第50話 先輩は元傭兵団の野盗「血狼団ブラッドウルフ」を成敗するそうです END

野盗たちはすっかり戦意を失っていた。


団長と副団長が力を合わせても倒せない相手に、

どうやって勝てるはずがあろうか。


「先輩、何が起こったんですか!?

 一瞬のことすぎて、

 さっぱりわからないっす!」


「後輩ちゃんが後ろを向いた瞬間、

 青髪のやつがナイフを6本投げたんだよ。


 それをプルルがキャッチして、

 そのままハンマーのやつに

 投げ返したんだ。


 そのあとすぐ飛び蹴りが来たけど、

 プルルが殴って倒して

 最後にハンマーを奪って一撃だよ」


「えぇ、そんな

 正々堂々戦うって言ってたくせに

 ナイフ投げなんて卑怯っすよ」


先輩の説明によれば、

私はただ右、左、再び右を向いて

驚いただけで勝負は終わったらしい。


その話を聞き、

私は誓った。


もう二度と、

戦闘中の敵の言葉には惑わされないと。


「プルルはナイフ投げも上手なんだね」


「プッププー

 (あいつの真似したら

  まっすぐ飛んでった)」


「炊飯器、

 最初にあいつに大声出されたとき、

 平気だったよな?どうしてだ?」


ニャンタが興味深げに私を見て質問してきた。

何か気にかかることでもあるのだろうか。


「あの声は大きかったですけど、

 森のモンスターほど

 怖くなかったっす」


「そうか

 お前も異世界に来て、

 知らぬ間に成長してたんだな」


ニャンタがにやりと笑いながらそう言った。


「珍しいっす

 ニャンタさんが

 私のこと褒めてるっす」


ニャンタが誰かを褒めるなんて、

年に一度あれば良い方だ。

明日、雪が降るんじゃないかと思うほど驚いた。


(限界突破・・・か?

もしステータスじゃない物でも

限界を超えれるならとんでもない才能だぞ)


ニャンタは内心でそう考え込んでいた。


元の世界では、

後輩ちゃんの浄化スキルは、

ただの空気清浄機程度の力だったはずだ。


それが、いつの間にか呪いも毒も、

体を腐敗させる瘴気さえも

無効化するまでに成長している。


確かに、あいつは異世界に来てから、

毎日が命がけの連続だ。


もしかして、

生死を賭けた体験が

あいつを強くしているのか……?


あるいは、単に森の恐ろしい体験で、

怖さに慣れただけかもしれない。


そう考えたニャンタは、

しばらく彼女の様子を観察することに決めた。


「この野盗たちどうしよっか」


「そうっすよね

 聖女様たちが応援を呼んでくれるまで

 大人しくしてくれたらいいんすけどね」


「気絶させて

 寝かせとけばいいだろ

 俺に任せとけ」


「できるだけ平和的にお願いっす」


そう言って、

ニャンタは野盗たちの方に向き直り、

ゆっくりと歩き出した。


「おい猫がこっちにやってきたぞ」

「くんじゃねぇ」

「今度は何する気なんだよぉ!!」


ニャンタは足を止め、

目を鋭く見開いた。


「うるせぇ!」


その目力と一声に宿る圧倒的な殺気が、

彼の視線を通して野盗たちを貫く。


彼らは次々に恐怖に打ちのめされ、

泡を吹き、

気を失っていく。


野盗たちは、

まるで波が押し寄せるように

次々と地面へと倒れ込んでいった。


「すごいよニャンタ

 睨んだだけで意識を刈り取る

 なんてカッコいい!!」


「ニャンタさん

 彼らの大事なものとらずに

 最初からコレ使えばよかったじゃ!?」


「殺気飛ばして眠っちまったんじゃ

 俺の凄さがわかんねぇだろう?

