第16話 スケルトン軍団の襲来!先輩とコテージ防衛戦 part4
夜の闇につつまれ、
周囲には冷たい風が吹き抜けている、
目の前には、白い骨の集団が静かに佇んでいた。
通常ならスケルトンの姿は暗闇に溶け込んで見えないはずだが、
コテージの明かりが周囲を照らしているおかげで、
奴らの姿ははっきりと見えていた。
「気のせいかさっきより
スケルトンの数が増えてる気がするっす……」
私たちはコテージの外に集合していた。
暁の幻影団のリーダー、
カインが中央に立ち、
その隣にはレオと見知らぬ銀髪の女性。
後方ではエリスとライラが眠そうに欠伸を噛み殺している。
そして、その対面に立つのが私と先輩だった。
「もしかしてコテージが
珍しくて集まってるのかな」
先輩は楽観的な推測を口にしていたが、
スケルトンたちの様子を観察しなおすと、
それが的外れであることは明白だった。
「斧や弓矢を手に持ってんすよ!?
襲う気満々に違いないっす」
私たちがざわつく中、
暁の幻影団のメンバーは、
別の疑問を抱いていた。
「……おかしいな
なんでスケルトンども、
襲ってこないんだ?」
カインが不審そうに呟く。
冒険者ギルドに保管されているモンスターの記録によれば、
ボーンメイジなどの例外もあるが、
スケルトンに高度な知性はないとされている。
彼らの行動原理は単純で、
生きているものを無差別に襲うという
本能的な衝動に突き動かされる存在のはずだった。
たとえ、生前の知識がわずかに残っていたとしても、
せいぜい武器を振るう、火をつける、建物に籠城するといった、
曖昧な戦闘行動を取る程度。
だが、目の前のスケルトンたちは明らかに違っていた。
まるで軍隊のように整然と並び、
誰かの指示を待っているかのように静かに佇んでいる。
こんな光景、今まで見たことがない。
カインは、背筋に嫌な感覚を覚えながら口を開いた。
「……誰かが指揮しているとしか思えないな」
その可能性を考えると、
奴らを統率している存在は、
間違いなく相当強力なアンデッドだろう。
カインの予想により、
メンバーの警戒度は一気に跳ね上がっていた。
「スケルトンがスケルトンを指示するなんて
聞いたことないわよ!!」
「今のうちに逃げるってはどうっすか?
無理に戦わなくてもいい気がするっす」
「あいつらのスタミナは無限だし、
夜にこの森を動くのは自殺行為だ
ナイトヴェールで逃げるのもオススメできない」
アンデッドである彼らには肉体がなく、
疲労もストレスも、
ましてや死の恐怖すらない。
無限のスタミナを持ち、追跡し、攻撃してくる。
こちらが逃げれば、
先に疲弊するのは間違いなくこちらの方だった。
「スケルトンがナメプして襲ってこない間に、
なんとか作戦を考えよう!!」
先輩が謎のリーダーシップを発揮していたが、
まさにその通りだったので、
私も黙って従うことにした。
私は見知らぬ銀髪の女性が誰なのか気になった。
もしかしてと思い、声をかけた。
「あの見たことない人がいるんっすけど
銀髪のお姉さんは誰っすか?」
「ああ、俺たちの仲間のリアだ
オリハルコンの箱も彼女が持ってたらしい」
あとは持ち帰るだけだな」
「リアっていいます!!
よろしくね
みんなも無事で本当に良かったわ」
暁の幻影団が森にやって来た理由は、
前回の調査で行方不明になった
オリハルコンの箱を探し出す事だと聞いていた。
正直、この森は居心地が悪い。
早く抜け出して、
人間が住む安全な都市や町へ行きたい。
もしこのまま森を脱出できるなら、
ついでに一緒に連れて行ってもらいたい。
そんなことを考えながら、
私は彼らを見つめていた。
「そもそも、
なんでスケルトンは
コテージにやって来たんっすかね?」
「ごめんね!私が連れてきちゃったの
でも何もしてないのに、
あいつらがしつこく追いかけてくるのよ!!」
(お前が呼び寄せたんかい!!)
