第53話 神の弱点

 俺のセリフを受けて、ママルはくすくすと喉を鳴らした。


「えへ〜? 私のスキルをぜんぶ知って、まだそんなこと言えちゃうんだねえ」


「虚勢じゃないですよ」


 とはいえ、確実に勝てる保証はまだない。

 いろいろ、試してみないと。


 足の真経穴を刺激して、突っ込む。


「んー? なにを考えているのかなあ」


 時間を戻された。

 構うもんか。

 また突っ込む。


 拳や蹴り、あらゆる攻撃が、ひらりと避けられる。


 ママルさんが消えた。

 時間を止めて後ろに移動したのだろう。


 慌てて逃げ回る。


 やはり、背後にいた。


「なるほどねえ。とにかく動き回るわけかあ」


 ママルさんは言っていた。

 自分に勝てるとしたらナナルだけだと。


 それはつまり、ナナルの高速移動こそが彼女の弱点なのだ。

 おそらく、時間操作は連発できない。数秒のインターバルがあるはずだ。

 加えて、操れる時間にも制限がある。戻せる秒数、止めていられる秒数に。

 未来視もたぶん、限界がある。


 ならば、未来を見ようが時間を操ろうが、対応できないほど速く動き続けるしか無い。


「とか思っているんだろうなあ」


「は?」


「そんなんで勝てるなら、ナナルちゃんも苦労してないよー」


 もう一度殴りかかる。

 だが、


「ふふふ」


 パシンと、手で弾かれてしまった。

 そのまま懐に入られて、指で両目を突かれる。


「くっ」


 さらに首を掴まれて、


「エナジードレインだ〜!!」


 意識が持っていかれるほど、気力が奪われてしまった。


「こい……つ」


 無理やり腕を払い、距離を取る。


「時間を操らなくても私は強いのである!!」


 そう胸を張った瞬間、


「あれ?」


 ママルさんがペタンと座り込んだ。

 なにが起きたのか理解できていないようだ。


「押させてもらったよ、真経穴」


「腕を払ったとき……?」


「違うね。払ってから、距離を取る途中で空気弾をね。どうしますか? あと数時間は立てませんよ」


「……」


 時間が戻された。

 ママルさんは両足でピンピンと立っている。

 真経穴を押した事実が、消されたのだ。


「ラッキーでした。時間の逆行、慣れてしまえば、ハッキリと記憶も残る」


「それが……なにい? いくらツボを押しても意味ないんだよお?」


「そうですかね」


「んー?」


「たくさん攻め込んでみて、ついに真経穴も押せて、ようやくわかりましたよ」


「……」


「きっかり10秒なんだ。止めていられる時間。戻せる時間。見える先。そして、スキルが使えない時間インターバル、ぜんぶ」


 だから未来視使ったときに見たであろう10秒先の景色(俺が腕を払って距離を取る)までは知っていたけど、自分が腰を抜かして真経穴を押されていたことまでは知らなかったから、対応できなかったんだ。


「俺の速い動きに、あなたのスキルが対応できなくなりはじめている」


「うーん」


「もう、あなたはずっと後手だ。必死こいて俺の攻撃をかわしていくしかない」


「……」


「まあ、未来視と時間操作は別のスキルですから、この2つは続けて使えるんでしょうけど」


 はじめて、ママルさんから笑みが消えた。


「あと少しで攻略完了、ですかね」

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