 そんなことより金目の物を探すぞ」


そう言って、

ニャンタは聖女が乗っていた

馬車の方へ歩き出した。


「後輩ちゃん

 一緒に漁ろうね!!」


とりあえず、

今の状況を振り返ってみよう。


私たちは爆弾による爆発で馬車を破壊し、

その騒ぎで野盗を呼び寄せて全員倒した。

そして今、関係者全員の持ち物を物色している最中だ。


「もうどっちが野盗か

 わかんないっすね」


私たちは手分けして、

少しでも価値がありそうなものを探し始めた。


草原には野盗たちが全員、

白目をむいて泡を吹き、

昼寝状態で転がっている。


放っておけば、

そのうち冒険者たちがやってきて

捕らえてくれるだろう。


モンスターに襲われない限り、

彼らも無事でいるはずだし、

そもそも襲ってきた彼らを守る義理もない。


「ねぇ後輩ちゃん

 こいつらの親分なら

 何かいいもの持ってるかも」


「そうっすね

 漁ってみようっす」


私たちは団長バルトの腰回りを確認したが、

そこには何一つ、

携帯品が見当たらなかった。


どうやら、

野盗たちは武器以外の持ち物を

一切身につけていないようだ。


しかし、どこかに違和感が残る、

何か見落としている気がする。


「ヒヒィィン!」


背後から馬のいななきが響く。


振り返ると、

馬たちはただ静かに草をはむ姿があった。


「そうだ!馬っす!

 馬の鞍に道具袋が

 吊り下げられてるっすよ!」


「本当だ!

 さすが後輩ちゃん

 早速調べてみよう」


こちらが近づいても、

馬たちは静かにこちらを見つめるだけで、

逃げる素振りも見せなかった。


手当たり次第に、

鞍に吊り下げられた袋を調べてみると、

中には携帯食料や水筒が入っているだけだ。


ときどき黒い箱も見つかったが、

何かがその中で蠢いているようだ。


もしかすると蝶かもしれないが、

別の虫が潜んでいるかもと考えると、

とても開ける気にはなれなかった。


「この箱は…

 永遠に封印するべきっすね」


「ねぇ!!

 一番大きな馬が

 金色のカギを持ってたよ」


先輩が金色のカギを掲げると、

太陽の光が当たり、

カギはまばゆい輝きを放った。


その形は複雑にねじれ、

どんな扉にも合わないような奇妙なデザインだ。


「カギがあるってことは、

 持っていかれたら困るものが

 これで開ける先にあるってことだよね」


「こんな歪んだカギ

 初めて見るっす

 いったい何を開けるためのカギなんすかね」


その時、背後から声がした。


「何かいいものでも見つかったか?」


驚いて振り向くと、

いつの間にかニャンタが足元に立っていた。


「いきなり現れないでっす

 びっくりしたっすよ!!」


毎度のことながら、

ニャンタは予測できないタイミングで

現れるから心臓に悪い。


「カギ見つけたけど

 鍵穴がどこにあるか

 分かんないよ!!」


「馬どもに聞いてみるといい

 その場所までつれていって

 くれるかもしれないぜ」


「さすがニャンタ!

 その発想はなかったよ」


先輩は馬たちのそばへ歩み寄り、

鍵を高く掲げて呼びかける。


「ねぇ、この鍵が使える場所に

 連れてってくれない?