心の中で盛大にツッコんだが、
それを口に出したところで事態が好転するわけではない。
私はその思いをぐっと飲み込んだ。
「俺たちが全力でなんとかする
だから心配しなくていい」
「当たり前っす!!
なんとかしてっす!!」
スケルトンを引き寄せたのは彼らの責任だ。
全力で対処するのは当然の義務だ。
そんな中、レオが頭を押さえながら、
ぼそりと尋ねた。
「今、聞くべきことじゃないかもしれないが……
ヒュドラはどうなったんだ?」
その言葉に、場の空気が一瞬だけ張り詰める。
確かに、ヒュドラはこの森でも最強クラスの魔物だ。
もし襲われていたなら、
全員無事では済まなかったはず。
それなのに、なぜこうして生還できているのか。
生死を分ける状況だった可能性を考えれば、
彼が疑問に思うのは当然だった。
もしかしたら全員生きてなかったかもしれない状況で
なぜ生還できたのか
気になるのは当然のことであった。
「お前が尻尾や頭突きを食らっても
平気だったのを見た気がするんだが
俺の気のせいかな?」
レオはそう言いながら、自分の頭をさすっている。
どうやら、地面に叩きつけられた衝撃で、
記憶が混乱しているようだった。
ただし、その原因はヒュドラではなく、
先輩の拳だったのだが。
「あのヒュドラなら、
モモナップルをあげたら、
帰っていったよ」
先輩がさらりと答える。
その言葉に、レオは少し肩の力を抜き、
安堵したように息を吐いた。
「そっか……まぁ普通、
あんな攻撃を食らって無事なわけないよな
お前らが無事でよかったぜ」
「レオ、一撃で倒されても気にするな
接近戦に自信があるとはいえ、
あの攻撃は耐えられないだろ」
カインがレオの肩を軽く叩いて励ます。
仲間の無事を喜ぶ、
冒険者としての絆が感じられるやり取りだった。
だが、彼らは勘違いしている。
レオが倒れたのは、
ヒュドラの攻撃を受けたせいではない。
先輩のワンパンを食らって昏倒しただけだったのだ。
私は彼のプライドを守るため、
真実を胸にしまうことにした。
そう、彼が「ヒュドラから私たちを守った男だ」
と胸を張って堂々と語れるように。
私は沈黙を選んだ。
「それよりもスケルトンの集団を
どうするか考えましょう」
エリスが冷静に話を戻す。
「ねぇ後輩ちゃん!!
スケルトンたった30体しかいないよ
なんとかなるんじゃないかな?」
「先輩、30体もいるの間違いっす!
それに見てくださいっす
持ってる武器や骨の色も微妙に違うっすよ」
先輩は根拠もなく楽観視しているが、
30体という数は決して甘く見ていいものじゃない。
このまま襲われれば、
コテージが制圧されるのは時間の問題だ。
さらに、よく見ると、骨の色が違う個体も混ざっている。
特に白い骨のスケルトンとは違う、
金属のような質感を持つものは、
普通のスケルトンよりも一段階上の存在に思えた。
「金属の骨格を持つ
スティール・ウォーカーがいるけど
私の炎の魔法があれば倒せるわね」
「おい!!
黄金の鎧を着たスケルトンが後方に現れたぞ!!」
カインの鋭い声に、
全員の視線が集まる。
そこにいたのは、
まるで軍の指揮官のような風格を持つ
スケルトンだった。
他の個体とは一線を画す、
目立つ黄金の防具を全身に着こんでいた。
おそらく、スケルトンのボスだろう。
「リア奴らの構成と人数を確認してくれ」
カインの指示を受け、
リアがじっくり確認する。
「ただのスケルトンっぽい白い骨(20体)
内訳は弓持ち(10体)接近武器(10体)
ボーン・メイジ(3体)
スティール・ウォーカー(4体)
黄金の鎧(1体)
計28体かしらね」
「あれ?先輩が数えたときは
30体いたんすよね!?」
リアの報告では"28体"、先輩のカウントでは"30体"
二つの数字のズレが、
じわじわと不気味な違和感となって場を包む。
そんな中、先輩が突然指をさし、叫んだ。
「ほらあそこ!!
