第33話 闇の大魔導士リッチィーの野望:死の支配者が目指すもの part4

先輩は突然動きを止め、

まるで時が止まったかのように数秒間、

呆然としたまま棒立ちしていた。


しばらくして、

急に驚いた表情を浮かべ、

あわてて騒ぎ始めた。


「ちょ、ちょっと待って!?

 本当に時が止まってたのに、

 なんで私動けてたの!?」


「なんで君が驚いてるのさ

 私のほうが驚きだよ」


そして、10秒が経つと、

まるで何事もなかったかのように、

止まっていた世界が再び動き出した。


「あれ!?

 なんで先輩が目の前にいるんすか?

 私の手に骨付き肉あるのはなぜ?」


「後輩ちゃん!

 どうだった?

 時を止められた感覚は」


「よお!、炊飯器!元気か?

 数秒間、石像みたいに

 カチコチになってたぞ!」」


私は目の前の状況を必死に整理しようとした。

まず、手に骨付き肉を持っていること。

そして、檻にいた先輩とニャンタが目の前にいる。


「え?これどういう状況っすか?」

「あのね!時が止まってたんだよ!」


先輩は自信満々に言うけど、

まったく記憶にない。

けれども、明らかに不思議なことが起きている。


つまり…時限式の詠唱が完了して、

本当に時を止める魔法が、

発動してたってことっすか!?


「いやいやいや!

 もし時間が止まってたんなら、

 どうして先輩は動けてたんすか!?」


「不思議だよねー!

 私も時間停止を体験したかったな!

 後輩ちゃんだけズルいよ!」


いや、ズルいとかじゃないんすよ。

そもそも、時が止まってたっていう、

感覚がまったくないっす!


なんだこれ…めちゃくちゃ怖いっす!

時を止めるなんて、

実際に体験すると想像以上にヤバい能力なんすけど!


「盛り上がってるとこ悪いけど、

 もう5分たったから、

 私も攻撃に移るよ?」


やばい!すっかり忘れてたっす!

5分間は攻撃しないって約束だったのに、

その時間が過ぎちゃったっす


リッチィーが本気で攻撃してくるっす!

彼女は背中に担いでいた黄金の杖を、

ゆっくりと手に取り、詠唱を始めた。


「フレア!」


私に向かって放たれたのは、

ファイアーボールなんかとは次元が違う、

灼熱のエネルギーの塊だった。


炎というよりも、

まるで灼熱の炎が凝縮された巨大な火球である。

触れただけで融解しそうなヤバい代物だ。


「ぎゃぁぁ!

 これは当たったら

 確実にヤバいやつっす!」


「後輩ちゃん、危ない!」


先輩は私をかばうように前に立ち、

マジックバックからツルハシを取り出して

バットのように構えた。


「先輩!無理っすよ!

 ツルハシでなんとかできる

 攻撃じゃないっすよ!」


「触れた瞬間に消滅するかもね。

 まぁ、君とは短い付き合いだったね!」


「ドリャァァ!」


先輩はツルハシを大きく振りかぶり、

まるで巨大な砲丸のように

高速で飛んでくるフレアをそのまま打ち返した。


「なんかフレアが

 跳ね返ったっすぅ」


「は?何だと?

 フレアが打ち返されるなんてありえん

 触れた瞬間にどんな金属でも溶けるはずだ」


ツルハシがフレアが触れた瞬間、

緑色に輝いて、魔法を反射したのが見えたっす

あれは…ヒュドラの鱗の魔法反射に似てたっすね!?


それにあのツルハシが溶けなかったのは

骨将軍の黄金の鎧とかを無理やり融合させてから

きっと炎と光の耐性が高いかったんすね。


まさか跳ね返ると想像していなかったリッチィーは

完全に不意を突かれ、自分の魔法が直撃した。

凄まじい爆発音が響き渡り、煙が辺りを覆った。


「おい炊飯器! 

