無敵先輩 ~冒険に巻き込まれる最弱な私、今日も絶体絶命っす！~

第44話 先輩とエルムケンの大森林の出口を突破せよ！ END

後輩ちゃんはプルルと力を合わせて、

1メートル級の植物モンスター10体と、

その親玉を見事に倒した。

「後輩ちゃんが

　デスローズの口から

　飛び出してきたよぉ！」

「食べられてから

　倒すとは思わなかったぜ

　プルルにもいい勉強になっただろ」

リスたちが喝采を送る。

モンスターとの争いに慣れた彼らですら、

この戦いは見事なものだった。

「凄い歓声っすね」

「ププップ(なんとか倒せてよかった)」

勝利の余韻に浸っていると、

ニャンタと先輩が、

駆けつけてきてくれた。

「後輩ちゃん！

　怪我とかしてない？

　大丈夫！？」

「プルルのおかげで無傷っす

　なんとか倒せたけど

　今回も危なかったっす」

「よくやった炊飯器

　なかなか面白いショーだったぞ」

私の無事を確認するやいなや、

先輩はすぐに、

干からびたデスローズに目を向けた。

「後輩ちゃん！

　モンスター刈ったあとは

　剥ぎ取らないとね」

素材の剥ぎ取り、

それは、勝者にのみ許された特権だ。

だが、目の前に横たわる

デスローズの巨大なバラの頭は、

いまだに恐ろしい顔を保ったままだ。

正直、どう処理すればいいのか、

皆目見当がつかない。

「剥ぎ取るって言っても、

　トゲトゲしくて触るの怖いっす

　これ、どう処理すればいいんすか？」

「とりあえず、

　ぶった斬って、

　錬金釜にぶちこんどくか」

「明日のアイテム精製当番は

　後輩ちゃんだね

　楽しみだな！」

ニャンタが軽く手を動かすと、

デスローズの頭は瞬時に９つに分かれた。

ただ切り裂かれたわけではない。

断面には青いオーラがまとい、

切り離されながらも、

繋がっているかのように見える。

先輩はそのまま錬金釜に、

デスローズを無理やり詰め込み始めた。

「ニャンタさん？なんすか今の？

　なんで手を振るだけで

　切断できるすか？」

「ああ、これか？」

ニャンタはあざとく、

両手を手を招き猫みたいに

ぶんぶんと振り回し始めた。

「手をクイっと曲げる必要はないが

　かわいく見えるだろ？

　ファンサービスってやつだよ」

「ニャンタその動作

　かわいいよぉ！」

猫族秘伝の魔法だろうか？

話をはぐらかされたので、

教える気がなさそうだ。

なぜ可愛さにこだわるのかも不明だが、

先輩にはあの動作が

しっかりとウケているようだった。

「キッキィキキッキ」

「キッキィキキッキ」

木の上からリスたちの鳴き声が響いた。

「そういえば、

　木の上にもリスいたんっすね

　完全に忘れてたっす」

投石部隊である彼らは、

太い枝を軽快に移動しているようだった。

地上にいたリスたちも、

一仕事終えたといった感じで隊列を組んで、

魔狼の領域の奥へと去っていった。

「そういえばあのリスたち

　なんでデスローズに向かって

　投石してたんすかね？」

「あのオオカミが

　俺たちに倒させせるため

　リス使って引っ張ってきたんだろ」

ニャンタはオオカミに対して、

特に怒りも表情も見せなかった。

最初からデスローズとの戦いを、

予測していたのだろう。

魔狼の領域に到着するまでに、

彼らが目くばせしてたとき感じた

嫌な予感はこれだったのだ。

「リスたちでも

　デスローズ倒せたんじゃないっすか？」

「炊飯器が思う以上に

　あの植物は強かったんだぞ？

　戦えばリスも只ではすまないだろうな」

実はデスローズには、

常に発動している恐ろしい能力があった。

鑑定結果にもあった《腐敗の触手》だ。

触手から漂う黄緑の煙は、

触れただけでオオカミもリスも、

瞬時に腐らせる力を持っていたのだ。

デスローズの名前の由縁である、

その腐敗の脅威に立ち向かうのは、

容易ではなかった。

後輩ちゃんが浄化能力で、

無効化していたが、

本来なら近づくことさえ危険だったのだ。

さらに、デスローズは《植物創造》の力で、

無数の小型の植物モンスターを

生み出すことができる。

彼らは突撃用、射撃用と役割を持ち、

終わりなく増え続ける、

恐ろしい軍勢となるのだ。

「わざわざ戦いやすい

　見通しのいい場所まで奴を誘い出して、

　雑魚どもも片付けてくれた。

　銀髪も助けてくれたし、

　これくらいは

　サービスしてやろうぜ」

ニャンタにそう言われ、

私は辺りを見渡した。

もし、森の出口で、

デスローズたちに遭遇していたら

どうなっていたか……。

森の中には、

広い平地で見通しがいい場所なんて、

ほとんど存在しない。

もし複雑な地形の中で戦っていたら、

1メートルほどの植物たちは、

木の上に張り付き、身を潜めていただろう。

人食い植物の恐ろしい点は、

己に有利な環境を作り出し、

獲物を誘い込むその巧妙さだ。

だが今回は、

リスたちが手助けしてくれたおかげで、

安全にデスローズを仕留めることができた。

「もし私たちが

　デスローズを倒せなかったら

　どうしてたんすかね？」

「その時は、

　倒すための別の策があったんだろうさ」

ニャンタは静かに、

魔狼の領域の奥を見据えながら、

そう呟いた。

「まあオオカミたちの脅威が一つ減り

