第11話 危険度SSS!? 猛毒の多頭蛇ヴァルガルム!先輩と暁の幻影団 part6


私は突進してきたヒュドラが急に別の方向に走り出し、

狂ったように暴れ始めたのを見て、

これが逃げるチャンスだと確信した。


巨大なヒュドラが暴れ回る中、

ただ激しい音と風だけ聞こえてくる。

しかし、その瞬間、突然耳をつんざくような悲鳴が響き渡る。


何もない空間から悲鳴が聞こえてきたため、

私は恐怖で凍りつき、

その場に立ち尽くすことしかできなかった。


「なんてこったぁ

 地面がツルピカ・エステポイズンを

 どんどん吸い込んでいってるよぉ」


「先輩!液体を回収してる場合じゃないっす

 なんか様子がおかしいっす」


先輩は地面に染み込みつつある紫の液体を

マジックバックに回収していたので、

ヒュドラの暴れっぷりには気づいていなかった。


私が状況の異常さを伝えようと、叫ぶと、

先輩はすぐに手を止めて

私と一緒にヒュドラを眺め始めた。


その瞬間、ヒュドラの頭上に雷が落ちる。

しかし、その緑色の鱗が、

まるで雷を反射するかのように輝いた。


ヒュドラの体から、再び雷鳴が轟き、

数十メートル先の草むらに閃光が走るとともに、

再び女性の悲鳴が聞こえた。


「後輩ちゃん!大変だぁ!

 エリスさんが雷に貫かれたよぉ」


「どういうことっすか先輩!

 一体何が起こってるんっすか?」


混乱しながら、遥か先の草むらを見ていると、

何もない空間から突然六体のカインが飛び出してきた。

私はその光景に圧倒され、言葉を失った。


「エリスとライラがやられた、

 透明で油断したところをヒュドラに襲われたようだ

 残りは俺と団長だけだ、お前らだけでも先に逃げろ」


「まじっすか!!

 今まで、みんなが襲われてたんっすか

 透明だから気が付かなかったっすよ!」


レオも私と同じように、

ぼうっと立っていたので、

彼もヒュドラを観察しているのかと思っていた。


しかし、仲間が襲われてると分かっていて、

何もしないで眺めているだけだと分かり、

私は焦りと苛立ちでレオに叫んだ。


「じゃあボーと突っ立ってないで

 早くライラさん達を助けにいこうっす」


「いま団長が倒された、

 もう俺たちでどうこうできる事態じゃねぇ」


レオはカインがヒュドラにやられたのを見て、

この子達二人を連れて逃げるべきか、

それとも仲間を助けに行くべき考えていた。


ただ眺めていたわけではない、

仲間たちが次々に倒れていく状況に、

苦悩していたのだ。


彼は逃げるか、助けに行くか、心の中で葛藤していた。

しかし、彼一人がヒュドラに立ち向かっても

勝ち目はないと冷静に判断していた。


「後輩ちゃん!

 ライラさん達の様子見てくるね」


「やばいっす!危険すぎっす先輩!

 ヒュドラに襲われたらどうするんっすか!

 お言葉に甘えて私たちだけでも、逃げようっす」


ギリシャ神話に登場するヒュドラは、

ヘラクレスの12の功業のうちの1つとして倒された、

複数の頭を持つ恐ろしい怪物である。


ヘラクレスが頭を切り落とすと、新しい頭が2つも生えてくるので、

切り落とされた頭の跡を火で焼いて、再生を防いだのだ

そして、頭を重い岩の下に埋めて倒したといわれている。


ヘラクレスは普通の人間じゃなくて、

神様から特別な力をもらった英雄だ。

つまり、神のギフトがない人間には倒せない魔物なのである。


「でもヒュドラはライラさん達にトドメを刺していないし、

 エリスさんに関しては攻撃すら加えていないよ

 だから、悪い魔物じゃないと思うんだ。」


私は逃げる気満々だったのだが、

先輩はヒュドラに興味深々だった。


「なんか、ニャンタがご飯が少ない時に

 怒ってる姿と似てる気がするんだ!」


そして、先輩が一人でヒュドラに向かって歩き始めた。

その堂々としたその姿には、

恐れの欠片も感じられなかった。


「ついでに、ツルピカ・エステポイズンが

 全部地面に染み込んで消えちゃったから

 おかわりもらえるか頼んでみるね」


「ええっ!?」

「お前、心臓に毛でも生えてんのか?」


先輩のその姿にレオナードは驚愕していた。

向かえば無事で済まないかもしれないのに、

まるで歴戦の戦士のように堂々としていたからだ。


ヒュドラは先輩に気付き、その鋭い目で睨みつけた。

目つきからは、今にも襲いかかってきそうな、

緊張感が伝わってくる。


「ニャンタさん、

 このままじゃ、先輩がボコボコにされるっす!

 なんで止めないんっすかぁ!」


「ピーピーうるさいぞ炊飯器!

 落ち着け!

 あいつの晴れ舞台なんだ黙って見てろ」


なんでニャンタさんは、

先輩のことを心配してないんっすか?

異世界に来てから、ずっと先輩を放置してるっすよね


先輩が一歩一歩ヒュドラの間合いに入ると、

その視線はますます鋭くなり、

空気は一層重苦しいものになった。


しかし、先輩はその緊張感に全く動じることなく、

にこやかに話しかけた。


「おなか減ってるから機嫌悪いの?

 ニャンタもご飯ないと不機嫌になるんだよね」


まるで近所の野良猫に話しかけるかのように軽い調子で続けた。

先輩の言葉にヒュドラは一瞬動きを止め、

その14個の目で睨めつけていた。


「だから、そんなにイライラしないで。

 お腹空いたなら、一緒に」


先輩が何か言いかけた、その瞬間、

ヒュドラは巨大な尾を振りかざした。

暁の幻影団を一撃でダウンさせた攻撃が迫る、


巨大な尻尾が容赦なく襲いかかる中、

先輩がとった行動はただ一つ、

その場に突っ立ったままであった。


「先輩、危ない!」


ヒュドラの尾が先輩に直撃し轟音が鳴り響く、

先輩の上着のシャツがズタズタに引き裂かれ、

周囲には破れた布片が舞い散った。


私は心臓が凍りつく思いだった。

思わず叫んだが、その叫びは、

むなしく響くだけだった。

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