 邪魔にならないように

 少し後ろに下がるぞ」


「分かったっす

 あとは先輩にまかせるっす」


煙が晴れると、

リッチィーの周りには、

青い透明な魔法のバリアが張られていた。


どうやらギリギリ防御できたらしいが、

合成された腕の部分が焦げ付いているのが見える。

自分の強力な魔法が逆にダメージを与えたらしい。


「ふーん、やっぱり君面白いね

 魔術をツルハシで跳ね返すとか

 普通できないよ?」


「なんか振りかざしたら

 できました!」


すると突然、

リッチィーが声を上げて笑い始めた。


先輩の無邪気な答えがツボに入ったのか、

理由はわからないけど、

彼女は笑いが止まらない様子だった。


「じゃあこれならどうだい?

 ストーンウォール」


リッチィーが杖を一振りすると、

地面から鋭いクリスタルが、

先輩に向かって高速で突き出すように生えてきた。


「土属性の攻撃なら

 打撃や斬撃と変わらないからね

 跳ね返すことはできないだろう?」


「それの対処法はね

 これでいけると思う!」


先輩は攻撃があたる寸前、

素早くジャンプして空中でツルハシを一回転させ、

見事にクリスタルの上半分を削り取った。


そしてそのまま、

その削り取った部分に軽やかに着地する。


「ストーンウォールってさ、

 地面から生えてきた部分の鉱石を破壊すれば、

 射程が伸びないんじゃないかな?」


「ふむ、破壊できないように

 強度を高めていたはずなんだけどね…

 さて、次はこれだ。サンダーボルト!」


リッチィーが杖を高く掲げると、

空中に赤い雷が5箇所に現れ、

そのうち3発が光速で放たれた。


雷鳴と共に、

目で追うこともできない速度で、

先輩に迫っていく。


だが、先輩は放たれるや否や即座に側転し、

2発を華麗にかわし、

1発をツルハシで受け流した。


「ツルハシで吸収できた!?

 躱す必要なかったかも!」


「これ、光と雷の複合魔法だよ?

 回避は不可能なはずなんだけどね…」


その瞬間、残りの2発の雷が、

先輩の着地地点を正確に狙い、

猛スピードで迫ってきた。


着地の瞬間という、

最も回避が難しい絶妙なタイミングで、

雷は先輩を捉えようとしていた。


しかし、先輩は冷静にツルハシを雷の直線状に構えると、

まるで何事もなかったかのように

ツルハシに吸い込まれていった。


 雷の攻撃は直線的だよね

 軌道が見えてれば

 ツルハシ置いとくだけでガードできるよ!」


「いや、普通は雷の軌道なんて見えないよ?

 君は本当に見えているのかい?

 ……フロストヴェイン!」


リッチィーが使っているのはすべて初級魔術だったが、

彼女の強大な魔力によって、

その一撃一撃はほぼ必殺級の威力を持っていた。


だが、先輩に魔術が次々と無効化されるたびに、

リッチィーは内心焦りを感じていた。

魔術が効かないなんて、想定外だったのだ。


しかし、「フロストヴェイン」の冷気攻撃だけは別だ。

触れただけで一瞬で氷漬けにする広範囲の霜は、

いくらツルハシで防げるものではないはずだった。


「さすがに冷気は

 回避できないだろう?」


「冷たいのがきたぁ!

 こういうときは!

 深呼吸してぇ…吐く!」


先輩はまさかの行動に出た。

とてつもない肺活量で空気を大量に吸い込み、

ツルハシを両手で回転させながら一気に吹き出した。


まるで巨大な扇風機のように強力な風が発生し、

冷気を逆に押し返していく。


凍りつくはずのフロストヴェインの霜が、

リッチィーの方に吹き戻され、

彼女の体にまとわりついた。


「見てごらん、私の腕が凍りついてしまったよ。

 赤い雷も防がれるし、魔術も反射されるし、

 これはどうしたものかな?」


「あの…ニャンタさん?

 これ、一体何が起こってるんですか?