骨将軍の左右に変な弓持ってるやついるよ!!」
「念のため魔術で再確認してくれ」
「わかったわ」
風が渦を巻き、辺りの気配を探るように吹き荒れた。
その流れが、見えないはずの何かに当たったのを感じた。
そして、リアが焦った声で報告する。
「カイン!!
あの子の言う通り
目視できないけど確かに気配を感じるわ」
「そうか・・・」
カインは短く呟き、
しばらく考え込んだ。
しかし、その間もレオは楽観的に言い放つ。
「弓持ってるスケルトンが
増えたくらい問題ないぜ
俺たちにまかせとけ」
私は、彼の言葉を聞きながらも、
スケルトンのボスがどれほど強いのか気になっていた。
ヒュドラを鑑定したときのことを思い出し、
ふと尋ねる。
「ライラさんの鑑定で
相手の強さ見れないんっすか?」
「鑑定のスクロールはね
一個20万G(ガル)するの
残りのストックは3つしかないわ」
異世界の通貨はG(ガル)って呼ぶらしい。
私たちの世界の通貨の円にしたら、
いくらくらいになるのだろうか。
その疑問が浮かび、
私はこっそりニャンタに尋ねることにした。
「ニャンタさん20万Gを
円に換算するとどのくらいっすか?」
「単純に1ガルが1円だ
つまりぴったり20万円だな
簡単な計算で分かりやすいだろ」
「めちゃくちゃ分かりやすいっす」
異世界の通貨はもっと複雑なものだと思っていたが、
意外にもシンプルだった。
この世界の人々にとっては当たり前かもしれないが、
異世界にやってきた身としては非常に助かる。
これなら、買い物の際に値段を直感的に把握できるし、
計算ミスをする心配もない。
何より、桁違いの大金を払うときの
心理的負担が軽減されるのがありがたい。
となると、
やはり20万Gもする鑑定のスクロールは貴重品だ。
ライラが無駄遣いしたくないと思うのも納得がいく。
そんなことを考えていると、
カインが静かに口を開いた。
その声には、迷いのない冷静な判断が宿っている。
「生き残るためだ
鑑定のスクロールを黄金の鎧に使おう
ライラ、頼む」
「了解」
カインの指示に、ライラは素早く反応する。
迷いのない動きでバッグに手を伸ばし、
慎重に鑑定のスクロールを取り出した。
その瞬間、黄金の鎧を纏うスケルトンが、
微かに身じろいだ。
まるで、自分の正体が暴かれることを悟ったかのように。
骨の将軍を見据え、
呪文を唱える。
「アナライズ」
スクロールが光を放ち、
相手の詳細なステータスが用紙に浮かび上がる。
「こいつは……」ライラが息を呑む。
モンスター: エンチャンテッド・ボーンジェネラル
レベル: 110/999
HP: 25,000
MP: 15,000
攻撃力: 4,000
防御力: 2,500
魔力: 2,800
状態異常耐性
毒: 無効 睡眠: 無効 麻痺: 無効
石化: 無効 カース: 無効 即死: 無効
属性耐性
火:-50% 水: 50% 風: 50% 光:-50%
土: 80% 雷: 50% 氷: 80% 闇: 無効
タレントアビリティ(才能)
骸骨の軍団指揮:(スケルタル・レギオン・コマンド): S
呪われし剣術:(カースド・ソードマンスキル): S
不死者の連携:(アンデッドリンク): A
死霊再生:(ネクロリザレクション): B
ライラは慎重に情報を読み取り、
周囲に向かって説明する。
「鑑定結果によれば、
黄金の鎧を着た個体は110レベルの
数値だけ見れば我々でも倒せそうです」
「問題なのはあいつが装備してる
マジックアイテムだ」
カインが険しい表情で言葉を継ぐ。
「黄金の鎧や光る剣
どれも普通の装備じゃないぞ」
「確かに……
鑑定結果を鵜呑みにはできないわね」
