第40話 先輩とエルムケンの大森林の出口を突破せよ! part4

ほどなくして、オオカミが去った方角から、

武装したリスの魔物が約20体、

きれいに隊列を組んで行進してきた。


先頭を歩く隊長らしきリスが鳴き声をあげると、

後ろに続く隊員たちも、

それに応えるように同じ鳴き声を響かせる。


「キッキィキキッキ!」

「キッキィキキッキ!」


隊長と思われるリスだけが、

なぜか卵を半分に割ったような殻を

頭にかぶっていた。


「後輩ちゃん

 リスが行進してるよ

 可愛いね!」


「なんで一匹だけ

 卵の殻被ってるんすかね!?」


「陣地の見回りかなんかだろ」


彼らが向かう先は、

森の出入り口の方角だ。


先ほど木の上にいたリスよりも体格が大きく、

私の身長は155cmなのに対して、

このリスたちは腰の高さまである。


全員が左手に、分厚いウッドシールドを構えていた。

その盾は、彼らが少し体を屈めるだけで、

全身を覆うことができるほどの大きさだ。


その木の盾を見た瞬間、

その重さがずしりと感じられる。

私にはとても持てそうにない。


右手には、短めの剣、

ショートソードを握っている。

まあ、リスからしたらロングソードっすね。


どうやら人間が使っていた武器を拾ったらしく、

手入れはしっかりされているが、

サイズや形はバラバラだった。


防具は身に着けていないものの、

その毛並みは異常に剛毛だ。


まるで天然の鎧をまとっているようだ。

斧や槍で叩いても、

きっと弾かれてしまうだろうと想像できた。


リスたちは、

私たちから500メートルほど先で足を止め、

隊列を組んだままじっと待機していた。


「あのリスたちあそこで

 何してんすかね?

 まるで何かを待ってるような感じっす」


「そんなことより、炊飯器!

 自分のステータスは気にならないのか?

 暇なときに確認しとくほうがいいぜ」


「私も後輩ちゃんの

 鑑定結果みてみたいな」


「そうっすね

 私もステータス気になるっす

 見てみたいっす」


古墳の地下から、

大量のスクロールを手に入れたおかげで、

鑑定には困らなくなった。


だが、この異世界での生活を考えると、

20万Gという大金を手にするのは、

きっと容易ではないだろう。


節約は大事だ。


それでも、

自分の才能や能力を知ることは、

重要な投資だと自分に言い聞かせた。


もったいないと思いつつも、

私は20万Gする鑑定スクロールを取り出し、

プルルに差し出した。


「プルル鑑定してほしいっす」

「プッ!(まかせて)」


プルルがスクロールに触れると、

それがまばゆい光を放ち始めた。


「もし、私に才能が

 なかったらどうしよう…」


後輩ちゃんは少し不安そうな顔をしながら、

用紙に刻まれた文字をじっと見つめる。


用紙に本名が書かれていたので、

すぐにその部分を破り取り、

クシャクシャに丸めた。


名前を知られれば、

呪い殺される危険があるからだ。

不安要素は排除しなければならないっす。


         (後輩ちゃん)


ステータス

レベル: -

HP: 250

MP: -

攻撃力: 30

防御力: 20

魔力: -


状態異常耐性 -

属性耐性 -


タレントアビリティ(才能)

限界突破(リミットブレイカー):EX

不滅逆転(エッジ・オブ・デス): EX

白輝ノ祓:(ハクヒノハライ) EX

以心伝心:B


「なんすかこれ

 ステータスの値が低すぎっす

 くそ雑魚ナメクジじゃないっすか」


「私にも見せて」


胸の中に広がる無力感を押し殺しながら、

私は無言で用紙を先輩に差し出した。


先輩は紙を見るなり、目を覆ったが、

私のタレントアビリティに目を留めると、

希望に満ちた表情に変わった。


「でも後輩ちゃん

 カッコいい名前のEXスキルが

 3つもあるよ」


「どれどれ、

 俺にも見せろ」


ニャンタが先輩と一緒に、

仲良く紙を覗き込む。


ステータスの数値は確かに低いが、

タレントアビリティは、

何か期待ができそうだ。


「人間のステータスなんて

 こんなもんだろ

 重要なのは才能のほうだ」


アビリティの名前が、

四文字熟語なのは不思議だったが、

そんなことはどうでもいい。


私の異世界での生活は、

この能力たちにかかっている。


「まず限界突破だが、

 例えばレベルが99が限界だとしても

 無限にレベルアップできるみたいな能力だ」


「なっなんだって!

 成長や全ての限界を超えれるってこと

 すごいよ後輩ちゃん!」


先輩とニャンタは、

私の能力を褒めちぎってくれた。


でも、私は知っていた。

ニャンタがこういう時にテンションが高いのは、

あまり良い兆候じゃないことを。


「だがな…残念ながら、

 元の数値が雑魚すぎて話にならねぇ


 いくら限界を超えられるとしても、

 最初の基礎が低すぎて、

 人間の域すら超えられねぇだろうな。」


私は絶句した。

確かに、レベルが表示されていない以上、

モンスターを倒せば強くなれるわけではないのだ。


つまり、限界突破というスキルは、

1兆年くらい修行すれば最強になれる

…そんな感じの能力だ。


とはいえ、努力すればするほど、

限界なく強くなれるとわかっただけでも、

ちょっと嬉しかった。


「ねぇニャンタ!