 先輩が魔法全部無効化してるんですけど…」


「……ああ、俺も驚いてるさ。

 あいつ、一体どうしちまったんだ?」


私は目の前で繰り広げられる光景に、

呆然としていた。


先輩がまるで遊ぶかのように、

リッチィーの猛攻をかわし、

すべての魔法を軽々と無効化していく。


これを見ていると、ひょっとして、

プルルでも同じことができるんじゃないか、

そんな錯覚にとらわれた。


背中の方を見ると、

プルルも口をぽかんと開けたまま呆然としていた。

やっぱり先輩がおかしいんだ…これは普通じゃない。


まるでプロゲーマーのプレイ動画を見ているようなもだ。

敵を簡単に倒しているように見えるから

「私にもできるかも」と錯覚する。


しかし、実際は彼らの動きには無駄がなく、

すべての行動に意味があり、隙もない。

だからこそ、簡単に見えてしまうのだ。


先輩の戦い方もまさにそれ。

全てがスムーズで、素人目には

「自分にもできる」と錯覚してしまうほどだった。


「ねぇ君? 魔術師にとって、

 初級呪文を防がれるってことは、

 ほぼ負けを意味するんだよ。


 一対一の戦いではね。

 中級や上級呪文は詠唱に

 時間がかかるからあまり使えないんだ」


1000年かけて築き上げてきた

魔術の基礎が通用しない。


その現実に直面したリッチィーは、

最初はクスクスと笑い始め、

次第にそれが大きな笑い声に変わっていった。


そして、急に笑いが止まると同時に、

感情を爆発させるかのように、

地面を激しく蹴り飛ばし、地形に亀裂が走った。


「お前どこで、どうやってぇ!?

 私の呪文に対処できるような力を

 手に入れたんだぁぁぁ!?」


リッチィーの怒号が響き渡った。

魔術師としてのプライドが傷つき、

何百年ぶりかに感情を爆発させた瞬間だった。


「私もさ、リッチィーが

 日々魔術の研究してる間に、

 魔法の対処法をいろいろ考えてたんだよね!」


先輩は楽しそうに思い返す。

学校から帰った後、ニャンタや後輩ちゃんと

ゲームを遊んでいた日々のことを。


彼女の「対処法」とは、

ただゲームを通じて思いついた

アイデアに過ぎなかったのだ。


その事実を知らないリッチィーは、

ただ先輩を不気味に見つめる。

彼女の中の強者の余裕は、完全に消え去っていた。


「ふぅ、君を甘く見ていたよ。

 本気を出す前にさ、

 ちょっと君の事鑑定してもいいかい?


 骨将軍が言ってたことを思い出したんだ

 戦いは始まる前から

 すでに勝負はけっしているとね


 いくら強くなっても、

 鑑定は怠るなってね。

 あれは本当に役立つアドバイスだったよ。」


「えっ、リッチィーが鑑定してくれるの?

 自分のステータス見てみたい!」


「もちろん、言われなくても

 鑑定してあげようじゃないか。」


そう言うと、リッチィーは

鑑定のスクロールを一枚取り出し、

呪文を唱え始めた。


「アナライズ!」


しかし、何も起こらなかった。

スクロールには何の反応もなく、

ただ言葉が虚しく響くだけだった。


「……あれ?

 鑑定魔術がレジストされたのかな?

 じゃあ、特別な方法でいこう。」


リッチィーは懐から、

闇の魔術師には似つかわしくない、

神々しいほどの分厚い魔導書を取り出した。


「これはね、昔、神が消滅したときに

 落としたものを拾ったんだ。」


「おい、炊飯器!

 あの魔導書はかなりレアだぞ!

 お宝級の価値がある。」


「えっ、マジっすかニャンタさん?

