第15話 スケルトン軍団の襲来!先輩とコテージ防衛戦 part3

先輩は、ドアを叩く激しい音で目を覚ました。

意識がはっきりすると同時に、

外から女性の切迫した叫び声が耳に飛び込んでくる。


「ねぇ誰かいないの?

 誰が住んでるのか知らないけど、

 この中に入れてぇ!」


「ニャンタ、

 ドアの前で叫んでる人がいる」


「なんだ、騒々しいな

 クルミ、訪問販売なら断っておけ、

 うちはそういうのは全部お断りだ」


ニャンタの大きな耳がぴくぴくと動く、

苛立ちを隠しきれない様子が見て取れた。

二人はのんびりとドアに向かった。


寝ぼけ眼をこすりながら、

ドアの向こうから聞こえてくる声に、

耳を傾ける。


「どちらさまですか?」


どうしてリアがドアを叩いているのか——

それは、男のレオやカインより、

女性のほうが警戒されないと判断したからだった。


「あら?可愛らしい声ね?

 お願いお姉さん達、困ってるの!

 家の中で色々と説明させてくれないかしら?」


深夜遅くに訪れるなんて、何の用だろう?

心の中で警戒心が高まる、

もしかして訪問販売のセールスの人かな?


「今、お姉さん達って言った?

 一人じゃないの?

 仲間がいるの?」


「そうなのよ!

 あとの二人は外で待たせてるから、

 せめて私だけでも中に入れてくれない?」


ドア越しに響くその声は、

一見親しみやすいものだったが、

深夜に家に入りたいとは、怪しさ満点である。


「あの、訪問販売とかなら、

 いらないので帰ってください

 しつこいとポリス呼びますよ」


「ポリス?お父さんのこと? じゃあ逆に呼んで!

 とにかくお願い、中で話を聞いてほしいの!

 外じゃちょっと、ね?」


……お父さん?

意味がわからない。


眉をひそめると同時に、

ドア越しに感じる異様な気配が

普通の飛び込み営業ではないことを告げていた。


この状況で、

わざわざポリスを呼べって……

異世界の飛び込み営業は恐れを知らないのか!


もしかしてお姉さん、

ノルマに追われてるのかな?

深夜遅くまで大変そうだなと思った。


「お姉さんが焦る気持ちも分かるよ、

 私は経験したことないけど

 何かに追われるって大変そうだもんね」


「あなた状況分かってるじゃない!

 それじゃあ、ドアを開けてくれるのかしら?

 家の中にお邪魔してもいいかな?」


二人の会話は微妙に噛み合ってなかった。

そして、先輩はしばらく考えた後、

一切のためらいなく、強い口調で言い放った。


「やだ、断る」


無闇に知らない人を、

玄関に入れるのは、

ちょっと怖かったのだ。


「うちは結構です、

 帰ってください」


「お前たちの家だったのか?

 頼むから開けてくれ!」

「窓の外を見てみろぉ!」


突然、窓の外から別の声が聞こえてきた。

それはレオとカインの叫び声だった。

彼らの声には明らかな緊張と恐怖が含まれていた。


「あれを見てくれ!」

「あいつらどんどん増えてやがる」


彼らが指さす方向に目を向けると、

驚愕の光景が目に飛び込んできた。


コテージの周囲には、

スケルトンの集団が集まりつつあり、

その数は次第に増えていくようだった。


「大変だぁぁ

 後輩ちゃん起こしてくる!」


「頼む、先にカギを開けてくれぇぇ

 あっ!ライラ、エリス起きろ

 寝てる場合じゃないんだぁ」


カインの言葉を後回しにして

急いで後輩ちゃんを起こしに寝室に駆け込んだ。


部屋に入ると、毛布に包まれたベッドで、

後輩ちゃんがぐっすりと眠っていた。

寝ている体を激しく揺さぶりながら叫んだ。


「後輩ちゃん、起きて!

 早く起きなきゃ、

 大変なんだよぉ!」


声を張り上げたが、

後輩ちゃんは微動だにしない。

さらに強く揺さぶりながら声をかける、


「起きて、起きて!

 コテージの外が

 大変なことになってるんだぁ」


ようやく目を覚まし、

ぼんやりとした表情で先輩を見上げた。


「もう、どうしたんっすか先輩

 まだ眠いっす、

 もっと寝むりたいっす」


私は目をこすりながら、

半分眠りながらも抗議の声を上げた。


「あっ後輩ちゃん、目が覚めた」

「なんか外が騒がしいっすね

 カインさん達が起きたんすか?」


すると先輩は、奇妙な踊りを踊り始めた。

腕を振り回し、足を高く上げながら、

低い声で言葉を続けた。


まるでミュージカルのように派手な姿に、

私は完全に目を覚ました。


「これから後輩ちゃんが目にするものは……」

 それを見た瞬間、身震いするほどの恐怖を

 感じる事になるでしょう……」


「なんかよく分かんないっすけど

 こっちに行けばいいんっすか?」


私は先輩の変なダンスと声に従い、

眠気を振り払うように、

ゆっくりとリビングへ向かって歩き出す。


そして窓の方へ目を向けた。


「何これ…」


目の前に広がる光景に息を飲んだ。

暗闇の中で無数のスケルトンが集まっていたのだ、

一瞬で状況の深刻さを理解した。


「先輩、あっあれは、

 もしかして」


「そうなんだよ後輩ちゃん!

