第17話 スケルトン軍団の襲来!先輩とコテージ防衛戦 part5

ニャンタは暁の幻影団が全滅する可能性について、

さらなる説明を続けた。


「骨将軍がリーダーで指示役

 率先して攻撃するのアーチャーだ

 こいつらを先に倒さないと面倒だぜ」


その言葉を聞いて、

私は改めて周囲を注意深く観察した。


しかし、先輩が言っていた"変な弓を持つ敵"は、

どこにも見当たらない。


そこで一つの考えにいたった。

この世界では暁の幻影団のカインのように

体を透明にする方法がいくつかあるのではないかと。


「先輩?もしかして

 変な弓もった奴って透明なんすか?」


私が恐る恐る尋ねると、

先輩は驚いた顔をした。


「えっ!!あれ透明だったんだ

 カインさんよりハッキリ見えてるから

 皆も見えるもんだとばかり思ってたよ」


「先輩!!

 透明かもしれないなら言ってくださいっす

 私には何も見えないっすよ!!」


透明な敵。

その存在が見えないままでは、

いつ攻撃されてもおかしくない。


透明な敵との戦いは、常に予測不能だ。

どれだけ準備を整えていようと、

見えない相手の恐怖は消せない。


その恐怖が、油断を生み、隙を作るのだ。

見えない刃の一撃が命を奪う、

それが透明な敵の恐ろしさだ。


このままではまずい。

暁の幻影団に透明な敵の情報を伝えなければ。


「カインさんたちに

 知らせに行ってくるっす!!」


私は一目散に彼らの元へ駆け出した。

だが、その場に残ったニャンタは、

しばらく黙って考え込んでいた。


(そういえば

 あいつらボーンメイジが3体いるって言ってたな……)


ニャンタ自身もスケルトンの数や種類を把握していたが、

暁の幻影団が報告した内訳と微妙にズレがあった。

それを踏まえたうえでの「勝率7割」だったのだ。


「……まあ、多分大丈夫だろ」


そう呟きながら、

ニャンタは後輩ちゃんの背中を見送った。


     ◇     ◇


私は息を切らしながら、

暁の幻影団のもとへ駆け込んだ。


すでに彼らは戦闘準備を整えており、

カインとリアはスケルトンの軍団を睨んでいた。

おそらく、何か動きがないか観察しているのだろう。


「カインさん大変っす!!

 先輩が言ってた

 変な弓持ってるやつ透明らしいっす」


そう伝えると、

カインたちは驚く様子も見せず、

静かに頷いた。


その表情には、

決意と緊張がはっきりと浮かんでいる。


「心配するな

問題ない」


問題ないという言葉が、

まるで死亡フラグのように聞こえた。


思わずツッコミを入れそうになったが、

ここはぐっとこらえる。

とはいえ、本当に対策はあるのだろうか。


何もせずに突っ込めば、

確実に全滅する未来しか見えない。


「何か対策しないとヤバいっすよ!!

 相手は透明なんすよ!?