 この不滅逆転っていうのは何!?

 ものすごくカッコいいよ」


「それは、

 死に際でしか発揮できない

 やべぇスキルだな。」


「なんか限界突破と

 相性がよさそうだね」


いつにも増してニャンタが真剣な表情をしていた。

あれ?もしかしてすごいスキルなんじゃ!?

私の期待値は爆発しそうだった。


「まあ、一歩でも動いたら死ぬような

 瀕死の状態で発揮するスキルだ

 発動すれば最強なんだがなぁ」


え、一歩でも動いたら死ぬ?

それって、そもそも

動けるような状態じゃないのでは!?


「死に際にしか使えないんじゃ

 意味ないっす!」


「人間が死ぬ前に見るという

 走馬灯が一時間くらい

 楽しめる能力なのかもね」


鑑定結果でわかったのは、

おそらく『白輝ノ祓』以外は、

役に立たないスキルだということだ。


ちなみに、ゲーム用語でいう

「死にスキル」とは、

持っていても意味のない能力のことだ。


たとえば、最強の魔法が使えるけど、

それを使うためのMPがゼロみたいなものである。


「白輝ノ祓が浄化スキルみたいだな

 まあ炊飯器を連れてけば

 どんな場所でも冒険できるってこったな」


「後輩ちゃんは

 私たちが守るよ

 プルルもいるから安心だね」


「ステータスが低くても

 才能が微妙でもいいっすから

 早く元の世界に帰りたいっすぅ」


この異世界での様々な体験を通して、

私は一つだけ学んだことがある。

それは、平穏な日常の素晴らしさだ。


家の中での平和な時間が、

これほどまでに尊いものだとは知らなかった。


私は絶望的な鑑定結果をかみしめていると、

なんだか騒がしい音が聞こえてきた。


「キッキィキキッキ!」

「キッキィキキッキ!」


リスの鳴き声が遠くからかすかに聞こえ、

私は視線をそちらに向けた。


すると、植物モンスターの大群が、

迫ってくるのが見えた。


魔狼の領域の外で遭遇した、

あの恐ろしい口が生えた植物たちだ。


今回の問題はその数。

辺り一面を埋め尽くすほどの大群が、

波のように押し寄せてきていた。


右手に剣を、左手に盾を装備したリスたちは、

慌てることなく隊列を組んで待機している。


この場所は高い木が密集していて、

ほぼ一方通行になっている。


相手の数が多くても、

完全に囲まれる心配はないが、

向こうは数に物を言わせて押し寄せてくるだろう。


「やっやばいっす!

 のんびり休んでる場合じゃないっす

 植物の大群がきてるっすよ」


「後輩ちゃん

 遠くのほうに、

 めちゃくちゃ大きいのがいるよ」


「なんすかあの化け物!?

 巨大なバラが動いてるっすよ!」


目を凝らして見ると、

巨大なバラのような植物モンスターが、

こちらに向かって進軍してきていた。


その姿は一見美しい花びらを持つが、

中央には鋭い歯が並ぶ、

恐ろしい口が開いている。


さらに根のように伸びた触手は太く、

びっしりと棘が生えており、

それが地面を滑るようにして進んでいるのだ。


厄介なのは、その巨大なバラが、

次々と小型の植物モンスターを

体内から生み出していることだった。


小さな口が付いた植物が、

まるで脱糞するかのように、

絶え間なく生まれ放出されている。


「ふつう、植物系のボスって

 動かないで

 陣地に構えてるもんだよね」


「森の出口を封鎖してるやつが

 こっちにきたみたいだな」


「まだ、お呼びじゃないっす!

 もっとのんびりしたかったっす!」


予想外の事態だった。

口を持つ植物が1000体も生み出す親玉が、

まさか動くとは思ってもみなかったのだ。


密かに考えていた作戦では、

親玉が動かないことを前提にしていた。


距離を取って、

安全な場所から爆弾を投げれば、

一方的に攻撃できるはずだった。


遠くから安全に爆弾を投げ、

一方的に倒せばいいと考えていたが

その計画は崩れ去った。


……あれ? もしかして私、

爆弾に魅了されてないっすよね?


何でもかんでも、

爆弾で解決しようとする自分の発想に、

少しばかり過激さを感じた。


その一方で、巨大植物は、

人間の歩く速度で、

ゆっくりと迫ってきていた。


地面を這う触手の長さを考えれば、

攻撃できる範囲は遥かに広いはず、

油断は禁物だ。


「見てみて

 リスが頑張って石投げてるよ」


「キッキィ!

 キッキィ!」


木の上ではリスたちが

投石で攻撃を仕掛けているが、

その効果はあまり見られない。


それどころか、投石に刺激されたのか、

巨大なバラの植物は怒りを露わにし、

さらにこちらに迫ってくるように見えた。


「あれじゃあ、

 こっちに誘ってるような

 もんじゃないっすか…」


私はため息交じりに呟いた。

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