第50話 最強の女

 ドラゴリオンとリナリオン親子が話しかけてきた。


「ムウ、本当にママルと戦うのか?」


「ムウ様、わたし聞いてないです!!」


 軽く微笑んで、「まあ見ててよ」と2人を突き放す。

 悪いけど、構っていられるほど余裕はない。

 だって好奇心と恐怖で心臓がバクバクしてんだから。


 ふと、キューネを見やる。

 心配そうに、俺を見つめていた。


「マーレ、キューネたちと離れてな」


「は、はい」


 なにやら不機嫌そうなナナルも、遠ざかっていく。

 これでようやく、俺とママルさんだけになった。


 日が完全に沈んでいる。

 まさか、薄暗いから戦いたくないとは言うまい。


「ふふふ、ムウちゃん。オーガと戦ってきたの?」


「まあ。なんとか勝てました」


「そっか〜。すごいねえ。どのくらいで倒せたの?」


「えっと……だいぶ時間掛かっちゃいましたけど」


「あはは〜。私なら1分もあれば3体は倒せるよ〜」


「そうっすか。じゃあ、いきますよ」


 戦う。ママルさんと。

 おそらく最強の座に限りなく近い人と。

 勝てるのか。どこまで通用するのか。


 俺の真経穴。俺と叔父さんの真経穴。

 俺が身につけた、スキルをも上回る万能の技。


 緊張する。

 誰かに命じられた戦いでもない。

 誰かを守るためでも、怒りを晴らすためでもない。


 徹底的なまでの自己満足。


 オーガの力はまだ使わない。

 さて……。


 先制攻撃を仕掛けてやろう。

 そう意気込んだ直後、


「あれ」


 ママルさんが消えた。

 同時に、俺の肩に感触が走る。


 小さく細い女性の手。

 背後に、ママルさんがいた。


「ふふ、エナジードレイン」


「なっ!?」


 一気に体力が持っていかれる。

 このままじゃやばい。

 腕を振り払って距離を取る。


「あーん、逃げられちゃった♡」


 なんだ、あの速さ。

 俺の目でも追いつけなかった。

 ナナルより速いことになるぞ。


 だがこれでわかった。

 ママルさんのスキルは、ナナルと同じエナジードレイン。

 そして瞬間移動クラスの高速移動。


 手強いが、問題ない。

 今度はこっちから仕掛ける!!


 左手で右手の真経穴を押す。


 その右手の指をデコピンの形にして、中指を弾く。

 遠方にいたママルさんの腹部に、小さな衝撃を与えた。


「おー?」


 真経穴で右腕の筋力を数倍まで増強し、指を弾く力を極限まで高めたのだ。

 それによって生まれた衝撃が空気鉄砲のようにママルさんへ飛んだのである。


 名付けてデコピン空気弾。

 基礎トレーニングで身につけた筋肉があってこその技だ。

 オーガの力と違って、疲労感はほとんどないから使い勝手が良い。


「あーれー?」


 ママルさんが跪く。

 そりゃそうだ。そういう真経穴を突いたんだから。


 指で押したわけじゃないから効果は弱いけど、それでも数秒は立ち上がれないだろう。


 いまのうちに距離を詰める。

 一撃で眠らせるつもりだ。


 間合に入った。

 終わらせる!!


「んー、それは食らいたくないかなあ」


「…………え」


 ママルさんとの位置が、俺が走り出す前に戻ってる。

 それに、向こうはもう平然と立ち上がっているし。

 いくらなんでも回復が早すぎる。


 おかしい。


 夢でも見ていたのか?

 それともこれが夢?

 まさか、ミントのような幻術のスキルでも?


「はい」


 またしても、ママルさんが一瞬にして俺の眼前に立った。


「エナジードレイン」


「くっ!!」


 再度離れる。


 わからん。

 この人のスキルはなんだ。


 叔父さんの言葉を思い出す。

 真経穴は一撃必殺が可能の技。


 だからこそ、確実にこれを打ち込むために、相手をしっかり洞察しなくてはならない。


 癖、弱点、思考パターン。

 いつも以上に冷静に、決して感情に流されず、淡々と見破らなくてはならない。


 雑魚相手なら容易でも、強い相手には中々難しい。

 オーガの力に頼ってパワー任せでは、格上相手には呆気なく崩されてしまう。

 スキルを複数所持していたサンドに、あそこまで苦戦したように。


「だったら……」


 5本の指で自分の真経穴を押す。

 そのうえで、デコピン空気弾を連射した。

 ママルさんはひょいひょいとそれを回避すると、再度俺の真横に瞬間移動をしてきた。


 エナジードレインを発動するため、彼女の右手が俺に……。


「ふふふ、触ってあーげない」


「は?」


「エナジー解放」


 俺から吸い取った生気を、エネルギー弾として発射してきた。

 くそ、近すぎる。かわせない!!


「ぐっ!!」


「あはは〜☆」


 失敗した。

 食らわせるつもりだったのに、ナナルを倒した時のカウンター技、雷神の孔を。


 肌の触覚が刺激されると同時、脳からの司令を待たずに攻撃する技。

 本来は全身の力を抜いていなければならないが、叔父さんとの修行でそれを克服した。

 雷神の孔を発動しながら攻撃できるようになったのだ。


 なのに……。


「私ねえ、ムウちゃんには期待してるの」


「期待?」


「私を倒せるのはナナルちゃんだけだと思ってたけど、ムウちゃんなら、ってさあ」


「そうっすか」


「でもいまのところ……がっかり。弱いね、ムウちゃん」


「……」


「あは☆ しょせんは井の中の蛙なんだね!!」

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