第42話 先輩とエルムケンの大森林の出口を突破せよ! part6
お互いに視線が交錯し、
しばらく沈黙が続いた。
彼らの武器と防具は、
背中にしっかりと固定されており、
襲ってくる気配は感じられない。
「キッキッ」
隊長が私の前に進み出て、
鳴き声を上げたが、
リス語なんてわかるはずもない。
「後輩ちゃん!
リス達があとは頼むって
言ってる気がする」
「えっどういうことっすか!?
あのデスローズ
私たちが倒せってことっすか?」
「銀髪を助けた礼のかわりに
あいつを倒せってことだな」
私の反応を察した隊長は、
言葉を交わすことなく、
リスたちに振り返った。
静かに号令をかけると、
リスたちは即座に反応し、
道の両側に整然と並び始めた。
観戦モードに切り替わった彼らの目が、
こちらをじっと見つめている。
私はものすごいプレッシャーを感じた。
「デスローズは背が高いし
それに顔が怖いっす
戦うなんて無理っす」
「どのみち親玉がいたら
森を出るのに邪魔だったし
敵の数減らしてくれて感謝だね!」
先輩はいつもの軽い口調で、
さらりと発言するが、
私は恐怖で足がすくんでいた。
今まで出会ったどのモンスターよりも、
デスローズは凶暴な見た目なのだ。
何度でも言うが、とにかく顔が怖い。
そして、私たちが会話している最中にも、
デスローズはその尻から、
植物を勢いよく噴射していた。
「90秒ってけっこう
アッという間っすね」
「それで?
どっちがアイツと戦うんだ?」
ニャンタが、
冷静に私たちに選択を迫る。
その言葉に一瞬、背筋が凍った。
いや、普通に怖いんですけど、
あんな化け物に近づきたくないっす。
もうこうなったら仕方ない。
正直、あまり使いたくないっすけど、
あの手しかないっすね!
「せっ先輩、頑張っす
先輩のカッコいいとこ
見てみたいっす!」
「後輩ちゃんが
そこまで言うんなら仕方ないな
私にまかせなさい!」
先輩は自信たっぷりに、
胸をドンと叩いて、
まかせてアピールをしていた。
(よし!先輩がんばっす)
だが、その矢先に、
想定外の出来事が起きた。
私のローブが突如として、
激しく暴れだしたのだ。
「プッププップー(僕が倒したい!)」
「ぎゃぁぁ
プルルやめてっす
服が伸びるっすぅ!」
まるで駄々をこねる子供のように、
プルルはローブの上で暴れ回っている。
「ダメっすプルル
暴れないでっす
先輩にまかせたほうがいいっすよ!」
プルルの決意は固いようだ。
先輩が諦めたように肩をすくめて、
私に向かって話し始めた。
「プルルがそこまで
デスローズを倒したいなら
譲るしかないね」
「よし炊飯器!
頑張ってあいつを倒してこい」
結局私が「戦う」というまで
激しい抵抗は止むことがなかった。
プルルはリッチィーに負けたのが、
相当悔しかったのだろう。
少しでも戦闘スキルを磨き、
強くなりたいという向上心あふれる行動は、
ニャンタも称賛するほどだった。
それが後輩ちゃんが迷惑を被らなければ、
この話は美談として終わっていただろうが、
現実はそう上手くいかなかった。
私はデスローズに近づく前に、
最後の望みをかけて、
先輩に背を向けながら一言つぶやいてみた。
「別に先輩があいつを
倒してちゃってもいいんっすよ」
変なフラグっぽい気もするが、
この場面では、
このセリフで正解だろう。
「後輩ちゃんが楽しければ
私もハッピーだよ
だから気にせず倒しに行ってね!」
(いや全然楽しくないっすよ)
「炊飯器
いいからさっさと行ってこい」
辺り一帯には30m級の木々が立ち並んでいる。
立体的な地形では、
朝に先輩が作った錬金アイテムが有効だろう。
いつでも逃げられるように、
バインディングチェーンを腕に装着しておいた。
食べ残した硬い木の実は、
後でまた食べるために、
ポケットにしまっておいた。
「あぶなくなったら
これチェーン使って
木の上に逃げるっす」
デスローズの生み出す植物の数は、
もうすぐ10体になろうとしていた。
このままでは植物が増えすぎて、
手がつけられなくなるが、
攻める方法が見つからなかった。
デスローズは警戒しているのか、
植物を壁のように並べながら、
こちらに向かってゆっくりと進んでくる。
「プルル?
どうやって倒す予定なんすか?