　俺たちは安全に森からでられるから

　良かったじゃねぇか」

「それじゃあ

　森の出口に向けて

　出発進行だ！」

「先輩、もう足が動かないっす

　おんぶしてほしいっす！」

「了解！」

ちなみにプルルは、

私のローブの上でゼリー状に溶けて、

ぺたんとへばりついていた。

「プルルもお疲れっす」

こうして私は先輩に背負われながら、

森の出口を目指して進んでいった。

「ワオォォン！」

狼の遠吠えが、

何度も森の中にこだました。

その声は、まるで厄介な敵を

倒してくれた感謝の表れのように、

どこか優しく響いていた。

「ワンコが吠えてるけど

　今頃何やってるんだろう？」

「この森で陣地を守るっては

　きっと大変なんだろうな

　縄張りの巡回してんじゃねぇか？」

魔狼の領域を脅かす存在は、

デスローズだけではない。

私たちがこの地を去っても、

縄張りを守る戦いは、

これからも続くのだろう。

だが、私は信じている。

森に生きる魔物たちが力を合わせ、

団結しあえば、

どんな危機も乗り越えられるだと。

「木の実、美味しかったっすね。

　二度と来ることはない場所っすけど、

　もう一度あの味を楽しみたいっす」

「ワンコ！バイバイ！

　また来たら木の実ちょうだいって

　後輩ちゃんが言ってたよ」

先輩が元気よく叫ぶと、

その声は森全体に響き渡った。

「まあこの森には、

　お宝が眠ってそうだし

　また来ようぜ！」

私は内心、

変なフラグを立てるようなこと、

言うんじゃなかったと後悔した。

魔狼の領域を抜けた瞬間、

足元には絡み合った木の根が

複雑に広がる光景が現れた。

リスたちが管理していないため、

地面は荒れ放題だ。

この先には、

再び弱肉強食の世界が待っている。

私達は道なき道を進んでいった。

「後輩ちゃん

　あっちに2ｍくらいの

　植物モンスターがいたよ」

「もう植物は嫌っす

　見たくないっす」

デスローズが生み出した植物に違いない。

その色は生まれた時よりも深く、

ツタや胴体も一層太く成長していた。

しばらく観察していると、

森ネズミのヴェノム・ヴァーミンが集団で現れ、

植物を襲い始めた。

植物は触手で反撃を試みるものの、

ネズミたちは毒に耐性があるらしく、

触手に塗られた毒は全く効果がないようだ。

たまに棘に刺されて、

倒れるネズミもいたが、

それはほんの一部に過ぎなかった。

ネズミたちは一斉に植物に飛びかかり、

鋭い歯でひたすらかじり続ける。

やがて花も含めて、

全てが食い尽くされ、

植物モンスターは力尽きた。

「森ネズミが植物倒して

　食べちゃったね」

「これが食物連鎖って

　やつだな」

デスローズがいなくなったことで、

森の出口付近では、

縄張り争いが一気に激化していた。

雑食性のネズミは、

植物モンスターだけでなく、

草木までも食い尽くしていく。

そのネズミをフクロウが捕らえるが、

フクロウもさらに強い生き物に

狙われる運命なのだ。

こうして生存競争は繰り返される。

無数の世代が生まれては消え、

その中で生き延びた者たちは、

進化を繰り返すのだろう。

「デスローズが生み出した植物が

　またデスローズに

　進化するのかな！？」

「その可能性もあるっすね。

　でも、この森じゃあ、

　簡単に生き残れそうにはないっす」

過酷な森の日常が垣間見える中、

私たちは赤い旗が立つ崖に到着した。

階段のような段差を一歩一歩登っていく。

頂上にたどり着くと、

そこからはなだらかな坂が続いていた。

坂の先には森の出口が見え、

その向こうには広大な平原が広がっていた。

「見てっす！

　平原っす！

　広大な平原が見えるっすよ！」

まるでRPGゲームで、

最初の町からフィールドに踏み出したときの、

あの感動が蘇ってくる。

私の場合、危険な森から

やっと抜け出せたという安堵感が強いけど、

どちらも同じような高揚感だろう。

もう二度と、

あの森には戻りたくない。

森はもう、十分っす。

「ここから私たちの冒険が

　はじまるんだぁ！

　後輩ちゃん張り切っていこう」

「まずは元の世界に戻るための

　ポータルの材料を探さなきゃな」

ニャンタは真面目な顔をして言い、

すぐに口角を上げた。

「だがな、それだけじゃ物足りない。

　この世界の財宝も全部いただくぜ！

　さあ、俺の後ろに続け！」

まるで略奪を目論む、

海賊船長のような言葉に、

私たちはつい笑ってしまった。

ニャンタを先頭に、

私たちは広大な平原へと続く坂道を駆け下りる。

リッチーの言葉が本当なら、

この異世界では、

あと数週間もしないうちに魔王が誕生するという。

そして神は、

その魔王を討つために、

異世界からの召喚を行うのだ。

目の前にある問題は、まだ山積みだ。

私は魔王が現れる前に、

元の世界へ戻れるよう、

ひたすら願っていた。

「ねぇ後輩ちゃん！

　せっかくだし、この異世界

　思いっきり楽しもうね！」

先輩の元気な声に、

私の不安が少しずつ消えていき、

胸の中に冒険のワクワクが広がっていく。

何が待ち受けているかはわからないけど、

ニャンタと先輩、そしてプルルが一緒なら、

この旅はきっと面白いものになるだろう。

私はそう信じて、

微笑みながら頷いた。