第4話 ヒーロー

※まえがき

前半は三人称です


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 帰りの馬車の中で、キューネは考えていた。

 自分自身の、これからのこと。

 ムウの言葉通り引っ越して別のギルドに入るべきなのか、もしくは我慢してランドのギルドに入るべきなのか、そもそも自分はギルドに向いていないのか。


 世界は、甘くない。

 優しくなんかない。


 村から一歩出れば、たくさんの不条理や災難が待ち受けているのだ。


「ついたよ」


 隣にいたムウが声をかけてきた。

 村につき、ムウと別れる。


「はぁ、お父さんとお母さんにはなんて言おう」


 子供の頃から、ギルドメンバーに入りたかった。

 父がなけなしの貯金を叩いて買ってくれた魔晶石で目覚めたスキルを、活かしたかった。


 人々を助け、役に立ち、報酬で親に楽をさせたかった。

 ヒーローになりたかったのだ。


「ただいまあ」


 誰もいない。

 この時間なら家にいるはずなのに。


 机の上にある置き手紙に気づく。

 そこにはーー。





 キューネは走った。

 指定された一本杉まで、全速力で。

 自身のスキル、バフ系魔法のスキルを使えば、常人を超えた体力を得られるのだ。


 一本杉が見えてきた。

 ランドたちがいる。

 その足元に、縄で縛られた両親がいた。


「お父さん!! お母さん!!」


「おい女!! ムウを連れて来いって書いてなかったか?」


「ムウは……いないわ」


 もちろんムウの家には行ったが、いなかったのだ。


「お父さんとお母さんを返して!!」


「ダメだね、あいつをボコボコにするまでは返さねえ!! わかったらさっさと連れて来い!! さもねえと、大事なパパとママが痛い痛いって泣いちゃうぞ」


「こんなことをしてタダで済むと思っているの!?」


「済むんだよ。なんせ俺たちは、街を代表するギルドなんだからよ!! 田舎村の人間をボコったところで、関係ねーッッ!!」


 キューネがグッと歯を食いしばる。

 どこまでも性根が腐った連中だ。

 許せない。倒してやりたい。


 でも、自分に出来るだろうか。

 ムウを呼んできた方がいいのではないだろうか。


 いや、やってやる。

 親すら守れずに、なにがヒーローになりたいだ。

 ここで他人に任せるようなら、ギルドの人間になんか一生なれないはずだ。


 やっぱり夢は、諦められない。

 あんな連中など倒して、ギルドでやっていけるぞって自信をつけるのだ。


 怖い、けれど、ムウの顔を思い浮かべると勇気が湧いてくる。


「ムウを呼ぶ必要はないわ」


「は?」


「私があなたを、退治するもの」


「はあ? 女如きが調子乗んなよ。あのガキの技の影響はもうねえんだぜ? 絶好調だ」


「スキル発動!! 身体強化の魔法!!」


「……面白え」


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※ここから一人称です。



 帰って早々、叔父さんにおつかいを頼まれてしまった。

 解熱剤を調合するのに、ゴブリンの皮が必要らしい。


「ふう、ただいま」


「速かったな」


「さっさと寝たいから」


「そういえば、さっきキューネちゃんが来たぞ」


「なんで?」


「さあ? でも、だいぶ急いでいたなあ。一本杉がどうとか」


 なんだろう。

 花粉症対策に、杉を切り倒したいのかな。


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 一本杉に到着した瞬間、目を疑うような光景が広がっていた。

 縄で縛られ、泣き崩れているキューネの両親。

 下品に笑っているランドたち。

 そして、傷だらけで倒れている、キューネの姿。


「よう、やっときたか。どうせなら親の前でこの女を犯してやろうと思ったが、もういい」


「……なにしてんの」


「反抗してきたからいたぶってやったんだよ!!」


 キューネが顔を上げる。

 綺麗な顔は泥だらけになって、口から血まで流していた。

 ぐすぐすと涙を流しながら、強がるように笑う。


「ごめんね、私には、無理だった。ムウみたいには、なれなかったよ」


「この女、夢がどうとか言いながら、散々俺に殴られてたぜ!! すぐ気絶したんじゃつまらないから、スキルを抑えてじっくり楽しんでやったぜ!!」


「わ、私には、できなかった。きっと、ヒーローになる努力が足りなかったんだよ」


「バカなやつだぜ。努力なんぞ関係ねえ。肝心なのは才能なんだよ!! なにが夢だよくだらねえ。ギルドってのはな、てめーみてえな能無しのクズ女が入れる組織じゃねえんだよ!! お前に相応しい夢はな、俺の女になることくらいだ」


「……」


「くははは!! ほら願えよゴミ女ァ!! 神様お願いですぅ、ランド様の女にさせてくださいぃ、生まれた頃からの夢なんですぅ、ってな!!」


「くぅ……」


「可哀想だなあ、才能がないザコってのは。望み一つ叶えることができない」


 決めた。

 こいつはタダじゃ済まさない。


 久しぶりだ、こんなにキレたのは。

 情けをかけて生かしてやったのに、このクズは……。


「殺しておけばよかった」


「あ?」


「確かに、夢を叶えるのは辛くて過酷だよ。キューネみたいに貧乏で、天才じゃないなら、なおさら」


「はんっ、つまんねー人間のくせには、よくわかってんじゃねえか」


「けど……他人の夢を笑っていい人間なんか存在しないんだよ!!」


「いるぜ、ここにな」


「次はお前の存在が笑われる番だ、クズ」






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※あとがき

ムウは叔父さんと二人暮らしでちゅ。

応援、よろしくお願いしまちゅ。

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