第26話 先輩は大古墳に眠る秘宝が欲しいそうです! part4

先輩が古墳の入り口に向かい、

まるで家のチャイムを鳴らすかのように叫んだ後、

しばらく、その場に立ち尽くしていた。


「よし!後輩ちゃん

 誰も返事してこないから

 古墳のダンジョンに突入しよう!」


「返事があったら逆に怖いっす

 おそらく住んでるのは

 モンスターっすよ?」


「おい!何正面から

 どうどうと行こうとしてんだ」

 コッチについてこい」


私たちは古墳の頂上にいたのだが

ニャンタさんに連れられて

階段を一番下まで降りていった。


「ニャンタ!

 なんで降りるの!?」


「どこ行くんすか?

 古墳の入口あっちっすよ!」


「墓場っていうのはな

 地下にお宝が埋まってんだよ

 いいからついてこい」


先輩も私も状況が全く理解できなかったが、

ニャンタは何かを探し出そうとしているかのように、

古墳の外周を意気揚々と歩き回っていた。


そして突然、ピタッと足を止め、

壁をじっくりと調べ始めた。


しばらくして、

満足げに頷いたかと思うと、

こちらを振り返って叫んだ。


「よし、クルミ!

 ここをピッケルで掘るんだ」


「ここ掘れニャーニャーってこと!?

 わかったよニャンタ!」


先輩はニャンタさんの指示に従い、

すぐさまピッケルを手に取った。

まるで子供のように無邪気な笑顔を浮かべている。


「ダンジョンの壁に穴を開けるなんて、

 ちょっとマナー違反な気がするんですけど…」


どうやら、古墳の上部にはお宝がないと判断し、

面倒だから直接穴を開けて、

ショートカットしようという魂胆らしい。


「後輩ちゃん、

 危ないから下がっててね。

 ちょっと試しに振ってみるから。」」


「ピッケルがダメなら

 爆弾も用意しておいた

 ダメならこれを使うぞ」


「なんで爆弾なんて持ってんすか!?

 とりあえず危ないから下がるっす」


どこかで見たことがあるような、

丸くて青い球体に導火線がついた爆弾を取り出していた。

なんとも用意周到なニャンタさんである。


先輩は朝に錬金釜で作った、

ピッケルを握りしめ、

思いっきり振り回し始めた。


その動きは荒っぽく、

ただ力任せに振っているだけのように見える。

おそらく、振った時の感覚を掴もうとしているのだろう。


しばらくするとコツを掴んだのか、

先輩は満足げにうなずいた。

準備が整ったようだ。


「ダン、ダン、ダダダダン」と足踏みしたあと

「よし!いくぞぉ!」と叫びながら

古墳に向かって突撃した。


ピッケルと固そうな鉱石が激突し、

轟音と共に古墳の壁が粉々に吹き飛んだ。


「こっちまで破片が

 ぶっ飛んできたっす」


私は慌てて頭を抱えながら身を伏せた。

先輩はそんなことお構いなしに、

大笑いしながらピッケルを何度も振り上げていた。


「やっぱり冒険といえばピッケルだよね

 好きなところから掘って

 侵入できるのが最高だよ!」


目の前には先輩が開けた大きな穴が

ぽっかりと口を開けていた。


暗闇の奥をのぞき込むと、

どうやら地下へと続く階段が見える。


「本当は爆弾を使いたかったんだが、

 まあいい、

 炊飯器に爆弾を進呈しておこう」


「爆弾なんて怖いっす

 いらないっす!」


私が必死に断ったにもかかわらず、

ニャンタは勝手に、

私のバッグにどんどん爆弾を詰め込み始めた。


「一体何個、爆弾作ってたんすか!

 爆弾なんて使うことないと思うっす!」


「火をつけて投げるだけだ

 モンスターとか壊れない壁とかに使えばいいだろ

 いざって時のためにとっとけ」


「ねぇ階段があるよ

 降りようよぉ!」


無理やり古墳に穴を開けたことで、

ダンジョンに仕掛けられてい数々のトラップやギミックは

すべて無意味になってしまった。


精巧に作られた仕掛けの数々が、

無駄に終わったのだ。


「主様、どうやら外壁に穴をあけられたようです」


「ふざけるな!このダンジョンを築くのに

 何百年もかけと思ってる、

 それがすべて無駄になったというのか!」


主は震える声で叫んだ。


結界が破られた時から嫌な予感はしていたが、

まさかアダマン鉱石で強化された壁が

破壊されるとは考えもしなかった。


しかも、何重にも施された魔術の障壁が、

破られてしまったことが信じられなかった。


「これを壊せるとしたら

 魔王しかありえない

 まだ時期が早すぎる」


地下に籠り続けている間に、

魔王が誕生したことを見逃してしまったのか?