 本当に大丈夫なんすか!?」


必死で食い下がると、

カインは落ち着いた口調で答えた。


「リアは風魔術が得意でね

 相手が透明でも

 位置を掴む方法はあるんだ」


「風を操れば

 空気の流れで透明な相手の輪郭を視認できるわ

 まかせてちょうだい」


リアが自信たっぷりに微笑む。

さすがAランク冒険者ともなれば、

透明な敵への対策も万全なのだろう。


「そうっすか

 それなら安心っす!!」


私は胸をなでおろした。

透明な敵が見えないことが一番の不安要素だったが、

視認できる手段があるなら話は違う。


「それじゃあ

 私はコテージに帰るっす!!」


そう宣言し、帰る前に改めて周囲を見渡す。

暁の幻影団のメンバーはすでに戦闘準備に取り掛かっており、

前衛と後衛で役割を分担する話し合いを進めていた。


エリスは精巧な弓を手に取り、

背中に揃えた魔法の矢を確認する。

彼女は弓術と魔術を自在に操るレンジャーだ。


「魔法矢が20本残ってるけど

 スケルトン相手では効果は

 いまひとつなのよね」


「頭蓋骨をぶち抜くか

 腰か脚を壊して機動力を削いで

 あとは魔術で燃やすわ」


ライラはアンデッドの弱点である

光と炎の魔術を操ることができる魔術士だ。

彼女たちは後方から敵を牽制するつもりだろう。


一方、レオナードは

愛用している大剣の刃を丁寧に研ぎながら、

戦いに備えていた。


「頼むぜ相棒」


数々の戦いを共に乗り越えた、歴戦の武器だ。

無数の傷が刻まれた刃は、

彼の戦いの歴史を物語っているようだった。


カインとリアは連携の確認を行っていた。

透明な状態で、最適なタイミングを見極め

相手を一撃で仕留める事だ。


全員の緊張感が、嵐の前の静寂を彷彿とさせる。

戦いに向けた準備は抜かりなく、

あとはその時を待つのみ。


「あの位置か……」


カインたちにとって最も厄介な相手は、

魔術を操るボーンメイジだ。


ボーンジェネラルの背後には、

まるで護衛されるかのように、

一体のボーンメイジが控えていた。


カインは歯ぎしりする。

あのメイジを先に潰したいが、

骨将軍が邪魔で近づくことすらできない。


眉をひそめ、視線を鋭く走らせる。

他のメイジと比べ、

あの一体だけが違う雰囲気を纏っている。


他のメイジはみなボロボロのローブをまとい、

ありふれた杖を持っている。

だが、あいつは後方で静かに待機している。


「なんでだ?

 なぜあいつだけが後方にいるんだ?」


その違和感は拭えなかった。

まるで、そのメイジだけが特別な役割を

与えられているように見えたからだ。


やがて、暁の幻影団のメンバーは

あらかじめ定めた位置に配置につき、

各々の武器を握りしめる。


最前線に立ったのはレオ。

後方ではカインとリアが透明化し、

レオの背後に続くように身構えている。


彼らは、スケルトンの集団が、

動かない隙をついて、

先制攻撃で厄介なボーンメイジを暗殺する計画だ。


暁の幻影団のリーダーであるカインは、

全員の位置を確認し終えると、

小声で指示を出した。


「全員、準備完了だな。

 こちらから先手を取るぞ」


彼の言葉を合図に、

メンバーたちは事前に打ち合わせていた陣形を整える。


ライラとエリスが魔術や弓で牽制しようと、

攻撃の構えをとった――その瞬間。


スケルトンたちが動いた。


骨の軍団を指揮する骨将軍は、

カインたちの準備が整ったのを見計らい、

不敵な笑みを浮かべていた。


「ようやく準備完了したか……

 待ちくたびれたぞ」


まるで、こちらの出方を楽しんでいたかのように、

骨将軍はゆっくりと顎を動かす。


「スケルトン、突撃開始だ!!」


彼の号令と同時に、

スケルトン軍団が一斉に動き出した。


こちらが攻撃を開始しようとした、

その瞬間、敵も同時に襲いかかってきたのだ。


「スケルトンが来るぞ!!」

「作戦通りにいくぞ!!

