第27話 先輩は大古墳に眠る秘宝が欲しいそうです! part5
広間の外壁には、
数えきれないほどの松明が取り付けられ、
異様な形をしたオブジェが点在していた。
松明の炎は石壁を淡く照らし、
揺らめく光が石造りの彫刻に、
複雑な陰影を落としていた。
その影はまるで意思を持った生物のように
広間全体をゆっくりと這い回り、
怪しくうごめいていた。
「ここ、けっこう明るいっすね。
ランタンはしまっておくっす。」
周囲を見回しながら、
手に持っていたランタンをしまい込む。
その時、先輩が大声で話しかけてきた。
「ねぇ、後輩ちゃん、
見て!あの人、肌がすごく白い
もっと日焼けしたほうがいいと思うよね!
確かに、その男の肌は異様に白く、
まるで何年も日の光を浴びていないかのようだ。
目の前の大男と対峙して分かることは
ただ一つわかるののは、
こちらに敵意むき出しということだ
「どうやって地下の扉を壊した?
たとえ呪いが解けたとしても、
人間の力で破壊することなど不可能なはずだ。」
男が低い声で問いかけると、
先輩は笑顔でピッケルを掲げて答えた。
「このツルハシで
叩いたら壊れたよ!」
「何かのマジックアイテムか?」
巨漢は興味深々にツルハシを見ていた。
これで外壁も壊したのだろうと、
推測しているようだ。
「お前らが外壁を破壊できるとは、
到底思えん
他に仲間がいるのか?」
「私たちだけっす
それより、驚きっす!
なんで人間がいるんすか?」
「後輩ちゃん、
なんかコイツ怪しいよ
ブッキミーな感じがするよ!」
先輩、勝手にお墓を破壊して
内部に侵入してる私たちのほうが、
どう考えても怪しいと思うっすけど…
もしニャンタの情報が正しいなら、
この男はスケルトンの親玉かもしれない。
ちょうど鑑定のスクロールを手に入れたし、
ここは確かめておくべきっすね。
ライラとエリスの二人は既に杖を握り締め、
相手の威圧感に圧倒されながらも、
決して油断することなく、慎重に構えている。
「ライラさん、
あの人敵かもっす
鑑定してほしいっす」
私の言葉に、ライラは頷いた。
相手がただ者ではないことは、
彼女の表情からも明らかだった。
「わかったわ。鑑定!」
ライラは懐から、
素早くスクロールを取り出し、
呪文を発動させた。
スクロールが光を放ち、
男を包み込むと、
その正体が浮かび上がった。
モンスター: シャドウグール・ダークサーヴァント
ステータス
レベル: 145/999
HP: 38,000
MP: 1200
攻撃力: 8,200
防御力: 8,800
魔力: 500
状態異常耐性
毒: 無効 睡眠: 無効 麻痺: 無効
石化: 無効 カース: 無効 即死: 無効
属性耐性
火:-40% 水: 70% 風: 50% 光: -50%
土: 50% 雷: 60% 氷: 70% 闇: 100%
タレントアビリティ(才能)
影渡り: S
不死の肉体: S
暗影潜伏: A
再生: B
その数値を見て、ライラは息を飲んだ。
人間型の魔物がレベル99を超えるなんて
今までの歴史の中で前例がなかったのだ。
「レベル145のグールよ!
こいつ人間じゃないわ!」
ライラがそう叫んだ瞬間、
グールはすでに、
彼女の目の前に移動していた。
「俺に向かって
スクロールなんて使ってんじゃねぇ」
まるで瞬間移動でもしたかのように、
誰もその動きを捉えることができなかった。
巨大な斧が彼女に向かって振り下ろされる。
「様子見に来たんだが
もういい、排除する」
「え?なんで目の前に!?」
彼女たちが立っていた位置から、
相手は確実に数百メートル離れていた。
それが、ほんの一瞬で、
目の前に現れるなんて
そんなこと、ありえない。
相手の外見からして、
近距離戦闘が得意だとわかっていた。
だからこそ、
魔術師である自分は距離を保ち、
近寄らせないようにしていたのだ。
逃げるための距離を確保していたはずなのに、
一瞬で相手が目の前まで迫ってきた。
その異常な速さに驚き、
思わず後ずさりしてしまう。
だが、焦ったせいで足元が乱れ、
そのまま地面に倒れ込んでしまった。
「くっ、逃げなきゃ…!」
必死に立ち上がろうとするライラ。
しかし、目の前のグールは全く容赦を見せない。
巨大な戦斧を振り上げ、
その重たい一撃を、
彼女に振り下ろそうとした。
「危ない!」
先輩は一瞬の判断で、
ライラの危機を救おうと、
手に持っていたツルハシを力いっぱい投げつけた。
ツルハシは回転しながらまっすぐに飛び、
グールの手を貫くように直撃。
握力は一気に失われ、
斧が手から滑り落ち、
ガラガラと音を立てて地面に落ちた。
だが、ツルハシの勢いは止まらず、
グールの腕を引きずったまま地面に突き刺さり、
そのままグールの手を地面に釘付けにした。
「なんだと!?」
その一瞬の隙をついて、
ライラはすかさず身を翻し、
その場を離れることに成功した。
「こんなツルハシで俺の手を…
ん?なんだこれは、
地面から抜けないだと?」
グールは片方の手ツルハシを掴み、
地面から引き抜こうと試みたが、
重すぎてびくともしない。
「くそ!なぜ抜けないんだ?
