第52話 勝ち筋

 未来が見える。

 それがママルさんの3つ目のスキル。


 やばい、もはや笑えてきた。


 こちらの手はすべて把握されて、それに応じて時間を止めたり、戻したり。

 隙が生じればエナジードレイン、か。


 エナジードレインは吸い取ったエネルギーを飛ばすこともできるから、本当に弱点がない。


 最初のデコピン空気弾を食らったのは、おそらくわざと。

 本当にただの、好奇心。


 なにがナナルちゃんなら私に勝てるだよ。

 妹に対する期待が強すぎるだろ。


「どうするぅ? 続ける?」


「もちろん。確かにママルさんは最強に相応しいようですけど、万能じゃない」


「んー?」


「時を止めている間は、俺に干渉できない」


「ふふふ、本当にすごいねー、ムウちゃんは」


 やっぱり。

 例えば、時間を止めている間にナイフで切る、とかエナジードレインは生気を吸い尽くす、なんて芸当が可能なら、やっているはずだ。


 ママルさん以外の時間が止まっているから、俺に干渉しても変化が生じないのだ。


 そりゃ、あの人のことだ。多少手加減して、こっちの出方を観察していた可能性もあったけど。


「でも、それを知ってどうにかなるのかな?」


 どうにかなるはずだ。

 叔父さんの真経穴に不可能はない。

 叔父さんならきっとどうにかできる。


 なら、俺だって。


「ねえ、ムウちゃん」


 後ろからママルさんの声が聞こえてきた。

 また時を止めて、背後に回り込まれてしまった。


「ムウちゃんは私に触れられない。触れても意味がない。ムウちゃんがやることなすこと、ぜ〜んぶ未来視できちゃう」


「そっちだって決定打がないくせに」


「ふふ、ふふふ、わかってないなあ。私が毒ナイフでも使ったら、軽く刃が触れるだけで終わりだよお? ムウちゃんが素手だから、こっちも素手なだけで」


「じゃあ、やっていいですよ」


「わ〜!! かっこいいね☆」


 またママルさんが消えた。

 後ろ? いや、違う。


 頭上から殺気を感じる。

 反射的にその場から離れると、エナジードレインを放出したエネルギー波が降ってきた。


 遅れて、ママルさんが降下してくる。

 着地と同時、ママルさんが突っ込んできた。


 なにをしてくるつもりだ。


「あは〜☆」


 また消えた。

 後ろか? 違う。上? 違う。

 どこだ、どこにいる。


 隠れているのか? こんな何もないところ、隠れられるとすれば、一本杉の裏くらいだけど……。


「ここにいるぞ〜」


 真横から声がした。

 俺の腕を掴み、エナジードレインで気力を奪ってくる。

 いつの間にこいつ!!


「くそっ!!」


 腕を払ってママルさんから離れる。

 時間操作、厄介だ。

 たぶん、一本杉に隠れていたのは本当。

 時間を止めて移動したんだ。


 俺がそれに気づく未来を見て、タイミングよくまた時間停止。

 今度は俺の側に移動してきた。


「しぶといね〜。ドラゴンだってとっくに気絶してるはずなのに」


「体の作りが違うもんで」


 ゆっくりとこちらに歩いてくる。


「でも、防戦一方だよねえ」


 と俺を煽った直後、ママルさんが躓いた。


「わ」


 いまだと言わんばかりにデコピン空気弾を発射すると、ママルさんが吹っ飛んだ。


「いた〜い!!」


「……」


 いまのは、わざとか?

 未来が見えるなら、対応できるはず。


 未来視にも限界がある?

 じゃあせめて、時間を止めるなり、戻すなりすればよかったのに。


 ーー私を倒せるのはナナルちゃんだけ。


 ふと、ママルさんの言葉を思い出す。


「そういうことか……」


 いける。

 俺の考えが正しければ、勝てる。


 最強の女に。


「ママルさん」


「?」


「ようやく見せてやれますよ。真経穴の恐ろしさ」

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