ファイアーボールは効果ないっすよ」
「プップ(その鎖で植物引っ張ってきて)」
プルルの意図がわかった。
私はまさかここで鎖を使った
朝練の成果を見せることになるとは
思いもしなかった。
持久戦になればこちらが不利。
まず目についた植物モンスターを
狙うことに決めた。
「発射!」
射程は30メートル。
このバインディング・チェーンは、
思ったよりも飛距離が伸びるのだ。
鎖は金属音を響かせながら一直線に伸び、
狙いを外さずに植物モンスターの頭に、
深々と突き刺さった。
私は心の中で「引け!」と念じた。
すぐに鎖が一気に引き戻される。
植物モンスターは甲高い悲鳴をあげ、
空中を舞いながら私の方へ飛んできた。
「ギシャャ!」
「ぎゃぁぁ!」
私もその声にに負けないくらいの
叫び声をあげた。
引き寄せた張本人が、
一番驚いているという情けない状況だ。
植物モンスターは鎖に引かれながら、
大きく口を開けて噛みつこうとしてくる。
その距離はわずか1メートル。
「プラァ!」
プルルが突如、
アルミスの腕を繰り出し、
植物モンスターの頭を一撃で粉砕した。
「プッププー(まずは一体)」
「親玉に攻撃するまえに
雑魚モンスター倒すのは基本だよね
後輩ちゃんがんば!」
完全に他人事だと思って、
先輩は応援していた。
「まずは数を減らすっす」
何度も鎖を射出しては引き寄せ、
プルルが一体ずつ殴り倒していく。
このコンビネーションで、
次々と植物モンスターが倒れていった。
植物が残り5体となったところで
異変が起こった。
「ギシャャ!」
突如として、
デスローズが鋭い声で鳴き始めたのだ。
どうやら、自分の生み出した植物たちを、
何らかの手段でコントロールし、
倒されたことも理解しているようだ。
こいつ、ただの怪物ではなく、
驚くほど知性を持っている。
鳴き声に反応して、
植物たちはゆっくりと移動を始めた。
高低差のある地形や木々の上に這い上がると、
口がぱっくりと裂け、
つぼみが姿を現した。
あの種マシンガンを発射する気だ。
私の位置をどうやって探知しているのか、
答えはわからない。
しかし、つぼみが、
私に狙いを定めているのは間違いなかった。
「プルル
射撃がくるっす
どうするんっすか!?」
「プーププ(まかせて)」
ここは一方通行だ。
遮蔽物もなければ、
逃げ道もない。
正面から放たれる種が迫る。
身動き一つ取れない状況の中、
プルルが動いた。
アルミスの腕が変形し、
リスたちが使っていた木の盾と
そっくりな形に変わる。
私の目の前に、
銀色に輝く盾が出現する。
魔力を注ぎ込み、
通常よりも強固になったその盾は、
あまりにも重いため地面にめり込んでいた。
だが、その盾には致命的な欠点があった。
サイズが足りなかったのだ。
この状態では、
攻撃を全て防ぐことは難しいだろう。
「プルル!
この盾もうちょっと
大きくしてほしいっす」
「プー(これ以上は無理)」
私は地面に膝をつけ、
少しでも体を小さくする。
次にくるであろう種の嵐に備えるためだ。
「しゃがめば被弾率が
半分になるっす!」
植物たちも準備を終えたようで、
5体がそれぞれ別の位置から、
一斉に種を撃ち始めた。
「飛んできたっす!」
とげのついた無数の種が、
まるで雨のように空から降り注ぎ、
目にも止まらぬ速さで迫ってくる。
種を射出するたびに、
つぼみが激しく震え、
その度に振動音が響く。
一発一発の精度は低いが、
その数で圧倒してくる。
盾に当たるたびに、
種は大きな音を立てて弾け、
地面に無数に転がり落ちていった。
「ぎゃぁ!
めちゃくちゃ撃ってきたっす」
いつ終わるとも知れない、
猛烈な種マシンガンの攻撃に、
私は正座したまま体を丸めていた。
「プープ(盾越しに鎖を発射して)」
プルルが短く鳴いた瞬間、
盾の一部が半透明になった。
ここから攻撃してということらしい。
「了解っす」
中世ヨーロッパでクロスボウ兵が使っていた
「パヴィーズ」と呼ばれる盾がある。
この巨大な盾は、
地面に立てることで
射手の体を守りながら攻撃できる優れものだ。
特に包囲戦などの場面で、
その効果は絶大だったという。
今回、プルルが作り出した盾は、
そのパヴィーズをさらに改良したものだ。
盾に小さな開口部を設け、
そこから安全に射撃できる仕掛けを搭載している。
まさに、攻撃と防御を両立させた特別仕様だ。
「発射っす!」
鎖が勢いよく飛び出すと同時に、
盾に穴が開いた。
その先端が狙い通りツボミに突き刺さると、
植物は種を乱射しながら、
本体ごとこちらに引き寄せられる。
盾にぶつかる寸前、
プルルが素早くアルミスの腕を伸ばし、
植物をがっちりとつかむ。
そのまま、ツボミの発射口を、
他の植物に向けたのだ。
盾を小さくした理由は、
片腕だけでも作りだすためだったのだ。
「プププ(動くな!)」
「こいつ暴れまくってるっす」
ツボミから飛び出した鋭い種が、
味方の植物に向けて、
絶え間なく放たれる。
捕らえられた植物は、
自分が味方を攻撃していることに気づかず、
ただ種を吐き続けている。
どうやら、デスローズからの命令も、
「射撃せよ!」という
単純な指示しか理解できないようだ。
「プルルもうちょっと右っす」
「プープープー(暴れるから狙いがずれる)」
撃ち込んだ種がツボミに数発命中すると、
外殻が削り取られ
内に隠された核が吹き飛んだ。
どうやら花びらが核を守る、
防壁の役割をしているようだ。
あの射撃形態に変わると、
植物の耐久性が一気に脆くなるらしい。
「ギシャャ!」
デスローズは、残る2体を操りながら、
新たな植物を作り出して、
こちらに突進させてきた。
盾で防御しているが、
リスのような完璧な陣形ではない。
背後に回り込まれると厄介だ。
だが、プルルは焦ることなく
種マシンガンの射撃に集中していた。
ついに植物の一体が盾に激突。
触手が私に向かって伸びてくる。
「ププップ(溶かしちゃおう)」
植物は攻撃する前に
体が盾に吸い込まれるようにして
消えていった。
「アルミスの盾が
植物食べたっすぅ!」
プルルは種を発射する植物を一掃すると、
手に持っていた植物の核を握り潰した。
残るはデスローズ、ただ1体だけだ。
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