さっきあの茶髪が軽々と投げてたはずだ、
魔力か何かで一時的に軽くしたのか?」
グールはまるで森の奥深くの台座に埋め込まれた
抜けない伝説の剣を引き抜こうとするように、
何度も力いっぱいツルハシを引っ張り続けていた。
「後輩ちゃん!
ツルハシ投げたら当たったよ!」
「先輩!ナイスっす!」
弓や投擲の命中率が壊滅的な先輩だったが、
今回は幸運にも命中したようだ。
私も驚きを隠せなかった。
「ツルハシって、
結構飛ぶもんなんすね…」
一方で、エリスはライラの元に駆け寄り、
震える手で彼女にしがみつくようにして、
出口の方向に向かって全力で逃げ出した。
「ぎゃぁぁ!なんなのあいつ、
気が付いたら目の前にいたわ!」
エリスとライラは怯えたまま走り続けた。
レベルが99を超えるモンスターなど、
普通の冒険者には対抗できる相手ではない。
それがSランク冒険者であっても
数人集まらなければ倒せない相手だということを
彼女たちは悟っていた。
「団長のカインがいてくれたら…
まだ勝機はあるけど」
エリスは、静かに呟いた。
だが、その瞳にはすでに戦意の光は消え、
ただ恐怖と疲弊の色が浮かんでいた。
戦おうとする気力もなく、
彼女たちはただ逃げることに、
全神経を集中させていた。
逃げる――それ以外の選択肢など、
もう頭の中には残っていなかった。
「ちっまあいい
まずは、あの女魔術師から片付ける」
グールの片手には、
ツルハシが深く突き刺さり、
地面に縛り付けられて動けない状態。
しかし、突然黒い靄がその体を包み込み、
その姿がふっと消えてしまった。
そして、次の瞬間――。
エリスたちが逃げている先に、
またしてもそのグールが現れたのだった。
「俺にスクロールなんぞ
使ってんじゃねぇぞ!」
グールが怒鳴るように叫んだ。
どうやらアイテムを使われることに
激しく嫌悪感を抱いているようだ。
そして、すでに片腕は再生している。
斧は手元にないため、
代わりに蹴りの動作を取っていた。
その足には骨将軍が履いていたような
暗黒のグリーブが装着されている。
例えば、鉄でできたグリーブで蹴られたとしたら、
運が悪ければ金玉も潰れるし、
内臓を激しく損傷させることもある。
ましてやレベル145の巨漢が繰り出す、
蹴り技を食らえば、
一撃で戦闘不能になるのは容易に想像できた。
「こんな場所、
来るんじゃなかったぁ!」
「まだ死にたくないよぉ!」
まるでホラー映画で怪物に襲われる女優のように、
二人は恐怖に叫び声を上げた。
「まず貴様らから排除する。」
グールの冷酷な声が響き、
戦う気のないエリスとライラに向かって、
無慈悲な蹴りが襲い掛かる。
「あっ、これはヤベェな。
あいつ、本気で殺す気だぜ。」
「ニャンタさん!
あのグール、やばいっす!
どうするんっすか!」
エリスたちに蹴りが直撃する寸前、
ニャンタは前足を持ち上げ、
空を掻くような動作を見せた。
「ほらよ!」
グールの蹴りが彼女たちに思いっきり直撃した。
エリスとライラは数十メートル吹き飛ばされ、
地面に激しく叩きつけられた。
「侵入者は
あと二人と一匹だ。」
グールが低い声で冷たく呟く。
その言葉を聞いたニャンタは、
肩をすくめながら呟いた。
「おい!聞き捨てならねぇな。
あいつ、俺みたいな小動物すら
殺す気マンマンみたいだぞ!」
「今まで出会った中で
一番殺意を感じる相手っす
なんか足が震えて動けないっすよ」
「プー(あいつ骨将軍より強い)」
「私、ツルハシ回収してくるね」
先輩は投げたツルハシを回収するために
さっきまでグールがいた場所に
向かっていった。
「次はそこの金髪だ。」
「なんで私なんすか!?」
どうして近くにいる先輩じゃなくて
私を狙ってくるんすか?