 未来からやってきた

 殺人マシーンが攻めてきたんだぁ」


先輩は目をカッと見開き、両手を大きく広げ、

まるで舞台の主役のように、

誇張した動きをしながら叫んだ。


「私たちの異世界デビューを

 阻止するために送り込まれた刺客だよ!


 異世界に来たばかりで、

 まだ弱い私たちを

 消し去ろうとしているんだ!」


「おい炊飯器!どうすんだ?

 この異世界には、やつらを倒せる

 武器なんてないかもしれないぜ?」


私はその突拍子もない発言に「マジっすか?」

と思わず信じそうになったが、

よく観察してみると、あることに気が付いた。


冷静さを取り戻した私は、

眉をひそめながら、

窓の外を指差した。


「いや、先輩、あれ普通のスケルトンっすよ?

 見てください、肋骨の中が空っぽっす!

 正真正銘の異世界のモンスターっす」


「でも骨格が似てるし?

 骨だけで動くなんて物理的に不可能だよ?」


スケルトンは魔法や呪いによって動いているため、

物理的に不可能と思えることも可能なのだ。

先輩?異世界では常識に囚われてはいけないんっすよ?


「原理はよく分かんないっすけど

 スケルトンは骨だけで動けるんっす!」


「なんだ、未来から来た

 殺人マシーンじゃなかったのか」


カインたちはコテージの外で、

険しい表情を浮かべ、

迫り来るスケルトンの集団をじっと見つめている。


今にも始まりそうな戦いを前に、

どう対処すべきか真剣に議論していたのだ。


「先輩、今はとにかく

 パジャマを着替えようっす」


慌てて部屋に戻る二人。

着替えを済ませた先輩は、

部屋の隅にいるプルルに話しかけていた。


「あのねプルル、液体金属っていうのがあってね、

 自在に姿を変えられるんだ。

 プルルも私の姿をマネできたりする?」


「プッ!」


プルルは一瞬考えた後、身体を変化させようと試みた。

しかし、その結果はお世辞にも上手いとは言えず、

歪んだ形にしかならなかった。


だが、腕と拳っぽい形には変えられるようだ。

ぷにぷにだから、殴られても痛くなさそうだが。


「プルル、その可愛い形状のまま

 金属みたいに硬くなれたりする?」


「プー(無理だよ)」

「先輩はプルルを凶悪なメタルスライムにでも

 進化させようとしてるんすか?」


金属に変化するとローブにくっついたときに

すごく重くなりそうな気がする。

今のまま、私を守ってくれるだけで十分っす!


「でもメタルスライムって、

 なんか強そうじゃない?」


「確かに、強そうっすけど!

 今はそれどころじゃないっす

 まず、ライラさん達を叩き起こそうっす」


どうやらプルルは、

相手の姿をマネするのは苦手なようだ。


ちょっと落ち込んでるように見えたので、

励ますように頭の辺りを撫でておいた。


「おいプルル、落ち込んでるのか?

 ブルーがいい感じに出てるじゃねぇか

 まあ、元からお前の体は青色だけどな」


プルルがうまく体を変化できず、

しょんぼりしていると、

ニャンタがそっと近づいてきた。


そして、ニヤリとしながら話しかける。


「プープープー

(僕は液体金属とやらに敗北したんだ)」


「クルミが言ってた液体金属の話は忘れろ!

 たとえお前が完璧に姿をマネできたとしても、

 それになりきるってのは簡単じゃねぇんだぜ?」

 

ニャンタはプルルの身体を

軽く叩いて励ますように続けた。


「苦手の事を頑張るより、

 自分の力を活かして輝けよ

 透明になるとか、まあ…色々あるだろ?」


プルルは少しずつ元気を取り戻し、

その姿がわずかに光を帯び始めた。


「お前の力、役に立つんだぞ。

 炊飯器やクルミを、

 いつも助けてやってるだろ」


「プップー(わかった!)」


ニャンタの励ましで、

プルルは再び自信を取り戻し、

自分の力を活かそうと決意した。


元気づけられたプルルは、

透明になって部屋の中を滑るように移動し、

後輩ちゃんのローブにピタリと張り付いた。


「プルル、

 落ち込んでると思ってたっすけど

 全然元気っすね! 良かったっす!」


こうして、エルムルケンの森に建つ、

コテージを舞台に、

激しい防衛戦が幕を開けようとしていた。


言葉とは、

誰もが使える唯一の魔法だ――。


ニャンタの励ましによって

プルルが自信を取り戻したように、

誰かの心を大きく動かすことができるからだ。


しかし、このときはまだ誰も知らなかった。

プルルが、これをきっかけにやる気全開で、

とんでもない進化を遂げることになるなんて。


このあとプルルが、やる気を出しまくって、

とてつもない進化をするとは、

この時は誰も想像していなかった。

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