第54話 決着
ママルさんのスキルの謎はすべて解けた。
あとはそれに合わせて、対応して戦うだけ。
難しいけど、やれないこともないはず。
けど、一番ネックなのは……。
「あはは〜。すごいねえムウちゃんは、でもさ〜、でもでも〜、そんな体で続けられるのお?」
頭がクラっときた。
足に力が入らない。
ぶっちゃけ、気を抜いたら眠ってしまいそうだ。
ていうか、寝たい。
ママルさんのエナジードレインをくらい過ぎた。
「本当ならとっくに気絶していてもおかしくないんだけどお、オーガ並の体力だねえ」
「くっ……」
「あと少し、もう一押でオシマイだよ? どうするのお? ちなみに私はまだまだ元気!! 元気いっぱいのだ〜!!」
確かに、あと一回、ちょっとでも触られてエナジードレインを使われたら、俺の負けだ。
でも真経穴は一撃必殺だ。つまり、お互いあと一撃。
「そもそも、立てる? ムウちゃん♡」
「もちろん」
真経穴で筋肉を刺激して、立ち上がる。
よくないな、悪い言葉が脳内で反芻してる。
充分戦った。ママルさん相手によくやった、て。
負ける言い訳だろ、それは。
ここで終わらせていいわけないだろ。
俺はもう、過去の俺とは違う。
空っぽだった胸に、熱いものがあるんだ。
「ねえムウちゃん、最後に教えてほしいな」
「?」
「なんでやる気になったのお? なーんか、雰囲気変わったよね」
「あんたが頭から離れなかったもんで」
「……」
「試したくなったんですよ、あんたに好かれる価値がある男か」
「んふふ、私に勝てたらチューしていいよ♡」
拳を握って、開く。
アレ、使ってみるか。
叔父さんから教わった、最後の技。
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※ここから三人称です。
ナナルは驚愕していた。
ムウがまだ姉と戦えている事実。
秘密を解き明かした事実。
ありえない。
だって相手は、
「お姉ちゃんなのよ?」
まさか、まさかムウは本当に。
いや、それだけは絶対にない。
あってたまるか。
ママルは、お姉ちゃんは、最強なのだ。
同じように、キューネもまた2人の戦いを前に目を見開いていた。
きっと自分なら5秒も保たない相手に、あそこまで……。
やっぱりムウはすごい。
かっこいい。
無敵で、最強なんだ。
胸が苦しくなってくる。
ムウは、サマチアに囚われているべき人間じゃないのだと、否が応でも認識してしまう。
もっと遠くへ、高いところへ行くべきなのだ。
それがムウの人生を潤し、幸福にするのだろう。
こんな何もない田舎で、燻っているなんてもったいない。
「ムウ……」
ムウが、目を瞑った。
マーレが叫ぶ。
「まさかムウさん、アレを……」
「アレって?」
「真経穴ズラシの応用です。私が知る限りでは一度も成功しなかったのに」
賭けているのだ、次の衝突に。
失敗すれば負けるこの状況で。
キューネの眼が、ムウの微かな表情の揺れを捉えた。
頬をあげている。
楽しそうに。
そんなものを見せられてしまったら……。
「ムウ!! 頑張ってーっ!!」
応じるように、ムウが走り出した。
突き、蹴り、走り回っての翻弄、空気弾。
できるすべての技術を投入する。
もちろん、ママルには通用しない。
未来を透視し、時間を操り、スキルを使わずとも体術で応戦する。
「エナジードレイン、解放!!」
ママルがエネルギー派を飛ばした。
ムウが回避する。
瞬間、時間停止によって背後に回ったママルが、ムウに触れた。
「ふふ、終わり」
「そうですね、終わりです」
「え? あっーー」
ママルが跪いた。
なにかされた。しかしどうすることもできない。
先ほど時間を操作してから、まだ10秒経っていないのだ。
ムウの指先が、ママルの額を押す。
「……このまま力を込めたら、ママルさんは死にます」
「……」
「ビックリですか? こんな未来、見えなかったですか?」
「真経穴?」
「えぇ。きっとママルさんは、何度も何度も未来を見て、自分が俺に触れるまで一度も攻撃を食らわないことを知っていたんでしょう。でもね、してたんですよ、攻撃。空気弾でもない攻撃」
「?」
「真経穴ズラシの応用。人に特定の動きをさせて、順序よく筋肉を刺激する。するとほら、押さなくても真経穴が発動し、肉体を操れる」
なにもかも、ムウの計算通りだった。
どんな未来を見て、どう時間を止めて、戻して、どう動くのか、すべて、すべて目論見通りだった。
というより、そうなるように誘導したのだ。
真経穴とはツボを刺激し、相手の肉体を操る技。
しかしその奥義は、ツボを押すことなく対象を操る。
秘技・
「時間を戻すなら戻していいですよ。また同じことをして、今度は気絶させますから」
もはや、ムウはこの勝負を完全に支配していた。
ママルのスキルには弱点がある。
操れる時間、見れる未来の限界。
再度スキルを使うまでのインターバル。
体術で補おうとも、無駄であった。
ムウの超スピードにジリジリと追い詰められ、霧糸幻拳の餌食になるだけ。
ムウの格が、ママルを上回ったのだ。
「ふふ、お見事」
ナナルの瞳から、雫が溢れた。
「お姉ちゃんが……負けた……?」
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