第3話 諦めとリベンジ
※まえがき
途中から三人称です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「凄いね、あんなことができたなんて」
夕暮れ、適当に入った宿の一室で、キューネがそう告げた。
キューネのギルド入りは結局はお流れになってしまった。
ランドの手下たちが彼を抱えて逃げてしまったのだ。
村に戻る頃には夜になってしまうし、今日は宿に泊まることにした。
同室だけど、キューネとはやましい関係じゃないから問題ない。
「ツボ? を押すの? マッサージみたいに」
「正確には『真経穴』って言って、普通のツボとは違うんだけど……うんまあ、強めのマッサージみたいなもの」
「スキルに負けないくらい凄い能力を持ってたんだ」
負けるよ。
だって地味だし。
しょせん人間レベルの範疇の技術だし。
「なんで黙っていたの?」
「話す必要ないでしょ、別に」
「あ、あるでしょ……」
「それよりごめんねキューネ。ギルドに入るタイミング、めちゃくちゃにしちゃった」
「……いいよ」
キューネは窓から外を眺めながら、呟いた。
「諦める」
「え」
「あんな人たちの仲間にはなれない」
「じゃあどうするの?」
「しょうがないよ、村でお父さんの畑を手伝うことにする。村に降りてきたモンスターを倒すくらいなら、できるわけだし」
「……呆れた」
「へ?」
キューネは幼馴染だし、彼女のしたいようにしてほしい。
けれど、どうも腑に落ちない。納得できない。理解できない。
せっかく街までついてきたのに。
「そんな簡単に諦められるんだ」
「だって、ギルドリーダーのランドは嫌なやつだったし、酷い目に遭わされそうになったんだよ?」
「モンスター退治の専門家になろうって人間が、あんなもんで諦めちゃダメでしょ」
「……」
「ランドのギルドが嫌なら、別の街に引っ越して別のギルドに入団すればいいじゃん。しんどそうだから簡単に諦める人間が、強力なモンスターと戦えるわけがない」
「引っ越しって、簡単に言わないでよ。家族とも離れ離れになるし、ムウとだって会えなくなるのよ?」
「代償も払わずに夢を叶えるつもりだったの?」
「そ、そんなこと……」
「すんなり入団して、優しい人たちに囲まれて、気分の良いことだけを味わう。夢を叶えるって、そんな楽な道じゃないと思う」
自分には夢はない。
これといった願望はない。
どんな選択をしようがキューネの自由だけど、気に入らなかった。
キューネが視線を下げる。
「……ごめん」
「最後に決めるのはキューネだから、これ以上は言わないよ。どんな道を選ぼうと、応援はするし」
「ありがとう」
「……」
「……」
変な空気になってしまった。
言いすぎただろうか。
「ムウはさ、ギルドに入りたいと思わないの?」
「思わないよ」
「そんなに強いのに?」
「モンスター退治とか、興味ない」
ていうか、毎朝させられている。
叔父に頼まれて、薬の材料を収縮させられている。
あらかたのモンスターなら一人で倒せるけど、やっぱり面倒くさい。
「そっか……」
------------------------------
※ここから三人称です
一方そのころ。
ようやく動けるようになったランドは、酒場で青筋を浮かべていた。
もちろん、『身体を洗って』『着替え』もしている。
あのガキ、ムウとかいうガキにしてやられた事実。
認めたくない。認められない。
負けたのは、油断したからだ。
あんな男か女かもわからない、スキルもないつまんねー子供などに、負けるわけがない!!
「許さねえ、必ずボコボコにしてやる。おい、あいつの家を教えろ!!」
ムウと同じ村出身の部下に怒鳴る。
「家はマズイっすよ!! あいつの家、医者なんす。手を出したら大問題になるっすよ!!」
「ちっ。……ならあの女は? あの女の家は?」
「あいつん家なら、ただの農家っす」
「ふふふ、ちょうどいいぜ」
「襲うんすか? また返り討ちにされますよ!!」
「俺に考えがある」
人体の弱点を知り尽くしたガキ。
話を聞く限り、モンスターの体にも詳しいのだろう。
なら……。
「おい、コチンを呼んでこい!! あいつのスキルなら、経穴なんぞ関係ねえ!! くっくっく、痛めつけてやるぜえ、あのガキ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます