第51話 神のスキル

※三人称です。




 ムウとママル、2人の戦いを見守っていたサマチアのギルドメンバーたちは、みな言葉を失っていた。


 ムウは強い。そんなこと全員がよく知っている。

 なのにそのムウが、ママルを相手に振り回されている。

 まるで子供相手だ。


 ママルを見ていると冷や汗が止まらない。

 サンドのような恐怖は感じないのに、身の毛がよだつほどに不気味だ。


「パパ、ママルのスキルってなんなの? エナジードレイン以外にもあるみたいだけど」


「わからないよ。ただハッキリしているのは、僕らとは絶望的なまでに力の差があるということ。なんせ、世界が認める、この世で2番目に強い人だからね」


 リナリオンがマーレの腕を強く握った。


「マーレちゃん、ムウ様は前より強くなってるんでしょ?」


「は、はい!! いまのムウさんは、真経穴を完全に使いこなしているはずです」


「でも……」


「たぶん、真経穴の力を充分に発揮できていないのです。ママルさん、まったく隙がないですから」


 マーレたちの会話を聞いていたキューネが、ナナルの方を向いた。


「ねえナナル。ママルさんのスキルって……」


「教えないわ。教えたところでお姉ちゃんは無敵だけど、他人に不用心にスキルを教えるなんて、セオリーに反するもの」


「そうだよね」


「ただ一つだけ教えるとすれば……お姉ちゃんは、世界を操る」


「世界を?」


「神の領域にいるのよ。そりゃ、ムウだって化け物よ。でも、化け物如きが神に勝てる?」


 ママルに心酔しているナナルが大げさに言っているだけ、とも捉えられるが、妙な説得力があった。


 キューネの視線がムウに戻る。

 カッコよく勝ってほしい。

 けど同じくらい、負けてほしかった。


 だって勝ったら、勝ってしまったら、ムウはマスターギルドに……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※ここから一人称です。




 今度こそ、こちらから仕掛けてやる。

 まずはママルさんのスキルの謎を解き明かさないと。


 足だけでも、オーガの力を使うか。

 脚部の真経穴を押し、一気にダッシュする。


 間合に入った。

 拳を振ると見せかけて、デコピン空気弾。


「ふふ」


 かわされた。

 構うもんか。今度こそ拳で連続攻撃を行う。

 ひょいひょいと回避される。


 おそらく、そろそろ背後に回って、エナジードレインを使ってくる頃だろう。


「ふふふ」


 視界から消えた。

 背後にいる。


 振り返って裏拳を……。


「なっ……」


 まただ。

 また俺とママルさんの位置が、走り出す前に戻っている。


 俺から少し離れた前方に、元気なママルさん。


 頭がどうにかなったのか、俺は。

 これじゃあまるで、やり直しじゃないか。


 やり直し?


 もし、これが幻術だったなら、とっくに敗北していないとおかしい。

 だって術にかかっている間は隙だらけなのだから。


 つまり、あの一連の動作は、すべて現実。

 それを、やり直させられている。


 背筋がゾッとした。


 俺が考えたいることが本当なら、あの瞬間移動にも説明がつく。


 まさか、まさか。


「あんたの2つ目のスキル……」


「あは〜☆ 思ったより早く気づいたねぇ。そうだよ。私の2つ目のスキルは、『時間操作』。時間を止めることも、戻すこともできる。もちろん、加速もできるんだけど……戦いではあんまり使わないかなあ」


 高速で移動しているのではなく、時間を止めて動いていただけ。

 やり直しは、時間を戻していただけ。


「ち・な・み・にぃ♡ 効果範囲は無限大。世界中ぜ〜んぶ」


「はは、そりゃ強いわけだ」


 なんつースキルだ。

 これまで戦ってきた相手とは格が違いすぎる。

 神かよ、あんたは。


「早く気づいたご褒美に教えてあげる」


「なにを?」


「3つ目のスキル」


 3個もあんのかよ。

 反則だろ、この人。


「これを言うとね、みーんなギブアップしちゃうの。絶対勝てないじゃん!! って」


「……」


「私ねえ、未来が見えるんだ♡」

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