 全員、持ち場を離れるな!!」


カインの指示が飛ぶが、

骨将軍もすぐさま次の命令を下す。


「弓兵隊、放て!!」


骨の弓兵、スケルトンアーチャーたちが一斉に弦を引いた。

そして、空が矢の雨で覆われる。

後方で待機している魔術師たちを狙っているのだ。


それと同時に、スケルトンと、

鋼鉄の身体を持つスティール・ウォーカー4体が、

怒涛の勢いで突撃を開始。


だが、彼らの狙いは前衛ではなかった。


矢の雨に紛れ、

スケルトンたちはコテージへと猛然と迫っていく。


大量の矢が、

コテージを目がけて降り注ぐ。


「想定の範囲内だな」


しかし、カインを含め、メンバー全員に焦りはない。

まるで、この展開を予測していたかのように、

彼らはすぐさま行動を開始した。


ライラが静かに呪文を唱える。


「ファイアーウォール」


矢は火の壁に触れると、

瞬時に燃え尽きて消えていった。


矢の雨が止んだかと思うと、

突撃してきたスケルトン達が、

すでにコテージの近くまで接近していた。


スティール・ウォーカーは弱点である炎の魔法を警戒し、

白い骨のスケルトンを盾として前面に並べるという、

守りを強化した陣形で突っ込んできている。


「こっちはまかせろ」


左方向はレオが大剣を振りかざし、

敵をなぎ倒して対応しているが、

右と正面はがら空きだった。


彼の剣技は見事で、鋼のような体を持つ

スティール・ウォーカーでさえ打ち砕いていった。

その姿はまさに元騎士の実力を物語っていた。


エリスは事前にチャージしておいた

【フロストヴェイル】を発動し、

あたり一面を氷の霜で覆い尽くした。


冷気が空気中に広がり、

周囲の温度が急激に下がる。


「奴らの隊列が乱れたわ!!」


通常のスケルトンには効果がなかったが、

鋼鉄でできたスティール・ウォーカーは

冷気で動きが鈍り、取り残されたのだ。


ライラはそのチャンスを見逃さず、

素早く【ファイアランス】の詠唱を始める。


彼女の手元に炎の魔力が集まり、

やがて形を成しながら、

燃え盛る槍へと変わった。


真紅の炎で形成された槍は、

眩しい輝きを放ちながら、

勢いよく放たれた。


炎の槍は鋼鉄の身体を持つ

スティール・ウォーカー3体に突き刺さり、

その凄まじい熱で焼き溶かしていく。


炎の威力に抗うこともできず、

次々と地面に崩れ落ちた。


「よし厄介なやつは

 全部倒せたわよ」


スケルトンがコテージの近くまで接近し、

後衛のライラとエリスに襲いかかろうとしたが、

エリスは冷静に詠唱を始めた。


「ストーン・ウォール」


彼女の声とともに、

地面から巨大な石壁がせり上がり、

スケルトンたちの進行を阻んだ。


「レオあとはお願い」


レオが後ろから攻撃して倒していく。

彼の大剣は閃光のように輝き、

鋭い刃がスケルトンの骨を粉々に砕いた。


「こいつら弱すぎだぜ」


レオは残りのスケルトンを引きつけ、

笑いながら一掃していた。

大剣を振るう彼の姿は頼もしかった。


一方、カインとリアは

ナイトヴェールの効果で姿を消し、

静かにボーン・メイジの背後へと忍び寄っていた。


「例の透明なスケルトン……

 腕を組んでただ見ているだけなんて、

 何を考えているのかしら?」


リアは戦闘開始の合図と同時に、

一定のリズムで風の魔術を唱え続けていた。


その手から放たれる風は、

まるで見えない渦となって、

透明なアーチャーたちの空気を震わせた。


風が渦巻くたび、

微細な砂や枯れ葉が舞い上がり、

見えなかった敵の輪郭を際立たせていく。


「位置がバレてると

 分かっているはずなのに

 何もしてこないわ」


リアは風の魔術で、

隠れていた敵の位置を暴き出していた。

だが動く気配はまるでない。


アーチャーたちは風の影響で、

姿が一瞬だけ浮かび上がるたび、

じっと観察するだけなのだ。


「動かないなら

 好都合だな」


カインとリアは声を交わさず、

スケルトン・メイジの背後に忍び寄ると、

息を合わせて一気に攻撃を繰り出した。


カインの剣とリアの短剣が閃き、

ボーン・メイジの骨を粉々に砕いた。


彼らは呪文を唱える暇もなく崩れ落ち、

灰となって消滅した。


しかし、攻撃を仕掛けたことで

ナイトヴェールの効果が切れ、

彼らの姿が再び明らかになった。


これが戦闘開始から、

わずか数分のできごとだった。


視界に残っているのは、

骨将軍、ボーンメイジ、

そして透明なアーチャー2体のみ。


先輩が不思議そうに呟く。


「ねえみんな、

 変な弓を持ったアーチャー、

 何もせずに観戦してるよ!」


「私にも輪郭だけが見えるっす

 なんかポーズ決めたまま動いてないっすよ

 どんだけ余裕なんすかね!?」


スケルトンは上位種でない限り、

単純な命令しかこなせないため、

動きも直線的だ。


カインたちにとって、

スケルトンは型にはめれば容易に対処できる相手だった。


さすがはAランク冒険者、

彼らの戦術は緻密で、各自の役割が明確に分担されている。

無駄のない動き、的確な判断、完璧な連携。


その戦いぶりは、まさに圧巻だった。


「でも、後輩ちゃん

 30体もいたスケルトンが

 あっという間に残り4体になったよね」


「本当にすごいっす

 さすがAランク冒険者っすね」


戦闘開始からわずか数分で、

30体のスケルトンはほぼ壊滅。

残るは、わずか4体。


あと一押しで決着がつく。


そう思った、その瞬間。

突如として、

骨将軍が不気味な笑い声を上げ始めた。


耳をつんざくような、不快な響き。

異様な恐ろしさを帯びた、

ぞっとするような笑い声。


まるで、それが戦いの終わりではなく、

恐怖の幕開けを告げる合図であるかのように、

夜の静寂を切り裂き響き渡ったのだった。

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