の鎧を失っている、

炎耐性がないはずだ。


森で焚火をするのに使った、

あの花がついた杖があるじゃないっすか!


猫界77ツ道具【花咲ファイアーロッド】

あれを使えば!


プルルが防御に徹している間に、

私がファイアーロッドで炎を放てば、

グールを倒せるかもしれない!


危険を承知で、

片手をバッグに突っ込み、

必死にファイアーロッドを探した。


「ここにもない、

 こっちにもない…

 どこにあるんすか!?」


「プププップ(何かするなら、早くしてぇ!)」


私がバッグを探している隙を、

グールは見逃さなかった。


「戦いの最中によそ見してんじゃねぇ!」


「ププ!(危ない!)」


グールの強烈な蹴りが、

カンテラを狙って襲い掛かってきた。


プルルはとっさに私を後ろに引っ張り、

蹴りの直撃を免れたが、

カンテラが粉々に砕ける音が響いた。


「ああっ、カンテラが壊れたっす!」


プルルは素手の攻撃に備えていたが、

突然の蹴りには対応しきれなかった。

プルルは私を守るためにカンテラを犠牲にしたのだ。


カンテラが壊れ、

光が失われると、

広場は再びたいまつの炎だけになった。


「もう炎は必要ないな…

 シャドウインパルス!」


グールから闇の波動が放たれ、

広場の炎をすべて消し飛ばした。

辺り一面が暗闇に包まれる。


「シャドウステップ!

 これで俺はまた、

 高速移動が可能になったぁ!」


グールは勝利を確信したかのように笑い、

再び影の中に消えた。


「やばいっす…

 暗すぎて何も見えないっす

 どこから攻撃が来るんっすか?」


無音が広がり、

何も聞こえない。

視界は完全に闇に包まれた。


ただ一つ確かなのは、

この暗闇の中に、

私を狙っている敵がいるということだ。


全身から冷や汗が流れる、

私は攻撃がいつ来るか分からない恐怖で、

動けなくなっていた。


なんで異世界にきてから

私ばかり、こんな目ばかりに遭うんすか!?


「手こずらせやがって…

 まあ、少しは楽しめたぜ。

 でも、これで終わりだ!」


グールの声が闇の中に響き渡り、

彼の気配が高速で近づいてくるのを感じた。


闇に覆われた空間では、

目も耳も頼りにならない。

その時、プルルの鳴き声が聞こえた。


「プッププー!(暗いけど、問題ない!)」


プルルの明るい声が、

不安でいっぱいの私の心に、

一筋の光を差し込んだ。


「プルル、なんでそんなに

 元気いっぱいに鳴いてるんすか!?」


私は泣きそうな声でプルルに話しかけたが、

この絶望的な状況にもかかわらず、

全く怯むことなく、戦う意志を燃やしていた。


そして、私の頭上で、

力強くアルカミスリルの腕を掲げたのだ。


「え?プルル

 何をするつもりっすか?」

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