いや、それはあり得ない。

そんな大きな兆候を、

見逃すことは絶対にないはずだ。


「骨将軍も娯楽の狩りから戻ってきません

 きっと襲撃してきたものに

 やられたのでしょうか?」


「その可能性は高いだろうね

 様子を見てきてくれるか?

 どんな奴がやってきたのか情報を集めてくれ」


「かしこまりました」


使い魔のグールは主に一礼すると、

そのまま闇の中へと姿を消した。


主はしばらくの間、

静かにその場に立ち尽くしていたが、

やがて不敵な笑みを浮かべた。


「まあ、どんな敵であろうと、

 今の私に敵う者などいないさ

 たとえ魔王だとしてもね」


そう言うと、骨のような白い顔を覗かせながら、

ローブの下から巨大な竜のような腕を現した。

その腕には力が漲っており、爪は鋭く輝いていた。


「この力を試すには、

 いい機会じゃないか?」


不気味な笑い声が、

冷たい石の壁に反響し、

暗い部屋の中に響き渡った。


私たちが古墳の中に入ろうとしたその時、

聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ねぇミラクルちゃんたち」

「待って私たちも一緒にいくわ」


古墳の上のほうから声が響いてくる。

振り返ると、そこにはエリスとライラが立っていた。


「ライラさん、エリスさん!

 どうしてここにいるんっすか?」


「この古墳の周辺に、見えない壁ができているの!

 カインたちは気づかずに

 私たちを置いて行ってしまって…」


「それじゃあ

 この古墳の周辺から

 出られないってことっすか!」


私は驚いて声を上げ、

ニャンタさんをちらっと見つめた。

すると、肩をすくめ、にやりと笑いながら答えた。


「のんきに手なんか振ってたから

 出られなくなったんだろう。

 まあいい、肉壁が増えるのは歓迎だぜ」


「ライラやエリスさんを

 そんな風に呼ばないでほしいっす」


どうやら、ニャンタさんが

二人を意図的に閉じ込めたのではなさそうだ。


最初から見えない壁について知っており、

何らかの方法でそれを破ったのだ。

だから突然古墳が私たちの前に現れたんっすね!


「みんなと一緒にいたほうが

 安全だと思ってね

 よかったら私たちも付いて行っていいかしら」


「ウェルカム!

 それじゃあ

 みんなで古墳に入ろうよ」


なぜか先輩は「WELCOME」を渋い声で発音していた。

こうして、私たちの仲間にエリスとライラが加わり、

そのまま古墳の地下へと突入することにした。


どのみち、この古墳の謎を解かない限り、

この場所から出ることはできない。

私たちはその事実を理解し、前に進むことを決意した。


「暗いからカンテラを出すっす」


私はバッグからカンテラを取り出し、通路を照らした。

カンテラの光は驚くほど明るく、

まるで太陽の光が地下に差し込んでいるかのようだった。


カンテラの光で照らされた壁は、

外の古墳と同じ見慣れない鉱石でできていたが、

加工が粗く、ほぼ自然なままの形が残っていた


さらに不思議なことに、

この地下には埃ひとつなく、

誰かが住んでいるかのように清潔だった。


モンスターの気配もない。

ゾンビのようなものが出てきたら嫌だなと思っていたが、

匂いも、汚れもないので、きっといないのだろう。


どうやらこの場所の主はきれい好きのようで、助かった。


先輩は私たちよりも早く階段を駆け下り、

広間に到着した。


その広間には巨大な金属の扉があり、

先輩はそれをじっと見つめた。


「この扉は・・・。

 呪われている」


「先輩、一人で先にいくと危ないっすよ

 なんすか、この扉はぁ!」


扉には黒いもやがまとわりついていて、

見るからに触れたら、

呪われそうな雰囲気を漂わせていた。


しかし、私が扉に近づくと、

その黒いもやは消え、

ただの金属の扉になった。


「あれ?なんか扉が綺麗になってる

 私の見間違いだったのかな?」


「私にはただの扉に見えるけど?