もしかしたら、
私が白魔導士っぽい服を着ているから、
回復魔法で仲間を助けると思ったんですかね?
グールの鋭い目が私を捉えた。
彼はゆっくりとした足取りで、
こちらに向かって歩いてくる。
あの不気味な暗闇の靄に包まれて、
瞬間移動しなければ
移動速度はさほど速くないようだ。
「やばいっす
あいつが高速移動できる謎を解かないと
私の身に危険が迫るっす」
身構えていると、暗闇の通路から
誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
その瞬間、グールの動きがピタリと止まる。
やがて姿を現したのは、
顔が骸骨でできた魔術師だった。
ネクロキャスターとの
大きな違いは背の高さだろうか
昨日の奴は身長が異様に低かったがコイツは違う
体格が2メートルを超えていて
頭に大きな装飾品をつけている
いかにも闇の魔法の達人を連想させた。
「私は『様子を見てこい』と言っただけだが、
なぜ襲撃した相手に
攻撃を仕掛けているのだ?」
「申し訳ありません」
その言葉から察するに、
グールとこの魔術師には
明確な上下関係があるらしい。
どうやら、この骸骨の魔術師が
スケルトンたちの親玉のようだ。
「彼女たちへの攻撃をやめろ
どうやって壁を壊したのか、
聞いておきたい」
その時、先輩は
魔術師のような格好をしたその存在を見て、
興奮を抑えられない様子で叫んだ。
「後輩ちゃん!大変だ!
リッチーだ!
リアルリッチーがいるよ!」
先輩は指を指しながら、驚愕の表情で叫び続ける。
どうやら目の前のモンスターがリッチーだと思って、
興奮しているようだ。
「確かに私の名前はリッチィーだが?
お前、どうして私の名前を知っている?」
「だって有名だよ!
元人間で魔術の達人で、永遠の命と引き換えに
アンデットになる秘術を体に施したんでしょ」
あれ?気のせいっすかね?
微妙に会話が噛み合ってない気がするっす
「確かにその通りだ。
しかし、どうして私のことを知っている?
お前、1000年前に私と会ったことがあるのか?」
「いや、会ったことはないけど、
あなたのことは知ってるよ!
(種族的な意味で)」
え?1000年も生きてるんですか!?
魔術師がそんなに長い間修行してたら、
この人、相当強いんじゃなっすか?
「君、面白いね。
あの通路の奥に私の研究室があるんだ。
興味があったら来ないかい?」
「えっ、なにそれ!
面白そう!見てみたい!
後輩ちゃん、先に行ってるね!」
そう言い残すと、
先輩は勢いよく、
奥の通路へと駆け出していった。
「ニャンタさん、あの人、
話が通じる理性的な人で助かるっすね」
「そうだといいんだがな。」
ニャンタは意味深な笑みを浮かべていた。
まるで、これから何かが起こるのに、
私がそれに気づいていないのが、
おかしいと言わんばかりに。
「さて、久しぶりに面白い客人が
来てくれて嬉しいよ。
ちょうど退屈していたところだからね」
「それじゃあ、
私も先輩と一緒に、
研究室とやらにお邪魔するっす」
私が通路に向かおうとすると、
スケルトンの親玉がまるで犬に「待て」
を命じるような仕草でこちらを制止した。
「何を言ってるんだ?
私が興味があるのは茶髪の子だけだ。
ストーンウォール!」
そう言うと、通常の岩石よりも
はるかに硬そうなクリスタルの壁が出現し、
研究室へと続く通路を完全に塞いだ。
え?普通ストーンウォールって
岩でできるんじゃないんですか?
なんで地面からクリスタルが生えてくるんっすか?
「情報を聞き出すなら、
あの子一人で十分だ。」
そう言うと、闇のゲートを出現させ、
その中に入る直前に振り返り、
グールに向かってこう命じた。
「その金髪の子には
用がないから、『殺せ』」
「かしこまりました」
今なんて言ったっすか?
COROSE?ホワイ!?
酷いっす!なぜそんな事言うんっすか!?
どうやら、このグールを倒さないと、
先輩の元へは、
たどり着くことはできないようっす。
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