 お願い」


その「お願い」に、

ニャンタはじっと目を細めて、

馬たちに低い声で一言加える。


「クルミがお願いしてるんだ

 逆らうなら

 どうなるか分るよな」


これは、もはやお願いというよりも

脅迫ではないだろうか。


こちらの要望が馬に伝わるかは分からないが、

試してみる価値はある。


馬たちは「見たこともない物体だな」とでも

言いたげにこちらを眺めていた。


だがそのカギを見た一頭が近づいてきた。

金のカギが入った袋を持っていた馬だ。


この馬はひときわ大きく、

力強い体躯をしている

おそらく野盗の親玉の馬だろう


「ヒヒィィン!!」


馬が鋭く鼻息を鳴らした。


どうやら私たちの意図を汲み取ったらしい。

カギを見ただけで、

この馬は私たちの行き先を理解したようだ。


「この馬、私たちをその場所まで

 案内してやるって

 いってるみたいだよ」


「そこって

 ここからけっこう遠いんすっかね?」


そう尋ねると、

馬は小さく首を横に振り、

前足で進むべき方向を示した。


その先は、

聖女様が向かった方角と同じだった。


もしかすると、

人間の住む区域の近くに、

野盗たちのアジトがあるのかもしれない。


しかし、この馬だけが知っているということは、

親玉しかカギを使う場所を

知っている者はいないということだ。


「すごいっす

 まるで言葉が通じるみたいっす」


後輩ちゃんが驚くのも無理はなかった。


そもそも馬という生き物は、

一般的に2~3歳の子供と

同程度の知能を持つとされている。


一般に馬の知能は、

2~3歳の人間の子供ほどと言われており、

一度見たり体験したりしたことをしっかり覚えている。


これが訓練に役立つため、

昔の人々も馬を長旅や戦場での相棒として、

重宝していたのだ。


「せっかくだし

 連れて行ってもらおうよ

 ちょっと失礼」


先輩は馬のたてがみをつかみ、

地面を力強く蹴り、

しなやかに跳び上がった。


その身のこなしは、

まるでプロの騎士のようで、

音もなく鞍の上に着地してみせた。


馬に乗ったことなど一度もないはずなのに、

その優雅な騎乗に思わず目を奪われた。


「おお!!

 けっこう高いね

 いい眺めだね」


「先輩かっけぇっす

 私も乗ってみたいっす」


ファンタジーの世界で、

馬に乗って旅をするなんて、

一度でも体験してみたかったのだ。


馬の背に揺られて

大地を走るなんてカッコよすぎっす。


「よかったら

 この中で一番小さい馬、

 来てくれると嬉しいんすけど…」


私の声に応じるように、

一頭の馬が歩み寄ってきた。


他の馬よりは少し小さいが、

それでも立派な体格だ。

普通の馬のサイズを大きく超えている。


先輩は素早く馬に飛び乗ったが、

私には鞍の位置が高すぎるように感じた。


「うわ…けっこう高いっすね

 どう乗ればいいのか

 さっぱりわからないっす」


「ヒヒン!!」


馬が首を左に振り、

まるで「こっちから乗って」と、

誘導しているようだった。


馬が腰が軽く揺ると、

鞍の横にぶら下がる何かが見えた。

あれは足掛けかもしれない。


「もしかして

 ここから乗れってことっすか!?」


一段と高い場所にある足掛けを見上げ、

覚悟を決めて足をかける。


力を込めて体を引き上げ、

飛び乗ろうとするも、

鞍まで足が届かない。


「後輩ちゃん

 頑張るんだ

 あと少しだよ」


「これ以上頑張ると

 足がつっちゃうっす」


必死に足を高く上げるも、

あと少し高さが足りない。


馬も「早く乗ってくれよ」と

言わんばかりに不満そうに鼻を鳴らしている。


馬は気を利かせて横向きになり、

少し屈んで待ってくれているが、

後輩ちゃんは足を引っかけたままもがいていた。


「プルル

 なんとかしてやれ」


「プッ(わかった)」


プルルはアルミスの腕を変形させ、

細長いブロック状の足場に作り替えた。


その足場は階段状に整えられ、

後輩ちゃんが馬に乗りやすいよう

工夫されていた。


後輩ちゃんが登りやすいように階段状に整え、

高さを確保する。


これで一番上に登れば、

あとは軽く足を掛けて馬にまたがれるだろう。


「プルルありがとうっす」

「プッ(どういたしまして)」


プルルのおかげで無事に乗れたものの、

思った以上に高く、

体が固まってしまう。


映画で見る落馬の危険性が、

今はひしひしと伝わってくる。


無事に降りられるだろうかと

心配で不安になった。


「俺はクルミにちょいとお世話になるか」


ニャンタは軽快に跳び上がり、

くるりと一回転。


宙を舞いながら、

先輩の頭にぴたりとしがみついた。


「昔は俺が背負ってたもんだが、

 こいつも随分大きくなりやがったな」


先輩の頭を軽く叩きながら、

ニャンタは懐かしそうに独り言を呟く。


「よしそれじゃあ

 出発だぁ」


「最初はゆっくり動いてほしいっす」

「ヒヒィィン」


初めは穏やかな足取りだったが、

馬の速度は徐々に上がり、

ついには疾走に変わっていた。


何気なく後ろを振り向くと、

野盗たち馬たちが、

こちらを追いかけてきているのが見えた。


「あれもしかして

 全員で行く感じっすか!?」


私たちは慣れない馬にまたがり、

広大な草原を疾走する。


「後輩ちゃん

 結構なスピード出てるよね!」


「揺れまくってるっす

 激しすぎるっすぅ」


疾走するたびに、

頬を撫でる風の冷たさが心地よく、

次第に心が澄んでいく。


目的地までの道のりはまだ長そうだが、

せっかくだから、

道中の景色を楽しむことに決めた。

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