 そんなに貴重なんすか?」


ニャンタが欲しがるなんて珍しいことだ。

ご飯以外にこんなに興味を示すのを、

後輩ちゃんは初めて見たのだった。


「レアリティは10段階中7くらいだな。

 混ぜてよし、使ってよし…

 あの本はあとでいただこうぜ。」


ニャンタは悪そうな笑みを浮かべながら、

魔導書をじっと見つめていた。


「この魔導書は、大量に魔力をチャージすれば

 一度だけ奇跡を起こせるんだよ

 私の体もこれで生成したんだ。


 私のMPを全て使っても

 チャージに1週間はかかるが、

 これなら君を鑑定できるだろう」


リッチィーは魔導書を開き、詠唱を始めた。

瞬く間に魔法陣が出現し、

先輩の周囲を囲み始めた。


「これなら、

 問題なく測定できるはずだ。

 アナライズ」


天体観測のような、

神秘的な光の輪がいくつも現れ、

先輩を取り囲む。


直接魔法をかけるのではなく、

周囲から分析する形で、

先輩のステータスを測定しようとしていた。


「わぁ、神々しくて

 オシャレっすねぇ!」


「なんだかMRIとかレントゲンで

 体の中を見られてる感じがする!

 ついでに体に悪いところがないか診てほしいな!」


「よし、レジストされずに用紙に

 数値が浮かび上がってきたね

 どれどれ見てみるとしよう」


名前: 水落・クルミ(人


 ステータス

 レベル: -

 HP:   14,300

 MP:   -

 攻撃力: 22,200

 防御力: 33,000

 魔力:  -


 状態異常耐性 -

 属性耐性   -


タレント(才能) 

 EX 丈夫な体

 EX 悪運

 EX トラブルメーカー

 EX アレキエテル・ブ


「なんだこれは?

 生身の人間の数値ではない

 本当に人間なのか?」


過去に召喚された勇者より数値が高い

それに、レベルが表示されていないし…、

数字が異様に大きく表示されてる。


なんとか用紙に収まってるが…

耐性値は文字化けしてるし、

最後のタレントはなんだこれ!?


リッチィーは鑑定用紙をじっと見つめ、

完全に硬直してしまった。


「え?どこか悪いところ見つかったの?

 ちょっと見せてよ!」


「見たいなら、どうぞ。」


リッチィーは鑑定用紙を軽く投げた。

用紙は魔術で操っているのか、

空中を漂いながら先輩の元へと移動していった。


「私も先輩のステータス見てみたいっす!

 あとで見せてください!」


「オッケー」


先輩は迷わず用紙を受け取り、

じっくりと数値を確認し始めた。

そして、目を丸くして驚きの声を上げた。


「えっ、レベルが書いてないじゃん!

 私、もう成長できないってこと!?

 これ、鑑定ミスじゃないの?


 意義あり!

 都合の悪いところだけ隠したでしょ?

 再鑑定を要求するよ!」


「そんなことするわけないだろ!」


先輩は鑑定用紙をじっくり見終わると、

それを折り曲げて紙飛行機のように作り、

私に向かって投げてきた。


「後輩ちゃんも

 私のステータス見てみて!」


紙飛行機が私の元に、

ふわりと落ちてきたので、

すぐに受け取って中身を確認した。


鑑定用紙はびっしりと、

文字と数値が埋め尽くされていた。

私は上から順番に目を通していった。


「先輩、防御力めっちゃ高いっすね。

 これじゃあ噛まれても

 切られても無傷なわけっすよ…。」


なんか才能欄に4つもEXがついてるっす!

丈夫な体や悪運はわかるっすけど、

最後の『アレキエテル・ブ』って何すかね?


まるで途中で切れているような名前っすね。

しかも、普通の鑑定より文字や数字が、

大きく表示されていて違和感がある。


そして用紙の端には、

まるで数字に続きがあるかのように

不思議な線がかすかに見えていた。


「んー、でも、まあ

 …気のせいっすかね。」


私が鑑定用紙を見つめていると、

リッチィーが冷静な声で言った。


「これでお前の実力は大体わかった。

 確かに鑑定結果には驚いたが…

 まあ、倒せない相手ではないな」

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