ライラが小さく頷く。
「カインのスキルで暗殺すれば
俺たちでもなんとか倒せるんじゃないか?」
「逃げ道はないんだ
覚悟を決めて戦うぞ」
暁の幻影団は、カインがいれば倒せると判断している。
それなら、おそらく倒せない相手ではないのだろう。
カインは鋭い目でスケルトンの軍団を見据え、
力強く号令をかける。
「よし! あいつらを迎え撃つぞ
全員、戦闘準備に取りかかれ!!」
彼の声が響き渡り、
仲間たちは即座に動き出す。
そして、カインは私たちのほうを振り返った。
「お前たちは危ないから
コテージで待機してろ
矢や魔術で狙われたくないだろ」
カインはきっぱりと告げる。
その言葉には、
絶対に巻き込まないという強い意志も感じられた。
「了解っす
邪魔にならないように下がるっす!!」
「わかった」
私たちはすぐにコテージへ向かおうとした。
しかし、その途中で先輩がくるりと踵を返し、
ライラのもとへ駆け戻る。
「ライラさん
鑑定結果もらってもいい?」
「しょうがないわね
あとでちゃんと返してね」
ライラは手元の用紙を先輩に渡した。
先輩はそれを大事そうに握りしめ、
満面の笑みでこちらに戻ってくる。
「後輩ちゃん
あとで一緒に見よう!!」
「さすが先輩っす
私も鑑定結果
気になってたっす!!」
カインの指示に従い、
私たちはすぐにコテージへと避難する。
そして、窓際に陣取ると、
戦いが始まるのをじっと見守ることにした。
「おい炊飯器、鳥リスの肉くれぇ
窓からじっくり観戦するぞ。
Aランク冒険者のお手並み拝見ってやつだ!」
ニャンタがのんびりとした口調で催促する。
「後輩ちゃん、私もお肉食べたい!」
「ちょっと待っててっす!」
私たちはソファに座り、
目の前のテーブルに並べられた夜食を手に取りながら、
のんびりと鑑定結果を覗き込む。
しかし、その数値を目にした瞬間、
私はふと考えてしまった。
以前見たヒュドラのレベル365という
驚異的な数値と比べれば、
骨将軍のレベル110は低く見える。
何しろ、ヒュドラのHPの12分の1、
攻撃力も防御力も半分以下。
それだけで考えれば、そこまで脅威には思えなかった。
「後輩ちゃん
あいつヒュドラより弱いみたいだね」
先輩が軽い口調で言うが、
私もそれには同意だった。
「そうっすね
カインさんも倒せそうっていってるっすし
あとは全部おまかせしようっす」
だが、私はどうしても『ネクロリザレクション』
の存在が引っかかる。
ただ倒せば終わる相手なら問題ないが、
死者を蘇らせるアビリティを持つ敵は厄介だ。
状況によっては、
こちらがどれだけ倒しても
無限に蘇生される可能性すらある。
その懸念が拭えず、
私はふとニャンタに確認してみることにした。
だが、戦闘の素人である私が口を挟むよりも、
プロの冒険者たちに任せるのが一番だ。
念のためニャンタに大丈夫か聞いてみた。
「あの、ニャンタさん、
暁の幻影団の人たちだけで
スケルトンの集団対処できそうっすか?」
「黄金の鎧を着ている奴は一見強そうだが、
全員で囲めば、倒せないことはないだろ
勝率7割ってところだ」
私は少しホッとした。
7割の勝率なら、
少なくとも無謀な戦いではないからだ。
それに、相手の耐性を理解していれば、
戦略次第でさらに勝率を上げられるかもしれない。
だが、ニャンタは続けて、
少し険しい表情を浮かべた。
「だが、真に厄介なのは
クルミが言ってた弓持ちの2体だ。
対策練らないと速攻で全滅するだろうな」
「えっどういうことっすか?」
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