 何か問題でもあった?」


「炊飯器、お前の浄化能力は呪いも消せるのか

 どんどん芸が増えていくな」


どうやら私が近づいたせいで、

扉にかけられていた呪いが消えたらしい。

浄化って便利な能力っすね。


カンテラで扉の奥を照らしてみると、

どうやらその先は一方通行になっているようだ。

左右には別々の木製の扉があった。


「この扉、鍵がかかってるみたいっす

 びくともしないっすよ」


「鍵がかかってるってことは、

 盗まれたくないような

 何か貴重なものがある証拠だよね」


「まさにその通りだ

 この先にお宝が隠されているに違いない」


どう考えても二人の発想は冒険家というよりは、

ただの盗賊や泥棒のようだが、

もう私は何も言わず、黙っていることにした。


「ツルハシで扉を叩いてみるよ」


そう言って、先輩は勢いよくツルハシを振りかぶり、

力いっぱい扉に叩きつけた。


扉はその衝撃に耐えきれず、

勢いよく吹っ飛び、

遠くの闇の中へ飛んでいった。


「ぶっ飛ばしてやったぜぇ!」


音の響きが遠くで返ってくるのを聞くと、

この通路はかなり長いようだった。


「ねぇエリス、

 ツルハシって扉開ける道具だったから?」


「私は使ったことないけど

 そうなのかもしれないわね

 普通は岩や鉱石を砕くためのものだけど…」」


「二人とも大丈夫っすか

 目が遠くを見てるっすよ?」


先輩は宝探しでハイになっているようだ

扉を壊した後は一目散に、

通路の左右にある扉をどんどん開け始めた。


「ココには何もないか

 こっちは魔物が凍ってる

 ココもお宝なし、と。」


「今なんて言ったっすか?」


先輩の言葉に驚いて部屋を覗き込むと、

中には凍りついたモンスター達がいた。


すべてのモンスターは矢で射抜かれたまま、

氷の中に閉じ込められている。


「ねぇどうなってるの?

 この部屋全体が凍ってるわね」


「まるで冷凍室っすね

 ホーンラビットやイノシシ

 オウルリッパーまで凍ってるすよ!」


「こっちにはリザードマンもいるわ」


森に生息する魔物たちが冷凍保存されている。

何かの目的でここに保管されているのだろう。

それは森の魔物よりも強力な存在がいることを示していた。


「もしかして冷凍保存して

 後で食べるつもりなのかもね!」


「ウサギとイノシシの肉なら、

 炊飯器も抵抗なく食べれるだろ

 勝手にいくつか拝借するぜ」


ニャンタさんはそう言うと、

勝手にバッグに凍った魔物を詰め込み始めた。


まるで他人の冷蔵庫を勝手に開けて、

中身を持ち帰るような許されざる行為だ。

だが、ニャンタには、そんな事は関係なかったのだ。


「もしかして、これって私たちを襲ってきた

 骨将軍やデッドアイが、

 狩ってきた魔物なんじゃないかしら?」


「モンスターがモンスター氷漬けにして

 一体何をしようとしてるの」


冷凍室を後にして別の部屋を探してみると、

そこには魔術のスクロールや、

謎めいた液体の入った瓶が並べてある部屋があった。


まるで魔法の研究をしているような雰囲気の部屋だ。


「ねぇ見て!

 これ鑑定のスクロールじゃない!?」


「全部持っていこう、

 役に立つかもしれないし、

 損することはないわ」


先輩にとってはただのガラクタでも、

ライラやエリスにとっては貴重なアイテムのようだ。


さらに違う部屋を見てみると、

そこには錆びた剣や鎧が保管されていた。


武具には紋章のようなものが彫られているが、

どれも長い年月を経て朽ちてしまっている。


もし新品だったら、

高値で売れたかもしれないが、

今は触る気にもならない代物だ。


「この武具たちは…呪われている」


「先輩、もう呪われているって

 言いたいだけじゃないですか?」


すべての部屋を確認したが、

お宝らしいものは見当たらない。


「ねぇ後輩ちゃん!

 お宝がどこにもないよ!」


「そんな都合よく

 見つかるはずないじゃないっすか」


さらに奥へ進むと、巨大な広場に出た。

まるでコロシアムのように広く、

見渡す限りの空間が広がっている。


そこには、黒い鎧を身にまとい、

大斧を振りかざした巨漢が待ち構えていた。


「お前らが侵入者か」


彼は鋭い眼差しで私たちを睨みつけていた。

青白い肌はまるで死人のようで、

生気が感じられない。


どうしてこんな場所に人間がいるのか、

私たちは誰も理解できずにいた。

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